「ここがトレセン学園か。興奮してきたな」 作:愉快な笛吹きさん
「おーここがトレセン学園か。興奮してきたなー。早速入ってみるか」
「ハウディ! いらっしゃいまセ、シャッチョさん」
「いやテンション高いな。フィリピンパブじゃねえんだからもう少し声抑えてくんねえかな」
「オーウ! うっかりしてました、ソーリーです。それで、ユーは一体誰でショウ?」
「ああ挨拶が遅れたな。今日からトレーナーとして働くことになった伊達っていうんだけど」
「ワーオ、シールド! カッコいい名前デース」
「盾じゃねえよ! 伊達だよ! だ、て! 何で最初から英語変換なんだよ……ええと、君は学園のウマ娘だよな。良かったら名前教えてくんねえかな」
「オゥ…どうか海外に売り飛ばすのだけは勘弁してクダサーイ」
「トレーナーだっつってんだろ。第一印象最悪じゃねえか! そもそもウマ娘拐うとか力が違い過ぎて無理だから」
「それもそうですネ。ワタシはタイキシャトルです。トレーナーさんよろしくお願いしマース!」
「ああよろしく。で、早速だけどちょっと理事長室まで案内してくれねえかな。こんだけ広いとちょっと迷っちゃいそうでさ」
「なるほど、トレーナーさんは方向オンチですね?」
「結論早くねえかな? 今日来たばかりだって言ってんだろ。そのくらいわかれよ」
「わかりましタ! なら離れずについて来て下さい。命に代えてもトレーナーさんを送り届けマース!」
「重くない!? 理事長室行くのになんでそんな命掛けなんだよ。おかしいだろ」
「オウ…でもこういうのって人生で一度は言ってみたいセリフではないですか?」
「言ってみたいかなあ? まあ年頃ならそういうのにも憧れるのかな。"安心して、君は俺が守るから"みたいな感じだろ?」
「ちょっと何言ってるかわかりまセーン」
「何でわかんねえんだよ! さっきの続きだろ? こんな流れじゃなきゃ絶対言わねーよ!」
――移動中
「それで、トレーナーさんの担当するウマ娘は決まりましたカ?」
「さっき来たばかりだって何度も言ってんだろ? 伝わってねえなあ。そういうタイキシャトルはもうトレーナーがついてるのか?」
「まだついてないデース…あ、でもコンディショナーなら毎日付けてますヨ」
「"でも"んとこ全く関連性ねえなそれ。ナーしか合ってねえじゃねえか」
「それより、こうして出会えたのも何かの縁です。これからは"タイキ"と呼んで下さーい。もしくはまあ…"タル"、とかでも」
「何で俺の腹見て言うんだよ。まあ確かに今は樽みたいにぽっちゃりしてるけどな。これでも学生時代はラグビーをバリバリやってたんだぜ」
「ウフフッ、やっぱりトレーナーさんのジョークは最高デース」
「いや事実だよ! ほんと失礼な奴だな……まあいいや、今は建物のどの辺を歩いてんだ? 良い匂いがしてくるから食堂とかか?」
「そうですネ。食堂みたいでーす」
「そうか。じゃあこの鍵のかかった部屋は? 倉庫か何かとか?」
「なるほど、確かに倉庫なのかもしれませン」
「……ちなみにあの角の先は何があるんだ? 職員室か?」
「その可能性がビッグでーす」
「お前全っ然把握してねえだろ? さっきからオウム返ししてるだけじゃねえか!」
「うう、ソーリー…実はワタシも今日初めてトレセン学園に来たのデス」
「早く言えよそれを! よくそんなんで命に代えてもとか言えたな。信憑性ペラッペラじゃねえか」
「スミマセン…アイムソーリー髭ソーリーです」
「懐かし過ぎるだろ。令和でそれ言った奴に初めて遭遇したよ! あーまあもういいよ。適当に歩いてたらそのうちたどり着けるだろ」
「イエース! さすがトレーナーさんは話がわかりマース。どうか他のウマ娘に罪は無いのでワタシを担当にしてくだサーイ」
「なんでちょっと生贄チックな売り込み方なんだよ……まあ一応候補には入れとくけど、やっぱ走りを見てみないことにはな。パッと見た感じマイラーっぽいけどどうなんだ?」
「うーん、マヨネーズはそんなに使わないデース」
「誰がマヨラーつったんだよ。マイラーだよマイラー!」
「ああマイルですね! それなら芝もダートもどっちも得意デース」
「へえ両方とも走れるのか。そりゃ中々すげえ素質だな」
「あとはコンクリートもいけマース」
「コンクリート!? そんなコースどっかにあったっけ?」
「小学校の校舎デース。鬼ごっこでは向かうところ敵なしでした」
「ただの学校の廊下じゃねえかよ。校内中走り回ったってマイルの距離になんねえだろそれ」
「そんなことはないでーす。かの宿敵カイゼルハインとの死闘は決着に7時間を要しましタ」
「誰だよ知らねえよ。まあとにかく一日中鬼ごっこしてたってことだろ。ただの問題児じゃねえか」
「それでも才能さえあれば活躍できるのがこの世の理なのデース」
「まあそうなんだけどさ! ちょっと直球過ぎるだろ。感じ悪いぜ、それ」
「ウフフ、サンキューデース」
「いや褒めてねえよ」
――理事長室前
「ふう、ようやく着きましたネ。ここをくぐればもう後戻りはできませン」
「いや普通に戻れるだろ。何雰囲気に酔ってんだ」
「オーウそうでした。ちなみにトレーナーさんの目標って何ですカ?」
「目標ね……まあ、まずは早いとこ担当ウマ娘を決めたいかな。で、最初は手堅く重賞を取って」
「ワオ? 手早く重症を負うのですか?」
「取るんだよ! と、る! 何でいきなり大怪我しなきゃなんねえんだよ……で、それが叶ったら次はG1だな。いつかこの手でダービーウマ娘を作りあげるのが夢でさ」
「オーウ…それはウマ娘が可哀想です。最下位から二番目だなんて」
「いやダービーだっつってんだろ。誰が好き好んでブービーウマ娘作るんだよ」
「そうでしたか。なら安心しました。では寂しいですがここでお別れしまショウ。またコースに立ち寄ったときはワタシが走るところを見てくだサーイ!」
「ああ、必ず見に行くよ。ここまでありがとな」
――放課後
「ではこれよりトレセン学園の設備を案内していきますね。私に付いてきてください」
「よろしくお願いします……ん? あそこにいるのはタイキシャトルか。何やってんだ廊下の真ん中で」
「トレーナーさん! 待ってました。では早速ワタシの走りを見て下サイ! ヒア・ウィ・ゴーー!」
「こらーー! 待ちなさーーい!」
「だからコンクリートはコースじゃねえって! ってか追いかけたたづなさんもクソ早ええなおい。もうこうなったら二人まとめてスカウトしてみるか」
それから半年後、あるトレーナーが二人のウマ娘をデビューさせた。「最高の逸材を見つけた」と豪語したとおり、その後彼女たちは数々のG1レースを制したとか。