「ここがトレセン学園か。興奮してきたな」   作:愉快な笛吹きさん

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たづなさんも加えてみたかった。なおトレーナーガチラブ勢の模様
時系列はクラシック期合宿をイメージ




「いよいよ夏合宿か。興奮してきたな」

「いよいよ今日から夏合宿か。興奮してきたな。ほら、着いたぞタイキ、起きろ」

 

「ウウ…ン、着きましたカ。いよいよ収監されてしまうのデスね?」

 

「されねえよ。なんで護送車だと思ったんだよ。何も悪いことしてねえだろ」

 

「ノー……実はこないだ門限を破ってたづなさんに怒られてしまいましテ」

 

「別にそのくらいなら大したことねえだろ」

 

「なので門限を破ってもいいように、学園中の時計の針をずらしておいたのデース」

 

「そりゃ重罪だな! やべえなこいつ。にしても、そもそも合宿で刑務所なんか来ねえだろ」

 

「そうですね。三年連続は流石にちょっと」

 

「二年連続で行ったのかよ! どんな内容だったか凄え気になるな。まあいいや、とりあえず二人とも車から降りるぞ。まずは宿にチェックインしねえと」

 

「ドヤるマックイーンにデート?」

 

「言ってねえわ。流石に苦しいから無理に手え出すなよ」

 

「う、わかりましタ……まだまだ道のりは険しいデース」

 

「レース全く関係ない悩みだけどな」

 

 

 

 ――旅館内、ロビーにて

 

「オーウ、凄いですね。まさにワサビ」

 

「わびさびな。感想が薬味になってんじゃねえか。けど確かに高級な感じだよな。たづなさんに任せた形だけど、これ料金いくらくらいだったんだ?」

 

「はい。ご休憩が3000円、宿泊は一万円です」

 

「ご休憩じゃなくて日帰りな。言い方ラブホテルか。あとどうせ泊まるし日帰り料金とかいらないよ」

 

「き、休憩だけじゃもの足りないんですか!?」

 

「何で顔赤らめてるんだよ。そりゃもの足りないわ、トレーニングに来てんだから。とりあえず部屋に入ったら二人ともすぐに着替えてくれ」

 

「浴衣にですね」

 

「ジャージにだよ! 合宿だっつってんだろ。いいから早く着替えてこい」

 

 

 ――トレーニングその1 腹筋

 

「着替えてきましたトレーナーさん。それで、何から始めますか?」

 

「そうだな……とりあえず徐々に身体を慣らしていきたいし、まずは浜辺で腹筋いくか」

 

「まずはアヤベをクッキングですか?」

 

「違えよ。何さらっとカニバリズムしようとしてんだよ怖えな。腹筋だよ、腹筋」

 

「腹筋ですね。わかりました。フォームなんかはどういった感じですか?」

 

「まあ実際にやってみせた方が早いか。まずは体育座りになってだな……タイキ、ちょっと足押さえてろ」

 

「こうですね? トレーナーさん」

 

「ああそれそれ。で、このまま肩が地面に着くぎりぎりまで寝転がったら起き上がるのを繰り返すんだ」

 

「リズミカルにやっていくんですね」

 

「そうそう。カウントしながらだと安定しやすいな。1、2で寝て、3、4で起き上がる」

 

「わかりました。じゃあ私が手拍子していきますね。はい、1、2、3、4  2、2、3、4」

 

「ふっ……くうっ……!」

 

「ファイトデース、トレーナーさん!」

 

「……10、2、3、4! はいお疲れ様でした。じゃあ休憩したらもう一セットいきましょうか」

 

「いやいかねえよ! 何で俺が最初から最後までやってんだよ」

 

「ワッツ? でも今回の合宿でとことん追い込むってトレーナーさんが」

 

「お前らをだよ! 俺を追い込んだって意味ねえだろうが。とりあえずまずはたづなさんにやってもらうから、タイキは足押さえててくれ」

 

「わかりましタ! どうぞ、たづなさん」

 

「だから何でまた俺の足持つんだよ。たづなさんだっつってんだろ」

 

 

 ――トレーニングその2 砂浜ダッシュ

 

「……よーし、腹筋終わったな。じゃあちょっと水分補給してから砂浜ダッシュいくぞ。タイキ、大丈夫か?」

 

「うう……お腹が痛くて起き上がれませーン」

 

「少し心配ですね……一応正露丸は用意してますが」

 

「腹痛違いじゃねえかなそれ。とりあえずちょっと安静にしといてくれ――で、ダッシュだけどいつもと同じやり方じゃさすがにマンネリだしな。今日はこんなのを用意した」

 

「アンクル……ですか?」

 

「ああ。こないだ理事長が貸してくれてな。これを足首につけて走ったらいつもよりトレーニング効果が上がるらしい」

 

「面白そうですね、早速つけてみます。鎖はつけますか?」

 

「鎖はつけねえよ。どこの奴隷商人だよ」

 

「ワタシも早く試してみたいデース。けどしばらく起き上がれそうにありません……トレーナーさんつけて下さーイ」

 

「仕方ねえな。じゃあ寝転んだままでいいから足を上げてくれ」

 

「わかりました……痛ッ……トレーナーさん、もう少し優しくお願いしマース」

 

「こら暴れんなって、我慢しろ。じっとしてたらすぐに済むからよ」

 

「お巡りさんこの人です」

 

「何でだよ! いやわかってるけどな。傍から見りゃ倒れてるウマ娘に足枷はめようとしてるヤバイ奴に見えるんだろ?」

 

「はい。なのでいっそ鎖も取りつけてしまえば奴隷商人になりすませないことも」

 

「さっきから鎖好きだな。なりすましてどうすんだよ。更に表歩けなくなるわ。まあいいや、そろそろ回復したか?」

 

「うう……まだお腹が痛みマース」

 

「まだ痛むのかよ。もしかしてどっか調子が悪いのか?」

 

「ノー、そんなことは……昨日はディナーの後にアイスを沢山食べましたし、寝苦しくないようにおへそを全開にして寝ていましタ。食欲も睡眠も問題ありまセン」

 

「いや問題しかねえだろ。これでもかってほど腹キンキンに冷やしまくってんじゃねえかよ。正露丸ドンピシャだったわ」

 

 

 ――トレーニングその3 遠泳

 

「ファンタスティッーク! たづなさんの正露丸で、元気いっぱい、完全復活デース!」

 

「テンション高えな……ええと筋トレ、瞬発力ときたから次はスタミナ強化か。たづなさんは秋に菊花賞だし、ここはがっつり鍛えねえとな」

 

「そうですね。とりあえず夕食はスッポンとにんにくのフルコースで頼んでおきました」

 

「ギンギンになるやつじゃねえかよそれ。夜だけじゃなく昼間のスタミナも鍛えてくんねえかな」

 

「それで、今度は何するんですカ? トレーナーさん」

 

「ああ、あそこに離れ小島が見えるだろ? とりあえずあそこまで泳いでもらうけど、万一事故があったら大変だしな。ボートで後ろからついていくから、もし異変を感じたら大声で叫んでくれ」

 

「ワタシに構わず先に行け! ですネ?」

 

「行かねえよ。普通に責任問題になるわ。で、もし声が出せなかった場合は腕を伸ばしてアピールするようにな」

 

「それは知ってマース! 最後にグッジョブ!って親指を立てるんですよね」

 

「アイルビーバーックか。それ最後溶鉱炉に沈んでいくやつじゃねえかよ。縁起悪いな」

 

「泳ぎ方の指定なんかはありますか?」

 

「特に無いな。4泳法だったらどれでもいいぞ」

 

「ごますり、媚売り、相槌、愛想笑いですネ?」

 

「社会の泳ぎ方の話してるんじゃねえんだわ。もういいから早く海入れよ」

 

 

 ――1時間後

 

「ふう……やっと到着しましたね」

 

「流石に疲れましタ……肩に小っちゃい冷蔵庫が乗ってマース」

 

「ボディビルの掛け声みてえな例えだな。まあそれはそうと、二人ともここまで良く頑張ってくれたからな。ちょっとしたサプライズを用意したぞ」

 

「サプライズ……もう20㌔ほど追加で泳ぐんでしょうか?」

 

「そこの茂みから銃を持った男たちが飛び出して来るのかも知れませーン」

 

「お前らのサプライズの定義はどうなってんだよ……そうじゃなくて、とりあえずボートの荷物を降ろしてみてくれ」

 

「トレーナーさん、これは?」

 

「見ての通りだ。二人が着替えてる間に宿がサービスで食材を提供してくれてな。許可は取ってあるし、今日の昼飯はここで食べるぞ!」

 

「ワーオ! まさかのQBKでス!」

 

「BBQだろ。こんな場所で急にボールなんか来るかよ」

 

「オフコース、合ってまスよ。急にバーベキューの空気の略デース」

 

「わかんねえよ。ええと、とりあえずさくっと火起こしするから、二人はその間に食材を開封していってくれ」

 

「OK! んーまずは肉ですね。ガーリックがたっぷりかかって美味しそうデース。あとはニラにジンジャーにウナギに、ええとこれは……タートルですカ?」

 

「スッポンだなこりゃ。てかよく見たら全部ギンギンになる食材ばっかじゃねえかよ。どうなってんだ」

 

「多分私がスタミナをつけたいと言ったから気を利かしてくれたんだと思います。どうしましょう?」

 

「まあ、せっかくの頂きものだし食べるしかねえだろ。土鍋も用意してくれてるみたいだからいっちょ鍋にしてみるか。よし……S○ri、スッポン鍋のレシピを教えてくれ」

 

『今夜はお楽しみですね?』

 

「違うようるせえな。いいからさっさと教えろよ」

 

 

 ――数ヶ月後、理事長室にて

 

「天晴! まさかたづなとタイキシャトルの二人ともが年度代表ウマ娘に選ばれるとは。やはり君は優秀なトレーナーだな」

 

「いや、それもこれもあの二人が頑張ってくれたおかげですよ。そういや今頃はマスコミからの取材を受けてる頃か。ちょっと見てみてもいいですか」

 

「了承! ならそこのTVを使うといい。む、ちょうどインタビューの最中のようだな」

 

『月刊トゥインクルの乙名史です。この度は受賞おめでとうございます。まず、お二人から見てトレーナーさんはどんな方でしょうか? またデータを見ると夏合宿から更に強くなった印象を受けるのですが、どのようなトレーニングをされたのでしょうか?』

 

「ハイ! トレーナーさんはいつも親切デース。合宿中もお腹が痛くて苦しんでいるワタシに、優しく足枷を取りつけてくれましタ」

 

「特に変わったトレーニングはしていませんね。ですがそれまで出場したレースはマイルや中距離ばかりでしたので、菊花賞に向けて夜だけじゃなく昼間のスタミナも鍛えるようにと強く言われました」

 

『な、なるほど……で、では夏合宿で印象に残った思い出などはありますか?』

 

「ハイ! 誰もいない島で皆でスッポン鍋を食べたことデス!」

 

「それもトレーナーさんからのサプライズだったんです。流石に食べた後はみんな(目が)ギンギンになっちゃいましたけど」

 

『あ、ありがとうございました。えっとその……ト、トレーナーさんとの絆を深めるために色々と工夫されているようですね。スケ……素晴らしいです』

 

「…………」

 

「…………」

 

「せ、説明! ちょっと別室で話を聞かせてもらいたいのだが。今すぐにだ」

 

(あ、終わった……)

 

 ――その後、数時間に渡る大弁論を繰り広げたことにより、何とか誤解を解くことには成功した。

 上機嫌でトレセン学園に帰って来た二人が見たのは仁王のような表情を浮かべたトレーナーの姿だったとか。


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