「ここがトレセン学園か。興奮してきたな」 作:愉快な笛吹きさん
『トキノミノルだ! トキノミノルが来た! トキノミノル、今一着でゴールインーー! 日本の悲願であったあの凱旋門賞のトロフィーを、ついに手にすることができましたー!』
「はっ……はあ……やりました! トレーナーさんっ!」
「おめでとう! 本当によくやってくれたな、たづなさん!」
「たづなさんコングラッチュレーションでーす!! 見て下さい。ネットでもお祝いのコメントが次々に寄せられてまース!」
「そりゃあそうだろ。こんな快挙滅多に見られねえもんな!」
「ハイ、まさか三つ子のパンダが産まれるなんテ!」
「いや何のニュース見てんだよ。パンダの話今いらねえだろ!」
「ソーリー、まだニュース記事が上がっていなかったノデ……あ、今速報がアップしましたネ『一着はトキノミノル。日本の伊達、ついに悲願の凱旋門賞を獲得』『日本、凱旋門賞を優勝。稀代の名バたちを育てた伊達トレーナーの姿に迫る』『伊達トレーナー教え子とうまぴょい疑惑? 関係者にごく近しいというT氏が話した真実とは』の三本デース。んっがっんっんっ!?」
「サザエさんの次週予告かよ。今どきじゃんけんぽんしか知らねえ奴の方が多いだろ……にしても、俺もすっかり有名人になっちゃったなあ。どこに行っても自分の記事やら画像を見かけるようになってよ」
「あとは交番の横くらいですネ」
「手配犯じゃねえか。見かけたらむしろ駄目なやつだろそれ。そうじゃなくて――いや、今はいいか」
「トレーナーさん?」
「ああ悪い。けどこれで日本に帰ったら二人ともヒーロー確定だろ? きっと飛行機降りた瞬間に色んな人たちから取り囲まれるんだぜ」
「ポリス、レスキュー、ドクターにですね」
「飛行機墜落してんじゃねえか。誰が生き残りのヒーローになりてえんだよ。まあいいや、とにかくまずは控室に戻ってウイニングライブの準備しようぜ。疲れてるみたいだけどいけそうか? たづなさん」
「はい、この遠征のためにずっと頑張ってきましたから。あと20うまぴょいはいけますよ」
「何だよその単位? ちょっとよくわかんねえけど、とりあえずうまぴょい伝説20曲分くらいは踊れるってことか?」
「ま、まあそんな感じです。ようやくトレーナーさんの夢も叶えられましたし、今日のライブは全力で頑張りますね」
「ウフフ! たづなさんの本気ライブ楽しみデス。きっと残像が見えたり、手から怪光線が出てきたりするのデース!」
「本気の方向性ちょっと違ってねえかな? まあ何にしろ、これで全部叶ったんだな……俺の夢が」
「イエース!! なので今日はいっぱいいーっぱいお祝いデース! そして明日からは裏社会のドンを目指しまショウ!」
「誰が目指すか。何でいつもいつもそっちの方向に寄せていこうとすんだよ」
「それはトレーナーさんだからデース!」
「トレーナーさんだからですね」
「いや意味わかんねえよ。何で二人とも笑ってんだ……もういいからとっとと行こうぜ」
こうして、凱旋門賞は日本の初優勝により幕を閉じた。数時間後に行われたウイニングライブは歴代最高視聴率を上げ、中でも一位のウマ娘のダンスのキレは特に凄まじく、会場で見た者の中には何やら残像らしきものまで見えたとか。
――二ヶ月後――
「えっ? お、温泉……ですか?」
「ああ。帰国からこっち、ようやくスケジュールも落ち着いて来たしな。ここらでちょっと一休みしたいと思ってんだけど、どうかな?」
「ベリーグーッド! 温泉を掘るだなんて最高にエキサイティングでーす」
「いや掘るわけねえだろ。常識的に考えろよ」
「ソーリー、いくらなんでも手作業はインポッシブルですネ」
「そっちじゃねえよ。入浴だよ入浴。旅行に行こうっつってんだよ」
「まだ挙式もしていませんが?」
「相手すらまだ存在してねえわ。ほら、正月明けの商店街の福引で二人とも外れて残念そうにしてただろ? だからあらためて手に入れたんだよ」
「商店街をホールドアップしたのですカ?」
「してねえよ普通に買ったに決まってんだろ。何で温泉旅行でそんな危ない橋渡らなきゃなんねえんだよ。とりあえず二週間後に日取りを設定したけど、たづなさんの方は休み取れそうかな?」
「産休ですね。もちろん大丈夫ですよ」
「過程ごっそり省いてねえかなそれ。一泊で産むとか鶏じゃねえんだから。タイキの方もそれで大丈夫か?」
「もちろんオフコースでーす! 温泉旅行とっても楽しみになってきましタ! お風呂にディナー、ピンポンに殺人事件、どれもわくわくしまース」
「いや最後のはしねえだろ。それわくわくするのコナン君ぐらいじゃねえか?」
「私も楽しみです。ところで場所は割と遠いんですか?」
「ああ。トレセン学園から大体150キロくらいかな。県外だし交通手段も考えねえと」
「そうですね……あ、犬ぞり式と駕籠式ならどちらが良いですか?」
「参勤交代か。何でお前らが運ぶ選択肢しかねえんだよ、目立ってしょうがねえだろ。せっかく世間も落ち着いてきたってのに」
「イエース……このニヶ月の間、どこに行ってもキャメルクラッチだらけでした」
「パパラッチな。キャメルクラッチってラーメンマンが殺人犯した技だろ。嫌だよどこ行ってもそんな光景見せられるとか」
「なら無難にレンタカーでしょうか」
「まあそうだよな、二人ともまだまだ有名人だし。悪いけどそっちはたづなさん用意頼めるか?」
「わかりました。じゃあフルスモークのバンでナンバープレートは隠しておくよう手配しますね」
「痕跡隠し過ぎだろそれ。麻薬の密輸みたいになっちゃってんじゃねえか。あと『本職の見せ所ですネ!』みたいな返しいらねえからな、タイキ」
「オオウ……先に言われてやる気が絶不調になりましタ。今日はもうトレーニングを続けられそうにありまセーン」
「トレーニングさっき終わったじゃねえかよ。話も済んだしまた明日な」
――二週間後――
「よーし、ようやく着いたな。結構時間かかっちまった」
「パトカーを撒くのに随分手間取ってしまいましたネ」
「いつやらかしたんだよそんなこと。ちゃんと安全運転で来てただろうが。とりあえず駐車場に止めるから、たづなさん先に降りて確認してもらっていいかな?」
「私がリードしたらいいんですね。前から入れますか? それともバックでいきますか?」
「ああ、じゃあバックで」
「わかりました。じゃあ準備できたので来てください――あ、少し右ですね……そうそう、そこです。初めての場所ですからゆっくり慎重に……はい、ちゃんと奥まで納まりましたね。おめでとうございます♡」
「いや普通のバック駐車なんだけどな。何でそんな応援されてるんだ?」
「まあ予行演習も兼ねてということで」
「よくわかんねえな……とりあえず着いたからトランク開けるぞ」
「ドラッグを開けるのですカ?」
「トランクだっつってんだろ。いつまでそのネタ引っ張んだよ。いいから荷物持っていけ」
「――伊達御一行様ですね。このたびは当旅館へようこそお越し下さいました。何も無いところではありますが、海外遠征で溜め込んだ疲れを癒せるよう、どうぞごゆっくりおくつろぎ下さい」
「ワオ! 女将さんはワタシたちのことを知っているのですカ?」
「ええ、いつも応援させてもらっていますよ。この間の凱旋門賞もTVで見ていました。ラスト300で競り合いから抜け出したときは本当に痺れましたね」
「ウーン、それはリウマチやヘルニアの疑いがありまスね」
「その痺れじゃねえだろ。ていうか妙に詳しいな」
「お話はこのくらいにして、早速お部屋にご案内します。二部屋の予約でよろしかったですね?」
「あ、それで大丈夫です」
「けど空き部屋が一つできてしまいマース」
「何で最初から相部屋前提なんだよ。二つ借りた意味全くねえだろが」
「ひと晩中声が漏れても大丈夫ですよ?」
「それはそれで普通に迷惑だろ。そもそもそんな遅くまで夜更ししないよ? 寝不足のまま車運転したら大変なことになっちゃうだろ」
「そうですね。ガソリンタンクとボンネットを間違えて開けちゃいます」
「大したことねえだろそれ。たまにやるけどさ」
「こちらが本日のお部屋になります」
「オーウ、まさにジュンワフウな素晴らしいルームですネ!」
「確かにな。けどトイレ覗きこみながら言うセリフじゃねえだろ」
「ですがこっちは洋風デース、ジュンワフウは撤回ですネ」
「良いんだよそこは洋風で。そんな所まで無理に統一しなくたっていいよもう」
「ふふっ、皆さん賑やかでいらっしゃいますね」
「ええ、多分夜はもっと賑やかになると思います」
「それはそれは。今日はお客様も少ないですのでご自由にお寛ぎ下さるといいですよ。それでは――」
「ありがとうございます――さて、ようやくゆっくりできそうだな。まずは」
「枕投げですカ?」
「ゆっくりさせろっつってんだろ話聞けよ」
「ではお布団を出しましょうか?」
「極端だわ。流石にまだ早過ぎんだろ」
「ならお布団を投げまショウ!」
「合体させんなよ最初より激しくなってんじゃねえか!」
「だったら何を投げればグッドなんですカ! 匙ですカ!?」
「そもそも何も投げんじゃねえよ! 何キレながら上手いこと言ってんだよお前は。とりあえずちょっとじっとしとけ」
「まあまあ。せっかく部屋に入ったのでまずは浴衣になりましょうか。着替えを行いますからタイキシャトルさんは少し席を外して下さいね」
「それ普通俺の方に言わねえかな? どのみち人前で着替えるのは恥ずかしいし隣の部屋行ってくるわ」
「わかりました。デハ着替えて少ししたら温泉に行きまショウ!」
「最初からそのつもりだったんだよ。無駄なやり取りだなこれ」
「ワンダフォー! ついに待ちに待った温泉でーす! 源さん垂れ流しデース!」
「誰だよそいつ汚えな。源泉掛け流しだろ」
「そうでした。では脱衣所なので一旦お別れデスね。また中で再会しまショウ」
「してたまるか。それやったら次は塀越しの再会になっちゃうじゃねえかよ」
「入浴時間はどれくらいに設定しますか?」
「そうだな……いつもならすぐだけどサウナにも入りたいからなあ」
「男だらけのですか?」
「むしろそれ以外に誰が入ってくるんだよ。とりあえず30分にしといて、もし先に出た場合は――」
「迎えにいけばいいと」
「いや来なくていい、来なくていいから。そんな差し迫った状況じゃねえだろ」
「差し迫るのは社会的信用だけデース」
「わかってんなら絶対ちょっかい出してくんなよ。ちなみにフリじゃねえからな」
「ふう……温泉にも入れたことだし、ようやくひと息ついたな」
「グレイトなお湯でしたネ。でもちょっとのぼせ上がってしまいましタ……」
「のぼせて、な。上がる要らねえから。とりあえず夕食までまだ時間があるけどどうするかな」
「あ、私はちょっと理事長に事務連絡しますね。お二人はその間自由にしていて下さい」
「ああわかった。となると散歩は無理だからマッサージでもやっとくか。ちょうど風呂上がりだしな」
「ワオ、いいんですか? トレーナーさんのマッサージはいつも痛気持ちいいので大好きデース」
「そうか。まあ今日は時間もたっぷりあるしな。手加減抜きでやってやるよ」
「私もあとでお願いしますね。それにしてもここは電波がいまいち……あ、繋がりましたね」
『もしもし、たづなか? どうだ? 温泉旅行は楽しんでおるか?』
『はい、とっても楽しんでますよ。今ちょうどお風呂を上がったばかりなんですが、トレーナーさんがこれから手加減抜きの――をしてくれるみたいで』
『む、電波が悪いのか? よく聞こえなかったな。伊達トレーナーが手加減抜きの何をするって――』
「ヒ、ヒイィィィ! ト、トレーナーさん! ギブ、ギブアップでス! もうストップして下さーイ!!」
「何言ってんだよ。まだ本番はこれからだろうが。今日は徹底的にやってやるから覚悟しろよ」
『い、今のはタイキシャトルの悲鳴か? た、たづなよ……お主のトレーナーは一体何をしておるのだ!?』
『何――ただの――ですよ。トレーナーさんってば本当にテクニシャンで。私もタイキシャトルさんも何回も失神しそうになるくらいなんですよ』
『き、気絶するほどって……き、驚愕! お、お主はともかく、タイキシャトルはまだ未成年なのだぞ!』
『大丈夫ですよ。ちゃんと身体に負担がかからないように調節してくれていますから。あ、ほら。タイキシャトルさんも段々気持ち良さそうな声になってきました』
「オーイエース! カムヒアーですトレーナーさん。もっとプレスして下サーイ!」
「おっ、ようやく解れてきたか。ならもっとヒイヒイ言わせてやるからな」
『ふふ、トレーナーさんったら張り切ってますね。私ももう待ちきれなくて。あ、よかったら理事長も一度試してみてはどうですか? もう抜け出せなくなっちゃいますから』
『な、何……だと!? そ、そんなことが許されるわけがないだろう!』
『大丈夫ですよ、頼んだら快く応じてもらえると思いますし』
『た、頼まれたら誰でも良いというのか!? な、何故なのだ、たづな! どうしてそんな男に―――』
「よし、終わったから交代だ。こっちに来て横になってくれ、たづなさん」
『あ、はい。今行きますね。そういうわけですから理事長、たっぷりリフレッシュして明日帰ってこようと思います。では――』
『たづな! 止めろ! いくんじゃない! もしもし! もしも―――』
「ふう……お待たせしましたトレーナーさん。たっぷり気持ち良くして下さいね」
「ああ任しとけ。理事長何か言ってたか?」
「いいえ、特に何も。ああでもトレーナーさんがマッサージが上手いと伝えたら随分驚いていました」
「まあ見た目じゃイメージつきにくいだろうしな。驚くのも無理ねえか」
「そうかもしれませんね。あ、良かったら今度理事長にもマッサージをお願いできませんか? 日頃から忙しくしているので疲れが溜まっていると思うんです」
「なるほどな。まあ日頃世話になってることだし、考えとくか」
「ふふ、ありがとうございます。理事長も喜ぶと思いますよ」
長いので分割しました。とりあえず次で終わる予定。
締めるために次はちょっと真面目な場面が増えるかと思いますが良ければ最後までお付き合い下さい