ミから始まるえぐちぃ人の弟子になった。ふざけんな俺は逃げるぞ──!   作:気晴らし用

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1話

1 波乱 産まれてすぐに大ピンチ

 

 なんかよく分からないが、どうやら俺はワンピース世界に転生を果たしたらしい。

 らしい、というのも赤子にして無理やり悪魔の実らしきものを食わされたのが現状だからだ。

 

 もしかしたらワンピ大好きな親がふざけたのか、とかそんな考えが過ったが「んなわけあるか」と一蹴してお悩み中。

 クソ不味かった悪魔の実はともかく、今はここからどう逃げおおせようか、とそれだけ考えている。

 

「おい、なんであいつに悪魔の実を食わせたんだ!! 売れば一億ベリーは下らねぇ代物だぞ!?」

「仕方ないでしょ! すぐそこまであの海賊団が来てるのよ!? 見つかったら取られるに決まってるわ! なら、あの子に食べさせて保管しておくのが良いわ」

「一度食わせたら戻ってこねぇだろ!」

「お金が無くなったら不思議な力を持った子どもとして売ればいいじゃない。悪魔の実単体を売るよりよっぽど高く売れるわ」

 

 

 という会話を目の前でしないでもらってもいいですかね。

 

 転生してすぐにピンチなんですが。

 てか、あんまり浸透していないはずの悪魔の実をなんでこいつら知ってんだよ。間違いなく偉大なる航路のどこかだろ。ワンチャン新世界出身の両親ってことか……?

 でも、原作だと悪魔の実の存在は公然のものとされてたし……。

 

 ……うーむ、すぐそこまで海賊が来ている。

 それに少し気持ち悪い揺れ方をしているこの場所。

 

 どっかの船の中かな? そしてピンチだと。

 

 

 父親らしきちょび髭の男が窓から外の様子を覗き見て、その小物っぽい顔をギョッと歪めた。

 

「た、鷹の目が海賊を倒してる……」

「はぁ!? なんであの鷹の目がここにいるのよ!」

「どうせ暇つぶしだろ! あいつの行動に意味なんかねぇよ! 考えるだけ無駄だ! 逃げるぞ!」

 

 は、え、鷹の目?

 マジで? ミホークいんの?

 

 序盤名言製造機の世界一の剣豪さんが?

 

 俺が混乱してる間に、男は俺を乱雑に抱き上げて女を連れ逃げ始めた。

 小さい船室から出た先は、逃げ惑う人々と広大な海が広がっていた。

 

 予想通り船の中だったようだ。

 しかし、どうも船で逃げる人たちを見るに、両親も海賊の一味っぼい。旗が立ってるし。

 多分、両親は別の海賊団に怯えていたのだろう。ミホークがぶった切ったようだが。

 

 最早原型すら見えないくらいバラバラになってるから、今はミホークの乗ったイカダしか見えん。

 すっげ、マジで原作キャラだ。こんな状況だけど感動してる。

 

 

「ヤバいヤバい。鷹の目相手に逃げれるわけがねぇ」

「あんたのテレテレの実でもどうにかならないわけ!?」

「定員二人までだ!」

「あんたと私で良いじゃない!」

「確かに!」

 

 確かにじゃなくて。

 知能指数低すぎんか。

 俺の存在忘れてない? てか、そんな悪魔の実があるなら実を持ってサッサと逃げれば良いだろ。

 

 ニュアンスで予想するにテレポートの能力っぽいからな。

 

 え、ちょ、待って。

 これ、俺が置いていかれるパターン?

 

「悪いな。恨んでくれるなよ」

「死んでサッサと悪魔の実に戻ってちょうだい」

 

 そう言った両親は、俺を船の地面に置きその場から掻き消えた。

 

 は?

 

 マジで置いていきやがった。

 育てる気がねぇなら産むなよ。

 

 

「あうあっ!!(このクズがッッ!!!)」

 

 突然の理不尽にキレた瞬間、周りにいた何人かの海賊がバタッと気絶した。

 

 

「うぇ?」

 

 舌っ足らずの言葉で疑問を表す。

 何が起こった? 俺が叫んだら海賊が気絶した、と。

 

 

 覇王色やんけ、これ。

 ピンチで覚醒したのか。もしくは転生特典か。

 知らんけど使い方分からないから依然としてピンチだぞ、おい。

 

 発動しろ! 発動しろよ覇王色ッッ!

 

 

「ほう、その年ですでに覇気を操るか。おれには持ち得ぬ王の資質……。様子を見るに親に捨てられたようだが」

 

「あう!?」

 

 気づいたらドアップでミホークの顔が映し出された。  

 怖ぇ! 威圧感パネェ! すごいっす!

 

 へへへ、見逃してくだぁせぇよ。靴でも舐めるんで。

 

 心の中で必死に媚びていると、それが伝わったのかミホークは俺を抱き上げた。恐ろしい様相とは程遠い優しい手付きである。

 

「フン、有望な子どもを引き取り育てるのも暇つぶしになりそうだ」

 

 ん? んんんっ?

 

 いや、あのどこか安全な場所に捨て置いてくれれば結構なんですけど……。

 

 一番安全な場所はミホークの側だけどさ。

 

 

 

 あれ、これ、ミホークの弟子になる流れ!?

 

 

 

 嫌だあああああぁぁああ!!!!!!

 

 

 

 

 

2 スパルタ師匠! 世界一の大剣豪!

 

 

 大剣豪、ジュラキュール・ミホークに拾われてから3年が経った。

 さすがに乳児期は何もせずに真面目に育ててくれた。

 ハッキリ言って、子育ての本を仏頂面で読みながらオシメを変える姿には爆笑してしまった。あれを笑わないのは逆に失礼だと思う。

 

 義理堅いというのか、バカ真面目というのか。

 有言実行の鬼であるミホークは、しっかり不自由なく俺を育て上げた。

 

 まあ、俺が転生者であることもあって、普通の子どもの何十倍も楽であったと思う。

 ミホークも『子を置いて逃げる両親から産まれるとは思えん利発さだ』と絶賛(?)していたし。

 

 そんなこんなで俺は受け答えができる程度に成長した。

 本当は流暢に喋れるが、疑われるのもあれなので子どもっぽく接している。あんま話さないけど。怖いし。

 

 ちなみに住んでいる場所は、あの王国跡地ではなく、とある島に構えたそこそこ大きい屋敷だ。

 辺りに人の気配はなく、俺とミホーク以外に人はいない。

 

 ミホークがまだ黒刀を所持していないし、王国跡地に住んでいないということは、きっと原作開始前だ。

 若さから見積もってそこまでの年月があるとは思えないから、恐らくロジャーの処刑から少しくらいか。

 

 俺はオモチャ代わりに与えられた子どもサイズの刀をにぎにぎしながら迫る足音を聴いた。

 

「ヨル、ついてこい」

 

 俺を一瞥して指示を与えると、ミホークはサッサと歩き出した。

 ヨルというのはミホークが名付けた俺の名前である。

 

 自分の将来の愛刀と同じ名前て……。

 

 と、微妙な表情のまま、俺は急いでミホークの後を追いかけた。

 

 5分ほど小走りで追いかけると、十分なスペースがある拓けた場所に辿り着いた。

 

 切り株に腰を掛けたミホークは、相も変わらぬ仏頂面のままに言い放った。

 

「……貴様に修行をつける。その持ってる刀でかかってこい。死するならそれが運命。さあ、あの時見せた力の片鱗。おれに見せつけてみろ……!!」

「え」

 

 呆ける俺を置き去りにするように、ミホークは首に下げた小刀を構える。棒立ちだ。手で小刀をもて遊ぶその姿には余裕があふれている。

 

 いきなりかよ!

 先に筋トレとかで体作りじゃないの!?

 空気中にプロテインが含まれてるのが漫画の世界だけど、3歳はどう考えても無理だろォ!?

 

 酷じゃね。やっぱあの鷹野郎、子どものことなんにも分かってねぇや。

 

 ちくしょう、やってやる!

 どうせやんなきゃ期待外れ扱いされて捨てられんだ。

 

 俺はふぅ、と深呼吸して刀を構える。

 知ってるのなんて持ち方くらいで、型も何も知るわけがない。

 

 足に力を入れて、その小さな体躯を前へ突き動かした。

 

「やあッ!!」

 

 ミホークとの身長差は80cmほどに及ぶ。

 俺も3歳にしては大きい方だが、ミホークの身長は2m近い。

 

 ゆえに俺は足元に向けて刃を振るった。

 

「考えてか無意識か。リーチの差を意識し機動力を奪おうという心積もりか。だが甘いぞ」

 

 振った刀にタイミングを合わせたミホークが、刀を足で踏む。

 この時点で俺に残された策は少ない。兎に角刀を取り返すことは考えてはいけない。

 俺は即座に手を離し一か八かの手に打つ。

 

 

「返せ……ッッ!!!!」

 

 叫んだ瞬間、空気が淀む。

 ビリビリと大気が震えたのは、間違いなく覇王色の覇気を放った証。

 

「……見事。貴様はおれに強者たるに値する力を見せた。矜持失くして強さに向き合うことはできん。貴様がおれに放ったその気迫。忘れるな。……戻るぞヨル。修行だ」

 

 ミホークはスタスタと再び歩き始めた。

 え、今のが修行じゃないの……?

 

「ゾロにやったように見定めたわけか……。ふつーに弟子にするもんだと思ってたけど、そうは上手くいかない、と。さすが鷹の目」

 

 期待値以下だったらどうなってたんでしょうね! あっははー!

 

 こっっっっわ。

 やっぱ頭おかしいわ、あの人。

 

 

 

3 筋トレ地獄! 体が資本!

 

 謎の試練を突破して3年。

 

 俺は日々筋トレ地獄を味わっていた。

 っぱ、体が資本でしょ! みたいなノリで押し付けられた筋トレメニュー。鷹野郎は旅に出た。

 ある程度体が出来上がってから本格的な修行をつけるらしく、それまでは放任して好き勝手過ごすそう。

 

 拾った責務果たせよォ!

 

 まあ、食事は十分に貯蔵されてたし、三ヶ月に一回は様子を見に来ていたしいいんだけど。

 

 ミホークはいないが、筋トレをサボっていたらどんな目に遭うか分からないので、死ぬ気で真面目にやっている。

 初日は悲鳴をあげながら何時間もかけてクリアしたが、翌日に筋肉痛で悶えた。

 

 日を跨ぐごとに負荷の上がる筋トレに涙目どころか号泣だったが、2年も経つ頃には慣れ始めていて余裕が出た。

 さすがワンピ世界。筋トレに対する成果がえげつねぇ、と思ったわ。

 

 その余裕が出た時間で、俺は食べた悪魔の実を使いこなす修行をしている。結局修行かよ、と思ったそこのアナタ。

 ミホークは俺が悪魔の実を食べたことを知らない。

 

 ゆえに、実戦で手合わせした時にワンチャン一本取るために修行するのだ。さすがの鷹野郎も初見のもんにはビビるだろ。

 

 そんなわけで悪魔の実の方も死ぬ気で勉強中。  

 覇気についてはミホークが教えてくれるだろうから、見聞色だけ自力で修行している。

 

 あんまり上手くいってないが、気配らしいものを3年でようやく掴んだ。範囲も発動率もゴミのように低いけど。

 

 それなのに覇王色に関しては死ぬほど上手くいく。

 多分覇気の才能を全部覇王色に注ぎ込んだに違いない。

 

 だって、覇王色を武器に纏わせんの成功したしな。

 あり得なすぎて笑える。

 

 でも、それを扱う体が貧弱すぎて絵面だけ格好良い感じになってる。

 

 武装色は修行方法忘れたもん!!

 

 一握りの強者しか扱えないはずの覇王色纏わせを、こんなゴミが使うことに申し訳無さしか感じない。

 

 こんなんじゃチート無双には程遠いわ……!

 

 

 

 

4 黒刀! 何してんだおめェ!

 

 2年が経ち8歳になった頃、筋トレ地獄の日々に耐えていると、しばらく顔を見せなかったミホークが黒刀を持って帰ってきた。

 

 

 夜! 夜じゃないか!! なんか親近感湧くなぁ!

 

「そろそろ体が出来上がった頃だ。本格的な修行に移るぞ」

「はい。それは良いんですけど、その刀なんすか」

 

 もう面倒になった俺は一年前くらいから普通に話している。

 ピクリと片眉を上げたが特に気にしていないようで安心。こういう懐の深さだけは尊敬できるわ。

 

「これはこの世界に十二本だけ存在する最上大業物の一つ【黒刀“ 夜”】だ」

「俺と同じ名前っすね」

「他意はない。おれが名づけたものではない」

 

 刀を語るミホークはそれとなく機嫌が良さそうだった。

 さすがにミホークといえどもテンションが上がるか。ちょっと新鮮だな。あの仏頂面が少しだけ緩んでるし。

 

「で、修行ってなにするんで?」

「貴様に合う剣術を作り上げる。後は実戦経験を積めば自ずと強くなるだろう」

「剣術を……作る??」

「剣を扱う術は剣士それぞれの数だけある。己が信念を剣に込めたその先に技は産まれる。貴様は何を望む。剣に何を込める」

 

 難解なミホーク語録が出たよ。

 頭パッパラパーの俺には何を言ってるのかサッパリ分からんが、まあどんな剣術が良いのー? って聞いてんだろうよ。多分。

 ミホークさんは柔なき剣に強さなどない、って言ってたし、どんな敵も一撃でぶった切る派手さは求めてないし。

 

「斬られたことに気づかないくらい綺麗に斬りたい」

「ワッハッハッ……その先は技を極めた達人の領域だ。貴様に剣士としての器はそこまで無いと思っていたが……くくく……!」

 

 ミホークの琴線に触れたのか、どうやら俺の回答は正しかったようだ。

 

 うーむ、別にロマンを求めただけなんだけどな。

 

 

「良いだろう。修行中に死ぬかもしれんが我慢しろ……!!」

 

 

 え、待ってそれは求めてない!!!

 

 何の決意してんだ、おめェ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ミホークみたいに名言製造できんけど勘弁!
不定期投稿DEATH!

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