ミから始まるえぐちぃ人の弟子になった。ふざけんな俺は逃げるぞ──! 作:気晴らし用
5 雨が降る(血)! 逃げるヨルと追う鷹
ミホークが謎のやる気を出してから4年が経った。
赤ちゃんだった頃が懐かしいほどに、俺は大きく成長していた。
十二歳。前世の平和な日本だったら小6か中1で勉強に嫌気がさす頃だが、俺はミホークに剣で切り刻まれていた。
あんにゃろ、俺を千切りにするつもりか!
実戦形式という名の体罰修行で、俺はまだ一度もミホークに傷らしい傷を与えたことがない。俺は薄皮一枚ばかりを斬られ続けている。
鷹野郎はまだ成長期らしく、俺が強くなったと思ったら鷹野郎がまた強くなっている。
例え才能による成長曲線が同じでも、同じレベルで成長していくミホークにどう追いつけと。
この4年で見聞色は未来予知まで……いけるわけがないんだよなぁ。
島一つ分? いいえ、半径5メートルです。
広げようとしたら途端に発動しなくなるんだよ。
その代わり5メートル内の感知精度を死ぬほど上げた。完全な接近戦タイプですね、また傷が増えますね、ありがとうございます。
武装色は、まだこっちの方が才能あるらしく、刀に纏わせる程度ならできた。生憎と紙みたいな強化精度だけど。
何本刀を折られたか。その度に鷹野郎にチクチクチクチクと説教される。俺は泣いた。
え、覇王色ですか?
ミホークのまあまあ力の籠もった斬撃を弾き返せるくらいまで成長しましたが?
島一つ分にいる人間を一瞬で気絶させれますが?
なにこの才能の差。
いや、強いけど。でも武装色の才能が欲しいわ!
もちろん、ある一定の強さを持つ者には少しビビらせる程度だが、それならそれでやりようはある。
現状、武装色を纏わせるよりも覇王色を纏わせる方が強いとかなんなんだよ。基本攻撃力、カスなのに上乗せ分の力が強いて。
あとね。
修行がキツイ。死ぬ。本当に死ぬ。冗談抜きで何回も死にかけた。
逃げたい。
強くなりたいけど死にたくねぇのよ。そこまでの矜持が俺にはねぇのよ。あるのはしぶとく醜く生き抜きたいって心持ちだけ。
「やべぇぞ、本当にこの生活続けてたらいつかポックリ逝ってしまう。年々ミホークの本気度が増してるからな……」
今は幸いこの場にミホークはいない。
例のごとく放浪中である。
逃げるなら今しかない。
自分の血の雨を浴びるのはもう嫌だ。
「よし、逃げよう」
俺は身支度を整えて外に出た。
「よし、諦めよう」
小舟一つも無くて俺は諦めた。
くそ、悪魔の実を食べていたのが仇になったか……っ!
食べてなくても海王類にやられて死ぬけど。やばい、貧弱すぎ。
「待てよ。六式みたいなやつに空を飛ぶ技なかったっけ。月歩……?」
足で空中蹴るやつだよな?
あれを会得できれば逃げられるくね?
体力には自信がある。2日くらいならずっと走り続けられるしな。
「やるしかねぇ……!! 逃げるためには強くならねば!」
あれ、本末転倒な気が……??
6 新たなる力! 六式逃亡生活!
一年が経過した。
ミホークの合間を盗んで、ようやく六式全てを会得することができた。
覇気の下位互換とか言われてるけど、意外に使い道は多い。
鉄塊と紙絵はいらんけど。あれは完全に覇気で何とかできる。
この一年、死ぬ気で修行した甲斐あって、ミホークの頬に一度だけ傷をつけることができた。
……なんか嬉しそうだったんだけど、あいつドMなんかな。
さて、いつ逃げようか、と画策しているとミホークがやってきた。
「引っ越しをする」
「引っ越し……?」
急すぎる発言に目をパチクリしていると、ミホークが椅子に腰掛け言った。
「シッケアール王国跡地の廃墟に居住を移す。おれが初めて来た時は血と煙の匂いが充満し、死体で足場がなかった。2年かけて全て片付けた。貴様も来い」
「りょ、了解っす」
有無を言わさぬ口調だったため、ビビり散らかしながら俺は頷いた。例の王国の話には触れてほしくなさそうだ。まあ、ようやく原作の場所に行けるようだし俺は構わない。
逃げやすいしな!
そして俺とミホークは少し大きい小型船で島を出た。
例の棺船かと思ったが、どうやら移動中にも修行をつけるらしく、それなりのスペースが必要だったらしい。
つ(血の雨)
「ここがシッケアール王国跡地……」
薄く霧がかかった島の真ん中に大きな城が見える。
崩れた桟橋には武器を持った厳ついゴリラたちが見えるが、ミホークを視界に入れると一目散に我先にと逃げ出した。
何したんだ鷹野郎……。
ふと隣に座るミホークを見るが、飄々と仏頂面で遠くを見据えている。
何やらずっと不機嫌のようだが。
「何を見ている。おれの顔に変なものでもついているか?」
「いえ、なんかずっと不機嫌そうなんで、何かあったのかと」
「……決着がつかない勝負の梯子を外された」
怒りでもない複雑な表情をしていた。
……あー、時系列的に『シャンクスぅ、腕が……!』の頃合いか。理解した。
ヒグマさん、死んだんかなぁ……。56皇殺し……。
まあ、シャンクス云々に関しても深く突っ込まない方が良いだろう。あんまり興味ないしな。
会話にもならない無言を過ごしていると、ようやく城についた。
内装は十字架だらけで、ミホークらしいと言える。
俺が思うにミホークなりの供養でないか、と考察しているが定かではない。
半年間の移動はそれなりに疲れた。
ようやく逃げることができる。
ミホークは着いて早々用事があるらしく島を出る。
棺船でな!!
つまり小型船は置いていくというわけだ。
月歩覚えなくても良かったぜ!!
「フッフッフッ……!」
ミンゴさんみたいな不気味な笑みで、小型船に乗り込む。
エンジンはしっかりかかる。
さあ、いざ出発だ、と────
「ログポースないやん……。死ぬやん……」
逃 げ れ な い !
7 免許皆伝! いざストレス発散の旅!
逃げることを諦め、大人しく5年間修行に励んだ。
恐ろしく強くなった代わりに人間としての何かを失った気がする。
ミホークから貰った最上大業物【
見聞色? 雑魚ですけど。
目まぐるしい日々を過ごし、修行に明け暮れすでに十八歳。
俺はこの日ミホークに呼ばれ、島の海岸にやってきた。
「弱音を吐くことなく、お前は剣を振り続けた。強者たる姿勢を貫き通した。おれが教えることはもうない。あとは貴様の信念を極め、世界を見ろ! ヨル……! 今ここで決別の時だ……!」
ミホークは後ろ手に背負った黒刀夜を抜き構えた。
油断も隙もない。凍えるような眼光とともに強烈な覇気が吹き荒れた。
「卒業試験か……。そうだな、俺の全てを大剣豪にぶつける!」
悲しくもあり嬉しくもある。
嬉しいの九割はやっと逃げられることだが、ミホークに認められ本気を出すに値すると思われていることが嬉しかった。
ここが俺の本気の出しどころ。
出し惜しみはしない。全て余すことなくぶつける。
「剃ッ!」
その場から掻き消えた、と表現できる高速移動。
ミホークの夜よりも幾分か小さい十拳剣には、その刀身に値せぬほどの強い力を秘めている。
武装色と覇王色の覇気を籠め、黒い稲妻を鳴り響かせる。
「
なんてこともない、ただ刀に強大な覇気を籠めただけの技だ。
しかし──
「こんなものか……!!?」
軽々受け止めたミホーク。
──二度目の斬撃がミホークの頬を斬った。
浅いか……。
「刀を振る瞬間二種の斬撃を作り出したか……! くくく、面白い……! だが、覇気の強化がおざなりだぞ……!」
硬直状態が解かれる。ミホークの武装色が俺を上回ったからだ。単純な力もそうだが、ミホークという男は途轍もなく覇気の使い方が秀逸だ。
ただ単に覇気を籠めるだけでは膨大な強化は望めない。
しかし、ミホークは覇気を余すことなく刀に纏わせている。いわば、無駄がない。それゆえ内部破壊然り、強化倍率がえげつない。
俺も武装色は内部破壊に至っているが、その精度はまるで違う。蟻とゾウの差がある。
その差を埋めるのは覇王色と悪魔の実の力。
「まだだッ!」
幾度となく剣戟を響かせる。その度に増えていく傷の対象は俺のみ。頬の傷以外に俺がつけた傷は一つもない。
「甘い……!」
思考で体が力んだ瞬間を狙われ、なけなしの見聞色が全力で悲鳴を上げた。
間一髪、脇腹を浅く切り裂く程度に留めることができた。
恐らく少しでも遅れていれば臓物がまろび出ていたのは間違いない。
本気で殺す気か……!!
技の出し惜しみをしている場合ではない!
「天剣ッッ!!」
剃の上位技、剃刀による高速移動の突き技。
剣先を尖らせるように纏った武装色と覇王色ニ種類の覇気で、ひたすらに速さと破壊力を極めた。
音速を超える速度で放った剣は、ミホークの剣先で止められた。
「……ッッ!? どんな反射神経してれば剣先同士で受け止められるんだよ……!!」
「お前の信念は速さに重きを置く。それゆえに見聞色で容易に予測が可能だ。おれは貴様に愚直な剣術は教えていない」
もっと頭を使えとね!
分かってるわ!!
でもね! 予測できてもそれに対応できんのは少ないのよ!
それこそ四皇幹部クラスじゃないと無理だと思うんですけどね!!
剣を跳ね上げ再び高速で斬りつける。
都牟刈太刀は二度と効かない。あれは初見だから効果がある。
くそ、使うしかねぇ。
「集えッッ!」
一旦距離を取った俺は左手を掲げる。
微動だにしないミホークを尻目に、島中の草木や空気中に含まれるエネルギー──自然界に存在する力の源──を取り込む。
「【
それを身体中に浸透させ、一時的に強大な力を得る。
俺が食した悪魔の実は、取り込む、循環、放出の3つのみの超接近戦型脳筋だった。
「……悪魔の実か。いつの間に手に入れたのか……! そんな疑問はどうでもいい……! それが貴様の全力か! ヨル……っ!」
それなりに長時間経っていた。
俺の体力はそろそろ限界を迎える。
互いに分かっていた。
次が最後の一撃になるだろうと。
ミホークは黒刀夜を構えて、ギンッ! と覇王色と見間違うほどの強大な覇気を漲らせる。
俺は身体の内側を荒れ狂うエネルギーを制御し、覇気とこれまでの経験を全て出し尽くすように切っ先に覇気を集中させた。
「ああああぁぁ!!! 暁ッッッ!!」
刀にまで流れ出たエネルギーは、技名通り
斬るッ! 斬るッ! 斬るッ!
全力を出し尽くせえええ……ッッッ!!
「紫電一閃」
暁と紫電がぶつかり合って空を割る。
暴風が吹き荒れ、周りの木々はなぎ倒され、ヒューマンドリルの何匹かはその風でどこかに吹っ飛んでいった。
それほどまでの威力と衝撃が籠もっていた。
相対するミホークの表情に余裕はない。
仏頂面を崩し、冷や汗を垂らしながら今この瞬間の全てに賭けている。
信念の強さを証明するため、俺とミホークは何秒、何分、何時間かすらもわからぬ時間を過ごした。
そして、積もり積もったエネルギーの奔流が互いの身体を斬り裂いた。
光が弾ける。
「カハッ……っ!」
俺は腹から血を吹いて地に臥した。
ミホークは立っている。
俺は負けたのか……。
すると、グラッとミホークの身体が揺らいだ。
「見事」
数瞬遅れてミホークは肩から腹にかけて血を吹いた。
奇しくもそれは、俺の信念『斬ったことに気づかれない』を証明することになった。
ミホークの言葉には満足感が籠もっている。
そしてそれは俺も同じだ。
完全な勝利とはいかないが、師匠を超えたという自負があった。
「見事は、こっち、の……セリフだわ……」
程無くして俺の意識は闇に包まれた。
書くのむっず