リコリス・ソリッド カズヒラティーチャー   作:バーガー・ミラーズ

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第二話

 DA関東支部の医療棟。そのICU(集中治療室)前のベンチに、大の大人2人が腰かけていた。双方共に別の意味合いで表情は険しかった。

 重苦しい空気の中、サングラスをかけた方──ミラーが口を開く。

 

「言っただろう、気をかけてやれと。それとも別の意味合いで受け取ったのか」

 

「いや、お前さんの言う通り私の監督不行き届きだ」

 

「直接的な原因は医師の見解にあったように先天性の疾患だ。そもそも発見できずにリコリスとして採用した医療スタッフに問題があるだろう。あんたのせいじゃない。問題は別にある」

 

「別?」

 

 何もミラーは今回の責任をミカに押し付けたい訳じゃない。そんなことをしても何の進展もない。

 では何を望んでいるかと言えば、この後の事だ。

 

「現代の医療技術では完治は不可能。だがあんたはこれをどうにかできるコネクションを持っている。違うか?」

 

「お見通しか」

 

「アラン機関。確かに奴らならどうにかできる技術力があるだろう。だが、完全じゃないはずだ」

 

「リコリスの現役は18程度だ。問題はない」

 

「そうか」

 

 彼にとって、千束は才能あるリコリスの一人でしかない。それが分かった今、ミラーにとってこの問答は時間の無駄でしかなかった。

 気分が悪かった。何が「平和を守る為」だ。少女一人の人生すら守れない奴らが、自分達のエゴを押し付けているだけじゃないか。その気持ちを込めるように右腕でミカの横の壁を殴りつける。

 今、ミラーの右腕と左脚は義手と義足の状態だ。その破壊力は凄まじく、相当に頑丈な作りの筈の壁にヒビが入る程の威力だ。

 

「言っておくが、俺は子供が嫌いだ」

 

「私も特別好きなわけじゃない。脚がこうじゃなきゃ受けない仕事だよ」

 

「そうか。だが『銃をぶっ放す奴らは特に』という修飾語が付くのを忘れるな」

 

 その言葉にミカは顔を上げる。そこにあったのは鬼の顔であった。

 彼は理解した。この男が本当に、リコリスという存在とDAという組織を嫌悪しているのだと。そして、DAで働く自分もその対象なのだと。

 もう一度、今度はミカの頭を中心に線対称な位置を殴る。先ほどと同様、ミラーの右腕は壁にめり込む。

 

「そして、子供に銃を渡す奴はもっと嫌いだ」

 

 語気が強まるのを感じた。

 

「あんたはキューバ革命後、中南米の各地のゲリラに参加する少年少女達を見たことがあるか? 80年代のアフリカ、大人に薬物で銃を撃つことを教え込まれた少年兵達をあんたは見たことがあるか? あんたらは同じだ」

 

「何?」

 

「日本の平和の為だなんて大層な事をほざいてるが、何も少女達を洗脳教育してまで戦わせる必要はない。何のために警察と自衛隊があると思っている」

 

 銃を握るのは戦う事でしか生きられない者(俺たち)の仕事。カズヒラ・ミラーという男は、常にその考えを崩す事は無かった。これはかつて復讐の炎を滾らせていた時も同様に。

 未来ある子供達から言語を奪い、自由を奪い、銃を与えた結果がどうなるか。その果てを彼は見たことがあった。英語という言語をこの世から消し去ろうとした、自分達の家を奪った忌々しい奴を知っていた。

 発端は違えど、DAがやっているのはそういった存在を生み出す行為だ。

 

「……アラン機関が関わるのなら対価は重い筈だ。あんたは問題ないと考えているようだが、子供という奴は俺達の想像を超えてくるものだ。その時一番後悔するのはあの子ではなくあんただという事を忘れるなよ」

 

 尤も、今のあんたじゃ考えは変わらないだろうが。そう言い捨ててミラーはその場を去った。

 その後、アラン機関が千束に対して支援を行う事を決定した。千束の支援者であるアラン機関のエージェントはこう言った。

「殺しの才能を世界に届けてください」と。

 

 

 

 

「アイツが生きていれば、というのは虫がいい話か」

 

 

 

 

 

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 数日後、ミラーの目の前を車椅子で走り回るのは手術を受けた後の千束。結局アラン機関の支援を受ける事に決めたらしい。

 アラン機関の歴史は中々深い。20世紀初頭には既に存在していたという話まである程だ。彼らの目的ははっきりとしていないが、才能を持つ人間を支援しているのは確かだ。

 支援と言えば聞こえはいいが、実際のところはそう甘い世界ではない。彼らは才能を活かす為に支援をしているのであって、才能を活かせなくなった人間に対しては冷たい。腕を失った天才ピアニストが超高性能な義手を支援で貰ったのにも関わらず、ピアノをトラウマなどで弾けなくなったという理由で義手を返却する事態になったという事例まである。

 千束の才能は「殺し」の才能だ。つまり、アラン機関を納得させるには千束に人殺しをさせる他ない。普通に生きるにあたっては実現不可能な才能だが、リコリスであればそれを活かすのは簡単だ。支援が受けれたのはそれも理由の一つとしてあるに違いない。

 だが現実はそう上手くいかないもので、千束は自分の命を救ってくれた「救世主」に憧れたのか「人を救う」ことを目指すようになってしまった。より正しく言えば人を殺せなくなってしまった。

 皮肉なものだ。人を殺す才能を見出されたから命が助かったのに、彼女は人を殺す事をやめてしまったのだ。

 そしてその結果、DAは彼女の戦闘評価を最高のA+から最低のD-まで落とした。ターゲットを殺せないリコリスに用はないという事だ。

 ミラーはこの組織に既に辟易していた。

 

「確かに、街中で紛れ込むという事の戦略的優位性は理解している。だが、なぜハンドガンに拘るんだ」

 

「政府との契約でね」

 

「政府に言えないような仕事までしてる癖に、よくぬけぬけとそんなことが言えたもんだ。いいか、人命がかかってるんだ。屋内での制圧戦闘が必要になる場合の死亡率は俺が纏めた通りだ。ショットガンなりPDWなり、採用すべきなんじゃないか」

 

 聞く耳をもたなかった。

 どうもDAと政府はリコリスを生かしておこうという気概すらないようで、任務中にリコリスが死ぬことについて何も思っていないようであった。

 ミカが言っていた通り、リコリスの現役はせいぜい18歳である。これはつまり、18歳以上まで生き延びたリコリスが過去にいない。もしくは生き延びたとして先がないという事を示しているのではないか。そうミラーは邪推してしまう。

 隊長クラスのファーストやセカンドはともかく、サードに関しては捨て駒として使われることも少なくない。

 奇襲が基本戦法のリコリスだが、制圧戦の場合はその基本を捨て去る必要がある。正面戦闘を行う事なく建物を丸ごと制圧する事ができるのは、さしずめ潜入を完璧に行えるプロ(BIGBOSS)だけだからだ。強襲を行うことで初撃を成功させたとしても、奥の部屋に向かうにつれ抵抗は強まる。そうなった時、防弾ベストもヘルメットも無い、ハンドガンだけを装備したリコリスは不利だ。

 彼女らの生存率を上げるには、任務ごとに装備を選択できる柔軟性と、もし撃たれた場合に身体を守る防具と治療具の携行率が致命的なまでに不足していた。

 

 そこでミラーは独自に動く事を決めた。

 彼の業界での顔の広さは凄まじい。かつての仲間や同業者は、こぞってミラーを手助けしてくれた。

 そんなこんなで日本政府にバレないよう、法の網を潜り抜けて集めたのが歩兵一個小隊分の装備。東京支部に納入するまではDA上層部とAIであるラジアータですら見抜けなかったことを考えると、通常の4倍近い費用もそこまで痛くはなかった。

 彼はDAに文句を言わせる前に動く必要があったのだ。

 

 

 後日、ミラーはセカンド数名とその部下にする為のサードを選抜した。

 ファーストはDA上層部と繋がっている可能性を鑑みて選ばなかった。

 悔しいが、まだミラーにはDAと真正面からやり合うだけの信頼と実績がDA内になかった。いかに外で有名なミラーもリコリスからすれば戦闘教官の一人なのだ。

 キルハウス内の空きスペースに総勢30名を集めたミラーは、彼女らに防弾チョッキやタクティカルリグを渡して装備するように促した。

 困惑しつつも言われた通りに装備したリコリスを10名1組のチームに分け、整列させた。

 

「今回俺が選抜したお前たちには、他のリコリスとは異なる訓練を受けてもらう」

 

 選抜という言葉にベージュの制服を着た少女達は身震いをする。3段階に分かれているリコリスの等級の中で最下位の彼女達は、自分が選ばれたという事実を噛み締めていた。

 その姿を見たミラーは、この少女達が普通の暮らしができない事を見せつけられているかのようだった。

 世界中のどの国の少年兵より、彼女達は恐ろしい程に戦争というものに慣れているのだ。

 

「お前たちも分かっている通り、リコリスの任務の大半は暗殺だ。しかし稀に発生する制圧・強襲任務での死亡率は、リコリスの殉職率のおよそ70%を占める」

 

 リコリス達は黙ったままだ。恐らく彼女達の中にも理解できている者がいるのだろう。反論はなかった。

 

「理由は単純だ。暗殺任務と同じ装備で挑んでいる事。そして専用の訓練を受けていない事。この2点が不足している。死亡率の高さも納得の理由だろう」

 

 当たり前だが暗殺と制圧は違う。

 必要とされる技術も、求められる判断力も、交戦距離も、連携の重要性も異なる。リコリスは暗殺者として育てられるが、正面戦闘のプロとしては育てられることはない。

 

「よって、ここでは俺が用意した装備で可能な限りの訓練を積んでもらう。部隊での連携、状況に適した武器の扱い方……俺が教えられること全てをお前らに叩き込む!」

 

 

 

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「文句を言わないんだな」

 

 司令室のソファに座っているミラーは、出されたコーヒーを飲みながら意外そうに口にした。

 キルハウス内で行った訓練はDAの意向に背くものであり、何かしらのアクションが上層部や司令からかけられるとミラーは考えていた。

 もちろん対策としていくつかの案は用意していたし、カウンターとなり得る手段も設けていた。が、呼び出された割には何もない。

 

「死亡率に関しては問題視はしていたからな。まさか個人で装備を輸入するとは思わなかったが。よくもまぁラジアータを欺けたものだ」

 

「伝手は多いからな。年を取るのは悪い事ばかりじゃない」

 

「で、リコリスをどうするつもりだ」

 

「ミカという戦闘教官にも言ったが、俺は子供が嫌いだ。特に銃をぶっ放す奴らは」

 

 だから、銃を撃たなくていいように変えてやる。

 銃を撃つのは子供の役目じゃない。俺のような奴の役目だ。それがミラーの思想であった。

 彼は子供嫌いだと自称しているが実際はその逆だ。

 子供(未来)が好きだった。彼らが平和な世界で生きるようにしてやる事が夢だった。だから、住む世界を分けようとした。

 

「リコリスには戸籍も何もない。その後はどうするつもりだ」

 

「言っただろう。俺には伝手が多い」

 

 何も日本だけが世界の全てではない。世界は広い。深淵に触れるようなことをしてきたミラーですら、その全てを知る事はできないだろう。

 だが子供達に世界を知る権利を授ける事はできる。

 かつて、彼が慕った男が作った独立要塞国家ザンジバーランド。世界と全面戦争をする為に作られたあの要塞国家は、しかしその内部には孤児達を養育する施設があった。

 あそこまで大がかりとはいかないがやりようはある。信用できる伝手もある為、ちょっとした孤島や海上プラントを買い上げて養育施設を作る事もできるだろう。

 

「なんにせよ、18を超えたリコリスがどうなるか分からない以上、手をこまねいている訳にもいかない」

 

「それを私の前で言うのか?」

 

「結果を出せば問題はない。そうだろう。不本意だが、今俺は彼女らを死なせない為に殺しをさせようとしている訳だからな」

 

「……いいだろう。ただ、結果が出なかった場合はどうする」

 

「それについては心配する必要はない。結果は必ず出る。そう、必ずだ」

 




カズヒラ・ミラーの経歴

PW・GZ → TPP → MG → MG2 → ??? → DA戦闘教官に
大雑把に並べるとこの形になります
MGS、MGS2、MGS4の事件は発生していますが、リコリコ世界に大きな影響がないよう改変事項はあります
たぶんちょいちょいちょいって感じに出てきます
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