リコリス・ソリッド カズヒラティーチャー 作:バーガー・ミラーズ
日本の排他的経済水域から更に130海里程離れた太平洋上に、六角形の洋上プラントが合計5つ連結した形で建設されていた。
蜂の巣を思わせるその形のプラントは90年代初頭、当時需要の高かった
それを海洋調査を目的に鯨保護団体が再度整備を行い、更に研究施設の増築を行った。
というのが表向きの話。
その正体は、カズヒラ・ミラーによって設立されたプライベート・フォース『
1970年代に設立されたDDは、その大半の機能や人員がアウターヘヴンと呼ばれる要塞国家へと移行していたのだが、それについて行かなかった者。そしてアウターヘヴン崩壊後にミラーが独自に集めた者によって1998年に再結成されていた。
再結成されていたと言っても、その活動は海洋資源の採取とその売買に殆どを割いており、世界に認知されることはなかった。
だがそれでよかった。
ミラーとしては『もしもの事』が起きた時の緊急避難先であった為、下手に『愛国者達』に認知されたくなかったからだ。寧ろミラーが設立し直した事すら認知されなかったのは僥倖と言えた。
そして『愛国者達』を含めた全てのしがらみから解放された今、DDはその姿を消す必要はなくなった。同時にカズヒラ・ミラーという人間も姿を消す時期は終わっていた。
普段はDAから出ないミラーだが、電波塔事件の終結後に『とある人物の墓参り』を申告する事で日本を出国し、アメリカまで飛んだ後にわざわざ海路でこの拠点──マザーベースまで移動した。
その主な目的は、電波塔事件を引き起こしたテロリストから、その目的を聞き出す事。ついでに仲間の様子でも見れれば幸いだった。
捕らえる事ができたテロリストはたった一人。
千束が非殺傷弾で無力化したというのに、DAはその上で
回収できたテロリストも電波塔で見つけたのではなく、海辺まで逃げて力尽きたところを拾ったのだ。
兎に角、何故ヤツは日本の電波塔をハイジャックしようとしたのか。それを聞きださなければ始まらないだろう。
仲間にするにしろ、しないにしろ。
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最後に感じたのは、ボタンを押した際の感触とそれに伴う衝撃。
自分達が占拠しようとしていた電波塔が崩れる音と共に、幾つもの瓦礫が落ちてくる感覚。それを聴覚だけで察知できたのが良かったのか悪かったのか。
仲間は全て死んだだろう。
意識のあるうちに遠くへ逃げようと、自然と回収ポイント近くまで来ていた。
今回の作戦は失敗した。だが俺達の計画は終わらない。何度でも、世界が俺達を求めるまで戦う。そう決めていた。
次に目覚めたのはこの冷たい部屋の中。
牢という言葉が似合う部屋の中に手錠付きで安置されていたあたり、どうも捕縛されたらしい。少なくとも警察ではないはずだ。
では何か? それが問題だ。
軍? いや、日本に軍隊はない。かといって自衛隊に尋問室があるとも思えない。
警察の特殊部隊でもないだろう。そうだとすれば警備が軽い。
それに地理的な謎もある。微かだが聞こえる波の音。いくら俺が気絶したのが海辺だとしても、海のど真ん中に牢獄を建てるような場所は日本には無かったはずだ。
ここがどこかを知る前に俺の耳が察知したのは、いくつかの足音。そのうち一つは金属音が混じっている……義足か?
複数人いるのは護衛だとして、その振動音から察するに装備しているのは西側系アサルトライフル。自分の拠点内にも関わらずご丁寧にボディアーマーまで着けてるあたり、相当教育が行き届いている奴らだ。
という事は義足の奴が司令官か。そんな推測をしているうちに足音は俺の前で止まり、同時に扉が開けられた。
「起きてたか。悪いが、いくつか質問させて貰うぞ」
「あんたは?」
「安心しろ。電波塔でお前らを制圧した奴らじゃない」
質問の答えになっていない。
そもそも話が見えない。電波塔で俺達を襲ったのは、確かに一人だった。それも年齢が10もいかないような背丈の奴。
だが目の前にいるのは大人。それも正規兵のような装備をしたヤツ。本当に別の組織なのか? だとすれば、あの少女は一体何者だ? 日本にこんな軍隊染みたのが幾つもいるとは思わなかった。
「さて一つ目に……お前達が電波塔をハイジャックした理由が知りたい」
「理由? 理由は一つ。
1970年代。まだ俺が生まれてもいない頃、中南米で
どこの国家にも属さず、あらゆる思想やイデオロギーにとらわれないフリーな軍隊。
MSFは世界各地を放浪し、その武力を欲しがる国に金で自分達を売る事で活動する、言わばPMCの先駆け的存在だった。
そんなMSFは1970年代後半になって姿を消す。当時から生きてるようなベテランの話によれば、カリブ海にある本拠地がアメリカの組織に潰されたとか、所持していた核が暴発したとか、そんな噂が流れている。
消えてしまったのはしょうがないが、世界は彼らが消えても彼らを求めた。
法律上軍隊を持てない国、自国で軍隊を常時賄える程の資金力の無い国、侵略を受けて自国の軍隊だけでは抑えられない国。様々な国がMSFを──フリーな軍隊を求めていた。
そして生まれたのが
“金で買える軍事力”の需要は日に日に高まり、その姿は世界各国で形を変えながら存在するようになった。
中には非合法の存在も多くあったが、彼ら自身がどこの国にも縛られない組織であったがために黙認される形で存在し続け、その活動は時間が経つにつれ各国政府にすら認められるようになっていった。
そして俺がPFに入って傭兵として活動して数年経った頃、戦争は変わった。徹底管理の時代が来た。
PFは
PMCの軍事力は他社と切磋琢磨するうちに強大化し、世界中の軍事力のおよそ60%がPMCのものとなった。
俺達PMCの傭兵は身体にナノマシンを注入し、ID登録を行い、ID登録された銃を使い、ID登録された兵器を用いて戦争行為を行った。
だがその戦争は俺達の為ではなく、俺達を雇ったどこかの誰かと相対するPMCを雇ったどこかの誰かの代わりに戦闘を行う代理戦争だ。
戦争は既に一種の経済活動へと変貌していて、戦争経済なんて呼ばれるようにもなっていた。
銃の売買や兵士の売買、戦争そのものの行く末に至るまで、全てが経済活動だった。
戦争の動向や俺達傭兵の状態は常時注入されたナノマシンによって監視され、高性能AIによって管理されるようになっていった。
それでも良かった。
俺達はそれでしか食っていけない人間だったから、それで良かった。
だがとある日、突然ナノマシンによる制御が無くなった。俺達はそれまで抑制されていた痛みや罪悪感に苛まれる事になった。
そして同時に戦争経済は世界から消えた。
管理・制御された戦争に慣れた世界は、それ以外の戦争を拒絶するようになっていた。
PMCは職を失った。仕事場はあるとしても小さな紛争ぐらいなもので、今までのような巨大な市場は姿を消した。
だが紛争地帯が世界から消えるには遅すぎた。PMCは多くなりすぎた。
世界のバランスは元のルートからとっくの昔に変わってて、今更軌道修正するのは不可能だった。世界のバランスは崩れてしまった。
「だから
「その為に電波塔を?」
「確かに数年前の仕事場は紛争地帯だったが、何も紛争地帯を増やそうって訳じゃない。
時間が経つにつれ、PMC間で雇用を取り戻す為の組織が生まれ始めた。もちろん俺も参加し、計画の根幹に携わる事になった。
その計画は、PMCの需要を復活させること。それも戦争経済以前の需要へと戻す事だった。
「つまり警察以上の武力を持ち、軍よりもフットワークの軽い存在。その立ち位置を取り戻すのが俺達の計画だった」
「なるほど。電波塔をハイジャックしたのは、警察で対処できない状況を作り出し尚且つ軍隊で手出しできない状況を作る為か」
「ああ。そんでもって未だ日本付近で活動しているPMCに依頼が飛ぶ。その依頼を受けた俺達の仲間のPMCが俺達を鎮圧する。そして世界は再びPMCの有用性を認識する」
「だが邪魔をされた」
「意味の分からない横槍を入れられた。仲間のPMCはいつになっても依頼が来ないと通信を入れてきた」
それは計画の中に無い事だった。
なにせ依頼を入れるように約束させたのは、戦争経済時代に上手い汁を吸っていたお偉いさんで、今回の計画にも一枚噛んでる奴だ。
奴は日本の防衛に携わっていて、今回のハイジャックへの対応にPMCへ依頼するという進言を行う手筈だった。
「やって来たのは、たった1人だった。違うか?」
「……いや、複数人いた。20人は少なくともいたはずだ」
「なに? ……来たのはどんな奴だったか覚えているか? 少女だったりしなかったか?」
「10代ぐらいのが殆ど。いや、確か1人ばかり小さいのがいたか」
「なんてことだ……」
驚いたような声を上げる相手。だが、そもそもコイツはどこまで知っているんだ。
少なくとも俺達を襲撃した奴が“どこの誰か”というのを知ってはいるようだが、それにしては今の会話がかみ合わない。
「あんた、何者なんだ?」
「俺は……俺はカズヒラ・ミラー。お前の言う
その言葉を聞いた時、ピースが嵌った。
世界のバランスが再び変わる。そんな音がした気がした。
バランスが整うのか、また崩れるのか。どっちなのかは分からないが、この男について行けばこのクソッたれなバランスを変えられる。そんな確信めいた思いを抱く事ができた。
俺は手錠で固められた腕を解かれ、彼と──ミラー司令と握手をした。
リコリコ本編でどんでん返しな情報が出ないかおっかなびっくりしながら書いてます
11話良かったですね
個人的に気になったのはクルミが話してる相手(?)が何者なのかってところ
AIって事はないだろうし……
ロボ太と真島に千束の映像見せたのが誰かも分かってないし……やっぱりウォールナット複数人説あるんですかね