リコリス・ソリッド カズヒラティーチャー   作:バーガー・ミラーズ

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第八話

 数年前まで、世界はAIによって管理される危機にあった。

 インフラに始まり、株価、政治、人の出生や戦争の発生とその結末に至るまで、全てがAIによって管理・制御される世界の構築。

 性質が悪い事にそれは急激に進んだものではなく、至極ゆったりとしたスピードで進行していた。

 まるでゆっくりと絵が変わる間違い探しのように変化する世界は、普通の人々が気付くようなものでもなく、誰も何の疑問も抱かないままに世界は確実に変化していた。

 それを行ったAIこそが『愛国者達』だ。

 アメリカの非政府諜報機関である『サイファー』の意思決定を託されたこの『愛国者達』は、「力を管理する」という意思を託され、それを合理的かつ冷酷に推し進めていった。

 まず世界中の人々の行動を無意識化で操るシステムを創造し、人々から「言語の力」を奪った。

 世界全体に対する管理・制御に障害があると思われていた力と共に、人々は真の自由を奪われたと気づかぬままに失った。

 

 2014年。俺達はやっとの思いでそれを取り戻した。

 何人もの命と引き換えに、世界は自由と管理をトレードした。

 戦争経済はAIと共にその姿を消し、やっと平和な世の中が取り戻されるといったところだった。

 

 だが俺はその時初めて、平和な世の中では生きられない人々がいるのだと理解した。

 頭の中では分かっていた筈の事でも、人間は自分が目の当たりにしなければ信じないものだと初めて分かったのだ。

 俺は『愛国者達』との戦いの最中、奴らによってサイボーグへと改造されていた。

 世界が持つ技術的にはなんらおかしくないものだったが、一般の認知が低い事からそれなりに差別的な視線を投げかけられる事も多く、また一般企業への就職も中々決まらない日々が続いた。

 ボリスから連絡が来たのは、そんな状態の中であった。

 

「PMSCs?」

 

『失楽園の戦士のメンバーに就職先を作ってやりたくてな。お前も職には苦労しているんだろう?』

 

「ああ……サイボーグの身体は民間企業に()()が悪くてな」

 

『マヴェリック・セキュリティ・コンサルティングはそんなお前を歓迎するぞ!』

 

 ボリスは旧ソ連の軍人で、『愛国者達』との戦いでは失楽園の戦士──というよりは寧ろ俺個人──と協力関係にあった。彼の協力無しではサニーを助けられなかったので、俺としても感謝してもしきれない人だ。

 だから彼が俺を騙しているなんてことはないだろうし、信用に足る話だとは分かっている。

 それでも折角スネークが命を削って生み出した平穏な暮らしという日々を、俺自身が勝手に捨てていいものなのかという思いも捨てきれなかった。

 

「なぁ、どうしてPMSCsなんだ?」

 

『PMSCsとは民間軍事()()会社を意味する。一昔前のPMCという存在は、戦争経済の消失によって混乱の極みにある。仕事が無い中で虐殺や略奪に身を投じる者も多い。一方で、そんな無法者(デスペラード)から身を守って欲しいという国は多い。戦争ではなく警護や防衛に戦力が必要な時代に変化しているんだ』

 

「それで警備会社という訳か」

 

『要人警護、無法者(デスペラード)の討伐、正規軍の育成……必要なだけの戦力を送り、必要なだけの支援を行う。クリーンな形のPMCが求められている』

 

 成程確かに的を得ている話だ。

 中東やアフリカでは戦争経済の終結により、様々な国が発展の時を迎えている。その一方で戦争経済当時のPMCが職を失い、盗賊崩れに変貌して各地を荒らし回っているのも確かだ。

 しかし発展途上の国の軍隊は力が弱い。戦争経済においてその役割をPMCに一任していたが為に実戦経験と実力で劣り、戦闘ともなれば一方的に倒されるだけであるとも聞く。

 それを訓練する役割は確かにいるだろう。

 国を守る兵士を育てれば、その国にいる人々はその分だけ平和を享受できる。

 自分一人の平和を満喫するより、この命を更に多くの人々の平和の為に使う事こそ、スネークと共に戦った俺の使命ではないだろうか。

 

「なるほどな。で、どこに行けばいいんだ?」

 

『来てくれるのか! 迎えはそっちに寄こすから安心してくれ』

 

「だが設備はどうする? 俺の身体のメンテナンスは勿論だが、それなりの人数を用意するのならそれだけ金はかかるが」

 

『それは安心してくれ。スポンサーがついてくれたんだ』

 

「スポンサー?」

 

『ああ、ここ数年で凄まじい事業の拡大を行っている、海洋資源採掘会社「ダイアモンド・ドッグズ」が俺達に出資したいと申し出てくれたんだ』

 

 

 

 

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『失楽園の戦士』というレジスタンス組織がある。

 サイファーの創設者であるゼロに意思決定を託されたAIである、『愛国者達』を打倒するために活動していた組織だ。

 彼らの数年にかけての活動は多大な成果を残し、そしてソリッド・スネークやウォールナット(ハル・エメリッヒ)らの協力もあり『愛国者達』を消滅させるに至った。

 そんな彼ら『失楽園の戦士』は、その後の生活に困る事が多いという話をウォールナットから聞いた。

 特に『愛国者達』によってサイボーグ化されてしまった雷電という兵士は、平和に暮らそうにもその身体のせいで民間企業が雇ってくれないのだとか。

 なんとかしてやりたいと思っていたある日、俺は『失楽園の戦士』を救済すべく会社を設立したいというロシア人に出会った。

 その男の名はボリス・ヴャチェスラヴォヴィチ・ポポフ。雷電とも共闘した事があるという彼は、民間軍事警備会社を設立してクリーンな傭兵という新たな形を世界に示しつつ、失楽園の戦士メンバーを会社で雇いたいと言っていた。

 そういう事ならと、俺は協力を取り付けた。

 

「だが、いいのかい? ミラーさんにとっては『失楽園の戦士』は見ず知らずのレジスタンス組織だろうに」

 

「案外そうでもない。彼らはある意味、俺が成し得なかった事を成し遂げてくれた立派な後輩だからな」

 

「どういう事だいそりゃ」

 

「とにかく、費用や装備は『ダイアモンド・ドッグズ』が持つから、アンタは気兼ねなく活動してくれ」

 

「世界一の海洋資源排出量を誇る大企業様がバックにいるのは心強いな」

 

 そう、彼の言う通り『ダイアモンド・ドッグズ』は数年のうちに巨大な企業へと成長していた。

 彼ら『失楽園の戦士』が『愛国者達』を打倒してくれたおかげで、俺はこの身を世界から隠す必要が無くなった。同時に、かつてサイファー打倒の為に動いていた『ダイアモンド・ドッグズ』という組織も、コソコソとした動きをする必要がなくなった。

 となれば、わざわざ小さな事業でヒッソリと潜んでおく必要もない訳で、海洋プラント近辺の資源を採掘して加工、そして様々な国に売り出した。

 化石燃料や天然ガスなどの燃料資源をはじめ、レアメタルなどの鉱物資源、魚などの食糧となる生物資源といったものを市場に流した。

 戦争後の疲弊した世界には抜群の効き目だったようで、これらの資源は飛ぶように売れた。

 海中の資源はかなり豊富で、太平洋に建設しているプラットフォームの近辺だけでも十数年は売買だけで過ごせるレベルだ。

 そこで俺は管理するプラントを増やす事にした。

 プライベート・フォースが流行っていた頃、世界各地で海上プラントが建設された。そういったプラントはPMCが台頭した後、かつてのマザーベースがそうだったように朽ち果てるのを待つだけの状態で残っている。それを改装して再び拠点として使えるようにしたのだ。

 そうしてインド洋と大西洋にもプラントを作り、計3ヶ所体制で商売を続けた結果、見事に俺のビジネス手腕が発揮されて世界的企業の仲間入りをしたわけだ。

 

「頼りにするのは構わないが、1つ条件がある」

 

「条件?」

 

「ああ。管理する海洋プラントを増やしたのはいいんだが、海賊などから身を守る警備部隊が必要になってな。本店は問題ないが支店の方が問題だ」

 

「それの警備を任せたいと」

 

「いや、それだとアンタの会社が自由に動けない。警備部隊を指揮・訓練できるだけのスタッフを育ててほしいんだ」

 

『ダイアモンド・ドッグズ』が元々の目的で動いていたのは、既に30年近く前の話になる。当時のスタッフで実戦に出れるような能力の奴はBIGBOSSやPMC時代に出ていき、残ったのは研究開発や拠点整備ができる奴ばかり。追加で入ってきたのも実戦経験がある奴は少なかった。

 元々プライベート・フォースだったとは思えない程に実戦部隊が少なかった。

 幸い、軍教官時代の教え子なんかが来てくれたおかげで太平洋の本店の警備は問題はない。だが彼らも新たに他のスタッフを教育できるようなレベルではない。

 本当は俺自身が教えられればいいのだが、DAの方が忙しいので中々顔を出せないのが現状だ。

 

「なるほど……分かった。世話になりっぱなしというのも気が引けるからな」

 

「助かる。選抜したのを後日そっちに送るから、そっちで教育してやって欲しい」

 

 ボリスはそれも了承してくれた。

 暫く預かってもらうスタッフは向こうのマヴェリック社の社員同然で扱ってもらえる事になり、実戦経験も豊富に積めそうだ。

 問題は誰を向かわせるかだが、血気盛んな奴を向かわせて“本物”を見てもらうというのも一つの手かもしれない。最近入ってきた耳の良いヤツは、特に見に行かせるべきだろう。

 方針を頭の中で決めた所で、気になっていた『失楽園の戦士』メンバーの写真を見る。

 ソリッド・スネークとエメリッヒは知っているが、それ以外にどんな奴が『愛国者達』を倒したのか気になったからだ。

 中には有名な人物もそこそこいるのが分かる。

 

「それにしても、この雷電という奴。どこかで会った事がある気がするんだよな……」

 

 

 

 

 

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 リコリスの制服は都会の迷彩服だ。誰も私が暗殺者である事に気が付かずに通り過ぎていくのは、もはや私にとって見慣れた光景となった。

 DAでリコリスとして育てられたのが6年。マスターに出会い、マスターの指導する制圧部隊に加えられてからは既に3年が経過しようとしていた。

 指揮担当にはならなかったものの、マスター直々に指導されたCQCや戦闘訓練は他のリコリスを圧倒する程の力を私に齎した。部隊内で一番早くセカンドの制服を貰ったのも私だ。

 闇夜に溶け込むような色の制服を着るようになった私は、部隊とは異なる任務をDAから下されるようになった。

 

 今回もそのうちの一つ。

 銀行の襲撃を企てているギャンググループの捕縛と彼らが所有する武器庫の確保。そしてグループを支援しているという団体との通信メッセージの奪取が目的だ。

 相手は多く、また市街地のど真ん中にアジトを構えているため隠密作戦が必須となっている

 制圧部隊を送るには場所が悪く、また通常のリコリスでは危険な相手だ。

 そこで私に任務が回ってきたのが潜入鎮圧任務。

 全国のDAでも初となる作戦の試みである。

 ちなみに以前に似たケースの事件が起きた場合、ファースト指揮下のリコリス小隊を送り込み力業で確保。騒ぎに関しては情報操作やクリーナーによる掃除で黙らせたんだとか。

 つまりは金がかかるから別の手段が欲しいという訳だろう。

 いや、考えるのはよそう。目的の家屋が見えるポイントに到達すると同時に無線機の周波数を合わせ、DA本部との通信を開く。

 

「こちらたきな。目標ポイントまで到達」

 

『ああ、確認した。予想時間より30秒も早い。流石だなたきな』

 

「……マスター! どうして?」

 

 私の連絡に答えたのは想像もしていなかった人物だった。

 1年ほど前、私達に教育を施した後に東京支部へと帰っていった戦闘教官。そう、私がマスターと呼ぶカズヒラ・ミラーその人であったのだ。

 

『DA初の潜入任務と聞いて、居ても立っても居られなくなったんだ』

 

「今はどこに?」

 

『それよりまずは任務だ。潜入任務は教えたが、実戦は初めてだろう? まずはCQCの基本を思い出すんだ』

 

「了解……これより潜入任務を開始する」

 




ここら辺からゆったりとMGRでの出来事が動いていきます


たきなのM&P9が麻酔弾仕様に!
スライドロック機構が追加!
MGSでお馴染みのMk22もM&PもS&W社製だし……とか、MGSだとM9も同様の改造されてるしって感じで魔改造されてしまった
他にもグリップに滑り止めが追加されてたり、マガジン挿入部が拡張されてたり……といった感じに各所にカスタムがなされている
名づけるとすれば『M&P9 たきなマッチ』

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