「いよっしゃー!」
撃つ、撃つ、撃つ。
両手の拳銃で撃ち続ける。
何度も放たれる銃弾の狙いは顔。
ヴァジュラの弱点の一つだが、ラーフちゃん的には当てやすい所がそこしかないという理由で狙っている。
しかし、堪えた様子もなくのしのしと歩くヴァジュラ。
彼女が放つ銃弾は、威力よりも数を重視しているためだろう。
まあそれでなくても戦闘面ではポンコツなラーフちゃん。
そもそも高火力の銃弾を撃つのが苦手なので、ダメージを与える手段が乏しいという話。
というわけで。
「ふぇぇぇぇ……止まらないよぉぉぉぉ……!」
彼女の攻撃はヴァジュラにあんまりダメージを与えられていないのであった。
「うわああああん……!」
ラーフちゃん、逃走。
彼女の華麗な足(逃げ足的な意味で)を封じていた重い調整キットは大破。
この場にとどまっている必要もないのだ。
そりゃ逃げる。
「踏んだり蹴ったりだよぉ……!」
ぐびぐびと先程消費したオラクルを回復するために、回復用のボトルを飲む。
とはいえ彼女の口は小さい。
ついでに薬は美味しくない。
なのでぐえぐえと言いながら薬を飲むのだった。
「美味しくないよぉ……」
周囲を警戒しながら、ぐえぐえと飲むラーフちゃん。
美味しくない美味しくないと半泣きでオラクルポイントを回復するのだった。
「うう……追ってきてるぅ……」
先程振り切ったはずヴァジュラが、彼女を探して回っていた。
彼女は物陰に隠れているが、見つかるのも時間の問題だ。
「やるしかないよねぇ……」
再度銃を構えて、ラーフちゃんは駆け出した。
もっと開いた場所を目指すのだ。
ラーフちゃんに気付いたヴァジュラが彼女を追いかける。
彼女が建物の影に消えたところで、ヴァジュラが急カーブをすると―――――
「さあ行くよぉ……!」
―――――ラーフちゃんが、左手の銃を構えていた。
彼女の銃は彼女の父親が退役した際に譲り受けたものが右手の物。
左手の物は彼女自身が適合した新しい物だ。
片方が近接系ならば新型になるかもしれない、と言われ悲しい思いもしたことがあった。
それはともかく。
彼女の銃はそれなりに特別である。
右手の銃はオラクルポイントを殆ど消費せず、当てた時に発生するオラクルを吸収できる速射弾を放つ。
逆にそれしか放てないのだが、今は割愛する。
左手の銃はその右手の銃と連動している上に、特殊な機構を備えている。
彼女はそんなに豊かではない胸元についているポケットに手を突っ込み、何かを取り出した。
それは銃弾。
それを左手の銃へと差し込んで、がっちりとはめる。
そしてヴァジュラへと狙いを定め―――――
「必殺、六連火炎弾ー……!」
―――――弾丸の中に込められていたオラクルを全て放つのだった。
オラクルリザーブ。
彼女の行った行為はそれである。
戦場で発生した余剰なオラクルポイントを神機にストックして、更に充填できる機能だ。
しかし、そのためにはブラストというある程度の大きさを持ち、頑丈な砲台でなければならなかった。
しかし、彼女は考えた。
正確には技術者が頭を使ったのだがそれはそれ。
彼女のオラクルリザーブは、砲台の中ではなく、外に充填するのだ。
そのために造られたのが、今彼女が取り出した弾丸である。
その中には彼女が右手の銃でため込んだオラクルポイントと、先程まずいまずいと飲んでいたオラクル回復薬によってため込んだオラクルポイントがため込まれていた。
その量は、本来砲台に込められる
その凄まじい威力は、目の前まで迫っていたヴァジュラの顔面を砕き、機能を停止に追いやるほどだった。
「……はぁああああああー……。」
ヴァジュラを倒した彼女は、その場にぺたりと座り込んだ。
無理もない。
ちまちま作り続けていた虎の子の銃弾まで使って倒したのだ。
疲れるに決まっていた。
更に言えば、これまで自身の命を保っていた神機の調整キットも破壊されてしまった。
それにより、疲れがどっと現れたのであった。
「ふぇえええーどうしようぅうううー……。」
半泣きになりながら、近くに寝床になりそうな場所がないか探す。
幸いにも近くにアラガミの存在はない。
ゆっくりはできないが、仮眠くらいなら取れるだろう。
彼女がこれほどまでに頑張っている理由はただひとつ。
「死にたくないよぉー……」
ただそれに尽きるのだった。
「ふええぇぇええー……」
ずきんずきんと痛む腕を抱えて、彼女は歩く。
目指すのは南、極東支部がある場所である。
車なんてない。
あるのは自分の足だけである。
調整キットが壊れて一週間。
彼女は次第に自分がおかしくなっていることに気付いていた。
お腹が空く。
お腹が空く。
お腹が空く。
どれだけ雑草を食べてもお腹が空く。
身体は弱っているはずなのに、何故か力だけは強くなっていく。
足は未だに動く。
動かないのは、腕輪がついている右手だけ。
「やだなぁー……死にたくないよぉー……」
半泣きになりながらも、彼女は歩き続ける。
生きるために、死なないために。
そして、父親を馬鹿にしたあいつらを見返すために。
退役した父を待っていたのは、賞賛ではなかった。
弱虫だから生き延びた。
弱かったから生き延びた。
逃げ回ったから生き延びた。
そんな罵倒の数々だった。
それでも父親は決して負けなかった。
それらの罵倒などどうでもいいようにふるまった。
それに耐えられなかったのは、母親の方だったのだ。
その罵倒は、父親だけでなく、母親にも向けられた。
そして、その罵倒に耐え切れなくなった母親は、父親から離れたのだった。
ラーフは悔しかった。
父親は決して弱虫なんかじゃない。
それを証明したかった。
だから彼女は銃を半ば無理矢理譲り受け、ゴッドイーターになったのだ。
しかし。
「その結果がこれだよぉー……」
彼女は限界だった。
結局、彼女は逃げて逃げて逃げてここまできた。
弱虫で、情けなくて、弱くて、最低だ。
このままでは父親の無念を晴らすことなどできはしない。
いやまあ父親は死んでいないのだが、彼女的にはそんな感じだった。
右腕はもう動かない。
それどころか、なんだか熱を持っている。
これはまずい。
神機に食べられてしまう。
そんなのは嫌だ。
誰か助けて。
死にたくない。
「ふぇええええーん……」
彼女が本気で泣き始めたころ。
彼女が小石に躓いてぶっ倒れたころ。
彼女の頭の上に、何かが乗った。
「むぎゅ」
アラガミではない。
それでいて小さい。
小動物だろうか。
こんな場所に?
ばっと起き上がると、その小さい何かはぴょんと飛び降りて、彼女の前に着地した。
それは猫だった。
彼女は猫を知っていた。
それは数少ない母親の記憶。
猫が好きで、ぬいぐるみを作ってくれた記憶。
「猫さん……」
右手を伸ばそうとして、動かないことを思い出した。
そうだ、きっとこれは幻覚なんだ。
彼女はそう思うようになっていた。
こんなところに猫がいるわけがない。
そう思ってまた泣きそうになった。
母親のことを思い出してしまったからだ。
今更、なんで。
そんな気持ちになったのだ。
しかし、その幻覚は一向に消えない。
それどころか、どんどん近づいているではないか。
もしかして。
これは幻覚ではないのかもしれない。
そう思って顔を近づけようとした。
その時だった。
「にゃーん……がぶ」
「いっっっっっっっっったああああああああい!!!!」
猫は、彼女の右手を思い切り噛んだのであった。