そうして暫く。
私はたくさんの物を食べた。
不思議なものだ。
食べると力が湧くというか、そんな気持ちになるのだ。
空腹感が満たされることはないが、それでもだ。
しかし、姿形は猫のまま。
非力で、すばしっこいだけの猫だった。
……ひとつ思いついたことはある。
アラガミを食べることだ。
共食いを行うことで、直接オラクル細胞を身体に取り込むのだ。
そうすることで、きっと身体は強くなるはずだ。
専門家ではないので、多分、きっとという接頭語が付くのは勘弁してほしい。
「あ……が……」
そうして、暫く弱っていて私でも勝てそうなアラガミを探していると。
今にも事切れそうな男が一人。
ええ……またかぁ……という思い。
この間も子犬を拾ったではないか。
また拾うのか、私は。
いやまあ放っておくわけにもいかないのだが。
見れば、巨大な腕輪を嵌めている。
つまるところ、この男はゴッドイーターだ。
名前は分からない。
見た記憶もない。
きっとモブの一人だろう。
「にゃあご」
「なん……だ……? 猫……か……?」
猫である。
アラガミキャットとでも呼んでくれ。
傷口を見る。
がっつり背中を開かれてしまっている。
痛そうだ。
いやまあ私も似たような傷を負ったことはあるが。
私は少しだけ寄り道をして薬を拾ってきて、男の目の前に置いた。
回復薬だ。
ゴッドイーターが服用する特殊な薬品である。
それは体内のオラクル細胞を活性化させて傷を癒す……という感じの薬品のはずだ。
多分。
男はそれを手に取り、即座に飲み干す。
背中の傷が凄い勢いでなくなっていく。
凄い効き目だ。
「猫……だよな……?」
「にゃあ」
少し落ち着いた男が私を見て呟く。
そう、猫だ。
ただしアラガミだ。
そのくせ人間の精神まで持っている。
ややこしい。
男は怪我を癒した。
最早アラガミは近くにいない。
男は助かったのだ。
用は済んだ。
「ありがとう、助かったよ」
「にゃあ」
猫にお礼を言う男。
律儀な奴だ。
だが悪くない。
色々と世話したくなるショタ顔だ。
いやまあ、私はショタコンではないのだが。
「にゃ」
もしかしたら戦死扱いになっているかもしれない。
男はまだまだピンチだろう。
「……駄目か。通信機がいかれてる」
ピンチだった。
ここは最後まで面倒を見なければならない。
私は男の前で振り向き、とことこと歩き始めた。
ついてこいという意思表示だ。
その気持ちが通じたのか、男は辛そうな足取りではあるがついてきてくれた。
「にゃあ」
ぱしりと、猫の手で戸棚を叩いて開く。
すると、中にはスタングレネードがいくつか。
ゴッドイーターたちの落とし物である。
「……これだけあれば、極東支部に戻れるかもしれない」
それは何より。
しかし猫は心配だ。
急にアラガミの群れが襲い掛かってくるかもしれない。
そうなれば、男は餌だ。
いやまあ私も餌なんだが。
しかし、そうなったら折角の回復薬、そしてスタングレネードを与えた意味がない。
そうなれば、極東支部に辿り着くまで一緒に行くしかないだろう。
剣を杖替わりに歩き始めた男の横に並び、とことこと歩き始める私。
ついて行ってやるという気持ちを出してみた。
「はは、君がいれば何とかなりそうだ」
男は辛そうな顔を無理矢理笑顔に変えて、そのまま歩き続ける。
無理する必要はないのだが……。
いや、先程の傷はかなり深かった。
無理をしなければ動けないのかもしれない。
「にゃあ」
アラガミの気配のないルートを探しながら、私は男を先導した。
中々に骨の折れる作業だ。
何故ならお腹が空く。
アラガミだからだ。
猫だが。
男の調子も良くなってきたようで、剣を杖替わりにしなくてもよくなったようだ。
普通に歩いている。
これならばまあ、ある程度は戦ってくれるだろう。
私は囮くらいにしかなれないので頑張ってくれ。
そうして暫く歩いて進んだ。
男は完全に調子を取り戻し、時折笑顔も見せるようになった。
いい傾向だ。
猫的にはもう放り出しても問題なさそうな気配すら感じていた。
まあ、最後まで面倒は見るが。
「にゃあご」
それから更に歩いた私達は、無事極東支部へと辿り着いた。
男は安堵からか座り込み、その場で倒れ込んだ。
死んだわけではない。
一瞬焦ったが。
まあいい。
これで私はお役御免だ。
そそくさと立ち去ることにしよう。
「あ、待って!」
待たないのだ。
猫は忙しいのである。
ぴょんぴょんぴょんと崖を登っていき、そのまま平原の方へと走っていく。
個人的なミッション、クリアである。
「にゃにゃ」
そうしていくらか経過すると、何やらゴッドイーターたちを引っ張り出して何かをしている様子が見受けられた。
みな口々に猫を呼び、探しているようだ。
うんまあ、私を探してますねあれは。
どういう理由で探しているかは大体想像はつくが、まあ捕まるわけにもいかない。
その理由は、やはり私がアラガミだからだ。
ただの猫だったらさっさと出ていくのだが。
……いや、ただの猫だったらツバサを守れなかった。
だからこれでいいのだ。
割と動員数が多いので、逃げるのも大変だ。
もうそろそろ別の区域に移るべきだろうかと考え始めた頃。
私はとある事件に巻き込まれるのだった。
「にゃあ!?」
強烈な爆発音。
それが響き渡ったのは私が廃墟でぐっすりと眠っていた時だった。
最初は何が何だかわからなかったが、目を覚まして伸びてから気付く。
ああ、これはゴッドイーターが放つ砲撃だ。
しかもかなり適応率が高い奴だ。
ゴッドイーターの様子を観察していて気付いたことだ。
ゴッドイーターと神機の適合率が高いと、なんというか神機が喜んでいるような気配をさせるのだ。
ただ何となくそう感じるだけなので、確証があるわけではないが。
それはともかく。
かなりの適合率を持ったゴッドイーターの砲撃が、何故か廃墟を攻撃していた様子。
違和感を感じるが、それはどうでもいい。
今はそう、この状況から逃げることが先決だ。
「ぐるるるるるる……」
複数の大型アラガミ。
プリティヴィ・マータだ。
どうしてそんな名前を正確に覚えているのか。
かなりの疑問を抱いたが、本当にそれどころではなかった。
真面目な話、死ぬ。
これ以上ないくらいにピンチだ。
こんな状況、逃げるに限る。
瓦礫の隙間をするすると抜けて、外へと身体を投げ出す。
周囲にゴッドイーターがいるが、まあアラガミの中に飛び込むよりましだろう。
「え?」
そして、私は見事にゴッドイータの一人の頭に飛び乗ることに成功した。
首が痛そうだ。
だがまあ我慢して欲しい。
所詮猫の体重だ。
「猫がこんなところに……!」
女性が二人、男が三人。
いや、瓦礫の向こうにもう一人いる。
しかし、構っている余裕はなかった。
私はプリティヴィ・マータ同士の隙間を全力で駆けだした。
囮である。
それに気付いたのか、男の一人が私に意識を向けたプリティヴィ・マータに重い一撃を喰らわせた。
「ここは引くぞ」
そりゃそうだ。
ゴッドイーターの数が少なすぎる。
プリティヴィ・マータ相手なら、一体に対して四人は欲しい。
ここにはざっと三体はいるのだ。
逃げるしかない。
「にゃあああああ!」
私はプリティヴィ・マータの周りを全力で走る。
その隙にゴッドイーター達が突いて逃げることを期待してだ。
あとついでに混乱に乗じて一緒に逃げたい。
「はぁ!」
……なんか見たことのある男が、プリティヴィ・マータの顔面にナイフ系の神機を叩き込んだ。
その隙に逃げ出すゴッドイーターのみんな。
どうやら無事に逃げ切れそうだ。
「にゃご!?」
「今度は逃がさないよ」
……どうやら、ゴッドイーター達からは逃げられそうにないようだ。