番外編 ブラッドウィング
とある場所に、少女は力を手に入れるために全てを捨ててやってきた。
強くなるんだもっともっと。
弱かったから、私は友達を失ったんだ。
そう思い、そう後悔した彼女は、ゴッドイーターになるために、フライアという移動要塞に足を運んだのである。
「気を楽にして……その方がいい結果が出るわ」
このフライアの実質的管理者であるラケル。
その声が、少女の頭の中をよぎる。
少女は声を聴いていたものの、それどころではなかった。
ゴッドイーターになることができる。
やっと、やっとだ。
かつては年齢や適合する因子が存在しないとして放り出されたが、漸くゴッドイーターになれる機会が巡ってきた。
失敗はしない。
してはいけない。
それは最早死である。
少女はじっと自身の手の先にある神機を見る。
あれが、ゴッドイーターとして戦う私の力。
そう、力なのだ。
少女には力が必要だった。
それは友達を助けるためだ。
それは友達を守る為だ。
きっとどこかで苦しんでいる、友達を救うためだ。
そして。
意を決した彼女の腕に、上空から機械が落ちる。
ぞわりと、彼女の腕に何かが潜り込んできた。
「が……ああああああああっ!!!」
激痛。
叫ぶことしかできない。
それほどまでの激痛が、彼女を襲った。
痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い―――――!
涙は流れ、声は枯れ、全身の筋肉が痙攣する。
それでも激痛は収まらない。
どうしてこんなことをしているんだろう。
少女は激痛の余りそんなことを考えていた。
ただの逃避だ。
それこそ、痛みから逃げるために勝手に起きた思考のずれである。
―――――だが。
「にゃあ」
記憶の中にあったその小さな鳴き声が、彼女を覚醒させた。
「が……ぐ、う……ああああああああ!!」
腕が痛い。
構うものか。
身体が動かない。
構うものか。
そんなの、あの時のクロに比べたら天と地の差だ……!
周囲では暴走しているとかなんとか言っているが、少女はそれどころではない。
右腕で神機を握り、左手で神機を掴んだ。
血がしたたり落ちる。
それどころではない。
「わ……たしの力の……
ギリギリと左手の力が強くなる。
バキバキと骨の砕ける音がする。
構うものか。
少女はそんなことどうでもよかった。
「私に……逆らうんじゃあない!!!!」
叫んだ。
それと同時に、神機が真っ二つに千切れ飛んだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……!」
「……」
「……」
少女を見ていた二人は無言だった。
少女の腕を蝕み、アラガミにするのではと思われていた神機が、まさか真っ二つになるとは思っても見なかったからだ。
「凄い……何かしら。執着するものがあったのね」
ラケルはそう一言呟くと、そっと目を伏せた。
「おめでとう。あなたは選ばれしゴッドイーター……ブラッドの一員となりました」
なんてことはない。
神機に適合して、従えたのだ。
少女は、ゴッドイーターになったのである。
「その力を……世界を救うために、皆の為に使ってくださいね」
ニコリと、ラケルは少女に笑いかけるのだった。
―――――だが。
「……嫌よ」
少女は反抗した。
そう、嫌なのだ。
少女はそのお願いが嫌だった。
だってそんなのおかしいじゃないか。
私の為に誰かがしてくれたことはある。
誰かのためにしたことも確かにある。
しかし。
しかしだ。
その大切な友達を放っておいて、自分だけみんなのために頑張る?
ありえない。
ふざけている。
半分になった神機が変形する。
歪なプレデターフォームだ。
それが、床に転がっているもう半分の神機に噛みついた。
ガリガリと機械の砕ける音がする。
ギイギイとアラガミの悲鳴がする。
そして一瞬の後、神機が更に変形した。
―――――翼だ。
深紅の翼。
それが彼女の腕から伸びていた。
「勿論、仕事はするよ」
ザクリと、翼を地面に突き立てて宣言する。
その顔は憤怒。
激情にかられた鬼の形相だ。
「だけど……
かつて、小さな小さな猫に救われた彼女――ツバサはゴッドイーターに。
そして後にブラッドウィングと呼ばれるようになる。
血の力。
感応の力。
そして、その意志の力。
ツバサはその胸に大切な友達との思い出を抱いて戦うのだ。
―――――例え、世界が敵になったとしても。
少女は戦士に。
神機は翼に。