ジュリウス頑張って。
―――――少女は、ころころと笑う可愛らしい子供だった。
黒い艶のある黒髪をまとめてポニーテールにしていた。
瞳も黒、やや赤みがかっていた。
そんな少女が出会ったのは、小さくて黒くて弱々しい猫だった。
いや、弱々しいと思っていたのは少女だけだったが。
少女の髪と同じく、艶のある毛並みをした猫。
少女は一目で気に入った。
楽しかった。
一緒にいるだけで世界が輝いていた。
例えお腹が減ったとしても、その子のために自分の食事も差し出した。
嬉しかった。
友達はいた。
確かにいたが、それ以上の存在だった。
家族と言ってもいい。
少女が再び手に入れた、家族だった。
そして、親友だった。
―――――それを。
奪い去った。
かすめ取った。
傷つけた。
許さない。
許さない許さない許さない。
アラガミを絶対に許さない。
しかし。
それよりも許せないのは。
あの時手を伸ばせなかった自分。
あと一歩踏み出していたら。
あとほんの少しだけ手を伸ばせていたら。
あとちょっとだけ、自分に力があったら。
きっとあの背中を見送ることなんてなかったはずなのに。
「……」
少女は黙々と訓練を続けた。
アラガミを倒せる力を手に入れるために。
アラガミ以上の敵を倒せるだけの力を手に入れるために。
少女は無言で訓練を続ける。
その執念、根性はあまりにも異常だった。
そんな少女に声をかけることのできる人間など、いなかった。
「……よくやっているな」
「……誰?」
「む……」
過去形である。
そう、我らがジュリウス・ヴィスコンティが空気を読まずに声をかけたのである。
すげえ、半端ねぇぜ、やべえ。
そんな声が遠くから聞こえるが、話の中心たる二人の耳には届いていなかった。
「俺の名はジュリウス・ヴィスコンティ。ブラッドの隊長をしている」
「……知ってると思うけど、私はツバサだよ」
「ああ、知っている」
真顔でそう言うジュリウス。
すげえ、あの圧力をもろともしねぇ。
少女の圧力は某ロミオも引くほどだった。
「……なんで話しかけたの?」
「おかしいか?」
「おかしくない、けど」
押されてる。
少女が困惑しているのを、周りの人間が驚きの目で見ている。
ナナも驚き、ロミオは口をあんぐりと。
そして乗組員の人達も固唾をのんで見守っている。
「確かにお前は特別かもしれない」
「……」
「だが、俺の方が特別だ」
ジュリウス、渾身のギャグ……!
中々ブラッドの面々と打ち解けないツバサのことを危うく思ったジュリウスが、寝ずに考えた渾身のギャグである。
ナナとロミオは全力で噴出している。
「……ふふっ」
そして、その渾身のギャグで、ツバサは笑みを浮かべた。
ほんの小さな笑みだ。
そして、それを見逃すジュリウスではなかった。
「漸く笑ったな」
「……っ」
「その方が可愛いぞ」
い、言った!
素面で言ったよ!
うわー凄いねぇ!
ロミオとナナが大はしゃぎ。
ツバサも顔が赤い。
「何かあれば俺を頼ると良い。隊長としての責務を果たす時だ」
「……そこまで気負う必要はないと思うよ」
「そうか……?」
「そうだよ」
なんとなく、全体的な雰囲気が穏やかになった気がする。
恐る恐る近づくロミオとナナ。
二人の様子に気付いたツバサは、ため息をつきながら出迎えるのだった。
こうして、ブラッド候補生三人と、隊長がようやく打ち解けることができた。
とはいえ、ツバサが心を開いたわけではない。
それはきっと、もう少し後、友達が増えてからの話になる。