魔法少女になりたくない。   作:煮干し

1 / 1
初投稿です


いつか

 ひとりぼっち。夜の暗い、暗い部屋。

 

 呆然としていた僕の目の前に、ソイツは現れた。

 白く、可愛らしいぬいぐるみの見た目をしたナニカ。奇跡の対価に、法外な要求を呑ませようとするナニカ。

 当然のように、違和感なく。最初からそこにいたかのように、或いは、最初からコレを狙っていたかの如く自然に。現れたソイツは再び言うんだ。

 

 

『ボクと契約して、魔法少女になってよ!』

 

 

 実に可愛らしい見た目の──キュゥべえと名乗った悪魔の声が、無機質に響く。

 

 頷けば、破滅は必死。頷かなければ、きっといつか、後悔する。なによりも。どこまでも。深く、辛く。

 そう考えているだけでも気分が悪い。喉は異様に乾くし、頭も痛くなる。視界が眩んでは吐き気がする。

 マトモな思考を回すには、時間も、心の余裕もありはしなかった。

 僕にとっては最悪のタイミングで、奴にとっては最高のタイミング。これだから詐欺師は、だなんてふと浮かんだ軽口も口から出ない。

 

 

 

 不気味なくらいの無言で、律儀に返事を待つだけのキュゥべえに、僕は────

 

 

 

 

 

 

 ▽

 

 

 

 

 

 

 

 …………いやまぁ、うん。最終的に契約は拒否したんだけどもね?可能なら、あんなの(・・・・)と契約するのは御免蒙るし。

 僕は命のやり取りは勿論、他人とか世界への貢献も興味はない。名も顔も知らない他人の為に戦うなんて、言っては悪いがどこか心のおかしい人か、選択肢の無い人間くらいだろう。

 僕はそう、平穏に。ただ、平穏に暮らせたら、それで良い。

 だから、そんなこんなで今日も僕は普通に暮らしている。暮らせている。

 

 朝に目を覚まして支度をし、朝食を食べ、学校へ行く。そうして授業を受ける。

 夕方には、学校を終えて家に帰り、趣味に復習に没頭したら、夕飯を食べてお風呂に入り、ベッドに潜ってゆっくり眠る。

 そんな、代わり映えの無い行為の繰り返し。緩慢な愛すべき日々。

 

 それでいい、それがいい。

 僕は、それを望んでいるのだから。

 

 

 

「おはよう、ほむら」

 

「……おはよう、姉さん」

 

 とはいっても、日常になんの変化も無いわけじゃあない。

 身体が弱くて入院していた妹のほむらが、最近退院してきたのだ。可愛い可愛い妹が退院してきて、嬉しくないお姉ちゃんはあまりいないだろう。少なくとも、私は嬉しい。

 扉を開けて、リビングに入ってきた妹に僕は笑いかける。

 

「お弁当、そこに置いてあるよ」

 

「…………ありがとう」

 

 まぁ、妹であるほむらは最近少し素っ気ないのだけれど。あんまり笑ってくれなくなったし、僕に助けを求めることも少なくなった。

 入院中、あんまり会いに行けなかったからかな?或いは、俗に言う反抗期という奴か。両親が居ない分その矛先が僕に向いたのかもしれない。

 なんであっても構わないのだけれど、初めての中学校で浮かないかだけは心配だ。

 

 

「…………学校、先に行ってるわ」

 

「うん、分かった。いってらっしゃい」

 

 学校、初めての筈なのに先に行くとまで言い出した。それくらいは私に案内させてもいい気がするんだけどなぁ。やはり反抗期か?

 道に迷わず、あと変な輩に絡まれない事を祈っておこう。ほむらは可愛いからね。

 

 さて、僕だけが食べた朝食を片付けたら、僕も学校に行かなければならない。今年はまだ、学生なのだから。

 …………今年は、何もないといいな。

 

 

「それじゃ、行ってきます」

 

 僕は振り返って、いつの間にかそこにいた悪魔に笑顔を向けて言ってやる。それに、なんの意味も無いとしても。

 

 悪魔────キュウべぇは、一言も喋らなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。