悪の組織所属のTS魔法少女、はじめました 作:布団から出られない
「よぉ、久しぶりだな」
クロが校舎をぶらぶらとしていると、突然後ろから少女に声をかけられる。
「え、誰?」
「私をおちょくってんのか!?」
本当に知らない。
誰だこの金髪の不良少女は。
「本当に覚えてないのか…‥?」
コクリと頷くクロ。
しかししばらく考えてみると、目の前の少女についてなんとなく思い出してきた。
「あー思い出したかも。もしかして雷の?」
「本当に忘れてたのかよ…」
クロの物覚えの悪さに困惑している目の前の少女の名は朝霧来夏。
クロが初めて交戦した魔法少女だ。
「えっと…何か用?」
「話し合いしに来た。私としてはお前とは一度決着つけたかったんだけどな」
ここ一週間は校舎の誰もいないところをぶらぶらと散策して、休み時間中にシロ達に捕まえられないようにしたり、教室でシロ以外のクラスメイトと会話したりして上手いこと魔法少女達を避けていたのだが、来夏がここにいるということは行動パターンを読まれたのだろうか。
「何も話すことなんてないよ。じゃあね」
「待てよ」
さっさとこの場を去ろう。そう思うクロだったが、来夏によって腕を掴まれてしまう。
「離して」
「そういうわけにはいかないんだよ」
「話し合いがそんなに好き?」
「いや、私は嫌いだね。戦って決着をつけた方がわかりやすい。でも、これで最後にするからって真白に言われちまったからな。仕方なくだ。仕方なく」
これで最後、か。
ここで断ればまたしつこく追い回されるだろう。ここで話し合いに応じて、終わりにすれば、後はもう戦うだけ。
嫌われれば、死んでも誰も悲しまない。だから、出来るだけ嫌われるように立ち回ろう。
今日で終わりだ。もうシロが助けてくれることはなくなる。これでいい。これで…
「わかった。今回で最後なら」
「やっぱ真白の名前を出すとくいつくってのは本当だったわけだ」
「別にそういうわけじゃないと思うけど…」
「姉妹愛ってやつ? 私には姉妹のどこがいいのかさっぱりわかんねぇけどな」
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
放課後、来夏と約束した近くの公園へ寄ると、そこには少女6人と大人が1人、待っていた。
「……先生、仕事はどうしたんですか?」
「少しの間なら大丈夫。今は話し合いが優先でしょう?」
魔法少女6人に、保健の先生1人だ。
(そういえばシロの面倒見てるんだっけ……)
魔法のことについても詳しいようだし、何より組織のことも知っている。
何を考えてるかわからないし警戒した方がいいかもしれない。
「それで、話し合いって?」
「クロ、私達側についてほしい。クロだって、街を破壊するのは嫌だと思う。だから、おねがい。何か事情があるなら、それもなんとかするから」
「またその話? それなら断るって……「クロ、ごめん」……え?……」
突然地面から鎖が生えてきて、クロを拘束する。
櫻の魔法だ。あらかじめ鎖を召喚して地面に忍ばせておいたのだろう。
クロはいつもなら魔法で作ったものの存在を感知できるのだが、保健の先生である双山魔衣を警戒することに集中力を割いていたため、地面の中にある鎖の存在に気付けなかった。
(まずい………)
もし魔法少女に捕まったと組織に知られれば、すぐに爆弾が起動してしまう。
一応爆破の被害を最小減に抑えるくらいには出来るが、クロは絶対に助からない。
「離せ!」
焦って語気が強くなる。
「落ち着いて! クロ、私達は話し合いたいだけなの!」
拘束を解かなければ。
この鎖は魔法によるものだろう。なら
「”ブラックホール“!!」
魔力によるものなら、“ブラックホール”で全て吸収することができるはずだ。これで拘束は解かれる。そのはずだったが、
「吸収……できない……!?」
「櫻の魔法はちょっと特殊だから、抵抗しても無駄。大人しく従って!」
このままじゃ…死ぬ。
何か……しないと……
使える魔法は黒い弾と“ブラックホール”だけ。これだけでは拘束を解くことはできないだろう。
ここでも手数の少なさに悩まされている。
いや。
違う。
昔は使っていたじゃないか。
今はもう使えなくなったと思っていたが、もしかしたら。
……一か八かだ。
『ルミナス』
クロの闇の魔力に包まれた体から一筋の光が見える。
その光が鎖に纏わり付き、クロの体から引き離していく。
これは光属性の魔法だ。
元々クロは光属性の使い手だったのだ。
今は組織に脳を弄られたことによって闇属性の魔法しか使えないようになっていたはずなのだが。
「できた……! 上手くいった!」
「まずい! 櫻!」
拘束から解かれたと思うも、すぐに茜が櫻に指示を出す。
「束ちゃん!」
「わかりました!」
櫻が束を呼び、互いに手を繋ぐ。
(何をするつもりだ…?)
「「connection!」」
(必殺技的な何かか? 2人の力を使った必殺技となると、“ブラックホール”でも流石に吸収しきれない……それに数的有利も取られてる。撤退が丸いかな)
『舞え!』
クロがそう言うと、クロの体が光に包まれ、宙を舞う。
「じゃあね!」
そそくさと逃げようとするクロだが、その前に櫻と束の魔法が完成した。
「「友情魔法(マジカルパラノイア)・春風!」」
そう言うと同時、2人の前に巨大な弓のようなものが現れ、無数の矢を打ち出す。
クロもすかさず黒い弾で迎撃しようとするが、
(黒い弾を避けてる…? いやそれどころか、一直線にこっちに向かってきてる…!)
全ての矢が黒い弾を避け、クロのいるところへと迷うことなく向かってきている。
(追いかけてくるタイプか………厄介すぎる……)
前方から無数の矢が飛んでくる。
黒い弾を自動化させても結局避けられてしまうため、直接黒い弾を使役して迎撃に移ろうとするクロだったが、
「っ!」
前方に注意を払っていたせいで、後方からやってきた矢に気づかなかった、そのせいで負傷してしまう。
(手数が足りないだけじゃなく、注意力が足りないのも問題かも)
そんな風に考えつつ、他の矢も避けるために体勢を整えようとするクロだったが、
(あれ? 矢の動きが止まった…?)
クロが一つの矢に当たった途端、他の矢が空中で静止しだしたのだ。
それだけじゃない。クロの体も何故か動かなくなっている。
時間でも止まったのかと思って他の魔法少女たちの様子を見てみるが、普通に動けている。時間が止まっているというわけじゃなさそうだ。
そうか、矢が止まったんじゃない。矢を止めているんだ。
今クロの体は動けない状態だ。おそらく先程命中した矢の効果だろう。空中で矢が静止しているのは、クロを拘束したため、これ以上攻撃する必要がないと判断したからだろう。
「クロ、諦めて。その矢をくらったら、櫻か束が解除しない限り動けない」
静かにシロが告げる。
光属性の魔法を使ってもこの拘束は解けそうにない。
「これはもう…‥詰み……かな……」
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
再び拘束されてしまったクロは、魔法少女である蒼井八重と、真保市立翔上中学校の保健の教師である双山魔衣と同じ部屋にいた。
八重がクロと話をしたいと言い、他の5人を退室させたのだ。
「……………」
「そんなに怖い顔しなくてもいいわよ。正直私、逃がしてあげようと思ってるわけだし」
「……は?」
八重の言葉に思わず声が漏れる。
逃がす? せっかく捕まえたのに何故?
何か企んでいるのだろうか。
しかし、どちらにせよ拘束されて動けないのだ。
何か企んでいたとしても、今のクロには何もできない。
「別に、捕まえても貴方のためにはならないかなと思ったってだけよ」
「私は街を破壊したりするけど、それでいいの?」
「よくはないけど。でも私、基本的に他人に冷たいからさ。魔法少女を続けてるのだって、街を守るためだとかそんな大層な理由じゃなくて、どちらかというと櫻達の助けになりたいからなんだよね」
つまり八重にとって街が破壊されることはそれほど大きな問題ではないということだろうか。
「でも私が街を破壊すれば、貴方の言う櫻達が悲しむことになるけど…?」
「…………確かにね。なんでこんなことやってるんだか」
まるで独り言のように呟く八重。
これ以上質問を投げかけても欲しい答えは返ってこないだろう。
それに、逃がしてくれるというのならクロとしても万々歳だ。
もしかしたら組織のアジトを突き止めるためにクロをあえて逃がしたりだとかそういうことを狙っているのかもしれないが、クロとしては組織よりも自分の命の方が大切だ。
「まあ………逃がしてくれるなら……それでいいけど」
「そう。双山さん、お願い」
「はいよ」
そう言って双山先生はクロにかかっている拘束の魔法を解く。
本当に何者なんだろうか、この人は。
少なくともただの一般人ではないことは確かだ。
「………ありがとう」
「別に礼はいらないわ」
とりあえず、一言だけ礼を告げて、クロは組織へと帰って行った。
「珍しいね、君が櫻達以外のことを気にかけるなんて」
「…そうですね。正直他人はどうでもいいって思ってたんですけど、真白もそうだったんだけど、なんだかあの子、ほっとけないのよね…」
「じゃあ尚更逃がさない方が良かったんじゃない?」
「多分駄目です。このまま捕まえたままだと、あの子のためにはならない気がして、というか…‥すみません、自分でもよくわからないんです」
「ふーん。まあいいわ。櫻達には私から説明しておく」
「ありがとう双山さん」
「どういたしまして」
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
クロは八重から逃がしてもらった後、何者かに尾行されていることに気づいた。
(やっぱり……俺は囮か)
「さっきからずっと跡をつけてきてるけど、何か用?」
「………やっぱりバレてましたか」
「マジカレイドグリーンか。ブルーに言われて来たの?」
「いえ、私の独断です。八重さんの様子がおかしいと思ったので、念の為見張っていました。そしたら案の定貴方が逃げ出していたので、跡をつけさせていただきました」
(マジカレイドブルーは本当に私を逃がすだけのつもりだったのか…?)
クロは思わず困惑してしまう。本当に意味不明だ。
だが、そんなことを考えたところで仕方がない。
とりあえずは目の前の敵に集中することにしよう。
「で、どうする? ここでやる?」
「………いえ。今日の貴方を見て、私1人では勝ち目がないと思いました。櫻さん達を呼んだとしてもその間に逃げられてしまうと思うので、今日のところは見逃してあげます。私の魔力も残りわずかですし」
「黄色いのと赤いのは短気だったから、魔法少女って皆短気なのかと思ってたけど、そういうわけじゃなさそうだね」
「私も、組織の人間は皆話を聞かないと思っていたんですが、貴方はそうじゃなさそうですね。どうです? 少し話でもしていきませんか?」
「遠慮しとく。今日散々話し合いしようって言われて騙し討ちをくらったわけだし」
「………そうですね。時間も稼げたことですし、今日のところは話し合いはいいでしょう」
「時間も稼げた………? 一体なんの……」
突然背後から無数の炎の弾が打ち出されていく。
クロは黒い弾で迎撃しつつ、赤い火の弾を回避していくが、回避した先にも赤い弾が打ち込まれていく。
「この魔法を使ってくるってことは……お前が相手か……マジカレイドレッド!!」
クロの視線の先には、憤怒の炎をたぎらせた魔法少女の姿があった。
騙し討ちなんて卑怯だ!!