悪の組織所属のTS魔法少女、はじめました   作:布団から出られない

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Memory97

シロが、アストリッドの眷属になっていた。

組織に“調整”されている可能性も考えていたから、覚悟はできていたといえばできていたのだが……。

 

しかし、いざ、変わり果てた姿を見せつけられると、かなりきつい。

 

はっきり言って、まだ現実を受け止めきれていない。

 

でも……逃げたりはしない。

 

絶対に取り戻す。洗脳なんて解いてやればいい。

 

「クロ、おはよう。少し提案があるんだけど」

 

シロは、背中についた翼をご機嫌そうにパタパタさせながら、俺に話しかけてくる。

 

「クロも、アストリッド様の眷属にならない?」

 

満面の笑み。

アストリッドの眷属になったことを、心の底から喜んでいる。そうとしか思えないような顔を、シロはしている。

 

「シロ、残念だけど、お断り」

 

俺はホワイトホールをシロの頭上に出現させる。

敵対の意志を、シロに示すために。

 

今のシロには、話し合いをしても通じない。俺が組織に”調整“されていた時も、他人の話に価値なんて感じていなかったからだ。

 

話で決着をつけられないのなら、実力行使にでるしかない。

 

が……。

 

 

 

 

「ホワイトホールが、出てこない……?」

 

何故か、ホワイトホールが出現しない。

両腕が使えない今、頼れるのはホワイトホールだけだというのに。それすら、まともに現れてはくれない。

魔力切れは起こしていない。体力があからさまに低下しているわけでもない。じゃあ、何故?

 

「残念だったね、クロ。仕組みはよく分からないけど、クロのホワイトホールに、私もアクセスできるみたい。ほら、こんな風に」

 

シロは、俺の方を見ながら、魔力を行使する。

 

()()()()()()()

 

瞬間、シロの前にホワイトホールが出現し、中から大量の血の刃が出現する。

そう、俺がブラックホールで取り込んだ、アストリッドの血の刃が。

 

「避けて!」

 

「クロ!!」

 

茜の一声で、光以外の全員が血の刃を避けるために、一気に動き出す。

俺は辰樹と愛に捕まえてもらい、一緒に横合いへと避ける。

 

夥しい数の血の刃が、後方へと物凄いスピードで駆け抜けていく姿が見える。

 

「よく避けました。それで、どうするの? クロ。まだ続ける? それとも、もう諦めて眷属になる?」

 

ホワイトホールも使えないとなれば、俺にできることはもはや何もない。戦闘面において、完全なお荷物だろう。そうすると、茜達にずっと守ってもらうことになる。かといって、眷属になるわけにもいかない。

 

「ごめん、茜。足手纏いになっちゃって」

 

「いいわよ。むしろ、頼ってくれて嬉しいわ! 今まで私、何にもできなかったから」

 

「クロのことは僕が見ておく。足手纏いにはさせない」

 

「アストリッドの相手は俺がする」

 

茜も愛も辰樹も、足手纏いの俺のことを責めるわけでもなく、各々が敵と戦う決意を固めている。

アストリッドにシロ。確かに強敵だが、皆で力を合わせれば……。

 

 

「ねぇしろ。その眷属ってやつ、るなでもなれるの?」

 

しかし、輪の中から外れる者が1人。

光だ。光は、反射の魔法で血の刃を吹き飛ばした後、シロの元に駆け寄っていた。

 

「なれるよ」

 

「ほんと!?」

 

「うん。でもちょっと待ってね」

 

そう言ってシロは、アストリッドと内緒話を始め出した。

光は、ウキウキとした様子で、シロのことを待っている。

 

「あいつ……裏切るつもりか……」

 

「反射の魔法が向こうに渡るのはまずいわ……今の間に説得しに……」

 

「無駄だよ。ああいうタイプは、自分の好きな人にしかついていかない。その人のためなら、悪魔に魂だって売れる。僕も同じだからわかるんだ」

 

言う間に、シロの方もアストリッドとの内緒話を終えたようで……。

 

「いいよ。けど、そんなにすぐすぐ眷属にはなれないから、帰ってからになるって。でも、今は邪魔者がいるから、帰れないね」

 

「ふ〜ん? 要するに、るなにその邪魔者の始末を頼みたいってこと?」

 

「そうなるね。協力してくれる?」

 

「もちろん」

 

光が裏切り、アストリッド側につく。

 

戦闘経験の浅い辰樹に、あまり戦闘のできない愛。それに加えて、足手纏いにの俺までいる。

対して向こうは、吸血鬼の姫に、それなりに魔法少女としての歴のある、シロ。反射の魔法を扱える光。

 

この状況において、圧倒的有利なのはアストリッド側だ。

 

「悪いけど、るなはしろの味方だから」

 

光はステッキを構え、こちらへ敵意を向けてきている。

 

正真正銘3対3の戦いが、俺の目の前で開始された。

 

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

 

街中にある家の屋根の上で、櫻とノーメドは互いに見つめ合う。

櫻は手に『桜銘斬』を、ノーメドも同じく、刀のような見た目の剣を召喚し、その手に持っている。

そこから推測できることは、互いに近接戦を想定して、間合いをはかっているということ。

 

櫻の方は、間合いをはかるのと同時に、自身の全身を魔力で覆い、セカンドフォームへの変身を済ませていた。

 

櫻がセカンドフォームへの変身を終えるとともに、両者は互いに踏み込む。

 

「桜斬り!!」

 

「鬼龍術・捌き」

 

それぞれの攻撃は、互いに打ち消し合い、初動の攻撃は両者とも無傷で終わる。

櫻の攻撃は、感情のこもった、勢いに乗ったままの斬撃だったのに対し、ノーメドは落ち着いた、それでいて最小限の力で成り立たせた、洗練された斬り方だった。

 

全く違う斬撃は、お互いに同じ威力に落ち着いている。

 

「なるほど……最強の魔法少女と言われるだけある。技術の差を、魔力で無理矢理カバーしてきたか」

 

「私は全然、最強でも何でもないよ」

 

櫻もノーメドも、言葉を交わしながら、二撃目に備える。

 

「お互いに実力は互角、に思えるが、果たしてどうだろうか……。鬼龍術・破壊!」

 

「っ! 桜斬り!!」

 

ノーメドは、一撃目とは全く異なる、勢いに任せた、強力な一撃を繰り出してくる。

櫻はそんなノーメドの攻撃に、一瞬戸惑いを見せるも、ギリギリで対応する。

 

それは、ノーメドの攻撃の種類が変化したからか、それとも……。

 

「やはり、集中力に欠けているようだな。そんなに気になるか? あちらの様子が」

 

「真白ちゃんがアストリッドの眷属になってたのが、かなりこたえたのは、そう。けど、貴方との戦いをかろんじたつもりはない」

 

櫻も真白の眷属化に、思うところはあったようだ。しかし、今は感情を押し殺し、目の前の敵に集中するしかない。櫻はもう一度、ノーメドをまっすぐに見据え、3撃目に備える。

 

「鬼龍術・捌き」

 

「っあ!」

 

3撃目。

1度目や2度目と同じように、櫻はノーメドの攻撃を受け止めた。

 

 

 

 

なんてことはなく。

『桜銘斬』は、ノーメドの刀もどきに弾き飛ばされ、櫻の後方へと飛んでいく。

 

もう既に一度防いだ技にも関わらず、櫻はそれに対応することができなかった。

 

何故、櫻が『鬼龍術・捌き』との撃ち合いで負けたのか、それは……。

 

「どうやら、()()()の負けのようだな」

 

先程から、櫻が気にかけていた、アストリッドと戦う茜達の様子に、変化があったためだ。

 

2撃目の段階で、光が裏切り、茜達の敵となる様子が見えた。

その時は、危機感を抱きながらも、謎の力を発揮する辰樹や、イフリートと交わり、強化状態となった茜、そして、クロが説得に成功し、仲間にした愛。この3人なら、まだ何とか戦っていけるだろうと、そう考えていた。

 

だが、それはあくまで櫻の希望的観測でしかなかったのだ。

 

3撃目の撃ち合いの際、既に向こうでは辰樹がアストリッドによって打ち負かされ、愛も戦闘不能に。

クロは両手が扱えないため、戦力にはならず。

茜が一気に3人の相手をしている光景が、見えてしまったのだ。

 

ただでさえ真白がアストリッドの眷属になったという情報で、脳がパンクしそうになっている中、その光景を見てしまったからこそ、櫻は余計に動揺してしまった。結果、『桜銘斬』は弾き飛ばされてしまったのだ。

 

「両手を挙げて降参しろ。今なら命くらいは見逃してやってもいい」

 

しかし、だからといって、櫻はまだ負けたわけじゃない。

魔力はまだまだ余っているし、武器がなくとも、魔法少女は戦える。

 

それに……。

 

「皆が追い詰められているなら、尚更私が頑張らないと!! 私じゃなきゃ、皆を助けられないんだから!!!!」

 

櫻はめげない。

どれだけ自分の心がぐちゃぐちゃになろうとも。

どれだけ、折れてしまいそうになっても。

 

責任に押しつぶされそうになっても、それでも、彼女の原動力はそこにある。

彼女がいるからこそ、他の魔法少女も、ギリギリのところで、折れずに耐えていけている。だが……。

 

究極魔法(マジカルパラダイス)・百花繚乱!!」

 

櫻のことを支えてくれる人間は、いない。

 

それは、最近になって顕著になってきている。

2年前の度重なる仲間の裏切り。皆を支えていた八重の魔法少女引退。椿との意見の相違。

 

魔法少女、櫻は、ある種、仲間に恵まれている。

そして同時に、孤独でもあるのだ。

 

「鬼龍術………!」

 

そしてそれは、ノーメドも同じ。

彼は、組織に属していながら、彼のことを本当の意味で理解し、寄り添ってくれる仲間は存在しない。

ただ本当に、組織に属しているだけ。

 

そんな2人の孤独な戦いは。

誰にも認知されることはなく、進む。

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