悪の組織所属のTS魔法少女、はじめました   作:布団から出られない

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状況を整理しよう。

まず、アストリッド、シロ、光の三人がいた。敵だね。

で、こちら側の戦力は茜だけだったわけだが、マドシュターちゃんが乱入してきた。そして結果的にこちらの戦力にマドシュターちゃんが加わって、茜は辰樹と愛を運ぶために戦線離脱。で、敵側の光は腰を抜かしていたわけだから、事実上アストリッド&シロvsマドシュターちゃんの戦いが始まったわけだ。

 

まずマドシュターちゃんがシロの光の防御壁を打ち破って、そのままアストリッドの脳天をぶち抜こうとしたわけだけど、アストリッドが時間停止の魔法でマドシュターちゃんの攻撃を避けたことで、失敗。その時、アストリッドは(クロ)の近くまで時間停止でやってきていて、そのまま俺を人質にした。

 

そして、ここから何が起こったか、なんだが……。

 

まず、今現在の状態を考えてみよう。

俺は今、マドシュターちゃんに片手で抱えられた状態で、屋根の上にいる。さっきまではちゃんと地上にいたのに……。

さっきまで俺がいた場所には、アストリッドとシロが立っていて、下から俺とマドシュターちゃんのことを睨みつけている。

 

マドシュターちゃんの手には、さっきアストリッドが俺の首元に突き立てていた、血狂いの魔刃(吸血鬼のナイフ)が握られている。アストリッドから取ったんだろう。

 

そして、先ほどのマドシュターちゃんの発言。『私も使えた』という部分についてだ。

話の流れ的に、時間停止の線が濃厚だろう。つまり、マドシュターちゃんはあの時、時間停止を使っていたのではないだろうか?

 

以上のことから、さっきの状況を説明してみると。

まず、マドシュターちゃんは人質になった俺を助けるために、時間停止の魔法を使い、アストリッドが手に持っていたナイフを取り上げた。

 

その様子を見たアストリッドとシロが、反射的にマドシュターちゃんに攻撃を加えようとするが、マドシュターちゃんは攻撃をくらう前に時間停止の魔法を使い、ついでに俺を抱き抱えて屋根の上まで登った、とか、そんな感じだろうか。

 

いや、何が起きてるんだほんとに。

 

「よーしっ! 人質も助けたし、今から本気、出しちゃうぞー! 本気本気!!」

 

マドシュターちゃんはぐーんと伸びをしながら、呑気な声でそう告げる。というかむしろ今まで本気じゃなかったのか。

 

「本気、かぁ。君、さっきから調子に乗っているみたいだけど、言っておくが、(アストリッド)もまだ本来の実力の7割も出していない状態なんだ。本気を出せば、私は君のことだって……」

 

「私は3割くらいかなー。うん。3割3割」

 

「……………」

 

アストリッドが急に物凄く小物に思えてきたのだが、大丈夫だろうか。

いや、だが油断はできない。あのアストリッドのことだ。

 

勝てる、勝った。そんな状況に持ち込んだとしても、奴はしぶとかった。今回もマドシュターちゃんが規格外の力を持っているみたいだが、それでもどうなるか分からない。

 

「アストリッド様。(シロ)があの生意気な小娘をやります。アストリッド様の手を煩わせるまでもありません」

 

シロ、すっかりアストリッドの眷属に染まってしまってるな…。

最悪、アストリッドは倒せなくとも、シロだけでも取り戻したい。もう一度、2人で笑い合っていたあの頃に、戻りたい。

 

それを叶えるためには、他人(マドシュターちゃん)の力を借りるしかないわけだけど。

 

「マドシュターちゃん、シロは洗脳されてるだけだから、あんまり痛めつけないであげて」

 

ってあれ? 無視? マドシュターちゃんが反応してくれない……。助けたのは助けたけど、別にお前と仲良くしたいわけじゃない的な……?

 

「マドシュターちゃん……?」

 

「マドシュターって、誰のこと?」

 

あっ……。

そっか、マドシュターって俺が脳内で勝手にそう呼んでるだけで、別に実際の名前じゃなかったんだった。

本当の名前は、えーと……。

 

「マジカルドラフトシュールスターちゃん?」

 

「マジカルドラゴンシュートスター!! 名前は大事だから覚えて! 大事大事!」

 

と、そうだったそうだった。

確かに、名前は大事だ。えーとドラゴンシュートドラゴンシュート。うん。多分覚えた。多分多分…。

 

でもやっぱりマジカルドラゴンシュートスターは長いから、頭の中ではマドシュターって呼んでおくね。

 

「クロ、楽しそうだね」

 

「シロ……」

 

「クロが楽しそうだと、私も楽しい。クロも一緒でしょ? 分かるよ。私もそうだから。だから、幸せを分けたいって思った。アストリッド様の眷属になれば、幸せになれる。だから、私はクロに幸せになって欲しいから、アストリッド様にクロを差し出す。大丈夫、絶対に幸せになれるから」

 

いくら洗脳されたといえども、根本のところはやっぱりシロなのかもしれない。

クロに幸せになってほしい、そういう想いは、元々シロが持っていたものだろうから。

 

でも、残念だけど、シロの願いは叶えられないだろう。

いや、シロの言う俺の幸せと、俺が思っている俺の幸せは根本的に異なっているんだ。

 

それは、シロが洗脳されてるとか、されてないとか関係ない。元々のシロの考えから、違っていたんだ。

 

だって、シロ。俺はもう……。

 

「いざじんじょーに勝負じゃー!!」

 

「すぐに後悔させてやる。私達に逆らったことを!!」

 

 

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

 

魔法少女マジカルドラゴンシュートスターが登場したことで、その光景を見ていた櫻達もまた、戦いの手を止めていた。

 

「人間と魔族は、あんな化学反応を起こすものなのか」

 

そう言葉を発するのは、先ほどまで櫻と死闘を繰り広げていた組織の幹部が1人、ノーメドだ。

 

「まさか……メナちゃんと美鈴ちゃんが、あんな風になるなんて……」

 

そして、櫻とノーメドは、魔法少女マジカルドラゴンシュートスターの正体に気づいていた。

 

その正体は、人間と魔族のハーフ、龍宮メナと、櫻のことをしたっている魔法少女、真野尾美鈴の2人が、1つになった姿だった。彼女達の魔力は互いに惹かれ合い、混じり合い、2つであったものは完全に一つの個となって、新たに強力な魔法少女として誕生し直したのだ。

 

2人にあったのは、強い絆だ。魔族だとか、人間だとか、そんなものを一切気にせず、互いに、個として、『龍宮メナ』という個と、『真野尾美鈴』という個としてお互いを認識し合ったことで、起こった化学反応。

 

それが、魔法少女マジカルドラゴンシュートスターの正体。人間と魔族の強い絆の力によって生誕した、最強の魔法少女。

 

はっきり言って、櫻は魔族と人間の共存を理想としていながら、心のどこかで、不可能ではないかと、そう諦めていた節があった。

 

誰にも頼れず、1人で抱え込み、そしていつしか、ただ亡霊のように、ただ、過去の自分が追い求めていた理想を、惰性で追い求めるふりをし続けているに過ぎなかった。

 

だが、魔法少女マジカルドラゴンシュートスターを見たことで、彼女の心境は変わる。

 

示されたのだ。魔族と人間の、強い絆の形を。

種族の垣根を越え、限界をも突破した姿を。

 

「龍宮さん、あれが、魔族と人間が分かり合える道です。メナちゃんが………貴方の娘さんが、たった今示してくれました」

 

2人とも、戦意などとうに消えていた。

互いに消耗し切っていたからというのもある。だが、これ以上自分達で傷つけ合うのは、無意味だと、そう感じたから、やめたのだ。

 

「本当は、誰よりも望んでいた。だが、俺はもう、人間を信じることができなくなった。一度人間を信じ、裏切られたあの時から。だが、あの子なら………メナなら、人間と、魔族の、架け橋になってくれるのかもしれない……。俺にできないことを、あの子ならやってくれるだろう」

 

そう言って、ノーメドは自身の武器をしまう。

 

「龍宮さん!」

 

「俺はもう戦わない。メナに全てを託す。ただ、一つ頼みがある。メナと美鈴という娘の合体は、そう長くは持たないだろう。そのうち瓦解する。だからその前に、助けに入ってやってくれ」

 

「龍宮さん……それなら、貴方も一緒に…」

 

「もう、娘に合わせる顔がないんだ。父親失格なんだ。だから、俺はいけない」

 

そうして、ノーメドは櫻を残し、この場から去っていった。

 

「メナちゃんは、私が絶対に守る。あの子は、皆の希望だから」

 

櫻は決意する。孤独ながらに、しかし力強く。

 

もう、彼女の心には。

迷いなどなかった。

 

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