悪の組織所属のTS魔法少女、はじめました   作:布団から出られない

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「言っておくけど、今の私は………強いよ」

 

そう言うと同時、クロは黒の弾を大量に出し、茜と束に向けて放つ。

 

「その攻撃はもう見飽きてるのよ!」

 

だが、流石に対策はしてあるのか、茜が出した赤い火の弾を、黒の弾と衝突する直前に火の弾を分裂させ、黒の弾ごと束の魔法で覆い尽くした。黒の弾を消そうとするのではなく、2人の魔法で黒の弾の勢いを殺している。さらには一部の弾を自分達の攻撃手段に変えてきた。2人の魔法によって黒の弾は完全に機能を停止している。

 

だが、2人が黒い弾の処理をしている間に、クロは茜に急接近し、どこから取り出したのか、黒い大鎌で茜の胸を切り裂く。

 

「きゃぁ! くっ……」

 

「茜さん!」

 

「束、大丈夫。ダメージ自体はそこまで大きくないわ……でも……今の攻撃で魔力を結構な量持ってかれたわ。あの大鎌には気をつけた方がいいかも」

 

「みたいですね。茜さん、私が前に出るので、援護をお願いします」

 

「OK。頼んだわよ。束」

 

茜が束の名を呼ぶのを合図に束はクロの方へと駆け出す。

茜は後ろから炎を出して煙を発生させ、束のいる位置がわからないように目眩しをしている。

 

「“ウインドバインド”」

 

束がそう言うと同時、クロの体が風の魔法によって拘束される。

 

(今日は拘束されてばっかりだな……流石にもう慣れてきたよ)

 

『ルミナス』

 

だが、もう既に一度光属性の魔法(厳密に言えば『ルミナス』は光属性と闇属性の複合魔法なのだが)によって拘束に対する耐性は付いている。

束の“ウインドバインド”はクロの『ルミナス』によって完全に無効化されてしまう。

 

「やはりその魔法が来ましたか! ですが!」

 

束はクロに向けて複数の衝撃波を打ち出した。

何度も何度も何度も。

クロには一切ダメージは通っておらず、牽制にしかなっていない。

 

(やっぱり1番年少だからか、決定打に欠けるね)

 

高を括っていたクロだったが、ふと何かに気がついたのか、唐突に大鎌を振り出す。

 

「危なかった。まったく、魔法少女は騙し討ちが得意なんだね」

 

別に増援が来たわけではない。ただ、

 

「気づきましたか……」

 

「……衝撃波の中にあんなものを混ぜてるとはね」

 

「まさか“風薙ぎ”まで防がれるとは思いませんでした。今の攻撃、通ったと思ったんですけどね……」

 

「確かに、並の魔法少女なら、その“風薙ぎ”ってのが普通の衝撃波に混ざってるって分からないかもしれないね。でも、これでも物心つく頃からずっと魔法の訓練をしてきたんだ。魔力の流れを読むなんて朝飯前なんだよね。だから“風薙ぎ”っていうのの軌道も追えた」

 

そう。束はさっきから打ち続けていたただの衝撃波の中に、”風薙ぎ“を混ぜていたのだ。”風薙ぎ“は視認することができず、また音もないため、発見することが難しい。クロの場合は魔力の流れを読み取ることができるため、”風薙ぎ“の存在に気づくことができたが、並の魔法少女なら”風薙ぎ“の存在を感知できずにやられていただろう。

 

「どうやら貴方の方が上手だったようですね………ですが………私は最初から1人で戦っているわけではないので…!」

 

「後ろ! もらったわよ!」

 

「っ! 後ろ!?」

 

「“ウインドバインド”!」

 

茜が後ろから接近してきていることに気づき、後ろを振り向くクロだったが、束の“ウインドバインド”によって拘束されてしまい、反撃することができない。

 

(これはもらったわ…!)

 

この勝負、勝ちだ。と2人はそう確信したのだが、

 

「動けなくても……! 『魔眼・無効魔法』!」

 

「なっ! 魔法が……使えない……!」

 

クロの隠し玉によって茜の攻撃が防がれてしまう。

それどころか、茜が隙を見せてしまったため、クロが『ルミナス』で束の“ウインドバインド”を解除してしまう。

 

「しまっ……」

 

焦る2人だったが、もう遅い。

クロは『ルミナス』で拘束を解除した後すぐに大鎌で自分の周囲を思い切り薙ぎ払った。束は先程まで”ウインドバインド“を展開していたせいで、回避に移れず、茜も攻撃の体勢から回避の体勢に急に変えることができなかったため、2人ともモロに大鎌の攻撃をくらってしまう。

 

「勝負あったみたいだね」

 

「ええ、完敗……ね……」

 

「まさか……2対1で……負けるとは………思いませんでした…」

 

「安心して、それなりに楽しませてもらったし、命まで取るつもりはないから。それじゃ、私は帰るね」

 

そう告げてクロはそそくさと帰ろうとする。が、

 

「待って! クロ!」

 

「………シロ……?」

 

2人と戦闘しているうちに、いつの間にか他の魔法少女もこちらへやってきていたらしい。

連戦か……? そう思うクロだったが、

 

「クロ…………………またね!」

 

シロが放った言葉は意外なものだった。またね。とただ一言。

今まで事情があるなら話してほしい、

魔法少女側についてほしい、

と今までずっと要望を述べてきたシロが、だ。

 

顔は涙でも流していたのか、目は腫れているような気がするし、笑顔も無理矢理取り繕っているようにしか見えない。それでも、

 

どれだけ街を破壊しても、

どれだけ友達を傷つけても、

どれだけ突き放そうとも、

シロにとってはクロはかけがえのないたった1人の大切な家族なんだ。

 

そのことが嬉しくて、悲しませてしまうことが辛くて。

でも、今は、その暖かさに触れてもいいのかな。

 

「うん。またね……シロ」

 

敵同士であるはずなのに。

2人の間には、何のわだかまりもないように感じられて。

そこには、ただただ普通の“きょうだい”がいる。

そんな気がした。

 

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

 

「う〜ん。もう少しサンプルが欲しいですねぇ……」

 

「どうしたDr.白川」

 

「いえ、実験体が少し足りないと思いましてね。できればモルモットなんかより人間の素材が欲しいんですが………」

 

「本当に人の心がないんだな」

 

「いえ、そういうわけではありませんよ。ただ探求熱心なだけです」

 

「探求熱心なだけな人間が、自分の娘を実験体にするとは思えないがな」

 

「いえいえ。娘のことは愛していますよ。愛しているからこそ、人類の発展に貢献してほしいと、そう思ったのですよ。1人目はあまりうまく行きませんでしたが、2人目は成功したので、私としては万々歳ですよ」

 

「それで、新しい魔法少女は完成しそうか?」

 

「はっきり言って無理ですねぇ。新たに魔法少女の体質をもったクローン人間を造るよりも、組織に協力してくれるような魔法少女を見つけてくる方が簡単じゃないですかねぇ。そもそもクロとユカリが特殊だったんですよ。クローン人間を造ること自体は難しくないのですが、魔法少女となるとどうしても運が絡んでくるんですよねぇ。普通は魔法少女としての体質を持ったクローン人間なんて、一生をかけて1体作れれば良い方なんですよ。本来なら一生をかけても誕生しないでしょう。そう考えるとあの2人のクローンの誕生は素晴らしい! たった一度の生で2人も魔法少女の体質持ちのクローン人間が誕生するとは……! 私は本当に恵まれています! さらに魔法少女でありながら闇属性の魔法に適合するなど確率的にもほぼ不可能であるにもかかわらず………………………」

 

ああ、またこれだ。

この男はいつもそうだ。

組織のことなんて考えやしない。自分の研究にしか興味がない男だ。まあ、この男には研究成果以外に何も求めていないので、特に問題はないのだが。

 

「ところで、クロについて話があるんだが」

 

一応この男の前ではクロのことは名前で呼ぶようにしている。この男は実験体のことを実験体と思いながらも人間として扱っているのだ。娘を実験の道具として扱えるのもそのためだろう。

 

自分が一番人間として扱えていない癖に、いざ他人が実験体に対して人間扱いをしていないと激怒するような男だ。本当に意味がわからないが、だからこそ、この男の前ではたとえ使い捨ての実験体であろうと人間扱いしなければならない。本当に面倒だ。

 

「おや? 何でしょう。もしかして処分したいとでも? それは勿体無いことだ。処分だなんてとんでもない!」

 

処分か。本当にこれで人間扱いしているつもりなのだろうか。

 

「まだ何も言ってないだろう。そうだな、クロが、光属性の魔法を使えたらしい」

 

「ほう…?」

 

Dr.白川の目がキラリっと光る。いや、ギラリっと言った方が適切だろうか。

 

「それは……是非とも研究させて………いえ、下手に刺激して能力を失われてもまずいですね……そうですね、次のユカリとの模擬戦、私にも見学させて頂きたい。この目でじっくりと魔法を行使する姿を見たいので」

 

「構わん。それで研究が進むならそれでいい」

 

クスクスとDr.白川は不気味な笑い方をしながら、研究を楽しんでいる。

 

(狂人というのは、こういう輩のことを言うんだろうな)

 

幹部の男はDr.白川を見て、漠然とそう思うのだった。

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