悪の組織所属のTS魔法少女、はじめました   作:布団から出られない

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今回男キャラしか出てません。なんかそういう気分だったので。


Memory108

時は少し遡り、クロが理性を失って暴走し、朝霧去夏と戦闘していた頃。

組織の幹部のロキもまた、男と対峙していた。

 

「オーディン、今更俺に何の用だ?」

 

「裏切り者に制裁を加えに来ただけだ。オレの行動がそんなに不可解か? ロキ」

 

「別に不可解ではないさ。ただ、みっともないって思ってさ。お前は敗者だ、オーディン」

 

面倒臭いな、とロキは心の中で思う。

彼にとっては、オーディンと組んでいたのは気まぐれに過ぎない。彼は最初から、ルサールカの味方であったのだから。

ロキにとってルサールカは絶対の存在で、彼女に逆らおうなんて考えは彼の頭には一ミリもない。オーディン率いる『ノースミソロジー連合』に身を置いていたのだって、ルサールカにとって『ノースミソロジー連合』が何をするか不鮮明で、要警戒対象だったためだ。だからこそ、ロキがスパイとして組織に入り込み、内部調査を行っていた。

 

結果として、ルサールカにとって取るに足らない程度の組織であったため、ロキがスパイとして組織にいる必要はそこまでなかった。ロキとしては、アストリッドの方が脅威だったため、そちらの方のスパイを行いたかったとは思ったのだが、アストリッドは動向が掴めず、所在を知ることが難しかったため、どちらにせよスパイを行うのは不可能だったのかもしれない。

 

しかし、そんなロキだったからこそ、オーディンのことは下に見ていた。

『組織にとって取るに足らない存在だから、俺が相手しても、大したことのない相手だろう』と、そう思っていた。

が……。

 

「来い。『グングニル』」

 

オーディンの『グングニル』。

これは、北欧神話の伝承に基づいて作り出した、オーディン専用の魔力武器だ。

 

投擲すれば必ず敵に命中するという性質を持ち、また、自身の手元から離れた後でも、『グングニル』の方から自発的に手元に戻ってくるという性質を持ち合わせている。

そのため、ロキにとっても遠距離戦は不利だ。確実に攻撃を当てられる上、こちらの攻撃は相手に通るかどうかわからないのだから。

 

だから、ロキは近接戦を仕掛けることにした。魔力を全身に纏い、己の身体能力を強化して戦うことにしたのだ。ロキは、割と近接戦には自信があった。少し前の話にはなるが、ロキは自身の体術でイフリートを仲間につけた茜に勝った覚えがあるのだ。それ以前にも、ロキは近接戦を主体として戦ってきた。それに比べ、オーディンはリーダー(だった)という性質上、戦闘の場に出ることは少なかった。つまり、経験が少ないのだ。ロキの方が経験はある。その差からも、ロキの頭に、敗北の2文字が浮かぶことはなかった。

 

だが、その予想は、大きく外れることとなる。

 

(何でだ……何で俺の攻撃が通らない!?)

 

ロキの攻撃は、一向にオーディンに通ることはない。

オーディンの方は、右手で『グングニル』を握っているため、片手が塞がっている状態だ。『グングニル』を使うというわけでもなく、左手だけでロキを対応している。一方で、ロキは両腕を使い、オーディンを攻めているのだが、それにしては、逆にロキの方が追い詰められているように見える状況だ。

 

(何で……何で……!?)

 

「納得いかないみたいだな」

 

焦るロキを見て、オーディンはニヤリと笑いながら、言葉を発する。片手でロキの相手をしたというにも関わらず、息切れをしている様子もなく余裕の表情でその場で立つオーディンを見て、ロキは苛立ちを隠せない。

 

「ふざけるな………何で……何で『グングニル』を使わない!? 何で、何で俺が負けてるんだ!!」

 

「お前、自分が強いと勘違いしてるみたいだが、はっきり言おう、お前は弱いぞ」

 

「何だと?」

 

「お前がやってきたのは、姿を変えて、相手を騙して戦う……いわば騙し討ちだ。そこに実力も何もない。ある程度の相手なら、お前程度の実力でも相手できるのだろうな。だからこそ、お前は勘違いしてしまった。自分が強いんだとな」

 

「違う………俺は……俺は弱くない……うわあああああああああああ」

 

ロキは、オーディンから逃げるために、その足を働かせる。自分でも驚くほどのスピードで走り、オーディンとの距離を取るが。

 

「無駄だ」

 

オーディンの持つ『グングニル』に、足を貫かれたことで、バランスを崩し地面に倒れ込んでしまう。

オーディンと対峙した時点で、逃げは許されなかった。何故なら、『グングニル』で確実に仕留められてしまうのだから。ロキの負けは、既に確定していたのだ。オーディンと対峙した、その時点で。

 

「無様だな、ロキ」

 

しかし、そんなロキの元に、オーディンとは別の男がやってきた。

組織の幹部、鬼の魔族、ノーメド。ロキだけなら、オーディンに勝つことは不可能だっただろう。だが、ノーメドも加わるとなれば話は別だ。

 

ノーメドは一部の鬼の一族にのみ許された、『鬼龍術』の使い手。いくら一組織のリーダーたるオーディンといえど、ノーメドの相手をするのは厳しいだろう。

 

「の、ノーメド……。助かった! こいつは組織の敵だ! はやく仕留めてくれ!!」

 

「そうか」

 

「そうかじゃねぇ!! 何ぼさっとしてんだ! あいつの『グングニル』はやばいんだ。はやくしないと……!」

 

「別に俺は、お前の味方をしに来たわけじゃないんだが、そこの理解はあるか? ロキ」

 

「へ……?」

 

そう、確かに、ノーメドがいれば、オーディンを倒すこともできるだろう。

 

彼が、ロキを裏切ることがなければ。

 

「う、嘘だろ? ノーメド………」

 

「嘘ではない。俺は本気だ。変身能力を持ったお前の対処は、娘も困ることだろうしな」

 

ノーメドは、刀の見た目をした剣を取り出し、ロキの首元に向ける。

 

「ま、待て! ノーメド、何が目的だ!? 何でもしよう!! だから、命だけは見逃してくれ!! この通りだ! 頼む!!!!」

 

「おい、誰だか知らないが、ロキの奴を見逃しても無駄だ。オレ(オーディン)が仕留める」

 

ロキは無様にも、命乞いを行う。当然、ノーメドはロキのことを見逃すつもりは毛頭ない。

だが、一つ聞いておかなければいけないことがあった。だから、まだ生かす。といっても、知りたい情報がロキから得られれば、すぐにでも殺すつもりではあるが。

 

「ならば一つ問おう。アスモデウスという幹部の男がいたな。そいつは今、どこにいる?」

 

ノーメドは、一応幹部ではあるものの、アスモデウスの幽閉場所については、一切を知らされていない。おそらく、ルサールカが信頼していないからだろう。

アスモデウスは、クロの味方であるため、結果的に魔法少女の味方となる。魔法少女の味方であるということは、魔法少女達と協力しているノーメドの娘の味方でもあるというわけだから、ノーメドにとって、彼を拘束しておく理由などないのだ。

 

「わ、わかった! 奴の居場所だな……。それくらいなら、俺でも言える。奴がいるのは、『4の階層』だ! ご丁寧に鉄格子のある部屋に幽閉されてるから、行けば一目でわかるはずだ! これで満足か? なぁ、いいだろ?」

 

やけに素直だなと、ノーメドは思う。ロキは、ルサールカに忠実な男だ。だからこそ、彼女を裏切るような真似はしないと思っていたのだが……。

 

もしくは、彼にとってアスモデウスの居場所程度の情報は、なんてことのないものだったのかもしれない。

 

「『4の階層』だな。理解した。もういいぞ。俺は見逃してやる。俺はな」

 

ノーメドは、刀を下ろす。

だが、その様子を見ていたオーディンは、当然ロキのことを見逃すつもりはない。

 

「覚悟しろよ、ロキ」

 

オーディンは、ロキに『グングニル』を向ける。

その命を絶つために。

 

 

 

 

 

 

そして、『グングニル』をロキに振おうとした、その時。

 

 

 

「困るんだよね〜。ロキを殺されちゃ」

 

ロキとオーディンの間に、割って入るようにして、12歳の少年のような見た目をした何者かが現れる。

 

「誰だ?」

 

オーディンとノーメドは、想定外の事態に身構える。少年は、そんな両者を小馬鹿にするように笑い、言う。

 

「ぼくは『影』さ。それ以上の説明はしないよ。不要だからね」

 

少年は、『闇』を展開する。

 

「ロキがやられて直接困るってわけじゃないけど、擬態っていう特殊な能力を失うのは、あの人も嫌だろうしね。一応回収させてもらうよ」

 

次第に、『闇』は少年とロキを包んでいき……。

 

「じゃあね」

 

そのまま闇に飲み込まれるかのように、その場から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃したな。間髪入れずに殺すべきだった。少なくともオレならそうした」

 

「すまん。どうしても知りたい情報があったものでな」

 

「アスモデウスのことか。間抜けな奴だな。仲間に裏切られるとは」

 

「お前がそれを言うのか………」

 

「で。お前はどうする? オレはもう一度ロキを探すつもりだが」

 

「俺はアスモデウスを解放する。必要な情報は手に入ったのでな」

 

「いいのか? オレは魔法少女の敵だぞ?」

 

「今ここで争うべき相手ではない。それに、俺の目的は魔族の殲滅ではないからな」

 

「そうか。また会おう」

 

「機会があればな」

 

両者はそれぞれの目的のために動き出す。

互いにいつか、敵対するであろうことはわかりきっている。が、今はその時ではないと判断したのだ。

 

あるいは、裏切りにあったもの同士、何か惹かれるものがあったのかもしれない。

片方は、人間に裏切られ、復讐を誓った者。

もう片方は、仲間に裏切られ、報復を願った者。

 

だが、両者には明確な違いがある。

 

後者の方は、報復だけ、目の前のことだけを見据えている。だが、前者の方は、復讐を捨て、未来を見ているのだ。

 

(メナ。俺はお前に、託す。だから俺も、やれることはやろう)

 

そう決意するノーメドの目には、確かな生気が宿っていた。

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