悪の組織所属のTS魔法少女、はじめました 作:布団から出られない
「………また来たんですか」
メイドのベータは、再び単騎で乗り込んできた櫻に呆れ、困惑する。
一度見逃してやったのに、その命を散らすような真似をしに来ているのが、彼女からすれば理解不能だった。
「待って。大臣と話したいとは言わない。けど、貴方達とは話をさせて欲しいの」
櫻は真剣な表情で、ベータに話しかける。
「私達はただの駒です。話すことなんてありませんよ」
ベータは淡々と、無表情でそう告げる。
「ガンマって子から、聞いた。貴方達は、人工的に造られた魔法少女なんだって。大臣は、私達のこと、邪魔者だと思ってるのかもしれない。少なくとも、魔衣さんはそう言ってた。けど、貴方達となら……」
「いいぜ。その話、乗ってやっても」
突如、背後から櫻に声をかけるものが、1人。
「ガンマ……」
「ただし、条件が一つ。ワタシとタイマンだ。それで勝ったら、の話だがな」
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カナは1人、路地裏を彷徨う。
魔法省の倉庫に帰ったら、ラカとタマの遺体がある。それを直視したくなくて、いまだに外にいたのだ。
もう追手は来ない。ナヤが足止めしてくれたからだろう。けど、カナにとっては、もうそんなこと、どうでもよかった。
「なんで…………なん……で……」
どうして、ナヤ達が死ななければいけなかったんだろう。どうして、こんなに酷い目に遭わされなきゃいけなかったんだろう。何も、悪いことなんてしてきていないのに。
カナは、ひたすら『なんで』と、誰にというわけでもなく問いかける。
精神的に幼い少女に、理不尽な現実を、飲み込め切れるわけがなかった。
「やくそく………ゆびきりまでしたのに………なんで……」
カナの目から、涙がこぼれ落ちる。
感情の制御が、できていないのだ。
助かると思っていたのに、いきなりこれだ。まるでジェットコースターかのように、状況は悪化してしまった。
そう、今まで助かると思い、舞い上がっていたのは、この状況に陥る前の、準備段階でしかなかったのかもしれない。
「うそつき………」
悲しみは、憎悪へと変わる。
「やくそく………やぶった………うそつき………わたしたちのこと………だまして!!!!」
やり場のない悲しみは、明確な対象を持った怒りへと変化する。
「ゆるさない………ぜったい………ぜったいにゆるさない……」
カナの目が、憎悪の炎を宿す。
「ころしてやる…………ぜったいに……………殺してやる!!!!」
心優しき少女は、かつて自分が見ていた夢さえ忘れ。
ただ復讐のために動く、憎悪の塊へと、変貌した。
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櫻とガンマは、互いにぶつかり合う。
現状は互角同士の対決。櫻は『桜銘斬』を、ガンマは大鎌を持って、どちらも近接での対決を行っていた。
「貴方達のこと、知りたい。だから、私が勝ったら、教えて。貴方達のこと」
櫻は戦闘をしながら、ガンマに話しかける。それほどの余裕を残しながら戦っているということでもある。
「別に構わないぜ。まあ、私に勝てたらだけどな!」
ガンマの言葉に、櫻の口角が僅かに上がる。
「言質は取ったからね」
瞬間、櫻の周囲に桜の花びらが舞う。
「
櫻を警戒し、彼女から距離を取るガンマだったが。
「んなっ! これは」
ガンマの手足を、鎖が拘束する。
「花吹雪は本来相手を拘束するための技だよ。花びら自体は拘束具………鎖の方へ誘導するためのブラフだから」
「へぇ。贅沢な魔力の使い方すんだな」
「あはは。そうかも。でも、これで私の勝ちってことでいいよね?」
「ま、拘束されてちゃなんもできねーしな。降参だ。そっちの勝ち。約束通り、ワタシはお前に協力してやるよ」
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「つーわけで、裏切るわ。じゃーなベータ」
今から友達と遊びに行ってきますくらいの勢いで裏切り宣言をかますガンマ。そう、彼女はこういうやつなのだ。元々ガンマ達は“成功体”の人造魔法少女だったためか、ある程度の自由が保障されていた。“成功体”だからこそ、簡単には処分したくない、というお偉いさんの考えがあるからだ。
「ガンマは自由すぎます……。別にいいですけど」
だとしても、ガンマの行動は自由すぎるものであると、ベータはそう思った。
「貴方は、来ないの?」
「裏切ったところで、私は何をすればいいのかわからないので。それに、私がいなくなってしまったら、アルファ1人になってしまいますから」
「アルファ?」
「ワタシ達と同じ、人造の魔法少女だ。ま、あいつは魔法省に忠実だし、櫻達側についてくれるかは正直ビミョーだぞ。あ、そうそう。ワタシの体ん中にさぁ、爆弾入れられてるから取ってくれね? じゃないと爆破が怖くて裏切れねーわ」
「爆弾…。もしかして、アルファって子も、その爆弾のせいで……」
「あ、いえ。爆弾がつけられているのはガンマだけです。こいつは自由すぎますので」
「自由っつーか。ワタシは悪いことしたくないだけだ。どうせなら正義の味方のがかっこいいだろ?」
ガンマはドヤ顔でそう言う。自由であることに変わりはないのでは、と櫻はそう思ったが、口には出さない。
「もし、アルファって子が私達の側につくってなったら、貴方はどうするの?」
「そんなに私を仲間にしたいのですか?」
「うん。私はできれば、皆が手を取り合えるような世界にしたいから。敵だからとか、そんな理由で、わかりあうことを放棄したくないの」
「お人よしなんですね…。まあ、アルファがそちらにつくというのなら、私もそちら側についても構いませんよ。ただ、問題としては、私達の生命維持装置があるのかどうかなんですが………」
「あ、そっか。その話もあったんだった……」
櫻は忘れてたー! と言わんばかりに頭を抱えて悩みこむ。
しかし、櫻は知らない。幸いにも、クロが助けようとした魔法少女4人組のうち、3人が死亡しており、生命維持装置に余りがあるということに。つまり、櫻の悩みは杞憂であるということだ。
ガンマはそんな櫻の方に手を置き、うんうんと頷きながら、言う。
「ま、なんとかなるだろ!」
楽観的すぎるガンマの姿を見て、もしかしたらなんだかんだでどうにかなるかもな、なんて、そう思う櫻とベータだった。
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とりあえず、生命維持装置のこと、カナ達にも話してこないとな。
カナは学校に通いたい、だったか。まあ、近場の学校で言えば、やっぱ翔上になるのかなぁ。ま、そこら辺は魔衣さんがどうとでもしてくれるだろう。シロの戸籍だってどうにかしてるわけだし。
ラカは海外旅行、だっけ。いやでもパスポート偽造とかは流石にまずいしなぁ。4人の中で1番ハードルの高い夢かもしれない。タマはハンバーグが食べたいんだっけ。これに関しては、俺が手作りで作ってやればいいか。ナヤのカラオケも、金さえあれば皆で行けるし、ハードルは低めかな。問題はラカかなぁ。ま、でも自由になるんだ。夢を叶えるのは今すぐじゃなくてもいい。将来的に叶えてもらえればいいでしょう。はい。
なんて、そんな風に考えながら、俺はカナ達のいる魔法省の倉庫へと足を運ばせる。愛もついてくるって言ってたんだけど、結局今回は生命維持装置の話をカナ達にしに行くだけだから、今日のところはついてこないらしい。
「あ、いた。おーい」
俺はカナのいる方へと走る。
カナもまた、俺の姿を視認して。
その表情を、まるで親の仇を見るかのようなものへと変貌させ。
両手に持つ双剣を、俺に向けてくる。
「うわっ」
俺は咄嗟に避けるが、意味がわからない。どうして、カナが俺に……。
「やっぱり、わたしのこと、しまつしにきたんだ。でもざんねん。こんかいのわたしは、まけるつもりはない。おまえなんか、ぎゃくにわたしがしまつしてやる!」
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クロとカナ、2人の戦いを、影から見つめる存在が、1人。
「ね、言ったでしょ。面白いものが見れるって」
「仲間割れ、ですか」
「そ。やっぱ1人だけ残しておいて正解だったね。こういうのが見れるし」
2人の戦闘を、嘲笑うかのように見つめる少女、ミリューは、その邪悪な笑みを崩すことなく、ただひたすら、自分が楽しむためだけに、人の心を弄ぶ。
影もまた、そんなミリューに心酔している。
本当の邪悪は、すぐそばに居る。だが、クロもカナも、お互いに夢中で、それに気付くことは、なかった。
カナちゃん気づけ! 本当の敵はそっちじゃないぞ!