悪の組織所属のTS魔法少女、はじめました   作:布団から出られない

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〜2年後〜 魂融合
Memory147


魔王が消えてから3日経った。カナから聞いた話によると、ミリューには逃げられてしまったらしい。

ただ、櫻が他の魔法少女と魂を融合させることで変身するサードフォームになれば、誰にも負けることはないと思う。実際、来夏と融合した櫻と対峙したことがあるが、あの実力はマドシュターちゃんをも越えていたし、はっきり言って規格外のものだった。

 

ただ、誰とでも魂を融合させることができるわけではないらしい。ここ3日で、誰となら融合可能なのか調べようという話になり、一人一人試していくことになったわけだが、今のところ櫻と融合できるのは、茜、来夏、束の3人のみだと言うことが判明した。アルファ達やカナ、ユカリなどは櫻との融合は出来なかったし、後から合流した古鐘っていう魔法少女や、焔達とも連絡をとって試してもらったけど、無理だった。

 

ちなみに俺や八重と照虎、そして櫻が面倒をみているという後輩の魔法少女、美鈴はそもそも櫻と融合できるかどうか試してすらいないが、俺は身体が怪人化していて、もし櫻に悪い影響でも出たらと思うと融合しようと思えなかったという理由から、八重と照虎はもはや魔法少女ではないという理由から断り、そして美鈴は、「わ、私にはメナちゃんがいるので! 私が先輩と融合しちゃったら、浮気になっちゃいます!」と言って櫻との融合を拒否した。

 

というわけで、櫻は基本茜、来夏、束の誰かしらと行動した方がいいという結論になった。というわけで、魔法省への交渉のため、俺、櫻、束の3人で行動することになった。櫻に、櫻と融合可能な束、そして、万一櫻と束が魂を融合させた場合、魂の抜けた束の体を守るための俺、というメンツだ。

 

「それにしても、クロさんが戻ってきてくれて良かったです。これで真白さんもいれば完璧だったんですけど…」

 

「シロのことなら……多分大丈夫。アストリッドの洗脳は解けてるみたいだし、あとは私が話しておく」

 

前世も含めて、包み隠さずシロに話せば、きっとシロとは分かり合えるはずだ。前世の話をして拒絶されるかもしれないと思うと、少し怖いけど。

 

ちなみに、魔法省の大臣と話し合う機会は、古鐘って子が用意してくれたらしい。といっても、古鐘本人も魔法省が素直に話し合いを認めるとは思っていなかったらしいが……。

 

「失礼。申し訳ないが、3人以上の入室は禁じられている。1人はここで待機してもらいたい」

 

大臣の部屋の前に着いたところ、部屋の前にいた男に止められてしまう。警備のものだろう。

 

………大人数はダメ、か。でも、万が一のこともある。櫻と束には一緒に行動してもらっていた方がいい。だから……。

 

「じゃあ、私が…」

 

「いいや。そこの少女、君に待機しておいてもらいたい」

 

そう言って彼は束の方を指差す。

……束に待機しておけ、ということだろう。正直、櫻と束には共に行動してもらった方が安心だ。けど、ここで指示に従わないことで、交渉が決裂してしまっては元も子もない。

 

「櫻、どうする?」

 

「……私とクロちゃんで行くしかないかも。束ちゃんには悪いけど……」

 

「大丈夫ですよ。私ももう子供じゃないので」

 

結局、束は外で待機し、俺と櫻で大臣の交渉へと向かうことになった。

一応前回俺は仮面をつけて大臣と接触していたが、もし大臣に正体がバレていたとすれば、この交渉は無駄になる。だから、大臣が俺のことなど気にも留めていなかったことを祈るしかない。

 

「失礼します」

 

扉を開け、部屋へと入室する。

 

「いらっしゃい」

 

しかし、そこにいたのは、魔法省の大臣ではなく……。

 

「あなたは……。どうして、ここにいるの……?」

 

「ミリュー様に指示されて、かしら? とにかく、ここに貴方達がきたからには、私が貴方達の相手をしてあげるわ」

 

ミリューの部下、『色欲』だった。

 

 

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

 

 

俺は、『色欲』と距離を取りながら、魔法による攻撃を続ける。『色欲』の実力は相当なものらしく、魂を融合させていない櫻や、来夏では勝つことができないらしい。だからこちらの目標は、扉の前で待機しているはずの束と櫻を合流させること。

 

櫻が束と魂を融合させることができれば、『色欲』にも勝つことができる。俺が囮になって、櫻が束の元に行けるようにすれば……。

 

「束ちゃん! どうしちゃったの!?」

 

後ろから、櫻の悲痛な声が聞こえてくる。振り返ると、そこには。

 

「それじゃ『色欲』、そして束。櫻とクロの相手を頼んだよ」

 

虚な目をした束と、束の肩に手を置きながら、勝ち誇ったような笑みを浮かべたミリューがいた。

 

「櫻! いったい何が……」

 

俺は櫻に近づき、状況について伺う。

 

「束ちゃんと融合しようとしたら……拒否されて……。そしたら急に、束ちゃんが私に向けて攻撃してきたの。多分、その原因は……」

 

櫻は視線をミリューの方へと向ける。

どう考えても、彼女が束に何かしたのは明白だ。洗脳か何か、それとももっと別の何かか。とにかく、俺と櫻でこの状況を打開しなければいけなくなった。

 

「クロちゃん! 手、貸して!!」

 

櫻は俺に手を差し伸べる。俺の魂を融合させるつもりだろう。

 

こんな状況だ。融合を拒否すれば、俺と櫻はそのまま『色欲』達に殺されて終わってしまうだろう。

だから、融合するしかない。

 

俺は櫻の手を握る。

 

魂融合(ソウル・リ・ユナイト)!!」

 

櫻がそう叫ぶと同時、俺と櫻の周囲が光に包まれ、俺と櫻の魂が融合……。

 

 

 

 

 

……することはなかった。

 

「どう……して……?」

 

「さぁ? どうしてだろうね。絆が足りないんじゃないかな? ま、なんとなく結果はわかってたけどね。それじゃ私はもう行くから。精々私のしもべ達と戯れなよ」

 

そう言ってミリューはこの場から去っていく。

 

絆…。

そういえば、櫻との融合できるかどうかは、櫻との間にどれだけの絆が形成されているかによって左右されるんだったか。

 

だとすれば……。

 

確かに、俺と櫻じゃ、絆が足りないのは納得だ。

櫻は俺に歩み寄ってくれているが、それは櫻がそういう性格だからで、俺と特別仲がいいからというからではない。何せ、2年以上も敵として動いてきたのだ。そんな相手に、絆もクソもないだろう。

 

2年以上一緒に活動しているはずの焔達ですら、櫻との融合はできなかった。だとすれば、櫻との絆がそこまで深くない俺が融合できなくたって何らおかしくはない。俺じゃなくて、2年間一緒に戦ってきたシロなら、櫻との魂融合も可能だったかもしれない。

 

「残念…! もうあの圧倒的な力は拝めないのね。でも、だからといって、貴方達を見逃す理由にはならないわ。安心して、苦しまないように、一撃で殺してあげるから」

 

『色欲』は高火力の魔力の塊を、俺と櫻に向けて放とうとする。

 

“ブラックホール”で逃げるか?いや…。

 

……間に合わない。避けきれない。

 

なら、俺が壁になって、せめて櫻だけでも“ブラックホール”で…。

 

「それじゃあ、死になさい」

 

『色欲』の攻撃が、放たれる。

 

間に合え…!

 

「“ブラックホー…」

 

「“反射”」

 

……攻撃が……、こない……?

 

「……言ったでしょ。あんたが死んだら、しろが悲しむのよ。ったく、るなに2度も無理させるなんて……貸し1よ、貸し1」

 

「光ちゃん……」

 

“反射”の魔法少女、閃魅光。『色欲』の魔法まで弾き返せるのか…。いや、本来の自分の限界を超えて、無理して攻撃を防いだというのが正しいか。何にせよ、また彼女に助けられたな。

 

「また1人、潰されにきたのね。でも残念。私は、貴方達の数が増えれば増えるほど、魔力量も、戦闘力も、数倍、数十倍に跳ね上がっていくのよ」

 

「あんたの性質は聞いてるわよ。男に弱いんでしょ? だから、助っ人は呼んでおいたわ」

 

「……?」

 

「後ろがガラ空きだぞ! 『色欲』!!」

 

『色欲』の後方に、人影が見える。

まさか、光が呼んだ助っ人というのは……。

 

「魔王の置き土産、というやつかしら…?」

 

「不本意だけど、そういうことみたいだ」

 

「辰樹…」

 

魔王が死んだから、てっきり辰樹の体にあった魔力は消滅したものだと思っていたけど……どうやらそうじゃなかったらしい。

辰樹の体内には、魔王が持っていた分と同等の魔力が残っているように見える。

 

「わけわかんなかったよ。いきなり意識失って、気がついたらいつの間にか時間が滅茶苦茶経ってて……。でもさ、最後に俺の中にいたあいつが言ったんだ。『俺の力の全てを貸してやる。だからその力を使って、クロを守れ』ってさ」

 

どうやら魔王の奴、ただでは死ななかったらしい。まさか、魔力の全てを辰樹に残しておいたとは。あいつのことだから、そんなことも当然のようにできそうではあるけど。

 

「ちょっと悔しいよ。俺の力じゃ、クロを……好きな人を守ることすらできないんだなって。でも、せっかく手に入れた力だ。利用できるもんは利用させてもらう」

 

辰樹は剣をもって、『色欲』に相対する。

 

………『色欲』は辰樹と光に任せて、とりあえず、俺と櫻は、束の方をどうにかした方がいいかもしれない。洗脳なのか、それとも別の何かなのか。それを探るとこから始めよう。


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