悪の組織所属のTS魔法少女、はじめました   作:布団から出られない

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Memory18

 

「クロちゃんヤッホー! 八重ちゃんもこんにちは! お邪魔してまーす!」

 

「黒沢さんも来てたんだ…」

 

クロ、八重、照虎の3人は八重の家に行き、焼肉を食べることにしたのだが、部屋に入るとどうやらクロの隣人である黒沢雪も来ていたようで、一緒に焼肉を食べることになった。

 

八重の母親もいることもあり、人数が多いので、部屋に入りきるのかどうかという問題はあったが、元々部屋に物が多くなく、あっても八重の水鉄砲くらいであったためか、案外スペースの確保に関してはなんとかなった。

 

「久しぶりね、照虎ちゃん。今日はゆっくりしていってね」

 

「久しぶり〜八重のお母さん。今日はお邪魔しますわ」

 

「あんまり騒がないでね。近所迷惑になるから」

 

「大丈夫や! ほどほどにしとくから」

 

八重の注意に対し、照虎は軽い口調で答える。

あまり近所迷惑のことなどは頭になさそうな様子だ。

 

尤も、このアパートの住民は心優しい人達ばかりなので、多少騒いでも許されはするだろうが。

 

「貴方ただでさえうるさいんだから、本当に声のボリュームは落として欲しいの。ほんっとうにうるさいから」

 

「なんや八重。えらい辛辣やなぁ。ボソボソ喋るよりええやろ」

 

「二人って結構仲良いんだね」

 

クロは二人に対してそう言葉を投げかける。

二人は本当に気心の知れた友人のようで、軽口を叩き合っている。

 

八重は照虎に対して辛辣な物言いをしているが、本当に照虎のことを鬱陶しそうに思っている様子はない。

 

否、むしろ相手が照虎だからこそのこの毒舌なのかもしれない。

 

八戸の様子は普段と変わらず落ち着いているかのように見えるかも知れないが、クロからすると少し親しい友人が帰ってきて嬉しさを感じているようにも思える。

 

「さっ! 皆! 今日は焼肉だよ! 育ち盛りなんだからお腹いっぱいになるまで沢山食べて、存分に太っていってね!」

 

「太るんは嫌やなぁ……」

 

雪の発言に対して、照虎はそう呟いたが、結局焼肉を焼き始めると一番食べていたのは照虎だった。

 

 

☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★

 

 

「腹一杯食ったわ………あーこれは太ったわ。明日にはデブになった照虎ちゃんが白日のもとに晒されてまう〜」

 

「そんなに太るのが嫌ならダイエットすればいいでしょ。大体貴方、そんなに体型維持に気をつかってないでしょうに」

 

「気をつかってなくても気にはしてるんや! 誰だって太りたないやろ?」

 

「なら太らない努力をしてみたらどう?」

 

「なんやと!?」

 

八重と照虎が体重に対して色々と言い争っているが、その様子を見て、クロはそういえば体重を気にしたことがないなとそう思う。

 

「やっぱり気にした方がいいのか」

 

「何を?」

 

「いや、なんでもないです」

 

気付かないうちに声に出していたらしい。

ただ、雪に聞かれて咄嗟になんでもないと答えてしまったのは許してほしい。

 

クロは体型維持に気を使ったことがないが、体重が増えすぎたり、肉が弛んだりすることがなかったのだ。

 

肌のケアなんかもしていない。

それでも肌は綺麗だし、スタイルも悪くはないだろう。

胸はないが。

 

そんなことを日々努力している乙女達に告げてしまうのは酷だろう。

そして同時に肌のケアや体型維持のためのノウハウを叩き込もうとしてくるに違いない。

 

特に雪はそういうタイプだろう。

なんとなくわかる。

 

「今日は楽しかったな………お兄ちゃんといた時みたいだった………」

 

ふと、ボソっボソリと雪がつぶやく。

 

「黒沢さんってお兄さんがいるんですか………?」

 

つい気になったクロはその発言に対して深く言及するような事を言ってしまうのだが、クロが雪に質問した途端、周りの空気が少し重くなってしまった。

 

「うん、いるよ。正確には『いた』って言った方がいいかな」

 

普段明るい雪だが、今の雪は明るく振る舞おうとはしているものの、どこか暗さを帯びていた。

 

「10年前にね、殺されちゃったんだ。今では怪人って言われてるバケモノから、私を守るために。私はお兄ちゃんのこと見捨てて……がむしゃらになって走って逃げて……。今じゃ怪人の被害なんて当たり前になってきてるけど、お兄ちゃんが殺されるまでは怪人なんて存在してなかった。だから……本当にショックで……どうしていいのか分からなくなって……」

 

雪の話す声が涙交じりになっていく。

八重や照虎、冬子らが気遣う様子が見られるが、3人ともどうしていいのか分からなくなっている。

 

「なんで……どうして……お兄ちゃんが最初の被害者になっちゃったのかなぁ……! なんで! 世界で初めて怪人と出会ってしまったのが……お兄ちゃんだったのかなぁ……? どうして私は……生きて……」

 

「それ以上は言うな!」

 

「ふぇ…?」

 

雪の独白に対して、突然クロが大声を張り上げる。

普段のクロからは想像もできない様子に、八重、照虎、冬子、そして雪の4人は驚いて口をあんぐりと開けている。

 

「どうして生きてるかだなんて、そんな言い方しちゃいけない…! 黒沢さんの………雪のお兄さんはそんなことを雪に言って欲しくて雪を助けたんじゃない!」

 

「クロ……ちゃん……?」

 

「雪を傷付けられたくなかったから……! 雪に笑っていて欲しかったから……! だから守ったんだよ! たった一人の妹を守るために!」

 

「ちょっと……! 貴方、流石に無神経すぎよ!」

 

「いいの、八重ちゃん」

 

「黒沢さん……?」

 

「クロちゃんの言う通りだよ。そうだね……お兄ちゃんは……私にこんなこと言ってほしくて私を助けたわけじゃないもんね……うん……大丈夫……ちょっと弱気になってただけだから。もう、大丈夫」

 

「あ、えと、黒沢さん……ごめん……私、めちゃくちゃ失礼なこと……」

 

お世辞にもクロの行動は褒められたものではないだろう。

傷心中の相手に対して、怒鳴り付け、死人の心情を勝手に想像し、あたかも自分がそうだとでも言うかのように発言したのだ。

 

「大丈夫、クロちゃんは私のためを思って言ってくれてたんだよね。全然気にしてないから」

 

しかし、クロの放った言葉は意外にも雪に受け止められたようだった。

雪の元来の性格がとても穏健なものであったのが幸いしたのもあるだろうが、しかしそれ以上に、クロの発言に何故か納得させられてしまったのがある。

どうしてなのかは、雪には一切分からないようだが。

 

結局その日はムードも台無しになってしまったので、それぞれ解散という形になった。

 

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

 

「パリカー、現在の進捗は?」

 

「ぼちぼちってところかな。元々、こういうのはボクの専門外なんだよね。全く、元々はリリスの仕事だったのに……」

 

幹部の男、アスモデウスは、同じく幹部の女、パリカーの元へと赴いていた。

パリカーと呼ばれた女は、白髪の髪に白衣を着た、二十代前半くらいで眼鏡をかけている。

 

「リリスに関する情報なんだが……今は赤江美麗として過ごしているみたいだ」

 

「へー。特定できたんだ?」

 

「リリスのことを探ってたわけではなかったんだがな。邪魔になりそうな奴らについて探っていたら、たまたまそこにリリスらしい人物の情報を見つけただけだ」

 

「できればリリスは殺さずに飼い慣らしたいね。まあ、元々仲間だったからっていうのもあるけど、ボク一人じゃ流石に限界があるし、最近は寝不足でね」

 

そう言うパリカーは確かに目の下にクマがあり、さらに髪もボサボサだった。

元々彼女は髪の手入れは良くしていたし、睡眠もしっかりとっていたため健康体だったはずだとアスモデウスは記憶している。

 

こうなったのはリリスが組織を抜けた後からだった。

リリスがやっていたことを肩代わりしたことで寝不足気味になった事は本当だろう。

 

「ただ、一筋縄ではいかなさそうだ。リリスはどうやら魔法少女の遺体を何体か持っていたようでな。おそらく死霊術で使役してくるだろう。魔法少女自体は対処できるが、裏にはリリスがいる。そう考えると、迂闊に接触するのも憚られる」

 

「そう考えると、今生きている魔法少女達を処理するのはなおさらまずそうだね。ユカリだったっけ? そいつは使えないの?」

 

「まだユカリを戦闘させるにははやい。とりあえずクロが魔法少女達と接触してリリスと戦ってくれればいいんだが、それも不安だ。俺自ら出向いてもいいかと思っている」

 

「ふーん。ボクの勘違いだったら申し訳ないんだけどさ、アスモデウス、キミ、どうやら随分クロって魔法少女に入れ込んでいるみたいだね」

 

パリカーがそう問うと、アスモデウスの目は明らかに泳いでいた。

 

「死なれたらリリスの人形が増えて対処が厄介になる。その事態を避けたいだけだ」

 

「ま、そういうことにしといてあげるよ。用はそれだけ?」

 

「あぁ。邪魔して悪かった。じゃあな」

 

そう言ってアスモデウスは部屋から出て行った。

 

「不器用な男だね。まあ、あの魔法少女に入れ込んでいる事は黙っておいてあげようかな」

 

パリカーからすれば、魔法少女の事や、他の幹部達の娯楽の話などどうでもいいし、世界を支配したいだなんて願望があるわけでもない。

 

「ボクはただ、帰ることができればそれでいいんだから」

 

ただ、それだけ。

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

一人自室に戻ったクロは先程のことを考える。

あの時雪が言ったセリフに、気になるものがあったのだ。

 

(10年前……。幹部の男に聞いた限りでは、10年前はまだ怪人は作られていなかったはず……怪人が造られ始めたのは7年前……でも3年も年数を間違えることはないと思うし……)

 

そう、クロが組織にいた頃、幹部の男に聞いた限りでは10年前はまだ怪人は造られていなかったはずなのだ。

 

10年前はちょうどクロに自我が芽生えた、物心がついた時期であったため、その頃のことを厳密に覚えているわけではないが、7年前に初めての怪人を造っていたような記憶はある。

 

(まあ、でも俺の記憶違いだよな……多分脳を弄られた影響か……)

 

しかしクロはこの疑問を結局、脳を弄られたせいで記憶が曖昧になっているからだと結論付けた。

 

実際色々な場面でそれを感じさせられることは多くあるし、最近では学校に鞄を持ってくることを忘れてわざわざアパートまで取りに帰ったこともある。

 

本格的に記憶力が悪くなってきたなと、そう思うクロだった。

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