悪の組織所属のTS魔法少女、はじめました   作:布団から出られない

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Memory25

リリスから逃げたクロと辰樹は、屋上へ避難していた。

 

「辰樹! お前、俺がどれだけ心配したか…!」

 

「悪い、朝太。でもクロを1人にはしておけなかったんだ」

 

いつの間にか、クロのことを呼び捨てにする辰樹。

その様子を見て、先程まで心配していた朝太の顔色が変わる。

 

「お前、辰樹じゃないな!? 誰だ!?」

 

「えぇ!? 何で!?」

 

「本物の辰樹が影山さんを下の名前で呼び捨てするわけがない!」

 

「そんな理由…?」

 

「私は別に違和感は感じなかったけど……」

 

このように主張しているが、ただの勘違いである。

リリスからクロを守る時、咄嗟に呼び捨てにしたことで、辰樹の中でクロを呼び捨てにすることのハードルが下がったという、ただそれだけのことだ。

 

クロも確かにリリスを吹き飛ばしたことに関しては驚いたが、まさか偽物ではないだろうと考えている。

 

というか偽物が出てくる理由がない。

 

「それにしても、うちの学校ってこんなに人数いたんだ……」

 

「ああ。屋上だからそう感じるだけじゃないか? 全校生徒が屋上に集まれば、その分狭くなるからな。人が多いように錯覚しているのかもしれない」

 

「全校生徒集めてるんだから錯覚とかじゃないだろ」

 

屋上に集まった人数は確かに異常なほど多かった。

本校舎の屋上だけでは入りきれず、第二校舎など、他の校舎の屋上にまで生徒達がずらりと並んでいる。

 

本来なら運動場に集まるはずだったのだが、その運動場が占領されているため、逃げ道が屋上にしかなかったのだ。

 

「それより辰樹、体は、大丈夫なの?」

 

「ん? ああ! なんともないぞ! ほら!」

 

そう言って辰樹はクロに対して自身の体に異常がないことをアピールする。

その様子を見た朝太はまたしても顔色を変えていく。

 

「お前! やっぱり辰樹じゃないな!? 何者だ!」

 

「いやいやいや、何でだよ!」

 

「またこの件するの?」

 

先程と同じような流れになっているのを見て、クロは思わず呆れてしまう。

しかし、不思議と悪い気はしない。

 

「本物の辰樹が、影山さんと普通に会話できるわけないだろうが!」

 

「いやいやいや! 判断基準がおかしいだろ!」

 

「いや、おかしくないな」

 

「いーや! おかしいね!」

 

「いやだが…………」

 

「お前が…………」

 

言い争い合う2人をよそに、クロは1人考える。

 

(魔力切れとはいえ……仮にも魔法少女なのに………何もしなくて良いのか……?)

 

下の階ではまだシロや、他の魔法少女たちが戦っている。

リリスの相手は組織の幹部の1人であるパリカーが相手をしているようだが、クロとしては何故組織の幹部が出てくるのかが分からない。

リリスと敵対しているのだろうか。

 

(とにかく……状況がまだうまく飲み込めない……とりあえず後で八重から事情を……っ!?)

 

途中でクロの思考は遮られる。

 

「おーいたいた。人間がタークサン。全部殺して良いんだよなぁ?」

 

目の前に突然、鷹のような見た目をした人型の怪人らしきものが現れたからだ。

背中には翼のようなものが生えており、体は毛で覆われている。

口元を見れば嘴があり、簡単に言えば鷹をそのまま人型にしたかのような見た目だ。

 

「なんだあれ!? 鷹?」

 

「か、怪人だぁ!」

 

「怪人? あぁ。お前ら人間からしたら、俺は怪人と同じなのかァ。そっかそっかー。まあいいや」

 

今この状況で戦えるものは、いない。

 

(まずい……!)

 

クロは焦る。だが、できることは何もない。

 

知能のある怪人。

 

その存在をクロは知らない。

今までの怪人と同じ括りにして良いのかどうかすらも分からない。

魔力があってもまともに相手ができるかどうかという相手だ。

 

クロが魔力切れになっている状況では、もはや詰みと言っても良いだろう。

 

「アヒャヒャヒャヒャ!! 1人残らずミンチにしてやるぜェ!」

 

平和だった校舎の屋上で、今、

大虐殺が行われようとしていた。

 

 

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

 

 

八重は照虎との戦闘が終わった後、クロの様子を見に行ったのだが、途中で辰樹と共に屋上を上がる姿を見て安堵し、他の魔法少女のところへと駆けていた。

 

(とりあえず一階に行って、真白の様子でも見に行こうかしら)

 

1人考え事をしながら階段を降りていく八重だったが、その歩みは途中で止められる。

屋上に避難していたはずの保健の教師兼真白の保護者の双山魔衣が、下の皆からやってきたからだ。

 

「双山さん…? 屋上に避難していたはずじゃ…」

 

「教師として、生徒を見捨てるわけにはいかないだろう? 魔法少女がいるから安心だ、なんて考えは私にはないからね」

 

おそらく、屋上で生徒の点呼が行われていたのだろう。

八重や茜、櫻、真白についてはきちんと学校に登校していて出席が取れているため、いないことで少し騒ぎにでもなったのだろう。

 

避難できていない生徒がいる。教師として動かないわけにはいかない。

そういうわけで代表として校舎内で避難に遅れた子供を助ける役を引き受けたのが彼女だったようだ。

 

「それより八重、君は今からどうするつもりなんだい?」

 

「私は今から真白の様子を見に行こうかと…」

 

「そうか。仲間想いなんだね。でもね八重、私には1つ前から言いたかったことがあるんだ」

 

彼女はニヤニヤと、気味の悪い笑みを浮かべながら八重にこう告げる。

 

「君には仲間は必要ない。君が仲間を想っていたところでなんの意味もないってさ」

 

「何を……」

 

「だってそうだろう? 君が仲間の身を案じていたところで、何がある? 結局、君にクロを助けることはできない。気にかけていた後輩だって裏切る。それに、君が仲間の事を信じず、素直に“あの力”に頼っていれば、今頃事態は収束していたはずだ」

 

八重はどうして魔衣がこのようなことを言ってくるのか、理解できずに固まってしまう。

しかし、そんな彼女の様子を気にすることもなく、魔衣は話を続けていく。

 

「さっき隠れて君と照虎の戦いを見ていたんだけど、君、“あの力”を無意識のうちに使えない状態にしてしまっているんじゃないか? 使いたくないというのも事実だろう。だが、本当は使わないんじゃなくて、使えなくなってしまったんじゃないのかな?」

 

「……………………………」

 

「図星かな? そうだね、君がそうなってしまった原因は、櫻だろう。確かに、櫻には人と人とを繋ぐ力がある。それは魅力的だし、是非とも彼女には他の魔法少女とのパイプになって欲しいと、私は思っている」

 

でもね、とそう言って魔衣は続ける。

 

「君には、そんなものは必要ない。君には友情なんてものはいらない。他人も不必要だ。君はただ、感情を殺して、“あの力”を使って、孤独に戦い続けるのがお似合いさ」

 

「そんなこと……違う…そうよ! そうだわ! そう言って、私をいじめ倒すつもりでしょう!? 意地悪な笑みを浮かべて! 悦に浸りたいんでしょう!?」

 

普段冷静な八重だが、信頼していた大人からの突然の裏切りに、動揺を隠せずに声を荒げる。

 

「そうよ………そうよ! きっと! クロの余命の話だって! 貴方の嘘なんでしょ? 私の事をいじめるために用意した、真っ赤な嘘なんでしょ!? いいえ……そうよ、貴方、実は組織側の人間なんでしょ!? 私達を裏切ったんじゃないの!?」

 

それは、ただの希望的観測だ。

クロの余命の話は嘘で、双山魔衣は本当は組織の人間だった。

そんなシナリオ書きが彼女の中で行われた。

 

八重は、双山魔衣のことを信頼はしていたが、別に好いていたわけではない。

ただ、クロのことは面倒を見ていて、それなりに好きでいる。

だから、自然とそういう発想、希望を持ってしまったのだ。

 

しかし、そんな事実は存在しない。

 

「残念ながら、クロの余命の話に嘘偽りはない。それに、私は組織との繋がりはない。魔法少女の味方だ。まあ、組織と全くの繋がりがないといえば嘘にはなるかもしれないけど、少なくとも組織側ではないし、協力者でもない」

 

後、これも言っておこう、と付け加えて彼女は話す。

 

「クロの爆弾には、生命維持装置を兼ねる機能もあった。そのことを考えれば、爆弾はまだ取り除かない方がよかったかもしれない。けれど、君がどうしてもというから“仕方なく”爆弾を解除しておいたんだ。君がお節介を焼いたせいで、クロの余命が残り僅かになってしまった。やっぱり君は、他人と関わらないほうがいいんだ。君のお節介がなければ、私もクロに余命宣告なんてしなくてよかったものを」

 

これに関しては、どの口がそれを言うか、と突っ込むべきところだろう。

爆弾を解除すると判断したのは魔衣だし、生命維持装置の話なんて八重にはされていなかった。そのため、この話については、ほとんど魔衣側に責任があるだろう。

 

しかし、冷静でない八重にはその言葉は相当響いたようだ。

 

「嘘……私が………私のせいで…‥クロが…‥」

 

八重はその場に崩れ去り、絶望する。

 

「八重、君はもう他人と関わるのはやめたまえ。そして、“あの力”を受け入れるんだ。別に“あの力”にデメリットなんてないじゃないか。君の気持ちの問題だ。素直に受け入れて、そして孤独に戦ってくれ」

 

追い討ちをかけるように、魔衣は言葉を重ねる。

 

1人の少女を追い詰めていくその様は、まさしく悪魔のようであった。

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

 

来夏はゴブリンによって造られたゴーレム3体と戦闘を繰り広げていたが、未だに倒せずにいた。

 

というよりも、ゴーレムを倒してもまた復活してしまうのだ。

おそらく、ゴブリンの魔力によるものなのだろう。

 

ゴーレムを生み出している大元が残っていれば、いくら倒してもまた復活するのは当然だろう。

 

しかし、来夏は今までの戦闘で何も得なかったわけではない。

 

「ハァ………まぁ……大体仕組みは分かったぞ、このゴーレムどものな」

 

「ほぉ?」

 

「まず、お前が一度に3体までしかゴーレムを作り出すことができないということ」

 

来夏が戦う上で、ゴーレムは何度も復活したが、その数が3体を上回ることはなかった。

 

「そして、復活するたびにゴーレムの質が明らかに下がってきているってことだ。魔力が尽きてきてるんじゃないのか? 幹部さんよぉ」

 

来夏の言う通り、ゴーレムの質は確かに下がってきていた。

一番最初のゴーレムの強度と比べると、復活した後のゴーレムの強度は明らかに下がっており、脆くなっていた。

 

最初は何度も繰り返し叩いて破壊してきたゴーレムが、復活するたびに10回、5回、3回と、破壊されるまでの頻度が下がっていったのだ。

 

これを来夏はゴブリンの魔力切れによるものだと結論付けた。

 

「そうか。魔力切れ……かぁ。そうかもなぁ。確かに俺は魔力切れになってるかもしれねぇなぁ」

 

そしてゴブリンは、魔力切れであることをあっさりと認めた。

しかし、ゴブリンに焦る様子はない。

 

むしろ、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべており、その表情から、ゴブリンの心に余裕があることが窺える。

 

「おい、何がおかしくて笑ってやがるんだ? お前」

 

「ハハッ! 笑わずにはいられるかよ。だってお前、俺の魔力が切れた時点で自分の勝ちだとでも考えてるんだろ? 笑うしかねぇだろ」

 

ゴブリンが用意したゴーレムが崩れていく。

魔力切れだろうか。

どちらにせよ、もうゴーレムを使うつもりはないらしい。

 

「……? 援軍でも呼んだのか?」

 

「いーや違うな。確かにリリスの奴が俺以外にもいくらか仲間を呼んでいるらしいが、そいつらは関係ないさ」

 

「援軍は厄介だな……」

 

「おいおい、俺ァ言っただろ? 援軍は関係ないってよ」

 

だってよ、とゴブリンはそう言って続ける。

 

「俺は魔法が売りじゃねぇんだよ!」

 

「っ!?」

 

ゴブリンがそう言った瞬間、来夏の体が吹き飛ばされる。

 

「かはっ!」

 

大量の吐血。先程立っていた位置から、一瞬で10mほど飛ばされ、壁に激突したのだ。

 

(何だ……? 何をされた…? 魔法……じゃない……? 何だ! 何が起こったんだ!)

 

来夏の脳が混乱する。

確かに来夏の体は吹き飛ばされたが、ゴブリンが魔法を使った様子はない。

それに、来夏が吹き飛ばされる直前に、ゴブリンは魔法が売りではないと言っていた。

 

では何の力か。

 

単純だ。

 

「俺はこのありふれる純粋な力! フィジカルが売りなんだよ」

 

ただの筋力だ。

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