悪の組織所属のTS魔法少女、はじめました   作:布団から出られない

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「クロ、凄く顔色が悪いけど、大丈夫?」

 

クロはアストリッドとの戦闘後に、その場にやってきた櫻の兄、百山椿に促され、八重がいた場所へとやって来ていた。

 

しかし、クロの顔色は、八重が言っている通り悪く、足取りもおぼつかない。

目は虚で、どう見てもとてもまともな状態とは言えないだろう。

 

「………れ…………た」

 

「え?」

 

「つか………れた……」

 

クロはそのまま、砂浜へとへたり込む。

現在のクロは水着は着ておらず、普通の衣服であるため、下手に座り込めば衣服が汚れてしまうはずなのだが、クロがそれを気にする様子はない。

 

戦闘中は、魔法少女専用のフリフリスカートの衣装に強制チェンジさせられるため、衣服の汚れを心配する必要はないのだが、戦闘が終われば、普段から自分が着ている服に戻る。だから、普通は戦闘後に地面に座り込んだりはしないのだが、クロにはもはやそんな些細なことに気を使う余裕すらない。

 

「クロ、とにかく、もう少し頑張って歩きましょ? 向こうにベンチがあるから、せめてそこまでは……」

 

「どうでもいい。もう、放っておいて」

 

八重はクロの様子に、困った顔を見せる。

 

クロの視点で言えば、百山椿に促されるままにこちらに来ただけであるため、特に八重に用があるわけでもない。

 

しかし、八重からすれば、クロの方からこちらにやって来たわけだ。だから、放っておいてほしいと言われてもじゃあ最初からこっちにくるなよ。となってしまうわけなのだが。

 

しかし、八重にとってはクロは大切な妹だ。

当然、放っておけるわけがない。

 

「クロ、何があったの? 本当に大丈夫なの? そんな状態で………」

 

「みんな、しんだ」

 

「え?」

 

「みんな、しんだ。さくらも、あかねも、しろも、ゆかりも。みんな」

 

クロはそれだけ告げて、再び黙り込む。

アストリッドと戦った際は、機敏に動き回っていたが、あれも空元気だったのだ。

 

実際には、そこまで元気に動けるほどの精神など、持ち合わせていない。

 

(あそこで、しんでおけばよかった………)

 

クロは、そのまま地面に大の字になって寝転がる。

 

(もう…‥…何もかも、どうでもいい………)

 

そしてそのまま、眠りについた。

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

「ハァ…………ハァ…………。流石に数が、多いな………」

 

アスモデウスの顔からは、大量の汗が出ており、戦闘によりそれだけ疲弊したことが目に見えてわかる状態になっている。

 

「あ“ーし”ん“ど”い“!! 大体ボクは戦闘に向いてないってのに…………グリフォンもやられちゃったし………」

 

パリカーも、真っ白な頬は赤く上気しており、こちらもアスモデウスと同様に戦闘によって疲弊していることが一目でわかる。

 

「よく頑張っている方だと思うぞ? まあ、オレが見る限り、お前らに勝ち目はなさそうだがな」

 

オーディンは椅子に座りながら、アスモデウスとパリカーの戦闘を、格闘技でも見るかのように、軽い感覚で楽しんでいる。

 

「確かに、この数を相手にしておきながら、中々善戦しているみたいだなぁ。ただ、この人数差は流石にフェアじゃないとは思わんか? できればわしが加勢してやりたいんだがなぁ」

 

「別に、加勢するならば好きにすればいい。1人や2人増えたところで……………なに?」

 

オーディンは、突如後ろに現れた男に返事を返すが、仲間でも何でもない。

ごく自然と会話に入ってきたため、オーディンも流れるように会話してしまったが、本来ならばここにいるはずの者ではないのだ。

 

「何故貴様がここに…………」

 

「うん? まあ少しな。さて、アスモデウスよ! わしも加勢させてもらうぞ!」

 

アスモデウスとパリカーに、強力な助っ人が現れた。

 

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

 

「やっぱ効かねぇか。分かってたけど、やっぱり実際に効かねぇところ見ると、心にくるものがあるな…………」

 

切り札は出し切った。

もはや来夏にできることなど、ない。

 

(また、負けるんだな。二度と負けねぇって、そう決めてたのに………)

 

「ちく、しょう……!」

 

来夏は、悔しさのあまり、手をぎゅっと握り締め、唇を噛み締めながら俯いている。

 

しかし、そんな来夏に対して、上から声をかける者が、1人。

 

「悔しがっているみたいだが、私からすれば十分立派だったぞ、来夏」

 

「猿姉……」

 

来夏の姉、朝霧去夏だ。

 

「悔しいなら、それを糧にまた努力すればいい。辛いなら、いくらでも私に泣きつけばいい。なんたって、私はお姉ちゃんなんだからな」

 

「どこかで見たことがあると思ったら………お前は……まさか……!!」

 

金髪の男は、去夏の登場に焦りを隠せない。

実力の差を感じとっているのだ。男は、去夏に勝つことができない。

 

「さて、私の妹を散々いじめてくれたようだが、どうだ? 私とやるか?」

 

「っ! じょ、冗談じゃない! 誰がお前なんかと…! 俺は帰らせてもらう!」

 

金髪の男は、去夏から逃げるかのように、砂浜から去っていく。

 

去夏は、戦わずして、金髪の男に勝利した。

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

人がいなくなったビーチで、服が汚れることも気にせず、黒髪の少女に膝枕をしている、青髪の少女がいた。

 

黒髪の少女、クロは、青髪の少女、八重の膝の上で眠っているが、その表情は、とても穏やかとは言えない。

 

クロは最初、大の字になって寝ていたが、今は八重の膝に頭をおきながら、ダンゴムシのように丸まって寝ている。

 

そして、静寂な砂浜に、突如として、大量の蝙蝠がやってくる。

 

吸血姫、ヴァンパイア・ロード、そう、アストリッドだ。

 

「ふぅ。色々アクシデントはあったけど、よかった。とりあえず、クロは確保できたみたいね。それにしても、膝枕をしてあげるなんて、やっぱりお姉ちゃんなんだね。いいなぁ。私も、八重みたいなお姉ちゃんが欲しかったな〜」

 

アストリッドは、冗談を交えながら、八重に対して声をかける。

 

「アストリッド………………様……」

 

八重は一瞬恨みのこもった声でアストリッドの名前を呼びかけたが、なんとか感情を抑え、敬意を持って『様』付けをする。

 

「うんうん。八重、君は賢い子だね。自分の立ち位置をちゃんと理解してる。それじゃ、邪魔が入る前に、クロを連れて帰ろうか」

 

「待って、ください。貴方は、私の妹には手を出さないと、そう約束したはずですよね……? なのにどうして、どうして! 真白を! 私の妹を…!」

 

「あー。してたね、そんな約束。でもそれさぁ、『誰』とは言ってないよね? 私が言ってたのはぁ、『クロ』のことであって、それ以外の誰でもないんだよね」

 

アストリッドは屁理屈を捏ねて、誤魔化す。

というかそもそも、八重は『妹に手を出さない』という条件ではなく、ちゃんと『妹()に手を出さない』ことを条件として提示したはずだ。

 

だから、アストリッドの言い分はおかしい。明らかに、約束を破っている。

 

 

 

しかし、八重はアストリッドに逆らうことができない。

 

別に、八重は妹のためならば、命を捨てても構わないと思っている。自分の命は、家族のためにあると、八重はそう考えているからだ。そのため、アストリッドに逆らって、命を失ってしまうことを恐れているわけではない。

 

ならば何故か。

 

「ふふっ。屁理屈だって思うでしょ? でも、八重、君は私には逆らえない。お母さん、殺されたくないもんね? アハハ! はー愉快だわ。ここまで上手くいくなんてさぁ」

 

そう、八重は母親を人質に取られてしまったのだ。

だから、アストリッドに逆らうことができない。妹を殺されても、復讐を果たすことすらできない。

 

それに、八重の体には既にアストリッドの血液が入り込んでいる。

アストリッドが一つ信号を送れば、八重の体を動かなくしたり、八重を瞬殺したりすることができる。そんな状態で、アストリッドを倒すことなど、到底できない。

 

(………悔しい…! なんで、こんな、やつなんかに………!)

 

八重は拳を握りしめる。

本当は、アストリッドのことを殴りたくて、殺してしまいたくて、どうにかなってしまいそうだ。

 

妹を殺された。恨み。

家族を失った。悲しみ。

 

色々な感情が、ごちゃ混ぜになって、感情に蓋をすることが難しい。 

 

だが、耐えねばならない。

 

母親のために。そして、生き残っている(クロ)のために。

 

(こいつには逆らえない……でも、クロ、貴方は、私が守るから)

 

八重は、自身の膝で眠っている(クロ)の頭を撫でながら、心の中でそう誓った。

 




IFのお話を、別の枠として投稿することにしました。
それに伴い、本編の方からはIFのお話が消えてしまっています。

IFの方には、元々本編にあった2つのお話に加えて、軽いものではありますが、クロのメス堕ちのお話も書いてあります。

IFのお話に興味がある方は一応リンクも貼っておきますが、多分『IF 悪の組織所属のTS魔法少女、はじめました』で検索すれば引っかかると思います。

リンク
 ↓
https://syosetu.org/novel/305734/
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