悪の組織所属のTS魔法少女、はじめました   作:布団から出られない

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目の前に広がる光景は、一体何なんだろうか。

 

(やえ)の前では、(クロ)(ユカリ)を涙を流しながら刺し殺している、地獄の光景が広がっている。

 

来夏はアストリッドの部下であるベアードにその身をボロボロにされ、対してベアードは傷一つ負っていない。

灰色の髪を持った少女が、私のことを騙した人間の少女に拘束されているが、彼女は誰なんだろうか。

 

ダメだ。

 

こんな現実、あっていいはずがない。

認めたくない。

 

「おや、八重じゃないか。どうしたの? 何か私に用でもあるのかな?」

 

悪魔(アストリッド)が、目の前で気持ちの悪い笑みを浮かべながら、私に話しかけてくる。

 

「まさか私を裏切ろうってわけじゃないだろうね? わかっているのかい? 君の母親が人質に取られているということは」

 

来夏がここにいるということは、既に私の母親は助けられた後だろう。

来夏はベアードの相手をしている。ユカリはもう、息をしていない。クロは、流石に動く気力がないのだろう。ユカリの上で、放心してしまっている。

 

動けるのは、私だけだ。

 

戦わないと。

 

私が、やらなくちゃ。

 

「ほう、裏切るんだ? まあ、別にいいけど。どうせ勝てないよ。魔法少女の中じゃ実力はあるのかもしれないけど、私と比べたら月とスッポンさ」

 

確かに、ここでアストリッドと戦っても、無駄死にするだけだ。

何か、対抗手段は……。

 

私は周囲を見渡す。

そこに一つ、見覚えのあるものが落ちていた。

 

怪人強化剤(ファントムグレーダー)

照虎が使っていた注射器だ。

 

来夏の近くに落ちていることから、彼女が持っていたんだろうと推測される。

 

照虎が言うには、これを使うことで、force levelなるものを急激に引き上げ、本来の実力の数倍の力を出すことができるらしい。

 

ただし、上手く適応出来なかった場合は、体を壊してしまうし、最悪死ぬ。

それに、元々怪人強化剤(ファントムグレーダー)は怪人の強化のための薬だ。

 

魔法少女が扱うことは想定されていない。

だから、怪人強化剤(ファントムグレーダー)の効果は一時的なものだろうし、効果が切れれば、もう二度と、魔法少女として戦うことはできなくなる。

 

今頃照虎も、魔法少女としての力を失っているところだろう。

 

でも、それでも。

もう、これ以上、妹を失いたくはない。

 

理不尽に、家族を酷い目にあわせたくはない。

 

だから。

 

 

 

 

 

 

私は急いで走って怪人強化剤(ファントムグレーダー)を回収する。

 

「なっ、おい」

 

「何故それを………」

 

来夏は私が薬を拾ったのを見て、少し声を漏らす。やっぱりこの薬は、来夏のものであるらしい。

ベアードは私の手にある注射器を見て、驚いている。中身の判別がついているのだろうか。確かに、特徴的な形をした注射器だから、中身が何であるのかはわかりやすいだろう。

 

私は、怪人強化剤(ファントムグレーダー)を自身の腕に刺す。

 

「っ……」

 

刺した場所から、痛みが広がっていく。

全身が痛くて、焼けるように熱い。

 

自分の中の魔力の器が、崩壊していくかのような感覚。

まずい、このままだと、照虎の二の舞になる。

 

私は、氷属性の魔法ですぐさま熱を抑え、魔力の器の崩壊も、同じく氷属性の魔法で一時的に止める。

 

これで、戦える。

 

「これで、貴方(アストリッド)と戦えるわ」

 

「っ! させませんよ!」

 

ベアードが私に向かって攻撃を加えようとする。

 

…………消えた?

 

「時間停止、のようなものですよ。残念でしたね。アストリッド様と戦う前に、貴方は終わります」

 

後ろから、ベアードの声が聞こえてくる。

 

なるほど、時間停止、そういうのも使えるのね。

 

「さようなら」

 

ベアードが背後で、私を殺そうとしてくるのがわかる。

でも……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私達がいつまでも貴方達にしてやられると思ったら、大間違いよ」

 

世界が()()

 

「時間停止って、こんな感じかしら? まあいいわ。貴方(ベアード)に構っている暇はないの。そっくりそのまま、貴方の言葉を返すわ」

 

私は、氷属性の魔法による時間停止を解く。

そして…………。

 

「さようなら」

 

ベアードを一瞬で凍結させ、そして………。

ベアードごとその氷を、砕く。

 

ベアードはそのまま、自分が何をされたのか、それすら理解できずに、命を散らした。

 

「これで、ようやく戦えるわ。アストリッド、お前は絶対に許さない」

 

「バンとイザベルに続いて、ベアードもやられてしまうとはね。でもいいよ、クロは私が貰っていくから。丁度よかったよ、ユカリを連れてこさしたの、君だろう? 助かったよ。おかげでクロの心を壊すことができた」

 

「…………」

 

冷静さを失うな。奴の挑発に乗ってはいけない。

下手に感情的に動けば、隙を突かれて負けてしまう。

 

来夏は………。

 

どうやら、私のことを騙した人間の少女をひっ捕まえて、灰色の髪の子を助けたみたいね。

ついでにクロの方もお願いしておかないと。

 

「来夏! クロのことをお願い!!」

 

「わかった」

 

これで、(アストリッド)との戦いに集中できる。

 

「クロを回収する気か。まあいい。君を倒した後で、取り返せばいいだけだ。どうせ心は壊しているわけだし」

 

「『ホワイトアウト』!!!!」

 

まずは、アストリッドの視界を封じる。

 

「うわ、真っ白で何も見えないや。こりゃ困ったね」

 

「『大結界・マジカルアクアリウム』!!!!」

「『結界・アクアリウム』」

「『水の鎖(ネロチェーン)』!!!!」

「『水嵐(アクアバイトストーム)』!!!!」

「『激流(レイジングストリーム)』!!!!」

 

私は大量の魔法の詠唱をする。

『大結界・マジカルアクアリウム』によってアストリッドを大結界の中に閉じ込め、闇属性の魔法をある程度封じるために大結界内で『結界・アクアリウム』による雨を発生させる。これにより、アストリッドは闇属性の魔法を簡単には扱えないし、それに伴って大結界から脱出するのも困難になる。

 

しかし、大結界内に閉じ込めたとはいえ、相手は吸血王。油断はできない。そのため、『水の鎖(ネロチェーン)』でアストリッドの動きをさらに制限し、そこに高火力の『水嵐(アクアバイトストーム)』を打ち込む。

 

極めつけに、全ての魔法の効果を上げるバフ魔法『激流(レイジングストリーム)』も欠かさずに唱える。

 

しばらく魔法を打ち続け…………。

 

そして、アストリッドの様子を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ“ーク”ソ“。痛ェなァ………」

 

()()()()()

アストリッドは全身から血を垂れ流しながら、少し怒った表情で私を見る。

 

「これで勝ったと思うなよ。ここから私の反撃ターンだ」

 

「反撃はさせないわ」

 

「は?」

 

アストリッドは、私に反撃をしようとしたようだが、そこもきちんとケアしている。

アストリッドの武器は、自身の血だ。

 

なら、血を使わさせなければいい。

 

私は、アストリッドが怪我を負い、血液を流していたのを確認した時点で、アストリッドの血液を氷属性の魔法で固めていた。

 

「クソっ。さっきのクロとの戦いで、体力も消耗しちまってるし…………。あークソだ。クソ。せっかく眷属にしてやったってのに、あの人間の小娘は役にたたねぇし……。いや、そうか……」

 

「貴方の負けよ、アストリッド。私は貴方を許さない。残念だけど、ここで死んでもらうわ」

 

私は、アストリッドの足元を凍結させ、逃げられないようにしながら、トドメの攻撃の準備をする。

大結界も張っているし、アストリッドは魔力もかなり消費しているらしい。容易には逃げられないはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、()()使()()()()()()()

 

「?」

 

「うっ、ああああああ”あ“あ”あ“あ”あ“!!!!!!!!!!」

 

突如、背後で響く絶叫。

見ると、先程灰色の髪の少女を拘束していた人間の少女の体が、異様なほどにどんどん膨れ上がっている。

 

「私の計画の一端を見せてやろう。そこの私の眷属の小娘が変わり果てた姿に、恐れ慄くがいい」

 

「アスどjうぃぞくぃおxさあまのやめじいはyらけるまらほっもうでず!!!!!」

 

やがて、人間の少女は………。

 

巨大な鯨型の怪物へと、変貌を遂げていた。

 

 




ユカリが死んだ場合のクロの心情はどんなものだろうかと、頑張って想像してみたんですけど、想像だけでもかなり辛かったです。多分一生引きずるんだろうなって感じの感覚。

自分の身近な人が死んだらって思うと、無理ですね、はい。

でもクロちゃんには曇ってもらわないといけないのでね。仕方ないね。
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