悪の組織所属のTS魔法少女、はじめました   作:布団から出られない

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Memory65

どうして、こういう状況になっているんだろうか。

今、髑髏の仮面を被って、『死神』として活動している(クロ)は。

 

高校1年の男の子、広島辰樹と2人っきりの状態にあった。

 

場所は崖の下。

携帯電話はなく、外部との連絡は取れない状況で、おそらくここから脱出するのは不可能。

まさに生命の危機、そんな状況に、今(クロ)はある。

 

この状況を説明するには、少しだけ時間を遡る必要がある。

そう、あれは………。

 

ルサールカの命令で、魔法少女を襲っていた時のこと……。

 

 

 

 

 

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『先輩っ! たすけてくださーい!』

 

『大丈夫! 私に話せる余裕があるなら、まだまだ戦えるよ!!』

 

魔法少女の殺害命令をこなせなかった理由作りのために、わざわざ百山櫻が面倒を見ている魔法少女、真野尾美鈴にちょっかいをかけにいっていた時のことだ。

 

いや、厳密に言えば、その後に起こったことかもしれない。

 

『やばいやばい! ころされりゅううううううううう!!!』

 

『はい、そこまで』

 

前の時のように、少しだけ攻めるのを激しくし、だんだんと美鈴が対処できないくらいのスピードで攻撃を繰り返していくと、やはり前と同じように、櫻が間に割って入って、俺の攻撃を止めてくれる。

 

これがあるから、俺は本気で美鈴を攻めることができるし、仮に組織に監視されていたとしても、誤魔化すことができる。

 

櫻には本当に頭が上がらない。彼女のおかげで、俺は人を殺さずに済んでいる。

 

そして、攻撃を櫻によって止められた俺は、前と同じように霧を作り出して逃げ出そうとしたのだが……。

 

『ごめんね、クロちゃん。簡単に帰すわけにはいかないの』

 

櫻は、俺だけに聞こえるように、小声でそう話しかけてくる。

 

()と会って、話だけでもしていって』

 

櫻がそう話した途端に、俺の視界は真っ黒な世界に包まれた。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

と、まあそんな感じで今、辰樹と2人っきりの状況なわけだが。

おそらくこの状況を作り出したのは、櫻で間違いないだろう。

 

だから、さっき言ったみたいな生命の危機っていうのは、ほぼないと見ていい。だが……。

 

「「……………」」

 

気まずい。

 

ただひたすらに、この空間では気まずさが全てを支配している。

 

それもそうだ。

辰樹とは別に、そこまで深い仲だったわけでもない。助けられたこともあったりしたし、普通の友達よりは仲が深いと言えるかもしれないが、しかし、普段はそこまで会話があったわけじゃない。

 

それに、主に組織によって体を弄られたせいで、2年前から全く成長していない俺と違って、辰樹の方は2年前からかなり成長しており、ちょっと大人びてきている。身長も伸びているし、体格もどこかがっしりしてきているように思える。

 

しかも、今の俺は、悪の組織の魔法少女として、わるいわーるい任務をこなしている、悪役系魔法少女だ。

そんな俺が、気軽に彼に話しかけていいものなのか。

 

そんな色々要因が重なったせいで、2人の間では、しばらくの間会話が行われることはなかった。

 

だが、そんな静寂も、すぐに終わることとなる。

 

「クロ、2年前と、全然変わってないんだな……」

 

辰樹の方から、俺に話しかけてくれたからだ。

ありがたい。個人的にずっと気まずかったもんだから、どうしたものかと悩んでいたのだ。

 

「まあ、組織に体弄られてるし。当たり前なんじゃない?」

 

しかし、そんな辰樹に対して、返す俺の言葉は、あまり良い返事と言えるものではなく。

案の定、辰樹は俺の言葉に、何だか悲しそうな、少し、困ったかのような、そんな感情を込めた表情をして、どう返事をするべきか、迷ってしまっている。

 

ああ、ダメだな、俺。

ユカリが死んでから、ずっとこれだ。

 

どうしても、心に余裕が持てない。何もかもが灰色に見えて、いや、むしろ世界は色づいている。けど、ユカリとの思い出だけが、灰色に染まり切ってしまっていて。

 

…………そんなことを考えても仕方がない。

とりあえず、この状況を切り抜けるには、ちゃんと辰樹と対話する必要があるのだろう。多分、ここに俺を連れてきた櫻は、そうしないとここから俺を出してはくれないだろう。

 

「クロ、お前を組織から助け出す目処はもう、立ってるんだ。組織がお前の生命維持装置を持っているのは知ってる。だから、それを俺達が奪えば、お前はきっともう、組織に縛られることはなくなる」

 

「そう……なんだ」

 

意外だな。

2年前は、助け出すのは絶望的って感じだったのに。

しょっちゅう攫われてたしな、俺。

 

でも、もうそこまで話は進んでいるのか。

まあ、確かに、可能だろう。今の辰樹達、いや、正確には今の櫻達には、か。

 

来夏や茜が、どれくらい強くなっているのか、それを俺は知らないが、櫻に関しては、素人目で見ても、2年間で段違いに強くなっていることが分かる。

 

櫻の兄や、来夏の姉、そこに櫻も加われば、俺のいる組織の幹部を相手に戦うことも可能だろう。

さらにそこに他の魔法少女達も参戦すれば、俺の救出も、かなり現実的なものだ。

 

と言っても、100%ではないが。

実際、組織にはボスが存在する。アスモデウスやパリカーなどの幹部の上に君臨し、実力も彼らより上の、大ボスが。

それに、ルサールカの実力だって不鮮明だ。俺の救出は、100%上手くいくわけじゃあない。

 

それでも、実行できるだけの実力が彼女達にあるのは確かだ。

 

だけど、そうじゃない。

俺はもう、縛り付けられてしまっているんだ。

ユカリが死んでしまった、その時から。

 

「今の俺達なら、クロを助けられる。だけど、俺は、クロのこと、ちゃんと救いたいんだ。形だけじゃなくて、心も。だから、俺は、クロの本心を聞きたい。心の中で、何を考えてるのかとか、全部」

 

「へぇ……。それじゃあ、手伝ってよ、魔族を殺すの」

 

「違うんだ、クロ。そうじゃない……。復讐にとらわれたって、お前は何も……。ダメなんだ、それじゃ」

 

復讐は何も生まないって、そう言いたいのか。

 

ああ、そうだろう。きっとそうだ。

だけど……。

 

「お前には、言われたくない。ユカリのこと、何も知らないくせに。知ったような口を聞くな」

 

そうだ。ユカリのことを1番知ってるのは、俺だ。

彼女と1番深く関わってきたのは、俺だ。

 

お前達が何をした?

ユカリの存在を知って、一度でも彼女のことを気に掛けたことがあったのか?

 

挙げ句の果てに、俺を助けるためだと、そんな理由で、彼女(ユカリ)を戦場へと連れてきて……。

 

そんな奴等に、俺の気持ちがわかるか。

 

「知らないでしょ。ユカリがどんな風に笑うのか。何が好きなのか。どんな声で、『お姉ちゃん』って呼んでくれるのか!!!!!!」

 

「クロ、俺は…!」

 

「黙れ……。何が助けたいだ。何が救いたいだ。そんなこと望んでない……。ユカリを返してよ! 何で、何であの子が死ななくちゃならなかったんだ!!!!!! 何であの子を殺さないといけなかったんだ!!!!!」

 

自分でも、何が言いたいのか、分からない。

でも、どうしようもないんだ。

 

ユカリが死んだあの時から、頭の中ぐちゃぐちゃで。

何も考えられなくて。

 

自分が何をしたいのかも、よく分からない。

 

だから、ただがむしゃらにこうやって、周りに八つ当たりすることしか、できないのかもしれない。

 

「そう、だよな………。困るよな、勝手に、助けるだろか、救うだなんて言われても……」

 

「そうだよ。お前達は勝手だ。身勝手だ。人のこと勝手にわかった気になって」

 

違う。皆、俺のことを心配してくれてるだけなのに。

どうしてこんなに、酷いことばかり言ってしまうんだろう。

 

分かってる。俺の主張は、わけのわからないものだって。

ただ、やり場のないこの感情を、辺りに撒き散らしているだけなんだって。

 

「ごめんな………クロ。俺、何にもしてやれなくて………」

 

「そうだよ………。もう、全部遅いんだ。あの時、あの場所で、ユカリが死んだその時から。お前達がいくら私を助けようなんて言っても、全部無駄なんだよ。意味ない。ああ、いっそのこと、あの場所で、私が代わりに死んでおけばよかった。だったら、こんなに…………」

 

「クロちゃん、ユカリちゃんのことは、残念だったけど………。でも、あの子のことは、これから克服していけばいいと思うの。だから、私達に組織のアジトの場所を教えて欲しい。大丈夫、クロちゃんのこと、絶対に助けるから。心も、体も。全部」

 

辰樹が俺に何の言葉も返せなくなったのを見てか、いつの間にか櫻がこの崖の下にやってきていたらしい。

彼女は、俺に組織のアジトを吐くように要求してくる。

 

ああ、でも無意味なんだ。

 

「知ってる? 私の体には、盗聴器が埋め込まれてるってこと。それに、生命維持装置を組織から奪うって言ってるけど、それはもうあるよ。ほらここ、私の体の中」

 

「そう………なの? じゃあ………それなら! 私達と一緒に!」

 

「生命維持装置は、組織の判断でいつでも停止させることができる。本来の寿命から考えれば、今生命維持装置を停止させれば、確実に私は死ぬね」

 

「そんな…」

 

アスモデウスとかいう男の幹部が俺の面倒を見ていた時は、俺の管理は少し雑だったし、ガバガバだったから、かなり動きやすかった。しかし、今の俺の面倒を見ているのは、ルサールカという女の幹部。

 

彼女は、俺の体に生命維持装置と同時に盗聴器を付けたのだ。

そして、生命維持装置は、ルサールカの持っているスイッチによって、いつでもオンオフ可能。つまり、俺を生かすも殺すも彼女次第というわけだ。

 

さっきは、彼女達なら俺の救出は可能、と言ったが、あくまでそれはルサールカが俺の生命維持装置をオフにしない前提の話だ。

 

「はやく帰らせて欲しいんだけど。一応私には門限が設定されてるから、それを過ぎた場合、生命維持装置をオフにするって言われてるんだよね」

 

「…………わかった。ごめんね………」

 

とりあえず、俺のことは帰してくれるらしい。

 

結局、2年ぶりの彼女達との会話は、楽しくも何ともなくて。

どうしてこうも、空虚なんだろう。

 

そう思わざるを得なかった。

 




なんでもいいから嘘のネタバレをしたい。特に人気作品の。
エイプリルフールはまだか…。
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