悪の組織所属のTS魔法少女、はじめました   作:布団から出られない

7 / 172
Memory6

「結局八重さんってどっち派なんですか?」

 

「どっちでもないって言ったでしょ。まあ私は説得できそうならすればいいと思うし、できそうにないなら武力行使しかないかなって思ってるんだけど」

 

「どっちかというと真白さん派って感じですか?」

 

「そうかも。私としては来夏と茜の意見も分かるから、本当にどっちでもいいんだけど、肝心の闇属性使いの魔法少女とまだ会ってないからなんともって感じ」

 

「私も八重さんと同意見かもしれません」

 

八重と束は櫻の家から去った後、一緒に家に帰る途中だ。

八重と束は家が近い。茜と来夏は家が違う方角にあるため途中で分かれていたが、八重と束は方角が同じであるため、一緒に帰ることが多い。

 

「そういえばさっき魔衣さんから連絡が来たんですけど、どうやら6時間目の途中で例の魔法少女が保健室に来たらしいです」

 

「へー。で、双山さんはなんて?」

 

「悪意はなさそうだったよ。だそうです。組織に属しているのは、何かしら理由があるんでしょうか?」

 

「そうね、何か事情があるならーーー」

 

八重はそこまで言って止まる。束もだ。

八重と束の前には今まさに話題にしていたクロという1人の魔法少女が突っ立っていた。

 

「噂をすればなんとやら……ってやつね」

 

見た感じ周りには人はいない。しかし、クロはすでにステッキを持ち、戦闘を始める気満々の様子だ。

 

「こんにちは……いや、こんばんはか。マジカレイドブルーにマジカレイドグリーン」

 

「ええ、こんばんは。とりあえず武器を下ろしてくれないかしら? 私は戦うつもりはないの」

 

「戦いたくないなら別に戦わなくてもいいよ。街がどうなってもいいなら」

 

「させません! 八重さん! 下がっていてください! ここは私が…!」

 

「いいえ束。私が行くわ」

 

そう言って八重が前に出る。しかし八重は怪人型ゴーレムとの戦闘で魔力を大量に消費している。果たしてクロに勝てるのだろうか。

 

「戦わないんじゃなかったの?」

 

「気が変わったわ。街を破壊されたくないしね」

 

「まあいいか。じゃあ始めるよ……!」

 

そう言ってクロは大量の黒の弾を出す。

 

(来夏が言ってたやつね……)

 

しかし、八重は大量の黒の弾の大群を回避し、着々とクロの元へ迫ってくる。

 

(なんで突っ込んでくる……? )

 

クロは疑問に思う。どうして魔法で迎撃しないのかと。迎撃しても弾が分裂するからだろうか。それにしても魔法で防御くらいはとった方がいいのに。それに、わざわざしゃがんで避ける必要のない攻撃をしゃがんで回避している。何故ーーーそう思うクロだったが、魔法を使わないのは、実際のところはそこまで深い理由があったわけではない。単純に八重が魔力不足で魔力を温存したかっただけだ。

 

(まずいな……)

 

八重がクロに近づいていく。

黒い弾は基本的に自動で対象に追跡してくれるが、焦り始めたクロは3つほどの黒い弾を操って八重にぶつけようとする。

 

それでも八重を止めることはできない。もうすぐ、クロのいるところへ到達する。

まずいーーーそう思うクロだったが、予想に反して八重はクロのいるところを通り過ぎた。

 

「は?」

 

思わず声に出る。クロには接近されれば取れる手段はない。そのまま魔法で攻撃すればクロは負ける。来夏との戦闘でも、来夏がクロの他の技を警戒して、早々に決着をつけようとして必殺を繰り広げたからこそ“ブラックホール”を使って来夏に勝つことができたのだ。もし来夏がクロに接近して直接魔法で攻撃していれば、クロも力押しに負けてやられていただろう。もちろんある程度の防御はできる。実際来夏が最初に突っ込んできた時も闇魔法で来夏の攻撃を防いだ。が、よく耐えれて3度だ。3度も連続で攻撃されれば、それももたない。

 

何故後ろに下がった? 別にそうしなければいけないような状況でもなかったはずーーーそう思うクロだったが、すぐに疑問は解消されることになる。

 

「『結界・アクアリウム』!」

 

そう八重が唱えた途端、クロの足元に魔法陣が浮かぶ。

八重が後ろに下がったのはこのためだ。

黒の弾を避ける最中、無意味にしゃがんでいたのも、この魔法陣を構成するために必要だったからだ。

『結界・アクアリウム』は自身の魔力を必要としない。

人の体内に流れる魔力を使うのではなく、大地に根付いた魔力、すなわち地脈に流れている魔力を利用する結界だ。それゆえに、現在魔力が枯渇している八重でも発動することができた。

 

「なっ!」

 

そして魔法陣が現れるのと同時に、大量の雨が降り出す。

クロの体に雨が当たっても何も起こらない。が、

 

「黒い弾が……消えてる……?」

 

クロの放った大量の黒の弾が雨に触れた途端に消滅していっている。

結果的にクロは魔力を回収できず、これ以上攻撃を繰り返すことができなくなってしまう。

 

「水属性には闇属性の魔法を浄化する効果があるの。つまり相性は最悪。喧嘩売る相手を間違えたみたいね」

 

それに、と八重は付け加える。

 

「貴女まだ経験不足でしょ? がむしゃらに弾を撃つだけ撃って後は放任。これで魔法少女やってます? 笑わせんじゃないわよ。確かに精度は高いけど、実戦慣れしてないのがバレバレよ。それに手数も少ない。闇の弾がなくなったら、次の手はもうナシ。肝心の“ブラックホール”とやらも魔力を吸収することしかできない出来損ないだし」

 

クロはボロクソに言われて少しムカついた。確かに実戦経験は浅い。たまにシロと模擬戦をしたことくらいだ。それでも、生まれてきてからずっと魔法について訓練してきたのだ。それなりにプライドがある。カッとなったクロは八重の言葉に食い付く。

 

「その出来損ないに貴女の仲間は負けたみたいだけど?」

 

「それは来夏が短気だったから。来夏がもっと冷静なら、貴女は負けていたかもね。でもそうね。この世界にもしもなんて存在しないし、実際それで来夏を倒したなら、そこは素直に誇っていいとは思うわ。あれでも結構長いこと魔法少女やってるからね」

 

案外八重は素直に褒めるところは褒めてきた。もっと乏してくると、そう思っていたのだが。

 

「結局私はどうなるの? 殺されるの? なら全力で抵抗するけど」

 

「殺すだなんて物騒なことはしないわよ。ただちょっとお話させてほしいだけ」

 

「何故街を破壊したのか? とか? それなら簡単。組織の命令だったし、私自身も楽しかったから。来夏と戦闘したときも本当に楽しかったよ。相手よりも上だっていう感覚って本当に気持ちいいよね」

 

「貴女そんな理由で街や来夏さんを…!」

 

「落ち着いて束。そう。なんで組織に属しているのかは分かったわ。それじゃ、真白のことはどう思ってるの?」

 

「それは………」

 

クロは少しの間悩む。少しと言っても1秒2秒ほどだ。すぐに頭の中を整理し、自分を嘘で塗り固め、言葉を発しようとするがーーー

 

「はぁ。もういいわ。帰っていいわよ」

 

「は?」

 

「帰っていいっていったのよ。ほら、さっさと行きなさい」

 

「八重さん!? 何言ってるんですか!?」

 

クロと束の両者は驚く。まさかこんなにすんなり逃がすとは思わなかったからだ。

 

「後悔しても知らないよ」

 

「はいはい」

 

「あっ! ちょっと待って! おーい!」

 

束が必死に呼びかけるが、クロはそそくさとその場を去ってしまった。

 

「ちょっと八重さん! なんで逃がしちゃうんですか!?」

 

「捕まえても意味ないと思ったから」

 

「えぇ…」

 

八重の意味不明な理由に思わず束も困惑する。

 

「まあ、私達の完全な敵ってわけじゃなさそうよ」

 

「どうしてそんなことが言い切れるんですか?」

 

「そうね。まず、最初に街を襲った時、彼女、誰も殺してなかったでしょ?」

 

「それは……街を破壊するのに夢中だったからでは?」

 

「ただがむしゃらに街を破壊してたら、巻き込まれる人なんて大量に出てくるわ。貴女もよく知ってるでしょう?」

 

実際、怪人が街を破壊する際に、巻き込まれてしまう一般人は多くいる。基本的には櫻や真白などが助けるのだが、中には間に合わない人もいる。

だが、クロが最初に街を破壊したときは、死傷者は0人だった。

死人どころか怪我人すらいなかったのだ。

もちろん住む家をなくした人の今後のことを考えると、クロのやったことは許される行為ではない。が、死人は出していないこともまた事実だ。

 

「確かに……あの時は不自然に死人が出ませんでしたね……いえ、私達がいる以上基本的には死人は出さないのですけど……それにしてもあの時は特に誰かを助けたりした記憶がありませんね……それが理由ですか?」

 

「まあね。後、来夏と戦った時も人気の少ない場所だったみたいだし、さっきだって周りに人がいない状態で戦った。それに茜と真白があいつとばったり出会った時も、戦闘する意思を見せなかったらしいじゃない。2対1だから戦わなかったって考えても、じゃあ今回はなんで戦ったのかって話になるでしょう? だから、本当は悪いやつじゃないかもねって私は思ってるの」

 

「なるほど……。しかし、そうなると、何で茜さんや真白さんの言葉に耳を傾けてくれないのでしょうか……」

 

「さあね。洗脳されているのか……脅されているのか……どっちにしろ、簡単に私達の仲間になってくれたりするわけじゃなさそうよ」

 

「それでも私はやっぱり……あのクロっていう魔法少女が善人だとは思えません……」

 

「そう? まあ私もさっき言った理由で考えてるからっていうよりは、勘でそう思ってるっていう面が強いから、信じられないのも仕方ないとは思うけどね」

 

そうやって2人がクロについて話しているうちに、束の家に到着した。

 

「では私はこれで」

 

「ええ、夜更かししちゃダメよ?」

 

「しませんよ。今日は疲れましたしね」

 

「そうね。じゃまた明日」

 

「はい、気をつけて」

 

そう言い八重と束は別れる。

 

しばらく八重は一人で考え込む。

 

(真白について問いただそうとした時……やっぱり動揺してたわね)

 

そうしてこう呟く。

 

「あの黒い魔法少女を救えるのは……真白だけかもね」

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。