悪の組織所属のTS魔法少女、はじめました   作:布団から出られない

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Memory68

「なっ………ここまで酷い状況だったなんて……」

 

赤髪ツインテールの少女、津井羽 茜は、同じ魔法少女である福怒氏 焔の連絡を受け、アイドル系魔法少女朝霧 千夏のライブ会場前へとやってきていた。

そこでは、たくさんの魔法少女達が魔族に敗れ、地面に倒れ伏している有様が広がっていた。

 

そして、彼女に連絡を入れた焔達もまた、魔族の猛攻を耐え続けているも、いつやられてもおかしくない状況だった。

焔達が倒れていないのは、単純に魔族がお遊び感覚で彼女達を弄んでいるからだろう。

 

「ハッハー! ザコがまた1人やってきたみたいだぜー?」

 

「お仲間を助けにきたのかなぁ?」

 

魔族達は、ニタニタと気持ちの悪い笑みを浮かべながら茜のことを煽る。

実際、茜の実力では魔族達には敵わない。

 

櫻や来夏は、櫻の兄である百山椿と、来夏の姉である朝霧去夏によって鍛え上げられたこともあってか、魔法少女でありながら魔族と対抗できるほどの実力を身につけている。もちろん、ついでで茜も椿と去夏に特訓はしてもらったのだが、しかし、茜には魔族を倒せるほどの実力を身につけることはできなかった。

 

櫻や来夏に備わっていた魔法少女としての才能が、茜にはなかったのだ。

 

「これ以上、貴方達の好きにはさせない!」

 

それでも、茜は魔法少女なのだ。

ここで、引くわけにはいかない。

 

「嬢ちゃん、それは勇気じゃなくて無謀って言うんだぜ?」

 

「自分の弱さは自覚しておくもんだよなぁ」

 

「うるさい! 『爆炎』!!!!」

 

茜は、強大な火の玉を魔族達に向けて放つ。

 

「あーそれね、俺もできるわ」

 

だが、そんな茜の攻撃は、魔族の1人に軽くいなされ……。

 

「お返しだ。『爆炎』」

 

茜の放った『爆炎』の、10倍近い魔法が、魔族の1人から放たれる。

 

圧倒的な実力差。

それも、たった1人の、魔族の中でも、そこまで上位のものではない、もしかしたら下位の実力しかないかもしれない、そんな相手にすら、茜の魔法は通用しない。

 

「そん……な……」

 

実力の差が開いているというのは自覚していた。それでも、茜はどこかで期待していたのだ。

足止めくらいはできるかもしれない、ちょっとくらいは私の魔法も通用するだろう、と。

 

「あ、は……は……」

 

茜は絶望し、地面にへたり込む。

自分がいてもどうすることもできないのだと。自身の無力さに、嘆くことすら馬鹿馬鹿しい。

 

「おいおい、もう終わりかよ、つまんねぇな。なぁおい、1人くらいヤっちまってもかまわねぇよな?」

 

「いいんじゃねぇか? どうせマスコミが来たら全員ヤっちまうんだからよ」

 

魔族達はどうやら、茜のことを始末することにしたらしい。

しかし、茜は動くことができない。いや、動いても無駄なんだと、そう感じてしまっている。

 

心ですら、魔族に負けてしまっている。

 

(ああ、もう……)

 

「じゃあな」

 

魔族の拳が、茜に振り下ろされる。

 

 

が……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだ!? 手が、手が!!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「誰だ!?」

 

魔族達は、周囲を見渡す。

既に殆どの魔法少女が倒れているからか、周囲はとても見やすくなっていて。

そのせいか、魔族の腕を凍らせたのは誰なのか、彼らは瞬時に理解することができた。

 

彼らの視線の先にいたのは。

 

 

 

真っ白な髪を肩まで伸ばし、雪の結晶をモチーフにしたスカートを履いていて、幻想的でヒラヒラとした服に、真っ白なスノーブーツを履き、加えて頭には雪だるまのヘアピンをした、全体的に白い印象の少女。

 

「茜から離れて。じゃないと、凍え死ぬことになるよ」

 

シロこと真白。またの名を、白川千鶴。

クロの姉にして妹であり。

 

正義の魔法少女だ。

 

 

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん、か……。からかうくらいなら、いっそのこと全力で演技してくれた方が良かったんだけどね」

 

クロは、ミリューの発言に、ついそうこぼしてしまう。

ミリューは確かに前世の記憶があると言ったし、クロのことを()()()()()と、そう呼んだ。それも、ユカリと同じ声で。

 

しかし、ミリューはユカリではない。そのことは既に、クロには分かってしまっていた。ただ、ユカリと同じ声で、お姉ちゃんと、そう呼ばれたことで、つい動揺してしまったのだ。

 

「どうして私がユカリじゃないって思ったの?」

 

ミリューは、クロにそう尋ねる。

 

「仮にユカリだったとしたら、組織に前世の記憶のことを話さない理由がないから、かな。別に前世の記憶があるって話したところで、ユカリに不利益はないはずだよ。ルサールカのことだから、研究目的で人工の魔法少女を造り出したわけでもないだろうし」

 

パリカーやアスモデウスなんかはユカリが蘇ったと知れば喜ぶだろうし、イフリートはそもそもユカリに興味がない。ルサールカも、気まぐれであるため、ユカリが生きていようがいまいが、彼女は楽しめればそれでいい。だからこそ仮にミリューがユカリだったとしたら、それを離さない理由がないのだ。

 

「まあ、そうだね。私は別に自分がユカリだって話したわけでもないし。嘘は一つもついてないからね」

 

「嘘はついてないって……じゃあ」

 

「うん。本当に前世の記憶は持ってるよ。超優等生で良い子ちゃんだった前世の記憶がね。()()()()()()()()?」

 

「………わかるの?」

 

「反応的に。まあ、別に話したくないのなら話さなくても良いですけどね」

 

いくら自分が前世の記憶を持っているからといって、反応だけで他人が前世の記憶を持っていることに気づけるものなのだろうか、クロは少し疑問に思う。

 

「反応でわかるものなの?」

 

「さあねー。ま、そんなことは置いておくとして。一つ先輩に提案があるんですけど」

 

「提案?」

 

「はい。まず、これを見てもらえますか?」

 

そう言ってミリューがクロに見せたのは、ボタンのついたリモコンのようなもの。といっても、テレビなどで使うものではない。そう。これは。

 

「生命維持装置の……」

 

「ご名答。先輩の生命維持装置のオンオフを切り替えれるリモコンですね。さっきルサールカからくすねちゃいました。で、これを私が持ってるってことは、先輩は組織を裏切ることができるわけです。だから、裏切っちゃってください。それが私からの提案です」

 

「どういう……」

 

「信用できないっていうのなら別にそれでも良いですよ。全然、先輩が私を信用する要素は0に等しいですからね」

 

「君は………ミリューはどうするつもりなの? もしよかったら……」

 

「私は別に。組織にいてやりたいこともあるので。ただ、先輩のメンタルケアとか、そういう役回りさせられるのも面倒だし、だから、もう裏切らせちゃおうって思って」

 

「そう、なんだ」

 

「愛って子への嫌がらせにもなりそうですしね」

 

「? 何か言った?」

 

「いえ、何でも」

 

ミリューは何でもないことのように、そう話す。

彼女がそう言うのなら、まあ、そうなのだろう。

 

だが………。

 

「………」

 

「やっぱり、今更裏切るなんて、って考えてます?」

 

「本当に…………いいのかな……。ユカリを、この手で殺しちゃったのに…‥今更、自分だけ助かろうなんて……」

 

「別にどうでも良いと思いますけど。資料を読んだ限り、先輩の妹、姉でしたっけ? のシロは先輩を放置して組織を裏切ってますし、虹山 照虎(にじやま てとら)って魔法少女は自分の友人を間接的とはいえ殺しておいてのうのうと暮らしてますし、深緑束って子も仲間の魔法少女を裏切った癖してあっさり仲直りしてますからね」

 

「私は‥‥」

 

「ま、後は自分で決めてくださいな。私は先輩がどうなろうが知ったこっちゃないので。ただ、ルサールカが先輩を好きなようにして楽しんでるのがうざいんで、その嫌がらせをしたいってだけです」

 

「そっか………………助かっても………いいの、かな………」

 

「知らないです。好きにしてください」

 

「あはは。そうだね………。ありがとう」

 

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