悪の組織所属のTS魔法少女、はじめました   作:布団から出られない

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今週別に忙しかったわけじゃないけど書くのサボってました。石を投げつけないでください。


Memory72

朝霧千夏のライブ会場を襲った『ノースミソロジー連合』は、リーダーであるオーディンと、メンバーの1人であるロキを除いて、その全てが政府によって捉えられていた。

 

魔族達は魔法を扱えないようにする『首輪』と呼ばれているブレスレット型の機械を手首に付けられ、魔族用に独自に用意された収容所に入れられている。

 

魔族に人間の法を適用するか否か。これに関しては、政府の上層部や、事情を知る法律家などが議論したりしたが、国民に魔族の存在を隠している現状、魔族に人間の法を当てはめる必要はないと言う結論に至ったため、魔族達の扱いはあまりよろしくはないようだ。

 

しかし、そんな収容所は現在、魔族の侵入を許してしまっていた。

 

収容所に侵入した魔族の名はリリス。

死体を収集することが好きな魔族で、彼女の隣ではクロコと呼ばれるメイド姿の魔族の少女が歩いている。

 

「リリスっち、こんなところに何の用っすか?」

 

「ちょっと、ね」

 

そう発言するリリスの目は、どこか虚ろで、焦点が定まっていないように思える。

収容所で魔族が脱獄しないように見張っている職員達も、収容所にいる魔族のことは認識しているのにも関わらず、リリスやクロコのことを認識しておらず、明らかに様子がおかしい。

 

そして、リリスは、かなり厳重に閉じられた、一つの牢獄の前で立ち止まり、その牢獄を、死体人形を使い、無理やりこじ開けていく。

 

扉が開いた、その先には…‥。

 

 

 

 

 

「なっ、アストリッド………」

 

2年前に政府に捉えられた、アストリッドがいた。

 

「ふふっ、ご苦労、リリス。君はもう用済みだ。さようなら」

 

そうアストリッドが言った途端に、リリスの体が、消し飛ぶ。

 

「え……?」

 

さっきまで隣で歩いていたクロコは、突然できた血溜まりに、動揺を隠せないでいる。

 

「ずっと潜伏して様子を伺っていたんだけどね、ようやく分かったんだ、この政府の『首輪(おもちゃ)』を付けていても、魔法を扱う方法がさ」

 

「な……何を……」

 

「これでようやく出られる。ああ、クロコ、だっけ? 君はそこまで脅威にならなさそうだから、見逃して置いてあげるよ。くれぐれも、私のことは内密に、ね?」

 

アストリッドは人差し指を自身の口元に当て、ウインクをしながらクロコにそう告げる。

 

「さて、リベンジと行こうか」

 

吸血姫が、再び活動を開始する。

 

 

しかし、彼女が活動を再開したことに、まだ、誰も気づいてはいない。

 

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

 

「逃げられるんだからさ、もう逃げちゃえよ」

 

クロは現在、朝霧千夏という少女の元へやってきていた。

彼女との付き合いは、2年前、アストリッドのことを倒してから始まった。

 

同じ組織に属する魔法少女仲間として、クロと千夏はちょくちょく行動を共にすることになり、それなりに仲も深まった。クロがユカリを殺したことで精神を病んでいる時も、彼女と愛の存在があったから、何とかクロは持ち堪えることができた。

 

ただ、愛と千夏の仲はあまり良くないようだが。

 

「………でも」

 

「でももだってもないでしょ。わたしと愛は好きで組織にいるわけだから、わたしらのことは気にする必要ないしな」

 

千夏はぶっきらぼうにそう言う。一応彼女はアイドルをやっていて、その時は媚び媚びで可愛らしい口調をしているのだが、素はどうもこんな感じらしい。本人は、この口調は姉に移された、姉のせいだ、姉はクソだ、と主張している。

 

「はぁ、まあいいや。無理矢理でも。もういいよ、出てきても」

 

千夏がそう言うと、奥の部屋から白髪の髪を持ち、白衣を着た眼鏡の女性がやってくる。

 

「えーと、確か……、ぱりかー?」

 

「名前、覚えててくれたんだね。そう、ボクはパリカー。一応組織の幹部………だったんだけど、クビにされちゃってね。ルサールカに捉えられてたところを、千夏に助けられてね、お願いされたんだ。クロを逃してほしいって」

 

「めっちゃ説明するじゃん……」

 

クロは説明口調なパリカーに、思わずツッコミをいれてしまう。

パリカーは、そんなクロの様子は気にも止めずに、クロの手を引いていく。

 

「魔法少女の子達なら、君を拒絶することはないと思う、だから」

 

「ま、待って、私は組織を裏切るつもりは………」

 

「ユカリのこととか、色々思うことはあるだろうけど、でも、それは今悩まなくてもいい。魔法少女の子達と合流して、その後に考えればいい」

 

クロとしても、このまま組織に居続けることが、自分にとって良いことなのかと問われれば、イエスとは答えられない。だが、それでも、今更櫻達の元へ行くことなど、考えられない。

 

ただ、心のどこかでは。

 

組織を抜け出したいだとか。

真白と一緒に魔法少女をやれたらいいなだとか。

 

そんな風に思っている。

 

だからだろうか。

 

気づけば………。

 

 

 

 

 

 

「ここ、は………」

 

表札には、『百山』の文字。

櫻の家だ。

 

結局、クロはパリカーの手を振り払うことはできずに、櫻の家へ連れられてしまっていた。

 

「ここまで連れてきて何だけど、最終的には君が決めることだ。だから、ボクは、君をここに置いてこのまま帰る。もし、組織を裏切らないって言うなら、君も帰ればいい。でも、もし、組織裏切りたいって言うなら、その時は、君自身の判断に任せることにするよ」

 

そう言って、パリカーは、クロをその場に置いて、帰っていってしまった。

いきなりのことすぎて、自分でも頭の中が整理しきれていない。

 

「どうすれば………私は…………俺は………」

 

 

 

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

 

 

クロを送り出した後、パリカーは、人気の少ない公園のベンチで座り込んでいた。

 

「強引だったけど、こうでもしないと、きっとあの子は組織に残り続けるだろうし、これが、きっと正しかったんだよね」

 

パリカーは、そう独り言を呟く。

パリカーは一つ、嘘をついた。

 

それは、組織を裏切る気がないのなら、組織に帰ってくれば良い、という部分だ。

正直、パリカーはクロのことを組織に帰すつもりなどない。

 

だから、事前に百山櫻に連絡を入れ、無理矢理でもいいからと、クロのことを頼んでおいたのだ。

クロは組織のアジトを知っているが、そのアジトだって、もうすぐ別の場所に移動する。ルサールカが、組織を丸ごと入れ替えようとしているためだ。

 

そのため、組織の幹部も一新される。ゴブリンとイフリートは既にいないし、パリカーはルサールカに用済みだと銃口を突きつけられた。アスモデウスも、そのうちルサールカに始末されてしまうだろう。

 

まあ、アスモデウスに関しては、パリカーが千夏に助けられた後に、連絡を入れて、警戒するように伝えているため、どうにかなるかもしれないが。

 

「はぁ。せっかく、故郷に帰れる装置が完成したっていうのに。ボクはこんなところで何油売ってるんだろう」

 

正直、この2年間でパリカーは故郷である魔界に帰る装置を作り上げてしまっていた。そのため、その気になればいつでも故郷に帰れたのだが、しかし、クロのことがどうしても気がかりで、人間界に残ってしまっていたのだ。

 

「さて。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

パリカーは、少し疲れたかのような口調で発言する。

 

そう、この公園にいるのは、パリカー1人ではない。

確かに、一言も発していないが、先程からパリカーの正面に、もう1人、いたのだ。

 

無表情で真っ白な顔の仮面を付け、フードを深く被った、身長150センチほどの、性別不明の者が。

 

名は、シークレット。勿論、本名ではない。

シークレットは、アスモデウスの後任として用意された、()()()()()()()

 

既に、パリカーが組織を裏切り、クロを逃したことは知られている。というか、千夏が組織にそう伝えたのだ。

別に、千夏がパリカーのことを裏切ったわけではない。千夏が組織に裏切り者だと思われないように、パリカーが千夏に対して自分を組織に売るように伝えたのだ。

 

ただ、千夏としてもパリカーの死を黙って見過ごそうとしたわけではない。最初にクロに組織から逃げる気がないか意志の確認を行い、クロが迷っているようであれば、パリカーに頼ろうと思っていたのだ。だからこそ、パリカーは最初にクロと千夏が会話している際、姿を見せなかった。

 

クロからすれば、勝手に自分の行く末を決められているわけだが、千夏もパリカーも、このままクロを組織においても、クロが幸せになる未来が見れなかった。だからこそ、無理矢理にでも組織から離脱させようとしたのだ。

 

パリカーのことをよく見れば、腹部は赤く染まっており、出血しているということがわかる。

そう、パリカーが公園のベンチで座り込んでいたのは、シークレットに腹部を攻撃され、出血したことにより、動けなくなってしまったからだ。

 

しかし、シークレットはパリカーにとどめを刺すことはなかった。

まるで、殺すことを躊躇っているかのように。

 

しかし、そんなシークレットの後ろからもう1人。

 

その顔は、ユカリによく似ていて。

長い紫色の髪は、ツインテールにしてまとめ上げられた少女。

 

名は、ミリュー。クロの生命維持装置をルサールカから奪い、クロは組織を裏切れるように工作した少女だ。

 

「シークレット、下がって良いよ」

 

そんなミリューは、先程までパリカーの前に立っていたシークレットを後ろに下げ、代わりに自身がパリカーの前面へと立つ。

 

「君、は……」

 

「ミリュー。これから、貴方を殺す者の名前だよ」

 

「組織に命令されて、来たのかい? だとしたら、こんなこと、やらなくてもいい。ボクは、自分で死ねるから。だから、自分の手は汚さなくて良い。君も、クロと同じ、被害者だ。だから……」

 

パリカーは、ミリューがクロと同じ人工で造られた魔法少女であると気づく。そんなミリューに、人殺しをさせたくはないと、パリカーは自殺してでも彼女に人殺しをさせたくはないと思い、ミリューに告げる。

 

それは、クロに肩入れしてしまったことで、同じような境遇のミリューに対しても、情が湧いてしまったためか。

もしくは、ミリューがユカリに似ているせいか、どこか重ねてしまうところもあったのかもしれない。

 

「そんなに心配しなくても、大丈夫。私は、貴方を殺しても、心は傷まないから」

 

「無理に見栄を張らなくてもいい。大丈夫だ。ボクは、クロが幸せになれるなら、それでこの世に未練はないよ」

 

「見栄じゃないよ。私には、魂の形が見えるから。だから分かるの。死は絶対的な終わりじゃない。逆に、始まりにさえなり得るんだって」

 

「それなら………一つだけ、聞いても良いかな?」

 

パリカーは、どこか縋るかのような口調で、ミリューに質問する。

 

「いいよ」

 

「ユカリは……ユカリの魂は、どうしてるのかな……。ユカリは、幸せになれてるのかな……」

 

パリカーは、どうしても気がかりだった。死んでしまったユカリは、幸せだったのだろうか。

その魂は、今、報われているのだろうか。

 

ミリューに聞いても、無駄かもしれない。それでも、聞かずにはいられなかった。

 

「今どうしているのか、って観点で答えれると、貴方の望む答えは得られないかもしれないけど。でもね、私、未来も見えるんだ。だから分かるよ」

 

ミリューは、できるだけ優しい顔で、パリカーを安心させるかのように振る舞う。

 

「未来では、ユカリって子も、クロも、皆幸せに暮らしてるよ」

 

「そっか、なら、良かった」

 

パリカーは、明らかに安心したかのような顔をする。

未来が見えるだなんて、嘘くさい話なのに。それでも、パリカーにとって、それは救いになる。

 

パリカーは、目を閉じる。

まるで、もう死ぬ覚悟はできているとでも言いたげに。

 

「もう、言い残すことはないんだね」

 

そんなパリカーの意図を察してか、ミリューは懐から対魔族用の銃を取り出す。

ミリューの後ろで佇むシークレットの表情は、仮面を被っているせいでよく見えない。

 

「じゃあね。優しすぎる魔族さん」

 

その日、静かな公園で。

一発の銃声が響いた。

 

優しい魔族の魂は。

きっと今頃、故郷に帰っていることだろう。

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