悪の組織所属のTS魔法少女、はじめました   作:布団から出られない

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Memory78

「遊園地楽しかったね〜」

 

「ま、たまにはこういうのも悪くないかもな」

 

辺りもそろそろ暗くなってきて、いよいよ解散、って感じの雰囲気になってきたわけなんだけど……。

 

『好きだ。クロのこと』

 

観覧車での辰樹のあの発言……。

驚いた。まさか、そんな風に好意を持たれていたなんて、思ってなかったから。

 

辰樹が好きになるにしても、それはシロだろうって思ってたから、本当に、予測不可能だった。

 

答えに関しては、保留。

正直、突然のことで、気持ちの整理もできていないし、答えようがないってのが正しい。

 

多分、告白される前の俺に、もし告白されたらどうする?って尋ねたら、きっと断るって即答するんだろう。でも、それじゃいけないと思った。

 

相手は、真剣だ。

本気で俺のことが好きだって、そう想ってくれてる。だったら、前世が男だったから、無理ですだとか、恋愛対象じゃありませんだとか、そんなことを言って最初から諦めるのは失礼なんじゃないかって。今は女なんだし、改めて、じっくり考えてみるべきなんじゃないかって、そう思ったんだ。

 

直ぐに断って、逃げることはできる。でも、これから“クロ”として生きていくなら、やっぱり考えておかなくちゃいけないことだと思った。

 

男と、添い遂げることができるのかって。

 

「待って、誰かいる…」

 

遊園地から出て、しばらくした頃。

突然櫻が止まり出して、いきなり魔法少女、マジカレイドピンクへと変身を遂げる。

 

そんな櫻の様子を見て、来夏や束、シロもそれに続く。俺も慌てて変身し、戦闘に備えておく。

 

「やあ、クロ。久しぶりだね」

 

「殺しに来たぜェ。クソガキ共」

 

そこにいたのは、吸血姫・アストリッドと、組織の元幹部・ゴブリンだった。

 

「何しに来たの?」

 

櫻は普段の明るさからは想像もできないほどに冷え切った、低い声を出す。

しかし、アストリッドはそんな櫻にも臆することはない。

 

「何しに来た? 決まってる。やり直しと、復讐さ。2年前のね」

 

「要は皆殺しってわけだ」

 

「勘違いしないで。私が気に入った子は、皆吸血鬼として私が迎え入れてあげる。勿論、クロはもう確定。だから安心して良いよ」

 

「誰が安心できるか!!」

 

来夏は、バチバチと電撃を流しながらアストリッドとの距離を一瞬で詰める。

だが。

 

「おっと、お前の相手は俺がしてやる」

 

そんな来夏とアストリッドの間に、ゴブリンが割って入る。

 

「で、こいつは殺しても良いのか?」

 

「はぁ。ダメ。基本皆欲しいから。まあ、生きているならどこまで痛めつけても問題ないから。死なない程度に好きにして。あ、勿論、見た目に支障がない程度の傷にしておいてね? 傷がついたら可哀想でしょ?」

 

アストリッドの言葉を受け、ゴブリンは嬉々として来夏に攻撃を加えていく。攻撃許可が出たからだろうか。

 

「皆、逃げて。アストリッド達の相手は、私と来夏ちゃんでするから」

 

そうだな。きっと、その方がいいのかもしれない。けど……。

 

「アストリッド………!!」

 

あいつを一目見た瞬間から、2年前の、ユカリを手にかけた時のことを思い出した。

その時に感じた、アストリッド(あいつ)に対する憎悪も。

 

殺してしまいたい。

この手で、奴を。

 

命の価値だとか、殺してしまったら、後戻りできないだとか。

 

 

 

 

 

そんなの、関係ない。

 

殺さなきゃ、気が済まない。

 

殺さないと、じゃないと、ユカリが報われない。

 

そうだ、俺が生きてきたのは、この時のためだったんだ。

 

殺さなきゃ、殺さなきゃ、殺さなきゃ……。

 

 

 

 

 

「クロ!!」

 

「あ、シロ……」

 

そっか。ダメだ。ここで冷静さを見失ったら。

せっかく、皆が助けてくれたんだ。この命を無駄にするわけにはいかない。

 

それに、どうせ俺が戦っても、アストリッドには勝てない。2年前は、怪人強化剤(ファントムグレーダー)があったからこそ、(アストリッド)に勝てたのだ。大体、ここで俺が戦ったって、足手まといだ。邪魔になるだけ。戦わない方がいい。

 

正直、アストリッドの奴を殺してやりたいという気持ちは、今でも残ってる。けど……。

 

辰樹への返事もまだだ。

だから、ここは櫻の言う通り、逃げた方がいいだろう。

 

「アストリッドは他にも仲間を連れてきてるかもしれない! だから茜、皆をお願い!」

 

「連れてきてないんだけどね〜」

 

「もちろん! 任せて!」

 

櫻の指示により、俺達は茜を先頭に、この場から離脱した。

 

 

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

 

 

「この前ぶりだね、茜ちゃん」

 

「あ、あんたは……ロキ!」

 

アストリッド達の襲撃から逃げた(クロ)達だったが、逃げた先では、ロキと呼ばれる魔族と、頭に角を生やした、鬼の魔族の男が待っていた。

 

「今の茜さんなら、魔族の相手も可能みたいですが、流石に2対1では………。仕方ありません……。朝太さん、行きましょう」

 

「ああ、分かった」

 

「クロさん達は逃げてください。アストリッドの狙いは、おそらく貴方です。目の前にいる魔族の目的はわかりませんが…………ただ、今は逃げてください」

 

そう言って、束は魔法の弓を構え、鬼の魔族めがけて放つ。隣に朝太も立っているが、何か作戦でもあるのだろうか。

 

とりあえず、逃げないと。

俺は、シロ、辰樹の2人と一緒に茜達のいる場所から離れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ………はぁ……」

 

「あら? そちらからきてくれるなんて、嬉しいわ」

 

「な、んで………」

 

さらに逃げた先で待っていたのは、組織の幹部、ルサールカだ。隣には、仮面を被ったよくわからない奴が突っ立っている。

 

「思い出したのよ、貴方につけていた盗聴器の存在を、ね。その盗聴器、過去数日間の記録は録音する機能がついてるから、辿ってみたら…。貴方に手を貸した裏切り者の存在が分かったのよ」

 

つまり、ミリューが俺の生命維持装置のリモコンをルサールカから奪ったということがバレたのだろうか。

ミリューは………。いや、今はそれどころじゃない。

 

「やるしかないか……」

 

俺とシロは身構える。

相手は幹部。勝てるかどうかわからない。

 

だけど、大丈夫。俺とシロなら………。

 

「いいの? 貴方のお友達を人質にとってるんだけど」

 

ルサールカがそう言って、後ろから連れてきたのは……。

全身ロープで括り付けられ、身動きが取れないように拘束された、愛だった。

 

「め、ぐみ…………」

 

何で、どうして。

愛は組織に従順だったはずだ。裏切るそぶりも見せてなかったし、命令はちゃんとこなしてた。なのに……。

 

あんまりだ、こんなの。

 

「取引と行きましょう。クロ、組織に戻ってきなさい。そしたら、愛の身の安全は保証するし、貴方の仲間も見逃してあげるわ。どう? 悪い提案じゃないでしょ?」

 

「クロ、耳を貸しちゃダメ。あいつの言うことは、信用できない」

 

「そうだ。取引に乗っちゃダメだ。あの子は、隙をついて奴から引き剥がそう」

 

シロや辰樹の言う通りだ。

組織に従順だった愛のことを人質として使うような奴が、約束を守るはずがない。

 

何とかして、ルサールカの隙をつかないと。

じゃないと、愛が…。

 

「ほーら、はやくしないと、貴方の大切なお友達の命、なくなっちゃうわよ?」

 

挑発には乗らない。向こうからしたら、愛は大事な交渉材料。下手に手放すことはないはず…。

 

(クロ、私の分身を、ルサールカの背後に送り込んだ。後は、ルサールカの気を削いでくれれば、私が何とかする)

 

(分身って、いつの間にそんなこと……。いや、うん。分かった。やってみる)

 

「ルサールカ、分かった。交渉に乗る」

 

そう言って俺は、ルサールカを油断させるために、魔法少女への変身を解き、両手を挙げながら、ルサールカの方へ歩いていく。

 

「シロ、今!!」

 

俺の合図とともに、シロの分身がルサールカから愛を奪い、距離を取る。

 

上手く行った。

 

「愛!」

 

俺はすぐに愛の方に駆けていく。後はシロと連携して、ルサールカを倒せば……。

 

「つーかまーえた♪」

 

「へ?」

 

そう言って、愛は俺のことを羽交い締めにしてくる。

何で……?

 

「よくやったわ、愛」

 

まるで初めから作戦通りだとでも言うかのように、余裕の笑みでルサールカはそう告げる。

 

「人質作戦を提案したのは僕なんだ。ごめんね」

 

「愛、なんで………」

 

「君をどうしても独占したくて。嫉妬してたんだ、魔法少女達と仲良さそうにする君を見て。君は僕だけのものなのにって。でも、これでもう、離れることはないね」

 

愛……。そんな風に……。

信じて、たのに……。

 

「ここで貴方達を皆殺しにしてもいいのだけれど、約束を守らない女だと思われたのが残念だったし、特別に見逃してあげるわ。私って、優しいわ〜。さ、愛、シークレット、連れて帰るわよ、クロを」

 

また、組織に逆戻り、か。

ルサールカの口ぶりからして、ミリューはもう捉えられているのだろう。

 

「待って!」

 

シロ、まだ抵抗しようと…。

でも、ダメだ。せっかく見逃してもらえるのに、反抗したら……。

 

「私も、連れて行って」

 

「へぇ………」

 

………え?

何を、言って。

そんなことしたって、何も……。

 

「私、ずっと後悔してた。2年前、クロのこと見捨てて、組織から逃げ出したこと。2年間ずっと、辛かった。クロはもっと、辛い思いをしてたと思う。だから、私は、できるだけクロの隣にいたい。もう二度と、後悔しないように。少しでもクロが、辛くないように」

 

何で、何で……。

シロ、組織にいるの、ずっと辛そうにしてたのに。

 

本当は戻りたくなんかないだろうに。

 

何で………。

 

「シロ……」

 

「大丈夫だよ、クロ。一応、私の方がお姉ちゃんなんだから。妹を見捨てる姉なんて、あっちゃいけないでしょ?」

 

そう微笑むシロの表情は、どこか悲しそうで。

でも、それを悟らせないように、無理してるのが分かって。

 

何してるんだろう、俺。

前世も合わせれば、この子より数年は上の歳なのに。

 

「…………まあ、いいわ。実験体の2年ぶりの回収というのも、悪くないでしょうしね」

 

ああ、拒否しないといけないのに。

こっちに来ちゃいけないって、止めるべきなのに。

 

止めれ、ない………。

 

 

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

 

 

 

結局、俺もシロも、ルサールカの手によって、組織に逆戻りとなった。

 

 

 

その場に残ったのは、

 

悔しそうに顔を歪める、辰樹だけだった。




おかえり〜
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