悪の組織所属のTS魔法少女、はじめました 作:布団から出られない
「どう? 新しいアジトは。中々いい出来でしょう?」
「これって…………」
組織の新たなアジト、それは、天空に浮かぶ移動要塞だった。
目立つんじゃないかと思うかもしれないが、ステルス魔法を駆使し、周りからは全く認識されないようになっているらしい。
「来ましたか」
「あ、ミリュー………」
アジトの入り口には、紫色の髪をツインテールにした少女、ミリューが立っていた。
ルサールカが言うには、ミリューの裏切り行為はバレたみたいだったが、許してもらえたのだろうか。
「ああ。勘違いしないでね。この子はミリューであって、ミリューじゃないの」
「え……?」
「組織を裏切った相手を、簡単に信用できるはずないでしょう? だから、少し弄らせてもらったの。次は、貴方達の番…………なーんて」
「っクロ、逃げて!」
後ろで、シロがシークレットと呼ばれる組織の新幹部に連れ去られていく姿が見える。
「何が…」
「ごめんなさいね。少し眠って頂戴」
あ……い………しきが………。
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
「っ離して! 離せっ! この…!」
真白は、仮面を被った新幹部、シークレットにとある部屋に連れ込まれる。
といっても、その部屋は特に何かおかしな点があるわけではない。
テーブルと、椅子。そして、いれたてのホットミルクが置いてあるだけだ。
「落ち着いて。危害を加える気はないから」
暴れる真白に、シークレットは宥めるように優しい声でそう言う。
「信用できないっ、離して!」
「………しょうがない……」
シークレットは、真白を拘束している腕を解く。
瞬間、すぐにドアの前に立ち、真白が部屋から出れないようにする。
「退いて」
「今ここで行ったら、ミリューお姉ちゃんみたいになる。だから行っちゃダメ」
「……なら尚更行かないと。クロが……!」
「真白お姉ちゃんが行っても、意味ないよ。犠牲者が増えるだけ。今は、耐えて」
「何で貴方の言うことを聞かなきゃいけないの? 私はクロを……」
「お願い、行かないで。信用できないっていうなら、私の正体も明かすから」
そう言って、シークレットは自身の身につけている仮面に手を置く。
そして、ゆっくり、シークレットは自分の顔を隠している仮面を取っていく。
真白も、一旦は落ち着いて、シークレットが仮面を取る様子を、じっと見つめている。
「嘘…………」
「信じられないよね。だって私、
シークレットの正体。
それは、2年前にアストリッドに操られたクロの手によって命を落とした少女、ユカリだった。
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
「なんだ、バラしたのか」
真白は、自身の正体を明かしたシークレット改めユカリに連れられて、表でアイドル活動を行っている魔法少女朝霧千夏の元へとやって来ていた。
どうやら千夏は、シークレットがユカリであるということを知っていたらしい。
「どうして私をここに…?」
「千夏お姉ちゃんも味方だから、それを伝えたくて」
「ミリューって奴は“調整”されちまったらしいからな。代わりに私が面倒見てるんだ」
ミリューは常にシークレットことユカリを隣で連れ回しており、それはルサールカなどの他の幹部から、シークレットがユカリであるということを隠すための行動だった。しかし、ミリューが“調整”されてしまった今、ユカリの面倒を見ることができるのは、組織内で千夏くらいしかいなかったのだ。
「“調整”って?」
「組織に忠実になるように、文字通り調整することだ。今頃、クロも組織の“調整”を受けてるだろうな。“調整”されてしまった奴は、組織の操り人形も同然だ」
「なら、はやく助け出さないと……」
「無理だ。今行けば、お前まで“調整”されることになる。一応、お前の“調整”はシークレットが行ったってことで通す。だから、今は待て」
「…………“調整”されたとしても、助け出す方法はあるの?」
「ミリューお姉ちゃんの場合は、体に魂を三つまで持てるみたいで、その性質を利用して、主人格の魂を組織に忠実な人の魂にすることで“調整”してるって言ってた。だから、もう一度主人格を『ミリュー』に戻せば、元のミリューお姉ちゃんに戻ると思う。でも、
ミリューの体は、魂を三つまで持てる。最初に持っていたのは、ユカリの魂、ミリュー自身の魂の二つだ。ミリューは元々、自身の体にユカリの魂を内包していた。そこから、ユカリの肉体の器を作り上げ、そこに自信が持っていたユカリの魂を入れることで、彼女を生き返らせることに成功したのだ。
ただ、ミリューがユカリを生き返らせることに成功したのは、あくまでユカリが人造人間だったからだ。
ユカリが元はシロのクローン人間だったからこそ、再び同じ製法で生み出したユカリそっくりの個体に彼女の魂を入れることで生き返らせることができた。そのため、ユカリ以外の人間で同じことができるというわけではないし、そもそも、魂はずっと現世に存在し続けるわけではない。
転生し、新たな人生を送ることもあれば、傷付き過ぎた魂は消滅してしまうこともある。
そしてそこからミリューは、パリカー殺しを行い、彼女の魂もまた自身の体で保持していた。
だが、ルサールカによって自身の裏切り行為がバレてしまい……。
パリカーの魂の形を、ルサールカは知っていた。そのせいで、ミリューが魂を複数所持できるということが、ルサールカも分かってしまったのだ。
結果、組織に忠実になるように作られた人造人間から魂を取り出し、ミリューの体にその魂をねじ込まれる事態となってしまったのだ。
だが、クロの場合はどうだろうか。
クロの体では、魂を三つ持つなんて芸当はできない。もちろん、二つの場合でも同じだ。
なら、ミリューの時とは違う形で“調整”が行われるはずだ。
つまり、クロ自身の洗脳。
クロが、『組織は素晴らしい』『裏切るなんてとんでもない』と、そう思えるように、クロの脳を弄る。それが、今からルサールカがやろうとしている“調整”だ。
「だったら、尚更助けに行かないと。今行かないと、手遅れに…!」
「待て。組織に愛がいる以上、クロは組織から逃げることはできない。今お前がクロを救い出したところで、結局組織から逃げ出せずに、お前もクロもまとめて洗脳されて終わりだ。そんなことになるくらいなら、お前だけでも洗脳を逃れた方がいい。愛のことも含めて、クロを助けるために組織の内部を探れ」
千夏の言うことは正しい。
実際、クロを組織から連れ出したところで、再び愛のことを出されれば、クロはもう一度組織へ戻ろうとするだろうし、当然、ユカリだって何度も真白を助けることができるわけではない。そうなった場合、クロだけの洗脳で済んだはずが、クロも真白も洗脳されてしまうという事態に陥ってしまう可能性すらあるのだ。
当然、クロが洗脳される前に組織からクロを助け出すのに越したことはないが、それを行うにしては、リスクが多すぎるし、助け出せる可能性が低すぎる。一番上手くいくとしても、愛の存在を消して、クロが組織に所属しておく理由を消すことだろうが、そんなことが許されるはずもない。
真白に今大切なのは、備えだ。
クロの洗脳を解く備え。
クロが組織に所属する理由となってしまう、愛を何とかするための備え。
そして、組織の内部情報を探り、いつでも組織を潰せるようにしておく備え。
だから、今は我慢しなければならない。
もう二度と見捨てないと誓ったのに。
それなのに……。
真白に求められるのは………。
もう一度、見捨てることだった。