悪の組織所属のTS魔法少女、はじめました   作:布団から出られない

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魏阿流 美希、福怒氏 焔、佐藤 笑深李の3人は、最近巷で噂になっている『死神』と戦闘していた。

 

 

 

 

 

……いや、戦闘と呼べるものではないかもしれない。

 

それは戦闘というよりも、蹂躙に近かったのだから。

 

「はぁ……。気持ちよかった。やっぱり、圧倒的な力で相手を打ちのめすのって、楽しいんだね」

 

『死神』は、3人の魔法少女が地面で倒れ伏しているのを踏み付けながら、興奮した様子でそう話す。

 

3人とも、動けなくなってはいるが、殺されてはいないし、致命傷はない。だが、それは『死神』が良心からそうしているわけではない。

 

痛ぶっているのだ。

3人の少女をサンドバッグにして、楽しんでいるのだ。

 

殺そうと思えばいつでも殺せる癖に。

あえて殺さずに、楽しんでいる。

 

その様子は、『死神』というよりも、『悪魔』に近い。

 

「やっぱり、放置しておくべきじゃなかったな……」

 

そこに現れたのは、櫻の兄、百山椿だ。

 

彼は基本的に表舞台に姿を現すことはない。潜伏しておけば、魔族が好き勝手に活動できないようにする抑止力になり得るし、彼の行動が知られなければ、魔族達の動きを裏から探りやすいためだ。

 

そんな彼がこの場に現れたのは、『死神』と呼ばれている少女、つまり、クロを始末するためだ。

 

櫻達では、クロを相手にすることはできない。そう悟った椿が、自らクロの目の前に顔を出したのだ。

 

「誰?」

 

「櫻の兄だ。お前の相手は、櫻達じゃできそうになかったからな」

 

言いながら、椿は桜の模様が入った刀を持ち、その刃先をクロに向ける。

 

「……『桜銘斬』、櫻の専用武器ってわけじゃなかったんだね」

 

瞬間、金属が擦れ合うかのような音が、閑静な住宅街で鳴り響く。

 

「野蛮だなぁ……。攻撃する前に、一言くらい話せばいいのに」

 

急な椿の攻撃を、クロは大鎌で防ぐ。椿は、殺すつもりでクロに攻撃したのだが、クロはそれに反応することができていた。

 

怪人強化剤(ファントムグレーダー)か……」

 

「そう。私の体には、いくらそれを打っても問題ないからさ」

 

椿は、クロが怪人強化剤(ファントムグレーダー)を使用していることがわかった途端に、クロから距離を取る。

 

「警戒されてるなぁ……まぁ、それなら……こっちから行かせてもらうよ!」

 

そんな椿を見て、逆にクロは攻めていく。

黒い大鎌を振るい、椿に対して何度も攻撃を加えていく。そこに遠慮をする様子はない。誤って相手を殺してしまってもおかしくないほど、猛烈な攻撃だ。

 

椿はそれを冷静に受け流していく。

だが、守りに徹しており、クロに対して攻撃を加える様子はない。

 

別に椿は、クロのことを殺したくないと考えているわけではない。そのため、手加減しているというわけではなく、単純にクロに攻撃する隙がないということなのだろう。

 

「どうしたの? 全然攻撃できてないみたいだ・け・ど」

 

クロは煽るかのように椿にそう言う。話しながらも、クロの攻撃は止まない。

 

後ろへ、後ろへ、後ろへ………。

椿の体は、どんどん後退していく。

 

「そろそろ、だな……」

 

椿はボソリとそう呟く。

 

瞬間、クロの猛攻が、止む。

 

厳密には、クロは攻撃をやめたわけではない。だが、確実に、その猛攻は、先程のように反撃する隙がない、という程のものではなくなっていた。

 

今度は逆に、椿の方が反撃を加え、クロが押される形となっていく…。

 

「は…な、なんでっ!」

 

クロの大鎌が、椿の『桜銘斬』によって弾かれ、宙を舞う。

 

「しまっ…」

 

「何か言い残すことは?」

 

椿は、クロに『桜銘斬』の刃先を向け、吐き捨てるようにそう問う。

 

クロの額に、汗が流れていく。

先程まで3人の魔法少女を蹂躙していたはずなのに、今やたった1人の男にここまで圧倒されてしまっている。

 

それもそのはずだ。

クロの怪人強化剤(ファントムグレーダー)の効果は、とっくに切れてしまっているのだから。

 

椿が今まで守りに徹していたのも、クロの怪人強化剤(ファントムグレーダー)の効果の時間切れを狙っていたためだったのだ。

 

「あっ…………」

 

「何もないようだな。それなら、死ね」

 

椿は、クロに『桜銘斬』を振り下ろし……。

 

究極魔法(マジカルパラダイス)・百花繚乱!!!!」

 

そんな椿に、攻撃を加える少女が1人。

彼の妹の、百山櫻だ。

 

「いくらお兄ちゃんでも、私の友達に手を出されたら、私も黙って見てるわけには行かない……!」

 

いくらもう組織に忠実になったとはいえ、櫻にとってクロは友人だ。敵だとしても、死んでいいなんて思っているはずがない。それに、今、真白が組織内でクロを元に戻すために動いてくれているのだ。

 

洗脳されて敵になってしまったから、殺す。それでは、意味がない。

 

だが………。

 

「まだ、私のこと友達だと思ってるんだ………。へぇ……じゃあ、こっちの友達と、私、どっちを取るのかな?」

 

そう言うクロは、先程まで戦っていた3人組の魔法少女の内の1人、笑深李を無理矢理立たせ、その首元にナイフを突き立てている。椿に殺されそうになった時、怯えていた癖に、櫻が助けた途端、すぐにこれだ。

 

組織に洗脳されたことで、クロの人格は、決して良いと言えるものではなくなってしまっていた。

 

「なっ、や、やめて!! そんなことしたって…!」

 

「だから言ったろ。殺すしかないんだ。じゃないと、お前の他の友達がやられることになる。全部助けるなんて、無理なんだよ」

 

「殺して欲しくなかったら、兄妹で殺し合いなよ。そしたら、笑深李(こいつ)には手を出さないでおく」

 

クロは櫻と椿にそう提案する。だが、実際には笑深李を生かすつもりなど微塵もない。美希のことも、焔のことも、笑深李のことも、ルサールカから殺すように指示されているためだ。

 

さらに櫻や椿の首を取れれば、ルサールカからの『ご褒美』も多くなるだろう。

だからこそ、クロは2人で潰し合わせ、体力が減ったところを狙おうとしたのだ。

 

“調整”は、対象を洗脳するだけで終わるわけではない。対象の思考を、“調整”を施すマスターの思考に近づけることも行われている。クロが非人道的手段を平気で取るようになったのは、このためだ。もちろん、組織への忠誠心もあるが。

 

「俺は構わない。人質如きで動じると思うなよ」

 

しかし、そんなクロの要望を聞かずに、椿は遠慮せずにクロに詰め寄って行く。

 

「ま、待って! お、落ち着いて、ほ、ほら! な、ナイフを突き立ててるんだぞ!」

 

「それがどうした? 殺したければ殺せばいい」

 

「は……?」

 

そんな椿の様子に、クロは動揺する。クロの脳内では、椿は人質に動揺し、櫻と戦闘し始めるはずだったためだ。

まさか、人質がどうなろうと構わないと言わんばかりに距離を詰めてくるとは思わないだろう。

 

そのせいか、クロは笑深李を殺すことができなかった。人質は3人いる。1人くらい見せしめに殺せば、多少なりとも椿を動揺させることができたのかもしれないのに。

 

結果……。

 

「あっ………」

 

クロはその場で腰が抜け、動けなくなってしまう。人質をとることすら忘れて、ただ、百山椿という男に恐れている。

 

「ま、待って! も、もうあの3人には手を出さないから! だ、だから!」

 

「待たない」

 

「ひっ、わ、私が死んだら櫻は悲しむよ? そ、それで良いの? ほ、ほら………」

 

クロは椿に命乞いをする。

その姿は、無様と形容する他なかった。

 

椿はその様子を見て、クロに対する嫌悪感や忌避感が一層増す。

 

櫻は、クロが洗脳されているせいでこうなっていることを知っているせいか、クロのことを嫌うということはなかったようだが。

 

「お前に櫻が殺されるよりマシだ」

 

「あっ、あっ、あっ……。た、助け……」

 

「今度こそ、死ね」

 

「っ! 死ぬのは、嫌だ!!」

 

そう言って、クロは、()()()()()()()()()()()

 

「何…?」

 

クロは、影の世界に移動する魔法を身につけていたのだ。

といっても、自身の影に潜り込む、くらいしか使い道はなく、他の影から姿を現したり、他の影に入り込むことはできない。できるのは、自身の影の中に入り込むことと、影の世界から出る際、影に入り込んだ場所から現れる、ということだけだ。それに、櫻は影の世界への入り方を知っているし、櫻の場合、他人の影に入り込むことも可能だ。

 

しかし、そんなことは椿には分からない。

櫻もまた、椿にはそのことを話しはしない。

 

「逃げられたか……」

 

結局、クロは3人の魔法少女を殺し切ることはできなかった。




死ぬのは嫌だとかごねてますけど、この子、組織に命令されたら何の躊躇いもなく自殺します。

“調整”ってすごいや





【追記】

サブタイトルつけ忘れてました。
つけときます。
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