悪の組織所属のTS魔法少女、はじめました 作:布団から出られない
「茜ちゃん、皆のこと、お願い。アストリッドの相手は、私がする」
櫻は、普段出さないような低い声で、茜に指示を出す。
櫻からは、有無を言わさぬような威圧感が溢れ出ている。
「わ、わかったわ」
茜は櫻に言われた通り、倒れている束達を1人1人運び出し、一箇所に集める。
当然、一気に運ぶことはできないし、応急処置をするにしても限界がある。イフリートだって、茜に戦う力を与えることはできても、誰かを助けるための治癒能力を持ち合わせているわけでもなければ、皆を運び出せる怪力があるわけでもない。
結局、茜1人ではできることに限界がある。だからこそ、茜は大人に頼ることにした。
電話を取り出し、コールする。
『もしもし?』
「魔衣さん、緊急事態なの。お願い、力を貸して」
『…今どこ?』
茜は、真白の保護者を請け負ってくれていた、双山魔衣に連絡を入れる。櫻の兄である椿や、他の魔法少女達が倒れてしまっている現状で、去夏や来夏に連絡を入れても繋がらなかった。唯一繋がったのが、魔衣だったのだ。
位置情報を送り、魔衣の到着を待つ。
念のため、茜はアストリッドとの戦闘には参加しない。もし、流れ弾が束達の方へ飛んできた時、それに対処できる人間がいた方がいいからだ。
「救援を呼ぼうとしてるみたいだけど、無駄じゃないかな? 私への戦力になり得るのは、精々来夏やクロ、後は真白くらいじゃないかな。といっても、クロは君の仲間じゃないし、真白は私の言うことを聞いてくれるわけだから、助っ人は来夏だけだろうけどね」
そんな茜の様子を見ても、アストリッドは動揺する様子を見せない。当然だ。だって、負けるはずがないのだから。勿論、アストリッドが認知していないだけで、とんでもなく強い魔法少女というものが実は存在していました、なんて展開がないとも言い切れない。だが、少なくとも櫻はそんな人物との人脈は持ち合わせてはいないだろうし、仮にいたのだとしても、椿が倒されたにも関わらず全くアストリッドの元に顔を出さないのはおかしいだろう。
「茜ちゃんに連絡してもらったのは、倒れてる皆の治療のための人手が欲しかったからだよ。貴女を倒すのは、私だけで、十分」
そんなアストリッドに、怯みもせずに立ち向かう、櫻。
櫻は、自身の魔力を解放し、セカンドフォームへと変身を遂げる。
そして、間髪入れずに、アストリッドに切り掛かる。
「野蛮だね」
「
アストリッドの周囲に、槍や剣など、様々な武器が出現し、一斉に向かっていく。
「無駄だよ」
しかし、それらは、アストリッドの血の刃や、アストリッドの背中の羽によって全て弾き飛ばされてしまう。
「
間髪入れずに、櫻は花吹雪でアストリッドの体を拘束しようとする。
「同じ手は通用しないよ」
そして、アストリッドは花吹雪を、上に高く飛翔することで回避する。
櫻もそれを追って、空高く舞う。
「
そして、櫻は桜王命銘斬を召喚し、アストリッドに切り掛かる。
「
そんな櫻に、アストリッドもまた、真っ赤な血のナイフを召喚し、対抗する。
両者とも、空中での主導権を握らんとし、互いに攻防を繰り返す。
お互いに、一歩も譲らない。
だが、対称的なのは、櫻の顔は全く笑っておらず、ただただ真顔で黙々と桜王命銘斬を振っているのに対し、アストリッドはまるで自分の力を楽しんでいるかのように、微笑みながら、楽しそうにナイフを振っていることだ。
「やっぱり、似てるなぁ………」
ナイフを振るいながら、アストリッドは独り言のようにそう呟く。
「何が?」
櫻もまた、アストリッドの独り言に対し、反応を見せる。その反応は、普段の彼女からは想像もできないほどに、無愛想なものだったが。
「兄に似ているねって。だって、櫻、君。もう私を殺すつもりでいるんだろう?」
「…………」
「魔族と人間が共存できる世界、なんてものを掲げていたそうだね。でも、結局君は、何かを守るために、誰かを切り捨てる判断を選んだ。そう、
「………貴女に………何が…!」
「心が乱れているよ、櫻」
アストリッドは、櫻の桜王命銘斬を掴み、叩き割る。
「あっ……」
「がっかりだよ。君なら私に勝てる可能性があると思ってたんだけど、どうやら私が強くなりすぎていたようだ」
「っ! 『召喚・大剣桜木』!!」
アストリッドは、櫻に強力な蹴りを入れ、空中から地上へ、櫻の体を叩きつける。
ただ、櫻はそのことを予見し、事前に大剣桜木を召喚し、それでアストリッドの蹴りを防御していたようだ。
空中から地上へ叩き落とされてはしまったが、大剣桜木でガードしたおかげで、ダメージは最小限に抑えられた。
だが、地上に足をつけた途端、大剣桜木は、バラバラと音を立てて崩れ去ってしまった。
「さあ、蹂躙の時間だ」
アストリッドは、空中から大量の血の刃を、櫻に向けて放つ。
櫻はその全てを見切り、避けていくが………。
「っ!」
血の刃を避けれることができる、所謂安置と呼ばれる場所に移動した櫻は、そこで魔力の流れを感じ、すぐに飛んで逃げる。
アストリッドの血流操作の魔法だ。
アストリッドは、複数の特定箇所に、血流操作の魔法が発動する場所を用意しており、血の刃はそこへ誘導するためのもので、攻撃手段ではない。
ただ、血流操作をされないような場所へ行こうと思えば、どうしても血の刃の中を動かなくてはならない。
「くっ……」
櫻は、一部の血の刃を迎撃しつつも、やはり体には次々に傷が付いていく。
(……こうなったら)
「
櫻は再び、
だが……。
「かはっ………」
「残念だよ。やっぱり私は、強くなりすぎたみたいだ」
背後に回っていたアストリッドが、櫻の背中に血の刃を突き刺していたのだ。
櫻は、セカンドフォームから、通常形態へ、そして、ただの百山櫻へと戻っていく。
次の瞬間には、櫻の体は、地面に叩きつけられてしまっていた。
「櫻っ!!」
茜の悲痛な叫びが、その場に響く。
本当は、加勢に入りたかった。だが、2人の間には、割り込む隙がなかったのだ。下手に動けば、何もできずにやられてしまう可能性すらあった。だから、動けなかった。
そんな茜へ、ゆっくりと、アストリッドは近付いていく。
「櫻も負けてしまうような強敵が相手なんだ。降参しても誰も責めやしないよ。どうだい茜、投降して、大人しく私のモノになるというのは」
アストリッドは、茜を勧誘する。
2年前、忠実な僕を失ってしまったのだ。クロ以外にも、眷属にしておきたいと、アストリッドは常々そう考えていた。
だから、アストリッドは茜にそう提案したのだ。だが、勿論茜がそんな提案に応えるはずもない。
「ふざけないで! 誰があんたなんか…! 私は屈しない! あんたみたいな奴に。絶対に。あんたの眷属になるくらいなら、死んだ方がマシよ!」
茜は、アストリッドに噛み付くように、そう言い放つ。本当は、怖くて仕方がないのに。それでも茜は、心だけは絶対に屈しない。そう、そんな性格が。
「物凄く好みだなぁ……」
アストリッドのツボなのだ。
「安心して。無理矢理にでも、私のことがだーいすきな、眷属にしてあげるから。大丈夫、後でクロも迎え入れる予定なんだ。寂しくはないよ」
アストリッドの魔の手が、茜に伸びる。
茜はステッキを構え、内心怯えながらも、抵抗の意思を見せる。
そんな茜に、アストリッドは手を伸ばし………。
「
そんなアストリッドの手は、1人の女性によって阻まれる。
「魔衣さん……」
双山魔衣。この前まで真白の保護者をやっていた人物で、過去に中学校の保健教師もしていた女性だ。また、『穏健派』の副リーダーの魔族でもあるらしい。
「へぇ……。驚いちゃった。まさかこんなところで会えるなんてね、魔衣」
「私としては、もう二度と会いたくはなかったんだけどね………
………………姉さん」