悪の組織所属のTS魔法少女、はじめました   作:布団から出られない

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てっちゃんさん様から誤字報告を頂いていました。


君の悪い笑み→気味の悪い笑み


てっちゃんさん様、誤字報告ありがとうございます。


Memory8

キーンコーンカーンコーン

 

チャイムが鳴り、授業が始まる。

ここ、真保市立翔上中学校の二年三組では既に授業が始まっている。

クラスの中にはクロ、真白がそれぞれ真面目に授業を聞いている姿があった。

 

 

………クロの方は少しうとうとしているようだが。

男性教師は気にする様子もない。

というか指摘するのも面倒なのだろう。

ちなみにこの男性教師は二年三組の担任でもあり、名を風元康(カザモトヤスシ)。

目の下にクマができた、いかにも怠そうに授業を進める数学担当の教師だ。

 

「ここにこの公式をいれればーーー」

 

一見真白は真面目に授業を受けているように見えるが、内心はうとうとしながら授業を受けているクロのことで頭がいっぱいだ。

クロがこの学校に来てから一週間程経過したが、学校でのクロは案外普通だ。

クラスメイトとはたまに会話を交わすぐらいではあるが、全く壁を隔てて他人との関わりを避けているようには見えない。真白自身も、家族としてではなく、他人として関わる分には普通に接してくれている。

ただ、家族として、また、魔法少女としてクロと話そうとしてもどうしてもはぐらかされてしまう。

 

強引にでもクロと話し合いの場を設けたいーーーそう思って、校門で櫻と共にクロのことを待ち伏せしてみたのだが、校門からクロが出てくることはなかった。

八重に相談しても放っておきなさいと言われ、束は学年が違うので中々予定が合わず、来夏と茜に関してはクロに敵意剥き出しであるため論外だ。

 

(今までは上手くいかなかったけど、今日こそはクロと話してみせる)

 

今日は櫻にクロの説得に協力してもらうように頼んでいる。

八重と束にも何度も頼み込んで渋々説得に参加してもらえることになったのだ。

4人でなんとかしてクロを捕まえて、説得してみせる。

そう意気込む真白だったが、突然クロが手を上げこう言う。

 

「先生。今日用事があるので帰ってもいいですか?」

 

「用事…? あぁ……身内がどうのこうのとかいう話がそういえばあったな……あーわかった。家の人に連絡は……」

 

「大丈夫です。既に済んでます」

 

そう言って教室から出て行ってしまった。

慌てて真白も「先生、トイレ!」と言って教室を出る。

 

「先生はトイレじゃないって言えばいいのか……?」

 

そんな呟きも聞こえたような気がしたが、結局真白はクロの姿を見失ってしまっていた。

 

 

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

「あっ! おかえりお姉ちゃん!」

 

「ごめん、遅くなった。今日は早く帰るって約束してたのに……ちょっと授業中眠たくなっちゃってうとうとしてたせいで……」

 

「全然大丈夫。気にしてないよ!」

 

クロがユカリとそう言葉を交わす。

クロが早退したのはユカリのためだ。

ユカリは外出許可が出ていないため、組織の外に出ることができない。

そのことを聞いて、流石に毎日は無理だが、たまには早く学校から帰ってきてユカリの相手をしてあげようと考えたのだ。

 

そのおかげか、ここ一週間でユカリとはかなり打ち解けた。

元々ユカリが人懐っこい性格をしていたからというのもあるのだろう。実際ユカリは、最初はクロのことを先輩と呼んでいたにもかかわらず、数分後にはお姉ちゃん呼びに変えて急に距離を縮めてきていた。

 

「何かしたいことある?」

 

「なんでもいいよ。私はお姉ちゃんとお話できるだけで満足だから」

 

そう言われると困る。クロはあまり話が上手くない。面白い話などはできそうもないし、世間話をするにもクロは時事に詳しくない。ユカリも同様だ。

そうなると自然とできる会話は少なくなる。

結果的にクロはユカリの身の上話を聞くことにした。

 

「じゃあお話ししよっか。私はユカリについて知りたいんだけど、いい?」

 

「私のこと? いいよ。でもそんなに面白い話とかはないよ?」

 

「大丈夫。私がユカリのことについて知りたいだけだから」

 

「じゃあまずお姉ちゃんのことから聞かせてよ」

 

「わかった。私は、生まれた時はシロ……って誰かわかる?」

 

一応念の為、シロの存在を把握していない可能性があるため聞く。

 

「うん。私とお姉ちゃんの親的な存在だよね。あっでも私からしたらお姉ちゃんが親だから、おばあちゃん?」

 

ユカリの中ではシロは親として認識しているらしい。シロと姉妹のように育ってきたクロには少しわからない感覚だ。

 

「ユカリからしたらそうなるかもね。まあシロと一緒に魔法の訓練とかしながら育ってきたってただそれだけかな。生い立ちに関してはお互いあまり話すことがないかもね」

 

「本当にそれだけ?」

 

「うん……それだけ……だけど…」

 

一応クロには前世の記憶というものがある。

前世が男であったということ以外、ほとんど覚えていないのだが。

 

「………お姉ちゃんって、何か大切なものを忘れてる気がする」

 

「大切なもの?」

 

「うん。これは私の勘だけど、その忘れてるものを思い出せたら、お姉ちゃんは私より強くなれる。ううん、他の魔法少女にも負けないくらいに強くなれる。そんな気がする」

 

大切なものを忘れている、か。

一応組織に脳をいじられたせいで、もの忘れが激しいところはあるが、シロとの思い出などクロにとって大切な記憶は割と覚えている。

 

 

…………まあ、おそらく前世の記憶のことだろう。

クロが覚えているのは男であったということだけ。

ただそれだけだ。自身の性自認も男であると思いながらも実はそこまで男にこだわっているわけではない。

だからクロとしてはそこまで大事なものではないと思っていたのだが。

でも、もし前世の記憶を思い出したら、どうなるのだろうか。

今は自分が人間であるというアイデンティティも壊されている。

前世の記憶を思い出せば、クロが女でも男でもない歪な存在だと改めて認識させられてしまう。そうすれば、一体クロは何に縋れば良いんだろうか。

 

ーーー嫌だ

 

でも、強くなる必要なんてあるのか?

いやない。

そうだ。前世の記憶なんていらない。

前世が男だっただけ。今は違う。

いらない。

いらない。

いらない。

 

「いらないーーー」

 

「? お姉ちゃん、何か言った?」

 

「ううん、なんでもない。それより、ユカリはどうなの?」

 

「私? 私は今が人生の全てって感じだよ。元々シロお姉ちゃん? が組織を裏切ったのがきっかけで作られた存在だから、生まれて間もないんだ♪ あ、でも赤ちゃんとはちょっと違うよ! 私は一般常識とか、魔法少女のこととか、そういう知識が脳に入れられてるから」

 

ユカリの話を聞いていて、思った。

彼女も組織の被害者なんだ、と。

 

「ねえ、ユカリは、組織のこと、どう思う?」

 

もしかしたら、ユカリも組織を抜け出したいのかもしれない。

できることなら、助けたい。

そう思うクロだったが……

 

「凄く大きなことを成し遂げようとしてる、立派な組織だと思うよ。何をするかはまだわからないけど、きっと偉大なことなんだよね。手伝えるなんて嬉しいなぁ♪ 組織のために尽くさなきゃ。ね、お姉ちゃん」

 

「そ、そうだね…」

 

言う通りにならない駒を組織が用意するはずがない。

シロの一件もあることだし、絶対に裏切らせないようにするだろう。

 

しかし、クロにはユカリが悪い子だとはとても思えなかった。

 

(多分組織に洗脳されてるだけだ。洗脳さえ解ければきっとーーー)

 

「ユカリは、もっと外の世界を知るべきだと思うよ」

 

「そうかな? 私も外の世界がどんな感じなのか気になる! 百聞は一見にしかずって言うもんね!」

 

そう言うユカリの目は、凄くキラキラしていた。本当に外の世界が楽しみで仕方ないだろう。

 

「妹に……似てるな…」

 

「妹?」

 

「え?」

 

「今、お姉ちゃん妹に似てるって」

 

妹に似てる? そんなこと言ってたのか。妹……というとシロのことだろうか。いや、シロは妹というよりは家族と表現した方がしっくりくる気がする。それに、ユカリとシロは少しタイプが違う。顔は似ているが、性格に関しては似ていないだろう。

 

…まあ、どうでもいいか。何気なく呟いた言葉だ。特に深い意味はないんだろう。

 

「あっ! そろそろ訓練の時間だ。じゃあまたね、お姉ちゃん! お話ししてくれてありがとう! 楽しかったよ!」

 

「うん。私も楽しかった。訓練がんばってね」

 

 

 

(…………この子は、俺が守ってやらないと)

 

クロは、ユカリが楽しそうに話すのを見て、静かにそう決意した。

 

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

 

 

「で、例のオモチャはどんな感じなのかしら」

 

「使い物にならないな。魔法少女達とも一切交流していない。まあ、あんなもの気休めだ。好きにさせておくのが良いだろう」

 

幹部の男は、同じく幹部である女と言葉を交わしていた。

 

「ふーん。随分ひどい言い様じゃないかしら?」

 

「元々生かすつもりなんてないんだ。どう動こうが勝手だろう」

 

「ひっどーい。あんなに健気に死にたくなーい死にたくなーいって泣き叫んでたのに、可哀想だとは思わないのかしら?」

 

「思わない。そもそもあれは人間じゃない。人間と全く変わらないかもしれないが、それでも我々が生み出した道具だ」

 

幹部の男は本気でそう言っている。

心の底からクロのことを道具としてしか見ていないのだ。

 

「アナタってホント昔から冷徹じゃないかしら。感情ってものがあるのかしら」

 

「そうか。感情ならある。今はお前の語尾がうるさくてイライラしているしな」

 

「あらそう。じゃあやめるわ。で、結局あのオモチャはどうするわけ?」

 

「元々あえて魔法少女と仲良くさせて、魔法少女諸共爆散させてやろうと考えていたんだが、今は新しい道具がある。このまま何も成し遂げられない様なら、それで始末すれば良いだろう」

 

新しい道具とはつまりユカリのことだ。

幹部の男はクロが何も成果を出さないなら、クロをユカリの手で始末させようと考えていた。

 

「へー。ねぇ知ってる?」

 

「何をだ」

 

「その道具達、最近仲良いみたいよ? 上手くいくと思う?」

 

「心配ない。新しい方には組織の命令は絶対だと刷り込んである。逆らうことはない」

 

「そっか。ふふ、あはは! 信頼してた相手に裏切られる……その時、あのオモチャはどんな反応をしてくれると思う?」

 

「悪趣味だな」

 

「悪趣味で結構。はぁ面白い」

 

「そうか。言っておくが、まだ当分は使い続けるつもりだぞ」

 

「そう? まあ楽しみは後にとっておくほうがいいものね。もしその時が来たら、連絡ちょうだいね」

 

そう言って女は気味の悪い笑みを浮かべながら

 

「だって、絶望に歪んだ表情ってきっととっっっっっっても美しいもの」

 

そう言い残して部屋を退出した。

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