悪の組織所属のTS魔法少女、はじめました   作:布団から出られない

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Memory89

真白がクロを連れてきたことによって、アストリッドと魔衣の戦闘は終了し、雪はアストリッドの元へクロを抱きかかえて連れていく。

 

茜はその光景を、黙って見ていることしかできない。

本当は分かっていた。クロを差し出す以外に、皆を助ける手段はないことを。

 

実力差が開き過ぎていたのだから、当然だ。クロを差し出したくなかったのならば、ゴブリンが魔族進化剤(エテルナアッパー)をアストリッドに渡すことを阻止するべきだった。それならばまだ、櫻がアストリッドの相手をすることもできたのだから。

 

そもそも、魔族進化剤(エテルナアッパー)がなければ、ホーク、クロコ、束、焔、美希、笑深李に加え、椿やドラゴもいたのだ。負けようがなかったはずだ。

 

(それ以前の問題よ……私がもっと強ければ………)

 

茜は、自分の実力の無さに嘆くことしかできない。努力はした。けれど、櫻達についていけなかった。なかったのだ、魔法少女としての才能が。最近一緒に櫻達と戦えていたのだって、イフリートがその力を自身に貸してくれたからだ。

 

今の茜には、ただ、クロがアストリッドに捧げられる様子を、何もせずに眺めることしかできない。

そうして、クロが雪の手からアストリッドの手へと渡り……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然目を覚ましたクロが、漆黒の大鎌で、アストリッドに攻撃を加えていた。

 

「え……?」

 

さっきまで意識はなかったはずなのに、何故?

茜は疑問に思う。そんなタイミングよく目が覚めるものなのだろうか、と。

 

アストリッドは、咄嗟に手を差し出してクロの攻撃を防御していたようだが、その手からは、微量ではあるものの出血が見られる。

 

今まで誰も傷をつけることができなかった、アストリッドの肌に、傷をつけた。

 

「真白、一体何のつもりで………」

 

「凍れ」

 

アストリッドが真白に対して、今のこの状況を説明するように要求するが、真白はお構いなしで、そのままアストリッドの足を凍結させる。

 

「裏切ったな……」

 

「もう、貴女に協力する理由はないから」

 

そう、クロを連れてきた時点で、真白はアストリッドに協力する気などなかった。

だって、クロに出会えば、もうクロが組織の“調整”から解放されていることなど、すぐに分かるのだから。

 

元々、真白がクロをアストリッドに差し出そうとしたのは、組織によって洗脳されたクロを、もう少しマシなアストリッドの方に洗脳させ直そうと考えたためだ。だが、もうクロは洗脳されてなどいない。そんなクロを、わざわざアストリッドに差し出す必要が、どこにあるのだろうか。

 

そして、茜が疑問に感じた、クロの意識の有無に関してだが、これも真白の工作によるものだ。

クロは、実際にアストリッドの元へ向かう直前まで意識を失っていた。仮にそれまでに意識を取り戻していれば、アストリッドはクロの異変に気づくことができただろう。

 

では、どうやってアストリッドの元に来た瞬間に意識を覚醒させたのだろうか。メカニズムは簡単だ。

アストリッドの元へ向かう前に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()辿()()()()()()()()()()()()()

 

そうすれば、タイミングよくクロの意識が覚醒することができる。

こうすることで、クロはアストリッドの不意をつき、今まで誰にもつけることのできなかった傷をつけることに成功したのだ。

 

アストリッドが真白の叛逆に気付く場面があったとすれば、それは雪がクロを運んでいるという部分の違和感だろう。

無関係の一般人が、何故真白に協力しているのか、そこに疑問を持ち、詳しく調査していれば、真白の野望にも気づけたかもしれない。

 

しかし、無理もない。アストリッドは舞い上がってしまったのだ。2年間ずっと待ち続けた展開に。そんな彼女に、もっと慎重になれと助言しても、彼女は聞くことはないだろう。

 

「よく私の裏をかいたものだ。けれど、残念だったね。クロが私につけた傷は、所詮擦り傷。次は不意打ちを喰らうつもりはないし、君達の敗北は覆せないよ」

 

「さあ? それはやってみないと分からないんじゃない?」

 

「…‥何? ああそうか。(クロ)は知らないんだね。今の私の実力を。君が怪人強化剤(ファントムグレーダー)を使ったとしても、今の私には勝てない。2年前に私に勝てたばかりに、勘違いをしてしまったのかな? だったら申し訳ないことをした。私は君が思うより、ずっっっっと強いんだ」

 

クロとアストリッドは、互いに余裕の表情を崩すことはない。

アストリッドは、自身の圧倒的な実力への自信から。クロの方は、よく分からないが自身に満ち溢れている。

 

アストリッドは、クロに対して攻撃を加えようと、その右手を振り上げる。

クロは、そんなアストリッドに対して、無防備にも自分の姿を晒し続けている。

 

そして、アストリッドが拳を振り下ろそうとした時……。

 

アストリッドのその頬が、赤色に染められる。

 

アストリッドの手は、まだ振り下ろされてはいない。つまり、これはアストリッド自信から出た血液だ。

 

誰が?

クロではない。クロは、先程からずっとアストリッドに対して無防備な姿を晒し続けている。

 

「何で、生きている……?」

 

そう、アストリッドを攻撃したのは……。

 

「お姉ちゃん、お待たせ」

 

クロの妹、ユカリだった。

 

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

 

クロ達がアストリッドの相手をしてる間、茜達は、アストリッドとの戦闘によって負傷してしまった櫻達の治療をするために、彼女らを運ぶ作業に移っていた。アストリッドと戦闘しているのは、クロ、ユカリ、真白だ。魔治療のためにアストリッドとの戦闘を中断し、こちらに回っている。

 

今この場にいるのは、茜と雪。

 

そして、アストリッドの元までユカリを誘導した、朝霧千夏という少女と、その隣にいる、フリフリの魔法少女の衣装を纏った、銀髪をツインテールにした少女だ。

 

魔衣は一足先に、櫻と束を運びに行った。

 

「本当に、任せていいのね?」

 

「一応、あんたの仲間の妹だし、信用して欲しいんだけどな」

 

「別にるなは千夏(あんた)に協力したわけじゃないから、勘違いしないでよね。しろのためなんだから」

 

茜が焔、千夏が美希を、そして、るなと自称している少女が、笑深李を運ぶことになった。

雪は櫻の兄である椿を運ぶことに。しかし、そうなるとホーク、クロコ、ドラゴの3人を運べる者がいなくなる。

 

「ちょっと待ったー!」

 

「まったー!」

 

そんな彼女らの元に、2人の少女がやってくる。

櫻が面倒を見ている後輩の魔法少女、真野尾美鈴と、魔族と人間のハーフの少女、龍宮メナだ。

 

2人は、焔を茜からぶんどり、自分達が運ぶと主張している。

 

「おい……俺も歩くくらいならできるぞ……」

 

「アストリッドの奴は、椿の方に夢中で、あまりわしには重い攻撃を加えてなかったのでな。わしもまだ動ける」

 

そしてどうやら、ホークとドラゴも、戦闘できる状態ではないものの、治療の場まで歩いて行くことはできるようだ。

 

つまり、残り運び出さなければいけないのは、クロコという魔族の少女と………。

 

「こいつはどうすんだ?」

 

千夏が、指を指したのは、ゴブリン。

組織の元幹部で、アストリッドに協力するも裏切られ、倒れた男だ。彼は敵だし、助ける必要などない。だが………。

 

「私が運ぶわ」

 

茜は、見捨てるという選択をしなかった。敵なのに。仲間が傷付く原因を作り出した相手なのに。それでも茜は、ゴブリンを助けることにした。

 

「そうなると、クロコを運べる奴がいなくなる。放っておけ、そんな奴。どうせ裏切られるだけだ」

 

ホークは乱雑にそう言い放つ。確かに、彼の言う通り、ゴブリンを今助けたところで、どうしても裏切られるリスクは発生してしまう。櫻達のことを思うなら、同じ治療の場に連れて行くのもあまりいい判断ではないのかもしれない。だが……。

 

(敵だからって見捨てたら、クロだってそうしなきゃいけないじゃない)

 

茜の善性が、それを許してはくれない。

 

だから、茜はクロコとゴブリン、その両方を自身の両肩に乗せ、連れて行こうとする。が、少女の体では、その重さには耐え切れず、転倒してしまう。

 

再度2人を運ぼうと、立ち上がる茜だったが………。

 

ふと、片方の肩が、随分と軽くなる。

落としてしまったのかと、焦って後ろを振り返ると……。

 

「やっぱりお前は、良い女だな」

 

茜の体から抜け出したイフリートが、ゴブリンの肩を担いでいる姿が、そこにはあった。

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