悪の組織所属のTS魔法少女、はじめました   作:布団から出られない

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Memory95

とりあえず、愛の友達作りは何とかなりそうかな。

まぁ、あんなにもすぐに茜と仲良くなられてたっていうのは…正直親友としては複雑な気持ちはあるけど。

 

「帰るかぁ……」

 

さっきまでは帰るふりして、こっそり愛の跡をつけていたけど、見た感じもうそんなことをしなくても大丈夫そうだ。

そう思った俺は、今度こそ本当に家に………。そういや俺家ないや。

 

「雪のとこ泊めてもらうかぁ」

 

俺は愛に見つからないよう、こっそり雪の住んでいるアパートに足を進める。

周囲に人の姿は見えない。今の時間帯は学校やってるし、そういう問題もあるんだろう。ちなみに茜は学校を休んでわざわざ愛と話してくれていたらしい。優しいね。

 

「んーっ。なんかいい気分〜」

 

俺は空高く両手を掲げ、目一杯伸びをする。

親友とのわだかまりは解消できたし、組織も抜け出せた。気分は爽快。

このいい気分のまま、今から愛しの妹の家にお邪魔しにいくのだ。

 

「しゅっぱつしんこー」

 

「随分とご機嫌だね、クロ」

 

大きく声を張り上げ、雪の家に向かおうとした俺に、声をかける女がいた。

神々しいオーラを纏い、厨二感の溢れる大きな翼をその背中に生やし、カラフルな髪を持った、吸血鬼。

 

そう、彼女の名は………。

 

「アスト………リッド………!」

 

まずい……。

しばらく歩いていたせいで、愛や茜のいる場所からはかなり離れている。

櫻は学校に通っているだろうし、双山魔衣の家も遠い。今、アストリッドの相手ができるのは、俺だけだ。

 

油断してた…。てっきりしばらくはユカリの毒で動けないもんだと思っていたから。

 

勝てるのか……?

この前と違って、ユカリもシロもいない。俺だけで、吸血姫の相手をしなければならない。

 

俺が…‥1人で。

 

「クロ、素直に私のモノになってくれるっていうなら、手荒な真似はしない。どうかな?」

 

「死んでもゴメンだね。仕えるならもっと若いお姉さんがいいしね」

 

「ふぅん? 生意気だね」

 

アストリッドはその顔に笑みを浮かべながら、掌の上で真っ赤な液体をクルクルと弄ぶ。

 

特別召喚(オーダーメイド)血狂いの魔刃(吸血鬼のナイフ)

 

やがて、真っ赤な液体はナイフのような形状へ変化していく。

 

「さぁ、行くよ」

 

アストリッドの攻撃宣言。

それを聞いて、俺はステッキを取り出し…………。

ステッキを、取り出して………。

 

 

あれ……。なんでだろ………。腕が………上がらない。

 

「反応鈍いね。()()()()()()()()()

 

見ると、俺の右腕からは、血がダラリと垂れていた。

切られたのだ、(アストリッド)に。それも、目の前で相対している俺が認識できないくらいの、驚くべきスピードで。

 

シロの防御がなければ、俺はこんなにも無力なのか。

 

「左ももらうよ」

 

宣言通りに、俺の左腕は一瞬で機能停止に追い込まれる。

 

ユカリの毒がなければ、反撃することはおろか、反応することすらできないのか。

 

現在時刻は3時。

櫻は部活をやっていない。なら、耐えるのは後1時間でいい。けど……。

 

「それじゃ、トドメ、刺そうか」

 

俺はもう……。

 

恐怖のあまり、目を閉じ、俺はその瞬間を待つ。待ってしまう。

完全に、弱者に。狩られる側へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風を切る音がする。

アストリッドが移動する音だろうか。

数刻もしないうちに、肉が裂かれる音がする。血飛沫が舞い、地面を赤く染め上げる。

 

 

だが、俺の体には、さっきつけられた右腕と左腕の傷以外で、新たな傷はついていない。

 

つまり………。

 

 

俺はそっと、閉じていた目を開ける。

 

櫻か? それとも茜? もしくは、来夏だろうか? 来夏なら、もしかしたら学校をサボることもあり得るかもしれない。

 

そんな風に、微かな希望を持って、俺の視界は光に包まれていく。

 

「ごめん、クロ。今まで助けられなくて」

 

目の前にいたのは、俺の代わりにアストリッドの攻撃をその身に受け、それでも尚そこに立ち尽くす、1人の人物。

 

櫻でも、茜でも、ましてや来夏でもない。

 

そもそも魔法少女でもなければ、魔族なんかでもない。

 

そう、彼の名は……。

 

「辰樹…」

 

広島辰樹。

俺のことが好きな、思春期の男子高校生だった。

 

 

 

 

 

☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★

 

 

 

 

 

 

「でしゃばりは嫌われるよ、辰樹。興醒めするようなこと、しないでくれるかな?」

 

「生憎、まだ俺は告白の返事を貰ってないんだ。だから、意地でも抵抗させてもらう」

 

辰樹はアストリッドと対峙する。

普通の人間なら、今のアストリッドの攻撃を耐えきれずに、地面に伏しているところだろうが、辰樹はそうはなっていない。

 

辰樹の体は、ほのかに魔力の衣のようなものが覆っている。これによって、アストリッドの攻撃を多少は耐えられるようになっているのだろう。そして、辰樹のその手には、魔力で作り出されたであろう、真っ黒な、俺の持つものと似たような、大きな鎌が握られていた。

 

「クロ、この戦いが終わったら、告白の返事を…」

 

「えっと、それはごめん。お断りさせていただきます」

 

「ゔぇ? 今いうの!? ちょ、ちょっと待ってよ! い、いや、覚悟はしてたけど……い、今なの………待って、ごめんむり…………」

 

「いや、だって今言っとかないと、それ、死亡フラグみたいだし………」

 

俺の言葉に、辰樹は動揺しつつも、しっかりアストリッドの攻撃を受け止めている。いや、いつのまにこんなに戦えるようになったんだろ。覚醒でもしたのだろうか。

 

後、告白の返事については、変にここで期待させてしまうのも、辰樹に悪いかと思って、早めにさせてもらった。ちゃんと悩んで、考えて、きちんと出した結論だ。後悔はしてない。けど、今更ながら今いう必要はなかったんじゃないかなって気もしなくはない。

 

「あーもう分かった。俺の告白は断られたってことだな。でもいいんだ。俺がクロのこと守りたい。だから守らせてくれ」

 

辰樹はアストリッドの相手をしながら、俺に話しかける。随分と器用なんだなぁ。でも、今の辰樹の言葉には、賛同できない。

俺はいつも、誰かに攫われたり、誰かに守られたり、誰かに心配させたり。

そんなことばかりだった。

そんな自分が、嫌でしかない。

 

こんな情けない自分()じゃ、()に顔向けできない。だから…。

 

「ごめん、辰樹。守らせてもらってばっかじゃ、私が納得できない。だから……」

 

俺は、頭上にホワイトホールを出現させ、前回の戦いで取り込んだアストリッドの血の刃を取り出し、遠隔で操作を開始する。

 

「一緒に戦わせて」

 

俺のモノになった無数の血の刃が、アストリッドに降り注ぐ。

 

「私の技を勝手に使うとは、いい度胸だね」

 

アストリッドは余裕の表情を崩すことはない。が、辰樹の攻撃を、完全に見切っている、というわけでもなさそうな様子。

 

なら、櫻達がやってくるまで、時間を稼ぐことができるかもしれない。

 

生憎、俺の両手は塞がっていて、櫻達に連絡を取ることはできない。だが、アストリッドの魔力の存在感は異常だ。

そこにいて、その圧倒的な魔力量をもってして、戦闘を繰り広げれば、自然と彼女の存在は魔法少女達に感知されることになる。

 

「なるほどね、そういうことか」

 

アストリッドは辰樹の攻撃を見ながら、考え事をしているようだ。

攻撃の対処をしながら考え事ができているわけだから、彼女の余裕はまだまだ崩せそうにない。

 

だが、それでいい。時間さえ稼げれば。

 

俺は、アストリッドに血の刃を降り注ぎ続ける。

 

 

が……。

 

 

「私が自分の攻撃にやられることはないね」

 

 

その全てを、あっさりとかわされてしまう。

 

 

 

「それと、何度もやり合ったことのある相手だと、攻撃の癖とか全部、分かってくるんだ。だから、私には通じない」

「そう、辰樹。()()()()()()

 

瞬間、辰樹の体は後方へ大きく投げ出される。

 

どういうことだ?

さっきまでは互角に渡り合えていたはずなのに……。

 

「さっきからずっと違和感を感じていたんだ。どこかで見たことのある魔力だなぁって。何度も目にしたような、それこそ、何度も戦闘を繰り返した相手が使っていたような……そんな不思議な感覚があったんだ。でも、これではっきりした」

「君は、そんなとこに潜んでいたんだね、()()




我ながらアストリッドがしつこすぎるなぁと。まあ、それぐらい強い執念を持っているんでしょう。
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