──記憶の庭。過去をたどる。FREE TIME。これは忘れているだけの記憶。ただ意識の根底に眠っているだけ。
──思い出す。深く息を吐きながら思い出す。
「やれやれ、酷い目にあった……あたしじゃなくておタマさんが」
揉みくちゃになったタマをなんとか助けてから猫の集会所から避難した月歌。まだまだ遊び足りないぜ! と言わんばかりに練り歩いていると、最も信頼する相棒が一柳隊と話しているのを見つけたので、何か面白そうなことでもあると思って近づいていく。
「ぁああんん! 梨璃すわぁあああんん!! いづこへ行かれましたのーー!!?」
「あんた相当うるさい奴だな、やかましさだけならウチの月歌といい勝負だ」
「あはは、でも戦闘中はすっごく頼りになるリリィなんですよ。たしかにその、ちょっと暴走するのは玉に瑕ですけど」
「玉に瑕なんて可愛いレベルならよかったんじゃがのう」
「お黙りちびっ子一号二号!」
「まぁ、どこも変人の1人や2人いるってことか」
「あなた方の場合一人二人で済んでないように見えるのですが……」
「やっほーユッキー、ふーみん、ぐろっぴ、ぬべっち」
月歌が声をかけると、こちらに振り向いてくる面々。ユキは「こいつまた絶妙なタイミングで来やがったよ」みたいな顔をしている。
「月歌か……相変わらず自由時間は遊び倒してんだな」
「えっ、ちょっと待ってくださいまし、ぬべっちってまさか私のことですの?」
「ジェイとかの方がよかった? でもごめん、あたしにとってJはメンイ○ブラックだけなんだ」
「いやそういう問題じゃないですわ!?」
「ぬ、ぬべっち……ぷくく、似合っておるぞ楓よ」
「そんなことより何の話してたの?」
「そんなこと!?」
きームカつきますわー! と怒る楓を宥める二水を横目に、また騒がしいことになりそうだと呆れながらユキが答える。
「今まさに変人の代表格であるお前の話をしようと思ってたところだよ」
「マジ? そんなタイミングで会えるなんて運命だね、きゃっ! あ、ここ古のネット小説にありがちな『//////』で照れてるからね」
「やめろ引っ付くな! つーかなんでそんなこと知ってんだよ、今どきそんな表現滅多に見ないわ」
「ハッカーのくせにアンテナが低いぜユッキー、ネットの海は膨大なんだよ? なんか唐突にハガ○バをライバル視してくる変なネット小説とかあるかもじゃん」
「いやそれやってたのはお前だろ……」
「はぁ……相変わらずわけのわからないイチャつき方ですわね」
「まぁアホな漫才でイチャイチャするタイプは意外といなかったから新鮮でいいんじゃがの」
「イチャイチャしてねー! あーもう、他所様にまでイチャついてると思われちまったじゃねーか!」
「あはは……月歌さん、ごきげんよう」
「ごっきー」
「ごきげんようをユッキーみたいに略すな、恥ずかしいわ」
「……ねぇユッキー、もしかして、なんだけどさ」
「なんだよ?」
神妙な顔をする月歌に、ユキも思わず身構える。
「ここってすげーおじょーさま学校? なんか挨拶がごきげんようだし上級生のこと様付けで呼んでるし、あたしらめっちゃ浮いてね?」
「今さらーーー!!?」
「えっ」
「お前今さらそこかよ! 一目見た時点でなんとなく察せよ! 服もそれっぽいし何より所作が全然違ったろ! つーかだからお前らといつものノリするのが恥ずかしかったんだよ!」
「まじか。よしユッキー、なら今からでもお嬢様っぽい喋り方しよう! とりあえず語尾にですわってつけとけばいいんだろ! 菅やんみたいに!」
「なんだか今私までサラリと馬鹿にされた気がしますわ」
「おほほほ!! お嬢様ですわぞ〜!」
「なんか國見辺りが好きそうなこと言うのはやめろ! マジでちょっといい加減にしろよお前!?」
ぎゃいのぎゃいのと騒ぐ月歌とユキ。
「こんなユルユルな連中が、本当に連絡の取れなくなった陥落地域の生き残りなのかのう?」
「そ、それです! えっと、月歌さん、ユキさん。つかぬことをお聞きしますが、貴女方の生活について、差し支えない範囲でお聞きしたいのですが!」
「えっ」
「月歌さんたちは陥落地域からいらっしゃったんですよね?」
「ちょ、ちょっと待ってね」
ユキに顔を近づけてヒソヒソと内緒話をする月歌。
「どうするユッキー?」
「東城がそう誤魔化してくれたんだからそういうことにしとくしかないだろ。今はなんか適当に誤魔化しとけ」
「まぁそうするしかないよな」
そうして内緒話をやめて楓達と向き直る月歌。多分こういう時にさりげなく距離感クソ近いから周りから囃し立てられるんだと思うんすけど。
「あー、まぁそうなんだけど、あんまり言いふらすな的なサムシングブルーを言われててな」
「なんでウエディング風なんだよ結婚でもすんのか。サムシングでいいだろ。なんなら的なって言ってるからサムシングもいらないだろ。もっと言えば的なってのも別に言わなくていい若者言葉だからな」
「ユッキー手厳しい! 特に意味のない雑談しないとあたし死んじゃうのに!」
「はいはい」
月歌って母親関係で何か悲しい過去ありそうだしちょいちょいギャグで結婚観とか語るのは多分伏線だよね。
「気になるのは同感ですが、学院側からもあまり詮索しないようにというお達しが出ているし、仕方ありませんわね」
「百由様は相当気にしておったがのう。あれは何かワシらには聞かされてないことを知っている時の顔じゃった」
「鳥の特型ヒュージを倒した後の説明の場には、百由様もいらっしゃったんですよね」
「あの時、か……月歌、ちょっといいか」
今度はユキの方から月歌に顔を近づけて内緒話をする。多分こういう時にさり気なく距離感(ry
「あの時、覚醒した東城は何を言ったんだ? 多少怪しくても人がいい奴なら深く追求するのをやめちまうような、何か同情されるようなことでも……」
「気になるけど今のつかさっち自身も分かってないみたいだったし、気にしても仕方ないよ」
「そりゃそうだがなぁ……まぁ騙すみたいで気が引けるが、あとはワームホールが開いて帰れるのを待つか」
「またヒソヒソ話ですの?」
呆れたような楓の言葉に内緒話を切り上げる二人。
「ああごめんごめん、まぁこの年になると、聞かれたくない話の一つや二つ出てくるのさ」
「いやどう見ても同い年くらいじゃろうて」
「はぁ……貴女方と話していると退屈しませんわね。頭も痛くなってきますが」
「ぬべっち大丈夫? 一服する?」
懐から箱状のものを取り出す月歌。
「えっ、月歌さん喫煙者なんですか!? いえアーティストのアウトロー感は確かに魅力ではあるんですけど、なんかショックです……」
「いんや。ココアシガレットだよ」
「相変わらずそれ好きだなお前。いつの間にそんなもの買ってきたんだよ」
「結構ですわ。甘いものならちびっ子二号にでも差し上げてくださいな」
「お主、ワシが甘いものを見たら見境なく飛びつくと思っておらんか? まぁ頂くがのう」
「ほぉーら、やっぱりちびっ子じゃありませんの」
「……ところでさぬべっち」
「なんですの? というか本当にわたくしの呼び方はぬべっちで固定なんですのね」
「あのさ、マジで変なこと頼むんだけどさ」
「あ、あの脈絡のない月歌が事前に変なことって言うだと?」
一体どんなことを言うんだ、と唾を飲み込んで見守るユキと、その雰囲気に釣られて緊張する二水とミリアム。
「ねっとりした姐御風の喋り方で『茅森のパンツゥ』って言ってみてくれない?」
「なんですのそれ!? 新手のというか単なるセクハラですわよ!?」
「いや知り合いと声が似てたからつい」
「知りませんわよそんなこと! わたくしがそんな下品なこと言うわけがないでしょう!!」
「じゃあ『梨璃さんのパンツゥ』でお願い」
「ふへへっ、ふひふへへへへ…… 梨璃さんのパンツゥ……はっ!」
「おおっ、あたしのパンツ奪った時の蔵っちとやっぱ似てる!」
「うわ、マジか、さすがのワシもちょっと引くぞ楓」
「というか仲間から下着を取られるって、どんな状況なんですか?」
「どうせくだらない理由だ、聞かない方がいいぜ二川」
「こ、これは月歌さんの巧みな誘導のせいですわ! 私は決して、梨璃さんの下着を盗んだり飾ったりしたいだなんて思ってませんわ!!」
「これ以上ないってくらい雑な誘導だったじゃろうが」
「普段から思ってないと咄嗟にアレは出ませんよね」
「ええいお黙りちびっ子たち!!」
「やっぱり、どこの部隊にも変人はいるんだなぁ」
「貴女方にまで変人と思われるのは甚だ心外ですわーーー!!!」
その後も雑談を続けるというかふざけ倒す月歌と彼女にツッコミを入れる面々。
「そういえばユッキー、こっちにきてからKETSUの具合どう?」
「やめろおおぉおおおお!!!! その名を何も知らない奴らの前で言うなぁあああ!!!」
「臀部をお怪我でもしたんですの?」
「いや、ユッキーが作ったAIの名前」
「まじか、まともそうに見えてお主も相当じゃの」
「んあああぁああああ!!! どうしてこうなるんだよおおお!!!!」
そうしてしばらく話していたのだが……突然、二水が意を決したように拳を握りしめて声を出す。
「あっ、あの、月歌さん、ユキさん! やっぱりお聞きしたいことがあります!!」
「二水さん? ですから、あまり詮索は……」
「その、具体的な情報を聞きたいわけではなくてですね!」
「ほうほう?」
「遠方でヒュージに囲まれて、物資もなくて、私たちよりも辛い戦いをしてきているはずの皆さんが、どうしてそんな風に明るく振る舞えるのか、そのお気持ちを教えて頂きたいんです!
「気持ち?」
「それを多くの人に知ってもらえれば、リリィの皆さんの励みにもなるのではないかと! 辛いときに、同じように頑張ってる人の言葉を思い出せれば、頑張ろうって気持ちになれると思うんです!」
「二水……お主」
「あっ、ごめんなさい! 急にこんなこと頼まれても、迷惑ですよね」
「迷惑なんかじゃないよ。でもそうだな」
自分達の世界とこの世界について考える月歌。
ここの人々はドームで隠れ潜んで住む必要はない。テレビも雑誌もバックナンバーを消費してるだけではなくバンバン新作が出ている。学校だって普通に開いている。
それでも……
「ここと何も変わらないさ」
「え?」
「みんな大切なものを守るために必死に戦ってる。そうやって泣いて、笑って、生きて、死んで、また生まれる……こことおんなじ、だよ」
どこか遠くを見るような表情で語る月歌は、先ほどまでふざけ倒していた彼女とは別人のようであった。
「そう、ですよね……すいません、変なことを聞いてしまいました」
「ジャーナリストのサガってやつでしょ? 気にしないでよ」
「でっ、では! バンド活動の方についてお聞きしてよろしいですか?」
「おおっ、そういうんならなんでも聞いてくれ!」
「やっぱ歌ってる時と真面目な時はクソかっけぇんだよなぁ」
「そしてそういう所に惚れ込んでいる、というわけですわね」
「べっ、別にそういうんじゃ……いや、そうだな、認めるよ。あいつはすげぇ奴だよ」
「分かりますとも。運命というものを信じたくなる瞬間、この方になら自らの全てを捧げてもいいと思える相手との出会い……私にもありましたから」
「いい話風に纏めておるが、それはそれとしてセクハラはやめるんじゃぞ」
「余計な茶々を入れるんじゃありませんわ!」
「はっ……締まらねぇな」