──FREE TIME。記憶の修復。過去を辿る。この戦いの先に希望なんてない。でも、こうやって過ごす『今』を見つけられたんだ。だから──
「つかさっち、もう大丈夫なの?」
「ええ、最初はすっごく頭痛かったけど、今はもう平気よ」
散歩していた月歌は、反対側からつかさが歩いてくるのを見つけて声をかけた。覚醒直後は具合が悪そうだったが、今は元気そうだ。
「そいつは良かった。つかさっちはどこ行くの?」
「図書室にでも行こうと思って!」
「ほう図書室。室というより館ってくらいデカそうだけど、なにしに行くの?」
「なに言ってるの月歌さん? ここは異世界よ? ならそこの図書館でやるべきことなんて決まってるじゃない」
「こっちの世界について改めて調べるの?」
「いいえ、ファンタジー小説を漁るのよ! 異世界で異世界モノの小説を読むなんてちょっと面白いと思わない?」
「さすがつかさっち、発想がイケてるぜ」
ということで図書館へ向かう二人。予想以上の貯蔵量に驚くが、一応この世界に来た目的の一つであったはずのCHARMの資料とかはスルーして現代小説の棚を物色する。
「なってやろう系と同じような小説があるわ! へぇ、こっちではなろう系って言うのね」
「こっちはまだ出版とか諸々のインフラが生きてるんだよな」
「興味深いわ! 無職引きこもりがトラックに轢かれてなんか神様からチート能力貰って無双する流れまでそっくり!」
「まさかの世界レベルのテンプレ!?」
その後図書館でしばらく本を漁っていた二人だが、途中からつかさはパソコンを使い出して……そして突然、神妙な顔をして月歌に語りかけてくる。
「月歌さん、私はこの世界でとんでもないものを見つけてしまったかもしれないわ」
「とんでもないもの?」
「よく分かんない作中の専門用語があったからネットで調べたら出てきたんだけど……これよ!!」
そう言ってつかさがパソコンの画面を見せてくる。
「ピークルン? なにこれ」
「いわゆるなってやろう系の亜種なんだけど、このサイトは基本的に二次創作が多いの!」
「二次創作……ファンアート的な?」
「そういうんじゃなくて、最強のチート能力を持ったワイちゃんが原作知識で無双するっていう小説よ」
「なるほど、だからなってやろう系なのか」
「ええ!」
「でもつかさっち、こっちの世界の作品ってことは原作知らないんでしょ? それで二次創作読んで面白いの?」
「それがね、これが意外なほど面白いのよ」
「へぇ、そうなんだ」
「それにね月歌さん、今の自由時間で1話30分もあるアニメをたくさん見るのは不可能だけど、二次創作なら短い時間でサクサクと大体どんな作品なのか把握できるわ! 特に活字大好きな私の読破ペースを持ってすればなおさらね!」
「それは確かにコスパいいいな! でも、そんな映画を2倍速でサラッと見るみたいなことしても楽しくなくない? あたしミュージシャンだから、間の取り方とかの情緒は大事にしたいよ」
「甘いわね月歌さん。ただ雑にコンテンツを消費している訳じゃないわ。エンタメに触れることで、この世界ならではの趣向のようなものも見えてくるの」
「たとえば?」
「例えばこれよ!」
そう言ってつかさはサイトの人気ランキングのページを映す。
「このサイトではTSと呼ばれる、成人男性が女の子に生まれ変わるジャンルが大人気なのよ!」
「え、えぇ……」
ちょっと引いている月歌。
「こっちの世界の人間は、きっと少女にだけ戦わせるのが心苦しくて、リリィの代わりに闘いたいって思ってるんでしょうね……それがエンタメの趣向にも現れてるんだわ」
「そうかなぁ……単にそのサイトに変態しかいないだけじゃない?」
「月歌さん! いくら貴女でもTSを馬鹿にするのは許さないわよ!!」
「そ、そうだよな! 女の子になりたい願望を持ったやべーオッサンなんてそうそういるわけないもんな!」
「そうよ! それでこのサイトの色んな小説を読めば、こっちの世界の人気なコンテンツだとか人間性のようなものが見えてくるはずだと思うの!」
「なるほど! じゃああたしも読んでみよう!」
そうしてなぜか謎の二次創作サイトを読み漁ることになった月歌とつかさ。
「三国志ってこっちにもあるんだ……お、これも女体化モノか。へぇ、この恋王劉備ってやつは口では平和と言いつつ周りを扇動する悪いやつだったのか」
「このエイトマンってキャラはボッチだけど最強の能力の使い手なのね!」
「キラー山尾ってのはシーナアスナの家族を殺したキャラなんだな!! 許せねぇ!!」
「セイバー流っていうのは決闘中に相手を舐めてかかる嫌なライバルなのね!」
「ゴーシュってやつは誰にでも決闘を挑む狂犬なのか」
「誇張カナンって女の子は妹と一緒によく出てくるから実際に主要キャラね! 間違いないわ!!」
数十分後。
「ふぅ……短時間でこちらのエンタメにかなり詳しくなれたわね」
「ああ、楽しかった……でもこれ冷静に考えて特に意味なくない?」
「随分盛り上がっていましたね……図書館ではお静かにお願いしますね」
そこに現れたのは神琳。何を隠そう図書館に向かう月歌……というかつかさを見て跡をつけていたのだ。
(彼女らを探るなとは言われましたが、私はつかささんのあの変わりよう……どうしても気になってしまいます)
「あ、しぇんしぇんも読む? これ結構面白いよ」
「む……先ほどつかささんが読んでいたものですか? 拝見します」
(この期に及んでスパイだと思っている訳ではありませんが、特につかささんは何か隠しているのは確か。パソコンで一体なにを探っ!?)
パソコンを覗いた神琳は絶句した。神琳もサブカルチャーが嫌いなわけではないしむしろ好きだが、ネットの素人創作はちょっと刺激が強かったのだ。
特に5ch掲示板風の小説とか何が書いてあるのか全く理解できなかった。
「な、なるほど、こ、こういった文化もあるのですね……」
(ふーみんさんやグラン・エプレの紅巴さん辺りなら詳しいでしょうか?)
流石の神琳も頬をヒクつかせるが、つかさはそれに気づかずにウキウキで続ける。
「面白いわよね! 学術書とかだと無理!! ってなっちゃう私でもスラスラ読めるわ! 特に掲示板方式だと何故かいつの間にかすっごい文字数読んでるのよ! やっぱり私、活字大好きだったのね! わーい!」
無邪気に喜ぶつかさ。ちなみに掲示板方式はレスのテンプレートにすごい文字数を使っているのでつかさが思っているほど文字を読んでいるわけではない。
「……ぷっ、ふふふふ」
「えっ、あの、し、神琳さん?」
「いえ、つかささんは可愛らしい方だな、と思っただけです」
鳥の特型ヒュージと戦った時の覚醒したつかさを間近で見た神琳は、どうしても彼女を警戒してしまっていた。
だが今の無邪気な顔が嘘にはとても見えない。可憐のような二重人格かそれに近い何かなのだろう。
「差し支えなければお聞きしたいのですが」
「何かしら?」
「つかささん、貴女はなんのために戦っているのですか?」
「え、私が戦う、理由?」
「急にこんなことを聞いて申し訳ありません。ですが、聞かせていただきたいのです」
「そう、よね……神琳さんは、頭の良い時の私を近くで見たのよね」
「それもありますが、純粋に気になるんです」
貴女が信ずるに値する人間なのかどうか。とまでは言わない神琳。
「私……母親の死の真相を……」
「頭の良い私は、常に上から目線で嫌われ者だった……でも、今の仲間を失いたくない」
「いえ……それは目的であって、戦う理由じゃないわね」
「つかさっち?」
ふっ、と月歌に笑いかけるつかさ。月歌はそれを見て首を傾げる。
「私は、仲間のために……失いたくないものを守るために戦うわ」
「……そう、ですか。それが聞けて安心しました」
「神琳さん?」
今度はつかさが、笑いかけられて首を傾げる番だった。
「ご一緒にお茶でもどうですか? 雨嘉さんはめぐみさんとべったりで寂しかったんです」
「お茶? ええ、良いわよ! また私の秘蔵の美容情報を教えてあげる! 月歌さんはどう?」
「あたしはもうちょっと周りたいからやめとくよ。ここまで来たらりーりーとも遊びたいし」
「ではごきげんよう月歌さん。つかささん、参りましょう」
「ええ!」
アサルトリリィ二次の姿か? これが……