リリィバーンズレッド   作:ハルホープ

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前に書いてた鬼滅二次で、黒死牟がオリ主を鍛えて炭治郎を倒させることで、師としては実質自分の勝ちと自分を慰めるというクッソ情けない兄上を書いたことがあるのですが
いのりんのイベストでひさめっちが同じようなこと言ってて笑っちゃいました。


アイビー〜その横顔〜

 

「おー、これは絶景ベストプレイス……良い詞が浮かびそうだな」

 

 百合ヶ丘近郊の海辺。海に母親との大切な思い出がある月歌は、一人で海を見たくてここまで来ていた。

 

「……やっぱり、波の音だけは同じだな」

 

 異世界の海は、あの頃母と一緒に行った海とは違うけど、それでも寄せては返す波の音だけは記憶と同じだった。

 

 目を閉じる。思い出す。深く息を吐きながら思い出す。あの頃、母と一緒にいた記憶。そのまま頭に浮かんできたイメージを膨らませる。

 

 

(……よし、今の気持ちのコードは、こんな感じかな)

 

 思い付いたフレーズを口ずさみながら、実際に音にしようと持ってきていたギターを取り出そうとして──

 

「……あれ?」

 

 そこで改めて近くに目を向けると、どうやらただの海辺ではなく、墓がたくさんあることに気づく。そして墓の一つ一つに、女性名と思しき名前が彫ってあることにも。

 

「ここって……うちらで言うところの葬儀場か」

 

 セラフ部隊の墓場と同じように、ここのリリィにも専用の墓地があるのかもしれない、と思う月歌。

 

「そうだよな、あたしらだけじゃない……こっちでもみんな、戦ってるんだもんな」

 

 一旦曲作りをやめて、墓場の中を歩いていく月歌。この墓石の一つ一つに死んでいった……最後の希望を託された、儚くも美しく戦った少女たちの魂が眠っているのだ。平和そうに見えても、この世界は残酷だ。セラフ部隊もリリィたちも、いつ死ぬかも分からない戦場で、戦い続けている。

 

「……お互い、頑張ろうぜ」

 

 そうして、手を軽く振りながら墓場の中を歩いていた月歌。だが、途中で見覚えのある姿を見かけて立ち止まった。

 

「りーりー?」

 

「月歌さん?」

 

 ある一つの墓の前で黄昏ていたのは、一柳梨璃。月歌たちがこの世界にきてからずっとお世話になっている一柳隊の、隊長である。

 

「月歌さん、どうしてここに?」

 

「ちょっと波の音を聞きたくなってね。りーりーは……いや、なんでもない」

 

 聞くまでもないことを聞くのは野暮だと思い、月歌は梨璃の横に立って、一緒に同じ墓を見る。梨璃の前の墓標には「一柳結梨」と記されてあった。

 

「……家族?」

 

「えっと、厳密には家族ではないんですけど……大切な、大切な仲間です」

 

「そっか」

 

 それ以上何も言わず、月歌と梨璃は墓の前でただ波の音を聞いて立っていた。そしてしばらく経ってから、梨璃がポツリと零す。

 

「なんだか……月歌さんたちを見てると、結梨ちゃんのこと、思い出しちゃって」

 

「あたしらと似てる子だったの?」

 

「えっと、顔とか性格とかじゃなくて、いきなり現れたところとかが……」

 

「へぇ、そいつは中々のお騒がせガールだったんだな」

 

「ふふっ、そんなことないですよ。結梨ちゃんはすっごくいい子でした」

 

「あれ、それひょっとしてあたし達は問題児ってこと?」

 

「わっ、そういう意味じゃないです!」

 

「冗談。分かってるよ」

 

 そうして笑い合い、再び、しばらくの沈黙。

 

「……ヒュージとの戦いは死と隣り合わせだって、分かってたつもりでしたけど……つもりなだけでした。そのことに、仲間を失ってから初めて気づきました」

 

「うん……分かるよ」

 

「月歌さんも、ですか?」

 

「あたしも仲間が死んだ時は、すっごく辛かったし悲しかった。あんな思い……もう、二度としたくねぇ」

 

「月歌さん……」

 

「でもずっと暗いままだと蒼井も心配するだろうし……あたしは元気なのだけが取り柄だからさ」

 

「ただ生きるんだ、前を向くんだ……ですね」

 

「おっ、歌詞覚えててくれたんだ」

 

「はいっ、なんだか心に響いて」

 

 あっ、そうだ、と手を叩いた梨璃が、結梨の墓に向き直る。

 

「結梨ちゃん、紹介するね。この人は茅森月歌さん。すっごくお歌が上手なんだ」

 

「よろしく」

 

 そう言いながら背負っていたギターを取り出す月歌。

 

「せっかくだから、披露させてもらってもいいかな? レクイエム、ってほど高尚なもんじゃないけど」

 

「いいんですか? 是非お聞きしたいです!」

 

「よし、じゃあさっきちょっと考えてたのを何曲かいくぜ」

 

 月歌はハミングしながらギターのチューニングをする。

 

「んー、はー、あー、あー」

 

 そうして歌われるのは、悲しく、切ない曲。あえて例えるなら……私が、目覚める前の物語。

 

 ──そばにいて、これが夢でもいい。だからどうか、目覚めないで。たとえ悪夢でも、みんなを愛してたから。

 

 そんな気分にさせる……歌だった。

 

 

「結梨ちゃん……」

 

 曲調が変わる。自然な流れで2曲目に入ったのだ。

 

 それは、大切な人を思い出すような曲だった。

 

 思い出す。一緒にいた日々。何気なく覗いたその横顔を。

 思い出す。時が過ぎても忘れない。泣きそうだったその横顔を。

 

 

 

「……あっ」

 

 いつの間にか、ツゥと梨璃の頬を涙が伝っていた。月歌の歌声が綺麗で、切なくて……大切な人を思い出してしまったから。

 

 

 涙をそっと拭って思い出す。その横顔を。君の横顔を。失ってしまったものを。

 

 

 最後に、永遠に続くのではないかと思うような、サビの繰り返しの後に……月歌はギターを置いた。

 

 

 

「……聞いてくれてありがとう」

 

「すごい……やっぱりすごいです、月歌さんの歌! なんというか、魂が籠もってる感じがして!」

 

「へへっ、ありがと」

 

 月歌は梨璃の涙に気づいていたが、敢えて問いただすような野暮な真似はしなかった。

 

「結梨ちゃんは……私たちを守ってくれたんです」

 

「うん」

 

「本当は、私が守らなきゃいけなかったのに……」

 

 その時のことを思い出したからか、唇を噛み締めて悔しそうにする梨璃。そんな梨璃を見て、月歌の口は勝手に動いていた。

 

「あたしが言うのもなんだけどさ……その子は、きっと満足してると思うよ」

 

「えっ?」

 

「これはあたしの考えだけど……死んだように生きるくらいなら、死んでもいいと思えるようなことで死にたい」

 

 自分の意志ですら動けないようになって、ただ死んでないだけの人々を見たことが、月歌の行動原理に大きな影響を与えていた。

 

「逃げて逃げて、自分以外の誰かが代わりに傷ついてくれて……そんな風なのは、嫌なんだよ」

 

「月歌さん?」

 

 常に飄々としている月歌にしては珍しく、語りに熱が入っているのを、不思議そうに見る梨璃。それに気づいた月歌は、バツが悪そうに笑った。

 

「ごめん、気にしないで……ちょっと、思い出しちゃって」

 

「先ほど仰っていた、亡くなったお仲間のことですか?」

 

「それもだけどさ……母親のこと」

 

 母親、と口にする月歌の表情は一見いつもと変わらないが……なぜか梨璃には、その顔が悲しそうにも寂しそうにも見えた。

 

「月歌さんの、お母さん?」

 

「子供の頃、母親に海に連れてってもらったことがあってさ。こういう所にいると……つい昔を思い出しちゃうんだ」

 

 母親に海に連れてきてもらった。月歌の口ぶりからして、何だかそれだけではない気がした梨璃。それ以上の、大切な思い出があるような……

 

 でもきっとそれは、月歌にとって本当に大切なことで、簡単に話してくれるような内容ではない気がした。だから梨璃も、わざわざ問い詰めるようなことはしなかった。

 

 その想いは言葉ではなく歌にして梨璃や結梨に……ここで眠っているみんなに届いただろうから。

 

 

「さてりーりー、ここはしっぽりとココアシガレットで一服するかい?」

 

「え?」

 

 重い雰囲気になってしまったのを察した月歌が、殊更に明るい声を出しながらココアシガレットを取り出す。

 

「映画とかである、お墓の前でタバコ吸うシーンってカッコイイじゃん? 一回やってみたかったんだよね」

 

「そ、そうですか? 歌ってる月歌さんの方がカッコイイと思いますけど」

 

「まぁまぁ騙されたと思ってやろうよ。大丈夫大丈夫、これはそう言う怪しいんじゃないから。ぐへへ」

 

「あ、それじゃあ私からも、ラムネをお裾分けです! 乾杯しましょう!」

 

「あ、うん。ツッコミがいないとやっぱり寂しい」

 

「月歌さん?」

 

「なんでもない」

 

 そうして月歌はラムネを、梨璃はココアシガレットを受け取る。

 

「まーあれだ、大変なことも色々あるけど……お互いがんばろーぜ!!」

 

「はい! これからもがんばりましょう!! カンパーイ!」

 

 

 こうして、リーダー同士の小さな宴が、開かれた。

 

 

 

 

 

 

 ✿ ✿ ✿

 

 

 

 

 

 ヒュージが移動するケイブと、異世界からキャンサーが訪れるワームホール。

 

 もしもそれが、同じ場所に同時に発生したら……

 

 

「GYAAAA……」

「GUUUUU……」

 

 

 キャンサーは共食いしない。だがヒュージは共食いする特型の個体も存在する。

 

 もしもヒュージがキャンサーを喰ったら……二体の化け物が混じり合ったら……それは最早、別の怪物だ。

 

 

「──────!!!!」

 

 

 ヒュージでもキャンサーでもない、この世界に発生した巨大な癌細胞。

 それは、まっすぐに百合ヶ丘へ向けて動き出した。

 

 




3章で月歌が言ってた自分で体を動かすこともできない人を見て云々のシーン、多分まだ裏があると思うんですよね。
個人的には月歌が母親を介護してたとかのいつものだーまえとは逆パターンで来るんじゃないかと思ってます。
音楽作り以外の作業が増えてめんどくさくなったからバンド解散した、ってのも実は介護の時間取れないからだったりして……と妄想してみたり。
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