A.作者はめぐみん推しなので思いついた話を書いてたらこうなった
──記憶の庭。過去をたどる。FREE TIMEは終わらない。その代償は……なにかのLIFEなのか。
「月歌、ちょっといい?」
「ん? ゆっちゃんじゃん! どしたん?」
「ゆ、ゆっちゃん?」
自由を満喫してその辺を歩いていた月歌に、雨嘉が話しかけてきた。雨嘉は月歌の変なあだ名に一瞬面食らったが、気を取り直して話しかけてくる。
「その、めぐみのことで話が」
「めぐみん? そういえばゆっちゃん、よくめぐみんと話してるよね」
「わたし……」
そこで言い淀む雨嘉。
月歌は、めぐみの本心……本当は不安な心を、預言者から言われた『救世主』という言葉に支えられて空元気で振る舞っているだけなのを知らない。
だがそれは雨嘉から月歌に伝えるのは違うだろう。
(それでも私はめぐみに、自信をつけてもらいたい)
自身がなかった頃の自分に、神琳が無理矢理自身をつけさせてくれたように。だから自分になにかできることはないかと思ったのだが、口下手な雨嘉にとっては、めぐみの本心を伝えずに彼女に元気を出してもらいたい、というのを説明するのが難しかった。
「ふふ、雨嘉さんはめぐみさんに興味があるんですよね?」
「神琳!?」
「しぇんしぇん!」
「まぁ、しぇんしぇん? そんな風にあだ名で呼ばれるのは、新鮮ですね」
なんと伝えるべきか言い淀んでいた雨嘉に助け舟を出したのは、神琳だった。
「神琳、どうしてここに?」
「雨嘉さんが会ったばかりの方に興味を持つなんて珍しいですからね、私も興味が湧いてきたんですよ」
「こ、これはまさかドロドロ昼ドラの予感!?」
「いや、月歌も何言ってるの……」
「月歌さん、めぐみさんは普段どんなことをしてらっしゃるんですか?」
両手をグーにして口元に持ってくるぶりっ子ポーズで意味の分からないことを言う月歌にツッコミを入れる雨嘉と、特に気にせず話を続ける神琳。
「めぐみんはおタマさんと仲が良くて、よく一緒にいて……暇な時は基本瞑想してるよ。なんかサイキックの修行なんだって」
「ほうほう」
「でも私が近くで瞑想してると『せやから瞑想すな!』っていっつも止めるんだよねぇ」
「そうなの?」
「なんかアタシがサイキックに目覚めたらキャラ被るし、ロッカーかつサイキッカーがいたら純正サイキッカーのめぐみんの影が薄くなる! ってさ。自分で言うのもなんだけどあたしって天才肌だからさ、ちょー頑張ればサイキック使えると思うんだよねぇ」
「……それだ!」
「うおっ?」
突然大声を出した雨嘉に驚く月歌。
「雨嘉さん、何か妙案が浮かんだようですね?」
「私は、神琳が私にやってくれたみたいな、強引にでも納得させる、みたいなのはできないけど、それでも勇気や自信を持って欲しいから」
「んん? なんか知らんがめぐみんに用があるなら、面白そうだからついていくぜ!」
「ええ、私もお供しますよ」
めぐみを探しに歩き出す月歌、雨嘉、神琳。
「雨嘉さん」
途中、月歌に聞こえないように、神琳が声を潜めて雨嘉に囁く。
「めぐみさんを気にするのは、以前仰っていた、彼女だけ少し辛そうな顔をしている件で?」
「うん、めぐみは……強がってるけど、私と似てた。自信が持てなかった頃の、私に。それでその、本当は不安なのに無理して強がってると、何かの拍子に折れちゃいそうで、心配で」
「そして、雨嘉さんなりのやり方で、励まそうとしている、と。うふふ、ご立派ですよ、雨嘉さん」
「神琳もあの時、今の私みたいな気持ちだったのかな?」
「いえ、私はもっとイライラしていましたね」
「え? ちょっと神琳、それって……」
「お、いたいた、やっぱり瞑想してるな」
二人の会話はめぐみを見つけた月歌によって中断させられた。めぐみは目を瞑りながら上を向いて瞑想している。
「それじゃあ、行ってくるね」
「ええ、頑張って下さい雨嘉さん」
「ところでしぇんしぇん?」
「はい、なんでしょう?」
「ゆっちゃんが何をするつもりなのか知ってる?」
「いえ、私にもさっぱりです」
めぐみの隣に立つ雨嘉。何をするかと思えば……そのまま同じように上を向いて目を瞑り、瞑想を始めた。
(私が瞑想して、それでサイキックに目覚めなければ、めぐみは自分を特別だと思ってくれる、かも!)
ちょっと微妙に、雨嘉の作戦はズレていた。
「せやから瞑想すな! 自分までサイキックに目覚めたらウチのキャラが薄なるやろ! 自分はロッカー!! ウチはサイキッカー!! 住み分けしっかりしようや、新規客呼びたいソシャゲやないんやからクロスオーバーはいらんねん!!」
「わっ、あの、めぐみ?」
「ゆ、雨嘉? なにしとんねん自分。てっきり月歌かと思うたわ」
隣に気配を感じて、こんなことをするのは月歌しかいないと思って怒鳴っためぐみは、目の前にいるのが雨嘉だったことに驚いたようだ。
「あたしもいるよめぐみん」
「なんややっぱり自分の差し金かいな」
「その、めぐみに、サイキッカーは特別で、なろうとしてなれるようなものじゃないって、分かって欲しくて」
「周りくどいわ! ちゅうかそれでもし本当にサイキックに目覚めたらどないすんねん! 『あれ、私、また何かやっちゃいました?』って、東城の好きなラノベか!」
「でもめぐみん、ゆっちゃんってスナイパーでしょ? 曲がる弾丸とか撃てたら面白そうじゃない?」
「確かにそうですね……今以上に戦術の幅が広がります」
「せやから雨嘉をサイキッカーの道に引き込もうとすな!! ちゅーかなんで神琳までおんねん!」
「でもロッカーでサイキッカーよりはスナイパーでサイキッカーの方が自然じゃない? スナイプ能力の一つって感じでさ」
「雨嘉にサイキックと銃撃の合わせ技とか生み出されたら、サイキッカーなのに剣ブンブン振ってるだけのウチがアホみたいやろ!!」
「えっと、あの鳥のヒュージと戦ってるときに助けに来てくれためぐみ、カッコよかったよ?」
「いやフォローが痛いわ!」
「サイキック……人を浮かせて3次元的軌道が可能になれば、ノインヴェルト戦術の運用の幅が広がりますね……ぜひわたくしにもご教授願いたいです」
「いや真面目か! なまじ生き死にに関わることやから拒否しにくいわ! せやけどウチかて水浮かせるのがやっとやから人浮かすとかそういうんはご教授できへんわ!」
「まぁ、そうなのですか? その、どうかお気を悪くしないでください。ほんの思いつきですから」
「せやからフォローが痛いわ! なんやねんさっきから!」
「も、もう! 神琳も月歌も、ちょっと離れてて! 大事な話なの!」
「そ、そんなっ、雨嘉さんに追い出されてしまうなんて!?」
「やはりこれはドロドロ昼ドラの予感!?」
「もうっ、二人とも!」
「あははっ、んじゃーねー、めぐみん、ゆっちゃん」
「ではお二人とも、ごきげんよう」
ヒラヒラと手を振ってどこかあてもなさそうに歩いていく月歌と、面白がってそうな表情のまま月歌についていく神琳。
「ったく月歌のやつ、相変わらず自由なやっちゃな。調子狂うねん」
「神琳も、普段は真面目なんだけど、はっちゃける時はとことんまでやるタイプだから」
「は、お互い苦労してるようやな」
「……うん」
立ち話もなんだということで近くのベンチに座る二人。
「雨嘉、前の説教の続きかいな」
「自分でも驚いてるんだ、引っ込み思案だった私が、こうして誰かのために自分から動いてることが」
どこからか買ってきたKeyコーヒーを開ける二人。大人になって晩酌する時ってこんな風なのかな、と考えながら、雨嘉は言葉を選ぶ。
「めぐみは、自分を救世主だと言ってくれる人がいたから、頑張れてるって言ったよね」
「……せやで」
「それまでは、特別になりたいのに何者でもない自分が嫌で、自信がなかった」
「そや。それでええやろ。あの言葉が支えで、救世主だって信じて戦ってる。ウチは特別な存在なんやと思わないと、あんな化物と……戦えへん」
「でもめぐみ、きっとその言葉だけが支えじゃ、いつか戦えなくなる日がくる」
「……かもしれへんな。けど前にも言うたやろ。そう簡単に、変われへんねん」
「そのままでいいよ」
「え?」
「わたしだって前よりマシってだけで、不安なのは相変わらずだよ。私の狙撃が戦局を左右する時はいつも、不安で不安で、失敗したらどうしようかって気持ちになる」
「そんな簡単に変われないって言うのは、私もよく知ってるよ」
「だから変わる必要なんてない。ただ誰かに一歩歩み寄るだけでいい。そうすればヘボでも、救世主じゃなくても、支えになってくれる」
「誰に歩み寄れ言うねん……ウチは、自分がほんとは弱いなんてこと、月歌やタマに打ち明けられるほど、強くないねん」
「私がいるよ」
「雨嘉が?」
「朋友は、もういるから無理だけど、それでも似たもの同士、私たちにしか分かり合えないことって、あると思う」
「なんでやねん、そもそも自分とウチは……」
「私たちはもうすぐ離れ離れになるんだよね。ひょっとしたもう会えなくなるんだよね。分かってる。でも、だからこそだよ」
反対しかけためぐみを遮るように言葉を紡ぐ雨嘉。
「私、故郷を守るためには戦えてないけど、だからこそ、どこか遠くで戦ってる人のことを思えるようになったんだと思う」
「辛い時、悲しい時、自分の戦う理由がなくなった時、自分が自分じゃなくなった時。遠くにいる私のことを思い出してほしい」
「めぐみは私のこと、弱さを認める強さを持ってるって言ってくれたけどそんなことない。君と同じだよ」
「私は君の特別になりたい。遠く遠く、神話みたいに現実味がないくらい遠くでも、神話にならないでいられる特別に」
「特別な力なんていらない。ただ誰かにとっての特別になれるなら、それが……それが私たちにとって、一番の宝物になる」
ところどころでつっかえながらも、自分の気持ちが少しでも伝わればいいと思って喋る雨嘉。めぐみにとっては自分が救世主であることがアイデンティティで、そうじゃなかったら戦えなくなる。
似たもの同士で、もう会うこともない相手だからこそ、めぐみが教えてくれた本心。けど、友達に、仲間に、気持ちを分かってくれる人がいないと言うのは、きっと辛いと思う。だから……
「私と……友達になろう?」
そう言って前と同じように、めぐみの手を握る雨嘉。
「ふん……なんやねん自分、クッサイ台詞吐くもんやな」
「何度でも言うよめぐみ。たとえ会えなくなっても、心が繋がってれば、私たちは夢で会えるから」
「救世主なんかやないって諦めた時に……誰もそばにいないからこそ、元々遠くにおる自分みたいなのが、支えになるっちゅうんか」
「その、預言者の人の言葉以外にも、支えを持ってくれたら……私みたいなヘボなりに頑張ってるのが遠くにいるのが、君の支えになったら、嬉しい」
「は……余計なお世話やっちゅうに」
めぐみは飲み干したKeyコーヒーを投げ捨てる。それはゴミ箱と少しズレたところへ落ちそうになり……
「でもまぁ……おーきにな」
サイキックで無理矢理軌道を変えたことで、ゴミ箱の中に入っていった。
「やっぱり便利だね、それ」
「ハッ、救世主様のサイキックやで? 当たり前やん!」
そう言うめぐみの笑顔は、今までと比べて晴れやかだった。
きっと大きな支えにはなれていない。でも、もしも彼女の心が折れて、そして再び立ち上がらなければならない時が来たら……その時少しでも自分のことを思い出してくれたら嬉しいと、雨嘉は思った。