とある喫茶店に雇われる話 作:ハッピーエンドは素晴らしい
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それでは、READY FIGHT
ここは喫茶リコリコ。和風喫茶という一風変わった佇まいの、知る人ぞ知る名店である。
そんな喫茶店の地下室に設けられた射撃訓練場、今そこに、蓮士、千束、たきなの3人が集結していた。
「なんですか?これ。」
たきなは的に向けていた銃を下ろし、硝煙の立ち上る銃口を見つめる。今まで銃を向けていたはずの的の急所には、どういうわけか傷一つついていなかった。
「当たんないでしょ。私も当たんない。」
ニシシッと笑う千束を見て、たきなはもう一度銃に目をやる。
今たきなが使っていたのは、千束が愛用している非殺傷弾。材質が硬質なゴムでできており、当たりさえすれば弾が貫通しない分凄まじい衝撃が体に走る。
ただ一つ難点があるとすれば、この弾、狙った場所に当たらないのだ。ゴムである関係上、射撃時の火薬の炸裂と銃身との摩擦熱で形状が変化してしまう。故に軌道が不規則に変化し、同じ場所を狙っているのに毎度全く別の場所へと着弾する曲者である。
故に、この弾を使った戦法は自然と一つに絞られる。
「近づいて撃てば絶対当たる!」
それは近接戦闘。弾の軌道がブレるよりも早く、標的に当ててしまえばいい。もちろん普通の人間がそんなことをすれば体が蜂の巣になるが、そんな脳筋戦法をほいほいとやってのけるのがこの千束なのである。
「私には無理ですね。この命中率では自分の身を守れません。」
たきなはため息を一つつくと、弾を通常のものへと入れ替える。彼女は千束のように驚異的な洞察力で弾の起動を予測するとか、蓮士のように異様なほどの動体視力で弾を目視で確認するとか、そんなことができるような超人ではない。しかしーー。
たきなが狙いを定め、数度引き金を引く。
「スゲっ。」
思わず千束の口からそんな声が漏れる。結果は、全弾命中ヘッドショットであった。
「機械みたいじゃん。」
褒めているのか貶しているのかよくわからない表現であるが、銃弾の命中精度の話であれば、それは間違いなく褒め言葉である。たきなもまた、二人に負けない才能の持ち主なのであった。
「それなら先生の弾を無理に使う必要もないね。」
急所を狙わず命を取らず、しかし確実に敵を無力化する。たきなの射撃技術を持ってすれば、それも難しくはないだろう。
「急所を狙うのが仕事だったんですけど?」
微妙な顔でそういうたきなに、千束はも〜!と腰に手を当てて言う。
「もう違うでしょ?」
「フフッ。そうですね。」
二人は笑い合い、これで話は終わりかと思われた。
「……あの、そろそろツッコんでも?」
「ん?なんか変なとこあった?」
たきながす、と神妙な表情を浮かべ、首を傾げる千束の下へと視線をやる。
「何をしてるんですか。レンさん。」
そこには、いつものジャケットを脱ぎ、左腕のみで黙々と腕立て伏せをしている蓮士の姿がある。しかも手の形をよく見てみると、先程は拳だったのに今は親指だけで体重を支えている。更にたきなの視線の動きを見ればわかるように、その背には千束を乗せていた。
「あん?」
なんだ?とたきなの方を向く蓮士。しかしその間も腕を止めることはなく、それに合わせて上に座っている千束の視線も上下する。
「何って、筋トレだぞ。」
さもなんでもないように言うが、人一人を背に乗せたまま指一本で体重を支えているのは十分異常だ。その細腕のどこにそんな力があるのか。たきなはじっとその様子を眺める。
「お?なに?羨ましい?」
その視線になにか勘違いをしたらしく、千束は蓮士の背中を移動する。
「おい、勝手に動くな。バランスが崩れる。」
「ごめんごめん。ほらたきな。ここ乗りなよ。」
蓮士の文句をさらっと流し、千束は空いたスペースをポンポンと叩く。俺は椅子か?と不平を漏らすものの蓮士も特に嫌そうな表情はしておらず、たきなにどうするのかと視線で尋ねた。
「……では。」
少し考えたあと、恐る恐ると蓮士の背中に座るたきな。足を完全に床から離すと、蓮士は一瞬バランスを取るために動きが止まるが、直ぐに立て直して腕立て伏せを続行する。
「二人乗せて動きが鈍らないとは。」
薄っすらと汗が浮かび、呼吸も多少弾んで入るがその程度。どういう身体能力しているんだこの人は。たきなの頭の中に、蓮士に対する謎が一つ増えた。
「いっちに!いっちにぃ!」
千束が腕立て伏せのテンポに合わせて手拍子を始める。かなり体が揺れているが大丈夫なのだろうか。たきながそう思っていると、案の定蓮士が焦ったように声を上げる。
「おまっ!勝手に動くなって……うおっ?!」
「ってちょいちょいちょい!?」
「キャア!?」
遅かった。ドシンっ!という音とともに、蓮士がバランスを崩して倒れ、上に乗っていた二人も床悲鳴を上げながら盛大に床に転がる。3人並んで仰向けに寝転がり、なんとも言えない顔で互いに顔を見合わせた。
そして、
「プッ。」
誰ともなく吹き出し、三人揃って笑い始める。
「アハハハ!」
「ハッハッハ!」
「フフッ……アハハ!」
千束は大の字になって、蓮士は額を抑えながら、たきなは堪らえようとしたものの二人に釣られるように笑う。その光景はまさしく家族のように暖かなもので、三人の笑い声はしばらく部屋に響き続けていた。
ずっと、こんな時間が続きますように。そう、胸に思いを抱いて。
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「これで良し。」
蓮士はほうきを片手に、ちりとりの中へ足元に溜まっていたゴミや落ち葉を掃き入れていた。やはり出入り口はきれいな方が、客も働く側も気持ちがいいものだ。
今度看板の掃除でもしようか。そんなことを考えながらちりとりに溜まったゴミを予め用意しておいたゴミ箱に入れ、蓮士は伸びをしながら店の中へと戻っていく。
「ミカさん。掃除終わっ……」
そこに流れていた異様な空気に、蓮士の言葉が思わず止まった。
まず千束は、目を釣り上げてグルル、とミカに向かって唸っている。次にミカは、千束の様子に困った表情をしながらたきなを見ており、最後にたきなはどうしたらいいのかわからず二人の間でオロオロとしている。
そんな三人を順に見て、蓮士は首を傾げた。
「なにしてんだ?お前ら。」
しばらく後、
「何があったんだ?」
一旦三人を落ち着かせ、自分もカウンターに座る蓮士。まずは話を聞いてみようと、千束に話をするよう促した。
千束は、これ以上ないほど深刻な顔で蓮士に事の発端を話し始めた。
なんでも、休み時間暇だった千束がクルミに貸してもらったVRアクションゲームで遊んでいたらしい。しかしどれだけやっても全く上手く行かず、たまたま近くを通りかかったたきなに変わってもらったらしいのだが……。
「体動かす系のゲームだったからスカートの中が見えちゃって。」
「うん。お前が変態だってことは分かったが、それがなんでミカさんに噛み付くことになったんだ。」
「変態じゃねえやい!たまたま見えちゃったの!」
「んで?」
「スルー?!………はぁ。えっとね、見えちゃったものが問題なんだけど。」
千束そう言うと、俗に言うゲンドウポーズと言うやつになって目を伏せる。そして、重々しく口を開いた。
「たきなが男物のトランクス履いてた……。」
「………。」
沈黙。蓮士の思考回路がオーバーヒートを起こし、しばらくの間視界が真っ白に染まる。
「……どうやら耳がイカれたらしい。もう一回言ってくれ。今度はちゃんと聞き取るから。」
「たきなが男物のトランクス履いてた。」
すうぅぅぅ……。ふぅぅぅぅ……。
「……耳がイカれてたほうが幸せだったよ。」
何故そうなる。蓮士は頭を抱えた。自分が前いたところも相当イカれた連中がいたが、少なくとも男物のトランクスを履いた女性はいなかった。
「まさかとは思うが千束がミカさんに噛み付いてたのって……。」
「いや……その、たきなに指定の下着を聞かれたんだが、そんなものはないだろう?」
まあ。と頷く蓮士と千束。制服はあっても、下着まで指定してくる職場なんぞまっぴら御免である。
すると今度はたきなが口を開いた。
「どんなものがいいのかわからなかったので、参考にしようと店長の好みをお聞きしました。」
「「なんでだよ!」」
何故そこで異性の下着の好みを聞く!バンッ!と二人揃ってテーブルを叩き絶叫する蓮士と千束。確かにミカの好みの下着はトランクスだが、なぜそれを自分で履こうという発想に至るのか。素直な娘だとは思っていたが、最早これは天然の域に達していると言って差し支えないのではなかろうか。
「なんで先生は好みを伝えちゃうわけ?!」
「聞かれたからには答えるべきだと思って。」
「お前も何故それを参考にした!」
「いえ、それが履いてみると結構履き心地が良くて、それに開放的で……さすが店長だな、と。」
「やめろ!それ以上は犯罪臭がする!」
「貴様のトランクスレビューは聞いとらんわ!」
ツッコミが追いつかん!と二人揃って息を切らす蓮士と千束。任務に出たり戦闘をした後でもここまで息を切らすことは殆どないというのに、ミカとたきなの攻撃力があまりにも高すぎる。
「……いよし!」
このままじゃどうしよもねぇ!千束は立ち上がるとパン、と自分の頬を叩いて気合を入れる。
「たきな!明日の12時に駅前集合ね!」
「仕事ですか?」
「ちゃうわ!」
なんでこの流れで仕事の話になるのか。出鼻をくじかれかける千束だがなんとか踏みとどまり、言葉を続ける。
「パ・ン・ツ!買いに行くの!」
帰って準備する!と息巻きながら店を出ていく千束。しかしはっと何かを思い出したように戻ってきて、入り口から顔だけを覗かせる。
「制服着てくんなよ!私服ね?私服。」
それ以外認めんからな!と言い残して今度こそ店から出ていく千束。取り残された三人は顔を見合わせ、喫茶店の仕事に戻ろうとするがーー
またもや扉が開かれ、千束が顔を出した。
「レン!荷物持ちよろしくね!」
扉が閉まり、姿を消す千束。まあ、他にも色々買っていく心づもりだろうし、頼まれるだろうとは思っていたが、わざわざ戻ってきて言うことだろうか。相変わらず騒がしい娘である。
「あの。」
「今度は何?」
たきなの声に振り向く蓮士。もうツッコむのには疲れたぞ。と内心ゲンナリしていると、たきなから容赦のない追撃が入った。
「指定の私服はありますか?」
「そんな私服があるか!」
私服とは、個人の服のことである。指定されたらそれは私服とは言わない。
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次の日
蓮士は約束よりも少し早めに待ち合わせ場所へとやってきていた。いつものミリタリージャケットやギターケースは持っておらず、Tシャツにポロシャツ、ジーンズというラフな格好をしている。
『何時もの格好で来るな。』
と夜に千束から連絡があったため、急遽服を選んだしだいである。いうほどのファッションセンスがあるわけではないが、恥ずかしい服装はしていない……はず。
自分にそう言い聞かせながらベンチに座り、持ってきた本を読んで時間をつぶす。
「それにしても、昨日はビビったなァ……。」
蓮士は読んでいた本から目を離し、ため息混じりにそんなことを呟く。リコリコに来てから2番目くらいに驚いたかもしれない。時間を確認しようと時計を見れば、もうそろそろで待ち合わせの時間であった。
本に視線を戻そうとすると、人混みに紛れて赤いリボンと特徴的な白い髪がちらりと見える。
「千束。」
手を上げて名前を呼ぶと、人混みを抜けた向こうも満面の笑みで手を振りながら駆け寄ってきた。相変わらず、服のセンスがいい。
「おまたせ〜。たきなは?」
「いんや。アイツのことだし時間ぴったりに来るんじゃねェか?」
確かに。と納得する千束。蓮士がベンチ端によると、千束は隣りに座って読んでいた本を横から覗き見る。しかし、直ぐに眉間にシワを寄せると本から目を離した。
「これ、なんの本?」
「ソロモンの偽証。面白いぞ?」
「あー、もうだめ読む気しない。」
鈍器にでも使えそうな本自体の分厚さと、二段になった活字を見て読む気が失せたらしい。まだ2巻残ってあることを知らせたらどんな顔をするだろうか。蓮士はそんなことを思いつくが、それを実行するよりも早く二人の前にたきなが現れた。
「おまたせしました。」
「おー。……ざ、斬新だね。」
千束の声が詰まる。蓮士も釣られて前を見ると、
「……お、おう。」
同じく言葉が詰まった。千束が蓮士の肩を掴んでガバッと後ろを向く。
「あれ部屋着じゃん!よくてコンビニ行くときのカッコ!」
「そこんじょそこらの任務よりも手強いぞこいつ。」
ゴニョゴニョと言葉をかわす二人が見たたきなの姿は、Tシャツにジャージ。まさにTHE部屋着である。
「DAの奴らって全員こうなのか?」
「確かにファッションセンスはないかも……。」
「……あの?」
「「なんでもない。」」
二人の様子を見て不思議そうに首を傾げるたきな。
「それより……。」
千束はジトッとした目でたきなが持っている鞄を見る。
「銃持ってきたな貴様。」
それはリコリスが任務時に持ってきているカバンである。つまり中身は……そういうことだ。
「……間違っても抜くなよ。」
リコリスの制服を着ずに銃なんて抜こうものならあっという間に犯罪者である。蓮士はこれからのことがひどく不安になった。
とはいえ、ショッピングの風景はとても平和なものである。
「これとこれと〜♪あとこれも似合うかな?おお!これもいい!」
鼻歌を歌いながらご機嫌にたきなの服を選んでいく千束。パンツよりも先に服装をなんとかしようということになり、ショッピングモールの一角にてたきなはきせかえ人形と化していた。
「ハイ試着!」
千束が持ってきた服を手に更衣室へと押し込められ、暫くすると恥ずかしそうにしながらカーテンを開けてお披露目をする。それを続けること数回。
「よっし完璧!」
とうとう納得の行くものができたらしく、いい仕事したわー。と、いい腕で額を拭う仕草をする千束。
しかしそこで終わるつもりはないらしく、千束は蓮士の方へと向き直るとちょいちょいと手招きをする。
「どうした?」
「レンはなんかないの?」
女のファッションを俺に聞くな。蓮士は断ろうかとも思ったが、よほど変なものなら千束が止めてくれるだろうと自分もたきなの服を選んでみることにした。
しばらく後、
「あ〜……。」
更衣室の前で、やっぱりやめときゃよかったと後悔する蓮士。選んだのはいつも自分が着ているような、ジャケットに合わせたボーイッシュな服装。これくらいしかまともな組み合わせが作れなかったのである。
スカートもいくつか見繕っては見たのだが、千束になんとも言えない顔で全てストップをかけられた。ファッションセンスで人のこと言えないじゃねぇかと項垂れていると、とうとう更衣室のカーテンが開く。
「どうでしょう。」
上は白いTシャツにブラウンのジャケット。下は黒のボトムスにスニーカー。特にこれといった捻りはないが、その分キレイにまとまっている。
「おー。なかなかいいじゃない。」
ほうほう、と顎に手を当ててじっくりと審査していく千束。たきなはその後ろで項垂れたままの蓮士を見て、不思議そうに首を傾げる。
「レンさんはどうなさったんですか?」
「んー?自分の無力さに打ちひしがれてるところ。」
はあ?と反対側に首を向けるたきな。着てみた感想としては、動きやすく千束の反応も悪くなかった。そのためなぜ項垂れているのかわからなかったようである。
そうしていると、興が乗ってきたらしく千束はたきなにリップグロスを持っているかと訪ね始める。おそらくは当初の目的を忘れかけているのだろう。
「まて千束。元の目的忘れてるだろ。」
「………あ。パンツ買いに来たんだったわ。」
なんとか再起動した蓮士が千束の暴走を止める。このままだと要らないものまで買い漁り始めるだろう。止められてよかったと安堵する。
千束もいけねぇいけねぇと後頭部を掻き、ようやく本命であるランジェリーショップへと向かうことになった。
「んじゃ、俺はこっちの会計済ませて適当に時間つぶしてるわ。」
「一緒に行くのでは?」
「……たきな。それは駄目だよ。」
たきなの天然発言により、その場の空気がなんとも言えないものになったのは言うまでもない。
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ベンチに座り、本のページをめくる。恵まれた長身と整った顔立ちにより、たったそれだけの動作にも得も言われぬ色気が醸し出され、周囲の女性陣がホウ、と感嘆の息を漏らした。
そんなことはさておき、
「……よう。」
蓮士は、正面に感じた気配に向けて片手を上げる。
「隣、いいか?」
「好きにしろ。」
どかりとベンチに腰掛けたのは、煙草を咥えたガタイのいいスーツ姿の男。蓮士は本から目を話すことなく男へと尋ねた。
「千晃じゃねェのか。」
「なんか忙しいらしいぞ。」
「そうか。」
パタン
本を閉じ、蓮士は男に視線を向ける。
「何のようだ。」
少し見上げる形で男の顔を見る蓮士。その眼は研ぎ澄まされた刃のように鋭い。男は咥えていたタバコを手に持ち、煙を吐きながら頷いた。
「DAが取り逃した銃千丁、あるだろ。」
「抹消者でも追ってるのか?」
確かにそれだけ銃が揃えば戦争一つ起きそうなものだが、残念ながらその件について蓮士から何かを教えることはできない。
「残念だが、俺もその後はよくは知らねェぞ。」
「あぁ、それは知っている。」
「じゃあ、なんだ。そっちはもう掴んだのか。」
蓮士の言葉に、それも違うと首を振る男。
「そもそも俺たちは銃を追っているわけじゃない。」
いよいよわけがわからない。では、なぜそんな話を……?蓮士が困惑していると、男は一度大きく息を吸い込み、意を決したように口を開いた。
「その一件に、
「……なに?」
蓮士の雰囲気が、変わった。声は低く、腹の底に響くような重々しい響きがする。グワリと眼を見開き、男に言う。
「詳しく話せ……。」
「まだ確定したわけじゃない。限りなくクロに近いだけだからな。」
男は一度タバコを口にし、軽く吸うとベンチにもたれて話し始めた
「アダムとイブが、銃の所在についての予測と回答を拒否した。」
「それがどうした。」
どんどん威圧的になる蓮士のオーラ。見れば周囲にいた人達は、なにやら不安げに周囲を見回しそそくさとそこを離れていく。
「今まで完全に予測と回答を拒否し続けてきたのは、お前とアイツのことだけだった。」
「それだけじゃァ理由には薄いだろう。」
「もちろん、それだけなら単なるわがままとして片付けられたんだがな。先日、この付近で例の銃を持った武装集団と、アイツらしき影を見たとの報告が上がった。」
空へと消えていく煙を眺め、男は蓮士の様子を横目で確認する。
「……見ただけか?」
蓮士は少し落ち着いたのか、見開いていた眼は元に戻り、纏っていた威圧感も少しずつ萎んでいく。
男は、頷く。
「だから確証が持てない。接触したわけでもなく、遠目で見かけただけだ。追うより前に、姿をくらましてしまったらしい。」
ふぅ、と男が掃き出した煙を眺めながら、蓮士は小さく息を吐いた。
「注意する理由には、十分すぎるな。」
「ああ。巻き込まれるとすれば、お前だ。気をつけろ。」
男の言葉に蓮士が驚いたように目を見開いた。
「驚いたな。猛獣殿が他人の心配とは。」
「誰のせいだと思っている……!」
男は目を釣り上げ、吠える。蓮士は愉快そうにクツクツと笑い、ちらりと千束たちがいるランジェリーショップへと視線を向ける。ちょうどそのタイミングで自動ドアが開き、千束とたきなの姿が見えた。
「時間か。」
男もそれに気が付き、ため息をつくと立ち上がる。
そのまま立ち去るのかと思いきや、男は蓮士の方に顔だけで振り向き鋭い眼光が蓮士を射抜いた。
「裏切り者めが。お前を殺すのは俺だ。だから死ぬなよ。」
「フン。脳筋ゴリラが俺に勝てるとでも?俺は死なねェよ。うちの看板娘達に泣かれちまうもんでな。」
「チッ。とにかく!死ぬなよ。」
男はフン!と鼻を鳴らすと不機嫌そうにズカズカと去っていく。人混みに紛れてからも、特徴的な逆だった金髪とガタイのせいで暫くの間その姿はよく見えていた。
それを見送り、そろそろ二人に合流するかとベンチから立ち上がった蓮士。その瞬間に背筋を嫌な予感が走り、咄嗟に顔の前に右手を広げた。
ガンッ!
金属同士が衝突する甲高い音が右腕から鳴り響き、その中には拳大の鉄球が収まっていた。
「あいつ……。」
とても、身に覚えのある状況だ。顔をヒクつかせながら玉を裏返すと、そこには一枚のメモが貼り付けてあった。
『そのうち飯を食いに行く。俺に振る舞う前にくたばったらぶっ殺すぞ。
とりあえず、ずっと手に持っておくのもアレなのでカバンにしまう。そして、手で顔を覆ってため息をついた。
「普通に言えや。」
男物のトランクスを履く女はいなかったが、どうでもいいことを伝えるために、人を屠ることができる武器にメモを貼り付け投げてよこすバカはいるらしい。
蓮士は頭が痛くなってきたのだった。
・射撃訓練場
リコリコの地下に存在する訓練施設。射撃から始まり、筋トレや組手なども行うことが可能であり、非常に高い防音性と耐久性を持ち合わせている。最近、リコリコに少しずつ客が増えてきたこともあり、使用頻度が増えている。
・ソロモンの偽証
宮部みゆき作のミステリー巨編。今回持ってきていたのは3部目。蓮士曰く、「一つの事件も、視点を変えればそれだけの物語が出来上がる。それがとても面白い」だそう。
偽証とは、偽りの証言のこと言いう。誰のために、真実を偽るのだろうか。
〈9月18日誤字修正〉