とある喫茶店に雇われる話   作:ハッピーエンドは素晴らしい

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いやー、4日かかるとは思わなんだ。台風で会社がてんやわんやしておりまして、執筆する時間が取れずこんなに時間が空いてしまいました。申し訳ない。

そろそろオリジナル要素をぶっこんでいきます。原作と微妙に違うところとかが多々出てくると思いますが、どうぞお楽しみください。

それでは、READY FIGHT




とある喫茶店はお休みな話。

 

 

 「好きなものを、選ばなくてはいけないんですか?」

 「へ?」

 

ランジェリーショップに入ってしばらく立ち、未だ下着を選べずに千束へと助言を求めたたきな。聞かれた当人は、流石に下着の好みに口をだすのは野暮だろうと黙って見ていたのだが、まあ手助けくらいはしてもいいか、と口を開く。またトランクスに行き着かれるのはゴメンだ。

 

 「じゃぁ、まずどんな下着がほしい?」

 「……仕事に向いたものがほしいです。」

 

仕事、つまりリコリスとしての活動に最適な下着。それを聞いた千束は手を顔の横に持ってくると、店員やセールスマンのような営業スマイルを浮かべた。

 

 「銃撃戦向けのランジェリーですか?」

 

もちろん、

 

 「そんなもんあるかーい!」

 

千束のキレのあるツッコミが炸裂する。たきなのことだからボケとかを考えて言った言葉ではないのだろうが、天然というかポンコツというか、いちいち彼女の言動にはツッコミが入れたくなる。

 

 「これ、悪くないんですけどね。通気性もいいし動きやすいですし。さすが店長だな、と。」

 「レンも言ってたケド……それ以上はやめよ?」

 

困ったような顔をするたきなに表情が抜け落ちた千束の静止が入る。これ以上彼女に何かを言わせてはならない。千束の胸にそんな使命感が湧き上がってくる。

 

 「だいたい、トランクスなんて人に見せられたもんじゃないでしょ。」

 「下着って見せるものではありませんよね。」

 

その言葉に首を傾げるたきな。千束は何言ってんの、と続きを口にしてしまう。

 

 「いざってときどうすんのよ。」

 「いざってどういう?」

 

下着を見せる、いざというとき。それは主に愛し合った人間との間で行う行為のこと。

 

千束の返事が詰まった。自分がとんでもないことを口走ってしまったことに気がついたからだ。

 

 (えっ、ちょっと私何言ってんの。たきなの天然オーラに当てられて私もアホ化してきてるかも……。いざっていうとき、いざっていうとき……なんて説明すれば……!?レーン!へルプミー!)

 

 「……。」

 「……?」

 

二人の間にしばしの沈黙が流れる。

 

そして、

 

 「〜〜ッ知るか!」

 

顔を真っ赤にした千束が、ぷいとそっぽを向きながらそう言い放った。いい例えも思いつかないし、そんなことを口走った自分も恥ずかしいし。色々な感情が混じり合ってうごごご、と唸りながら完全にフリーズしてしまう千束。

 

 すると、たきなからガシッと腕を掴まれる。そして、何だなんだと驚く間もなくそのまま更衣室へと引きずり込まれた。

 

 「ちょ?!」

 

完全に虚を突かれ、抵抗するまもなく更衣室の中へと押し込められる千束。困惑していると、更にそこへたきなの顔が至近距離に迫ってくる。

 

 「千束のを見せてください。」

 「へぁ?!」

 

たきなの言葉に思わず妙な叫び声が出る。先程のフリーズから完全に立ち直っていない上、さらなる追撃に千束はパニックに陥った。

 

 「見られても大丈夫なパンツなのか知りたいんです!」

 「ちょ、ちょっとまってたきなさんや。一旦落ち着いて「早くっ!」

 「はいぃっ!」

 

何を血迷ったか、千束はショートパンツ脱いでたきなに自身の下着を見せてしまう。たきなはそれを見ると、少し考えた後うーん、と悩ましい声を上げた。

 

 「これが私に似合うかと言われると……違いますね。」

 「そうだよなんで見せた私ィー!」

 

ようやくパニックから立ち直った千束は、今の自分の行動を激しく後悔し、あまりの恥ずかしさに思わず叫ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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 「ふぅ……。なんか疲れちゃったけど、これでトランクスとはオサラバだね。」

 

色々あって少々グロッキーになりかけの千束であるが、なんとか目的は達成した。ランジェリーショップから出てきたたきなの手には、数着の下着が入った袋が握られている。

 

 「男物のパンツは全部捨てるからね!」

 「はい。」

 「よーしじゃあ次はレンと合流して……。」

 

千束がキョロキョロと周りを見回していると、その横からポンと頭に手が置かれた。

 

 「ほへ?」

 「よう。お目当てのもんは手に入ったか?」

 

二人が声のする方を見ると、そこには千束の頭に手を置いた状態の蓮士の姿があった。ただ、なにやらその顔には疲労の色が浮かんで見える気がした。

 

 「なんか、あった?」

 「あ?……いや、なんでもない……。」

 

すー、と千束から目をそらし、虚空を眺めながら引きつった笑みを浮かべる蓮士。ショッピングモールの人混みの中から、銃弾よりも恐ろしいものを投げつけてくる元同僚の話などしたくもなかった。

 

蓮士の表情からよっぽど言いづらいことがあったのかと、千束とたきなは互いに目を合わせて首を傾げる。蓮士は結構ひどい顔をしていた。

 

なんとも言えないその場の空気を千束がパンパンと手を叩いて断ち切り、それよりも、と話題を変える。

 

 「さ、時間もいい感じだし、次行こ次。」

 「目的は完遂したはずでは?」

 「仕事かっての。3時といえば、おやつタイムでしょ!」

 

 

 

 

 

 

 

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 「フランボワーズ&ギリシャヨーグレットリコッタダッチベイビーケイクとホールグレイハニーカムバターウィズジンジャーチップスをお願いします!」

 

千束が店員に向けて注文する姿を見て、やっぱりお経か何かにしか聞こえないと苦笑する蓮士。

 

今三人がいるこの喫茶店。時折千束に連れて行けとねだられて来ることがあるが、毎度毎度この長ったらしいスイーツの名前を堂々と一言一句間違えることなく言い切るその姿は、どこか凛々しさすら感じてしまう。

 

特に何か食べたい気分ではなかった蓮士はホットのコーヒーを注文し、たきなも慣れないことに四苦八苦しつつもなんとか注文を終える。

 

 「名前からしてカロリー高そうですね。千束のそれ。」

 「何を言う。女の子は甘いものに貪欲でいいのだよ!」

 

いいかねたきなくん。と力説し始める千束を横目に窓の外を眺める蓮士。そこには、笑顔で道を行き交う沢山の人達。それはとても優しく、平和だ。

 

 「いつまで、続くかね。」

 

蓮士の口からポロリと言葉が溢れる。誰が言ったか、「平和は戦争の準備期間」という言葉。今目の前を通りすがった人達は、いつまでああしていられるのだろうか。前程の話から、蓮士は頭のどこかでずっとそんなことを考えていた。

 

 「レン?」

 

蓮士が振り向くと、そこには口いっぱいにパンケーキを頬張りながら自分のことを不思議そうに見ている千束の姿がある。

 

 「ほうひはほほほーっほしはっへ。」

 「食べながら喋るんじゃありません。はしたない。」

 「(モグモグ)」

 「……。」

 

そのまま喋り始める千束に注意をし、蓮士も目の前に置かれていたコーヒーを口にする。苦い味の中に香る香ばしさとその奥にあるほのかな甘み。蓮士は一通りそれを楽しむと、一気にゴクリと飲み込んだ。

 

 「フゥ……。」

 

あいも変わらずパンケーキを満面の笑みで頬張る千束と、糖質が何だ脂肪がどうだと言いつつも幸せそうに顔をほころばせるたきなを見て、蓮士は考えることを止める。

 

今はこの時間を楽しもうじゃないか。蓮士その考えは少し楽天的すぎる気もするが、今二人が浮かべている笑みを可能性の話で濁す気にはなれなかった。

 

 「(モグモグ)……ん?」

 「『店員を呼ぶときってなんて言えばいいんだったっけ?』」

 「『えーっと……たしか……』」

 

千束の耳に声が聞こえる。それは日本語ではなく、聞いた感じだとフランス語だろうか。どうやらメニューは決められたようだが、店員の呼び方がわからずに首をひねっているらしい。

 

 「よっこいせ。ちょっと行ってくる。」

 「迷惑かけるなよ。変なやつならすぐ戻ってこい。」

 「オカンか!まったく……。『そこのお二方ー。』」

 

千束が二人の方へと駆け寄っていくのを見送り、蓮士は冷めぬうちにと最後のひとくちを飲み干す。

 

 「千束って、すごくお節介ですよね。」

 「うん?」

 

たきなの言葉に、蓮士はしばしの回想を挟んでから答える。

 

 「まあ、そうだな。」

 

やりたいこと最優先。千束の座右の銘であるその言葉に違わず、千束の行動原理は主に「自身にとって楽しいことか否か」である。

 

しかし彼女は困っている人を見かけると、自分のことを横に置いてお節介を焼き始める。理由を聞いて、「みんな笑顔のほうが、私も楽しいから」と返されたときは思わずぽかんと口を開けてしまったが、それは間違いなく彼女の美徳であり彼女の才だ。

 

 「ズカズカと人の心に土足で踏み込んできて、最初はすげェうっとおしいんだけどな。しばらくするとそれを心地いいと思ってる自分がいる。」

 「わかります。私も、千束のそんなところに背中を押されましたから。」

 

顔を合わせ、小さく笑い合う二人。蓮士は軽く姿勢を改めると、たきなに小さく頭を下げた。

 

 「……これからも、良くしてやってくれ。」

 「もちろんです。私と千束は、相棒ですから。」

 「そう……か。」

 「はい。」

 

そうこうしていると、フランス人二人に別れを告げた千束が小走りで蓮士たちの元へと戻ってくる。

 

 「お?なんの話ししてたの?」

 「お前の落ち着きがないなって話。」

 「千束が子供っぽいなと言う話です。」

 「なんだと貴様ら!……モガッ。」

 

喧嘩なら買うぞコラ!と拳を鳴らす千束の口に、目にも留まらぬ早業でパンケーキを突っ込んで黙らせる蓮士。あんな話をしていたなんて知られれば、最低でも今後一ヶ月間はそのことでいじられ続けることになるだろう。そんなのは御免被る。

 

蓮士の思惑通り、千束はパンケーキを飲み込んだ頃にはすっかり話のことなど忘れていた。

 

 「さー!食べ終わったら次のところに行きますよ!」

 「次はどこへ?」

 

たきなの言葉に千束は口に人差し指を当て、ウィンクをしながら得意げに笑った。

 

 「フッフッフ〜。イイところ。」

 

 

 

 

 

 

 

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 喫茶店からしばしの移動をはさみ、たどり着いたのは、

 

 「イイところって、水族館ですか。」

 

目の前の建物を見上げ、たきなは誰ともなしに呟いた。

 

 「来たことないのか?」

 「はい。知識として知ってはいますが、実際に来たのは初めてですね。」

 

蓮士の質問に頷いたたきなは、物珍しそうにキョロキョロと周りを見回す。

 

 「お二人は、よく来られるのですか?」

 「そそ。ほら。年パスも持ってんだ。」

 

いいだろ。と水族館の年パスをたきなに見せる千束。蓮士も何時もここへ来るときのことを思い浮かべ、苦笑いを浮かべて同じく年パスを取り出した。

 

 「よく連れてけってパシられるんだよ。」

 「レンだってなんだかんだ楽しんでるくせに。」

 「そらァ来たなら楽しまなきゃ損だろ。」

 「それならパシリとは言わないでしょうが。」

 「それとこれとは話が別だ。休み一日潰れんだぞ。」

 

二人が入り口に向けて歩きながらあーだこーだと言い合っていると、後ろをついてきていたたきなが、不安気な様子でおずおずと千束と蓮士の間に割って入った。

 

 「あの、ここって初心者でも楽しめる場所なのでしょうか……。」

 

本当に不安げなその顔に、千束と蓮士は互いに目を合わせる。そして、なんとも言えない表情をしながらたきなへと視線を戻した。

 

 「まあ……初めてでも楽しめるとは、思うぞ?」

 「……うん。そう、ですな。」

 「それを聞いて安心しました。」

 

たきなは心底安心したように息を吐き、二人の前を歩き始める。取り残された二人はまた目を合わせ、お互い気の抜けた笑みを浮かべた。

 

 「……?千束ー。レンさーん。」

 

二人がついてきていないことに気がついたたきなが振り向き、名前を呼びながら大きく手をふってくる。

 

 「あいよ。」

 「ちょいまち〜。」

 

蓮士は片腕を上げて、千束は同じように大きく手を振りながら、ふたりはそれぞれたきなを追いかけて行った。

 

 

 

 「これ、魚なんですって。」

 「マジ?ウオ、だったのかこいつ。」

 

あれからしばらく水族館を回り、今千束とたきなはタツノオトシゴの展示ブースでそんなやり取りをしていた。

 

 「知らないのか?タツノオトシゴはれっきとした魚だぞ。」

 

二人の後ろから水槽を眺めていた蓮士は、二人に向けてタツノオトシゴについての解説を始める。

 

 「ヨウジウオっていう魚から進化した種類でな。泳ぐ能力の代わりに高い擬態能力を身に着けたんだ。ほら。揺れる水草に尻尾を巻き付けちまえばその一部にしか見えないだろ?」

 

一匹のタツノオトシゴを指さしながらその生態を語る蓮士に、千束とたきなはおお、と拍手を送る。

 

 「よく知ってんねー。そんなこと。」

 「お前のせいでよく来るからな。気になって調べた。」

 「なるほど。言われてみれば、たしかに合理的な姿ですね。」

 

どんなものも、必ず存在する意味があるからそこにある。他がどれだけ不必要だと言ったところで、本人にとって必要なものであればそれはどうしたって必要なものなのだ。

 

 「……所で何やってんだあいつは。」

 「さあ……?」

 

蓮士の視線の先には、両手を上に上げ、くねくねと体をくねらせる千束の姿がある。いや、本当に何をしているんだろうか。

 

 「チンアナゴ〜」

 

蓮士の冷たい視線に気がついた千束は、近くの水槽を指さしてまた奇妙な動きをし始める。どうやらチンアナゴのモノマネをしているらしいが……。傍から見るとただの変なやつである。

 

 「ねぇお母さん。あのお姉ちゃん何やってるの?」

 「シッ。見ちゃだめよ。」

 

それ見たことか。一組の親子がそそくさとその場を離れていくのを見て、蓮士の額に血管が浮き上がった。

 

 「やめなさい!恥ずかしい。」

 「あいてっ!ぶつことないじゃん!」

 

蓮士は千束の頭に軽いチョップをくらわせ、強制的にモノマネを中断させる。千束は頭を抑えてブー、と口を尖らせるが、そこへ呆れ顔のたきながジトッとした目で現れた。

 

 「千束。少しは人目を憚ってください。」

 「たきなまで!」

 

よよよ、と嘘泣きをする千束。それを見てたきなは「あのですね、」と続ける。

 

 「私達はリコリスですよ。人目につく行動は、控えるべきです。」

 「制服着てなきゃリコリスじゃないもーん。」

 「どっちにせよやめんか。」

 

屁理屈のようにも聞こえるが、千束の言うことは間違いではない。制服を着ていなければ、二人は戸籍のない17、6の銃を持った怪しい二人組の女である。だが、そういうことではないのだと蓮士はもう一度チョップを放ち千束を黙らせる。

 

 痛がる千束にもう一度ほしいか?と右の手刀を見せつけると、冷や汗をかきながら次の展示ブースへと走っていく。たきながそれを追いかけていくのを見送り、蓮士は小さくため息をついた。やりたいことを最優先にするのは構わないが、つきあわされる方の身にもなって欲しいものである。

 

 二人に追いつくと、なにやらたきなが千束と話をしているところだった。千束が掲げる不殺についてたきなが聞いているところらしい。

 

 「なにぃ?興味あるの?」

 「タツノオトシゴ以上には。」

 「チンアナゴよりも?」

 「……もういいです。」

 

たきなの千束を見る目が氷点下を下回る。さすがの千束もその表情に顔を引きつらせ、ごめんごめんと平謝り。たきなは腰に手を当て、呆れたと言わんばかりにため息をついた。

 

 「なら最初から真面目に答えてください。」

 「ごめんって。なんか最近レンが二人いる気がするなぁ……。」

 「レンさんは一人しかいませんよ?」

 「あー、うん。言葉のあやだよ。気にしないで。」

 「はあ……?」 

 

うんとね、と顔の横で指をくるくると回しながら、千束は質問の答えを口にする。

 

 「人の時間を奪うのってさ、気分が悪いじゃん?」

 「気分が、悪い?」

 「そそ!んで、悪い人たちにそんな気分にさせられるなんてもーっとムカつく!」

 

そう言いながらシュシュっとシャドーボクシングをする千束。「だから」とつけ加え、拳を大きく振りかぶった。

 

 「死なない程度にぶっとばーす!あの弾、当たるとめちゃくちゃ痛いんだよ?」

 

拳を前に突き出し、ニシシ、と笑う千束。それを聞いたたきなは少し驚いた様子を見せ、しかしすぐにおかしそうに笑った。

 

 「ふふっ。もっと破天荒な理由かと思っていました。千束は謎だらけですね。」

 「何じゃ破天荒って。わたしゃ悪徳代官がなにかか。」

 「お前はもっとたち悪ィだろ。」

 「なにを〜!!」

 

怒り心頭といった様子で蓮士に飛びかかっていく千束。しかし、ほい、と頭を捕まれジタバタともがく羽目になる。

 

 「はーなーせー!」

 「断る。」

 

ブンブンと拳を振り回すものの、頭2つほど身長が違うため当たるわけもなく。蓮士は涼しい顔をして千束を捕まえ続ける。その光景はまるで本物の兄妹のようで、それを見たたきなは小さく笑った。

 

 実に微笑ましい光景であるが、このままだと日が暮れてしまう。たきなは少し考え、丁度いいやと前々から気になっていたことを聞いてみることにした。

 

 「千束。」

 「なに?!ちょっと今忙しいんだけど!」

 

千束はなんとか蓮士の手から逃れようと奮闘してはいるが、頭を掴んでいるのが右手であるため、千束がいくら殴ったりくすぐったりしたところでびくともしない。ふしゃー!と蓮士に威嚇する千束に、たきなは話を続ける。

 

 「何故DAを出たんですか?」

 「え?」

 

千束はもがくのをやめ、首を傾げる。どうやら質問の意味がよくわかっていないらしい。

 

 「殺さないだけならDAでもできたはずでは?」

 「あ、そゆこと。」

 

補足を聞き、ポンと手を鳴らす千束。

 

 「人探ししてるんだ。」

 「人探し?」

 

首を傾げながら反覆するたきなに千束は頷き、いい加減離せと蓮士の腕をどける。そして、服の中に隠れていたとあるものを取り出した。

 

 「これ、くれた人を探してるの。」

 

たきなの手に渡されたのは、梟の姿をもしたチャーム。

 

 「これ……『アラン機関』の?」

 「そそ。最近ニュースでよく見るでしょ?」

 

アラン機関。世界中、あらゆる「才能」を持つ天才達に支援を行い、使命を与えると言う謎多き組織。この組織に支援を受けた者たちは、「アランチルドレン」と呼ばれている。

 

千束もまた、そのアランチルドレンの一人なのだ。

 

 「確かに、同じものですね。」

 

たきなはスマホで最近アランチルドレンが取り上げられたニュースを開き、そこに映されている写真とチャームを見比べて頷いた。

 

 「千束にはどのような才能が?」

 「わからなぁい?」

 「?」

 

いつの間にか移動していた千束の声に振り向くたきな。

 

 「これよこれ。」

 

そこにあったのはポスターに描かれたセクシーポーズを取る女性。そして、そのポスターの前で女性のポーズを真似ている千束の姿がある。

 

 「それではないのはわかります。」

 「……ククッ」

 

真顔で千束の言葉を切って捨てるたきな。それを見て笑いをこらえる蓮士。千束はそんな二人の様子にムスッとした顔になり、二人を指さしながら言う。

 

 「んじゃ二人は自分の才能とかわかるわけ?」

 「そう言われると……」

 

んー、と首をひねるたきな。身の回りに超人と化け物がいるせいで余計に考えつかない。よく二人に褒められる射撃能力も、才能というよりは訓練と執念によって得たものだ。

 

対して蓮士は、眉を顰めて表情を歪めた。

 

 「俺はアランの言う才能ってのは嫌いだな。」

 「そうなのですか?」

 「そうなの?」

 

ああ。と蓮士は二人に頷く。

 

 「他人の物差しで図られた自分を押し付けられるなんて俺はゴメンだ。使命なんてものを決めつけられて、それのために生きなきゃならないくらいなら才能なんていらない。」

 「俺は俺だ。この命も、この体も、この力も、あの約束も、全て俺のものだ。誰に与えられたものでもなけりゃ他の誰にだってやるものか。」

 

珍しく感情を剥き出しにて饒舌に語る蓮士。千束に視線を向けると、お前もそうだろう、と問いかける。

 

 「もしアランに見初められたお前の才能が、お前にとって不要なもので、与えられた使命がお前の意思に反するものだったとき、お前はどうする。」

 

千束は呆気にとられるが、次の瞬間にはニヤリと笑った。

 

 「決まってるじゃん。やりたいこと、最優先。命の恩人が相手でも、それを曲げる気はないよ。」

 

千束が浮かべているのは笑み。しかし、その瞳が移すのは強い意志。それを見て、蓮士はその顔に笑みを浮かべる。

 

千束は、何がどうあろうが千束なのだ。彼女は、神からの贈り物でも、誰かの操り人形でもないのだから。

 

 

 「ところで、」

 

話においていかれかけたたきなが、少し不機嫌そうに二人の間に割って入ってきた。

 

 「その人は見つかったんですか?」

 

梟のチャームを返しながらそう聞くと、千束は大きくため息を付きながら首を横に振った。

 

 「それがぜーんぜん。これっぽっちも見つかる気配がなくてさ。」

 「十年間も探してですか?」

 「手がかりが殆ど無いも同然だからな。」

 「そーなのよ。ありがとうくらい、言いたいんだけどね…。」

 

椅子に座って目の前の水槽を眺める彼女の顔は、とてもおぼろげで、寂しげで。どこか諦めたような表情を浮かべていた。

 

 「千束……。よし。」

 

その横顔を見て、たきなはおもむろに立ち上がると、千束の目の前に立って大きく生きを吸う。そして、

 

 「さかな〜。」

 

手を合わせて腕を前に伸ばし、片足を上げて後ろに伸ばし、どうやら彼女は魚のモノマネをしているらしい。顔は赤く、相当恥ずかしいようだが、それでも千束に笑ってほしかったのだろう。

 

千束もそれを見てたきなの隣に並ぶと、先程のように腕を上に上げてゆらゆらと揺れはじめる。

 

 「チンアナゴ〜。」

 

たきなと千束は互いに顔を見合わせ、笑い合う。その顔には今までの曇りは一部もなく、とても……、いや、千束風に言うであれば、めっちゃ可愛かった。

 

蓮士は一歩引いたところで千束とたきなの様子を見守る。一瞬止めようかとも思ったが、二人の笑顔を見てそんな気はサラサラなくなった。こっそり二人の様子をカメラに収め、す、と目を閉じて呟く。

 

 「できることなら……。」

 

いつまでも、この光景が続きますように。

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

日が傾き始めた頃、水族館を思う存分に堪能した三人は帰路につこうとしていた。

 

 「いやー楽しかった楽しかった。……レン?」

 「どうかしましたか?」

 

鼻歌交じりに歩いていた千束とたきなだったが、急に後ろを着いてきていた蓮士の足音が止まり、どうしたのかと振り向く。

 

 「いや……リコリスの数、おかしくねェか。」

 

その言葉に二人は改めて周囲を見回すと、その異様な光景に気がついた。

 

 「サードリコリス……?」

 「人数やばくね?」

 

二人にとってよく見慣れたベージュの制服が、あちらこちらの人混みに紛れて動いているのが見える。一般人からしてみると、学校帰りの学生が少し多いな、程度にしか感じていないようだが、三人からしてみると、この光景は異常事態そのものだ。

 

 「駅が封鎖されているようですね……。何かあったんでしょうか。」

 「ちょいちょい。駄目だよ行ったら。私達、いまリコリスじゃないんだから。銃なんて抜いたら捕まっちゃう。」

 

スマホのニュースを元に、現場に向かおうとするたきなを千束が止める。先程も言ったように、制服を着ていなければ二人はリコリスとして認められないのだ。

 

 「はい……。」

 

悔しそうにうつむくたきな。直ぐ側で仲間たちが戦っているというのに、指を咥えていることしかできないことが相当に堪えたらしい。

 

こればっかりは仕方がない。蓮士もたきなに声をかけようとーー

 

 ゾクリ

 

 「ッア……!?」

 

背筋に、悪寒が走る。濃厚な殺気をその身で受けたような、そんな感覚がした。蓮士のスイッチが切り替わる。瞼は見開かれ、それはさながら、敵の姿を探る獣のようだ。

 

 「ちょ、レン?どうしたの!」

 「敵ですか!」

 

蓮士が纏う緊迫感に、千束とたきなも顔色を変える。蓮士の強さはよく知っている。その蓮士がここまで焦る相手とは一体何なのか。二人の背筋に冷や汗が伝う。

 

 「ーーッ!」

 

蓮士の動きが、がある一点を見た瞬間に止まる。二人もそれを追って視線を向けると、少し離れたビルの屋上。そこに見える一つの人影。

 

その顔が、ニヤリと笑ったような気がした。

 

 「待てっ!」

 

蓮士の叫び声と共に姿を消す影。すぐさま追いかけようとするが、いつものギターケースを持ってきていないことを思い出して踏みとどまった。

 

 「ちぃっ……!」

 

ギリッと歯を食いしばり、ビルの屋上を睨みつける蓮士。千束とたきなはしばらくの間、それをただ呆然と見つめているしかなかった。

 

 平穏は、すでに破綻している。ただ気が付かぬふりをしているだけで、皆すでに気がついている。

 

波乱の時まで、もう時間はない。

 

 




・トランクスの行方
千束が宣言通りすべて廃棄していたが、ものは試しと履いてみたところでミズキに見つかり一悶着起きることになる。

その時リコリコは平和であった。

・人影
水族館の近くに立っていたビルの屋上に現れた謎の人物。蓮士はよく知っている相手のようであるが、そのことについては頑なに口を閉ざすため正体不明。今わかっているのは、蓮士がその人影に向け、なにか強い感情を持っているということだけである。

久しぶり……。レン。
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