とある喫茶店に雇われる話 作:ハッピーエンドは素晴らしい
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それでは、READY FIGHT
千束、蓮士、たきなの3人は、ウォールナットを取り囲むように周囲を警戒しながら小休止を挟んでいた。
「……あぁ。今はスーパーの中だ。全員大したケガもしてねェよ。」
『わかった。気をつけてくれ。頼むぞ。』
「任せろ。」
蓮士がミカとの通信を切り、インカムから手を離す。
いま三人がいるのは、いつから手入れされていないのかボロボロになった外壁や壊れかけた看板が目立つ大きな廃屋。看板や中の商品棚らしきものからして、昔なにかのスーパーとして使われていたのだろう。
「さて、どうするか。」
蓮士が外の様子を探ると、そこには主戦力と思われるグループが乗っていた車が何台か見え、十人程の気配がこのスーパーを包囲しようと動いているのがわかる。どうするか、と思案する蓮士。敵を全員倒していいなら話は別だが、今回はそういう任務ではない。ふむ、と考え込んだところで、たきなが口を開いた。
「裏口に回りましょう。敵を撒きます。」
「その心は?」
蓮士の問にも言いよどむことなく、自身が考えた作戦内容を伝えるべく口が動く。
「最大予測員数は十人程度。スーパーを包囲するとなるとかなり人数は散ります。接敵するとしても一度に一人か二人。集団で襲われるよりも少数で撃破しながら進めると考えます。」
さすが、本部で活動していただけはある。作戦が理にかなっている上無駄がない。
千束も頷いたところで、蓮士はきぐるみに視線を飛ばす。ウォールナットはそれに気がつくと「あぁ。」と短く返してくる。
『そのスーツケースさえ守ってくれるなら、なんでもいい。』
「あんたのすべて……だったか。」
『あぁ。もしものときはボクよりもそっちを優先してくれ。』
「了解した。」
今たきなが持っているそれの中身が何なのか。蓮士ばそれを知っているがゆえに神妙な顔つきで頷く。実際、今回の任務はこのスーツケースさえ守りきれば成功と言ってもいいのだ。
「ま〜たそんなこと言って。絶対誰も死なせないからね。」
しかしそれを知らない千束とたきな。彼女達が最優先するのはやはりスーツケースよりもきぐるみの方になるだろう。そこのところは上手くフォローする必要がある。蓮士は先行していく千束の後ろを追いかけ、すれ違いざまにきぐるみの肩を叩いた。
「上手くやれよ。」
きぐるみの頭がほんの少しだけ動いたのを見た蓮士は小さく笑う。本当に、いざというときだけは頼もしい。
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千束が商品棚から顔だけ出して周囲の状況を確認。合図が出たところで蓮士が先に出て、周囲を警戒しつつウォールナットを次の棚へと移らせて自身もその後に続く。
そんなことを何度か繰り返していると、蓮士は背後に気配を感じとった。その数、三人。
仕掛けてくる。
殺気立つその気配に、そう判断した蓮士はさり気なくきぐるみの後ろに移動し、その後ろを歩くたきなの盾になれる位置で太刀の柄を握り込んだ。
首筋にピリリと電気が走る。
「ッ!」
振り向きざまに蓮士はたきなの頭上に太刀を振るう。何かを弾く感触とともに商品棚の一部が抉れ、遅れて耳に届く銃声。
「敵襲!」
「ウォールナットさん!こっち!」
たきなが素早く状況の報告し、千束はきぐるみの手を引いて棚の後ろに隠れる。現れた敵はやはり三人。その手に握られている得物は、黒光りするアサルトライフル。
「四人発見!銃と剣を持ってる!」
太刀で銃弾が弾かれるという現実離れした光景に一瞬固まるも、敵は奇襲が失敗したと見るやすぐさまどこかへと情報を伝達し、制圧に切り替える。
飛来する銃弾の雨。ほか三人はなんとか物陰に隠れたようだが、最初の一撃を弾いた蓮士はその場から動かない。
「竹見さんっ!」
たきなの悲鳴が上がる。
だが、
その光景を見た蓮士はニヤリと口角を上げた。
ギギギギギンッ
金属同士が衝突し合う不快な音が響く。その音は、とてもではないが銃弾がヒトの肉を貫いた音には聞こえない。その証拠に響く笑い声。
「ハハハッ!随分な挨拶だなァ!」
弾幕が途切れ、蓮士が太刀を振り払う。その体と周囲の床には一切の弾痕は見当たらず、それを見た敵に動揺が走った。
『やっぱり化け物だろうアレは。』
ウォールナットが唖然としたように言う。たきなも同じだ。リコリコに配属されてすぐに請け負ったストーカー事件。あのときも随分驚いたが、今回の衝撃はその比ではない。いくら義手が優れていても、いくら身体能力が高くとも、3つの短機関銃から放たれる弾幕を全て弾くなんてこと普通ではない。
二人が驚いているその間にも状況は目まぐるしく動く。
「よいしょっ!」
千束が商品棚を足場に飛び上がり、敵のうち一人に向けて銃弾を放つ。
「ぐっ……」
よろめきはしたものの、防弾服を着込んでいるらしく怯むだけにとどまる。が、そこから回復するよりも早く我に返ったたきなの正確無比な狙撃によりその腕を貫かれ、敵は得物を取り落とした。そこへ更に千束の非殺傷弾が三発めり込み意識を刈り取った。
弾幕が薄れる。その瞬間、蓮士がの動きが防衛から攻勢に変化した。最後に避けられないと判断した弾丸を弾いたのを皮切りに、その場から飛び出す。姿勢を低く蛇行することで弾丸をすべて躱し、一瞬で残った二人へ肉薄するーー
先ず一閃。2つのアサルトライフルの銃身が中程から切れ宙を舞う。刃を返し、反り側で首筋を打ち据え一人仕留める。最後に残った一人には、短い踏み込みから放たれたハイキックが顔面に突き刺さる。食らった相手は、折れた歯やら鼻血やらを吹き出しながら意識を失いバタンと倒れた。
しかし、まだ安心できない。更に足音が聞こえる。流石にこの状況で作戦を遂行するのは悪手だ。敵との距離が近すぎるし、きぐるみに施された仕掛けがバレる可能性が高い。出来れば遠距離から、スコープや双眼鏡でも使わないと見えないような位置から襲撃されるのがベストだ。
(ウォールナットの情報通りなら、この先で狙撃手に待ち伏せされているポイントがあるはずだ……。)
ならばそこに三人を誘導し、ウォールナットが殺されたように見せかけよう。敵はまんまと自分たちの策にこちらがハマったと勘違いして撤収するはずだ。
蓮士はきぐるみに視線を飛ばす。
(頼むぞ。)
「ここは俺が押さえる。先に行けっ!」
またもや襲いかかってきた銃弾の雨を弾きながら蓮士が叫ぶ。
「っ死ぬなよ!」
「ハッハァ!頼まれても死なねェよ!」
千束の激励を背に、歯をむき出しにして笑いながらまたもや敵に突貫していく蓮士。遠ざかっていく足音は激しい銃撃音にかき消される。だが当然のごとく弾丸は掠りもしなければ、蓮士の足は緩まることすらない。その距離は、一瞬でなくなる。
「う、うあああ!!」
「フンッ……!」
左手を男の腹にピタリとつけ、グッと力む蓮士。踏み込んだ足から床にひびが入る。
「ぐぼっ……!?」
発勁。はなたれた衝撃は防弾衣を貫通し、白目をむいて倒れる敵。さらにギターケースから排出されたダガーを蹴り飛ばし、奥で銃口をこちらに向けていた男の腕を切り裂いた。
「シッ!」
怯んだ瞬間に短い気迫とともに地面を思い切り蹴り、握り込んだ左の拳を胸部に叩き込む。鈍い感触の下に確かに感じた手応え。元の位置から2メートルほど吹き飛び、男は倒れた。
「デェヤッ!」
「おっと。」
倒れた男を一瞥した蓮士が右に首を傾けると、後ろから顔スレスレにナイフが飛び出してきた。それを左手の人差し指、中指、親指で摘むと、捻りながら頭の上を通過させ、体の右側に持ってくる。
「グッ……!」
更に左手を引きながら左足で地面を蹴り、右足を軸に回転して膝蹴りをお見舞いする。衝撃でナイフを手放したところで左手に太刀の柄を持ち替え、空いた右手で敵の顔面を捕まえた。しかし、何時も通り腕から電流を放とうとした蓮士の動きが突然ピタリと止まる。
「あ?女じゃねェか。」
蓮士の右手が掴んでいたのは自分とそう年が変わらない少女の顔だった。茶髪をポニーテールにし、世間一般からしても美人と言える顔立ちをしている。それに防弾衣で判別が付きづらいが、よく見てみれば体つきも丸みを帯びた女性らしいものだ。
彼女はジタバタともがき右手を振りほどこうとするが、流石に蓮士もそれで逃してやるほど甘くはない。フム、と左手をあごにやり考え込むような仕草はしているが、スキが全く見当たらない。
「うーん。流石にお年頃の顔に大やけどってのはナンセンスだな。これ以上腹殴って子供が産めなくなったら恨まれそうだし、胸殴ったらセクハラだし。となると……。」
「な、何なんだよあんた……!」
「うん?」
少女も逃げられないと悟ったのか抵抗をやめ、その代わりと言うように蓮士に質問をぶつけてくる。
「んー…、とある喫茶店に雇われた男だ。」
そう言って二ッと笑った蓮士は、ギターケースから何やらスプレーを取り出してはあ?と呆ける少女の顔に向けた。
「いい夢見ろよ。Good night.」
そのスプレーから噴出した白い煙を吸い込むと、すぐに少女の目がトロンと下がり、体から力が抜けていく。
「軽めの睡眠ガスだ。十分もすれば効力は切れるさ。」
少女の体をその場に横たえ、さて三人を追いかけようかと思ったその時、インカムに無線が飛んできた。
『こちらβ。……任務失敗。撤退します。』
「……わかった。無理するなよ。」
『了、解。』
聞こえてきたのは任務失敗を告げるたきなの声。とぎれとぎれに声が聞こえてくるところから察するによほど悔しいのだろう。無線を切り、蓮士は大きくため息をついた。
「あー、あとが怖えな。」
敵を騙すにはまず味方から、とは言うがあそこまでの反応をされると流石に良心が痛む。とはいえまだ任務は完了していない。さっさと回収してもらおう。蓮士はギターケースを担ぎ直してその場をあとにした。
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「確かこのあたりのはず……。」
蓮士はスーパーから出て、スマホに転送されてきた回収ポイントを探して少し歩いていた。
「あれか?」
蓮士の視界に写ったのは一台の救急車。見たところ、この付近に自分たちを載せられるような車は他にはない。ナンバープレートを確認し、後ろのドアを開けて中に乗り込む。
「竹見さん……。」
「レン……。」
隣り合って座り、顔に影を落とす千束とたきな。その眼の前には血まみれになったきぐるみが寝かされ、近くにはスーツケースが置かれている。奥を見ると、自身の愛車も積み込まれていた。
蓮士が二人の向かいに座ると、ゆっくりと救急車が発進する。
「私が注意を怠ったせいで……。すみません。」
「ごめん。せっかくレンが道を開けてくれたのに……。」
二人はこちらに向け、本当に申し訳無いと謝ってくる。千束には何時もの明るさは微塵も感じられず、きなに至っては土下座でもしそうな勢いだ。
「………。」
蓮士はそんな二人の様子を見て、
「……ごめん、もう無理。」
とうとう良心にとどめを刺された。
「うぇぃあぁあ!?!?!」
「ヒイィッ!?!?」
次の瞬間救急車に響く二人の悲鳴。思わず抱き合った二人の目の前では、血まみれのきぐるみがムクリと起き上がっていた。真っ赤な鮮血が滴るきぐるみが無言で起き上がるその光景は、下手なホラー映画よりも恐ろしい絵面になっている。
さらにはゴトゴトと首が揺れ動き始めるのだから、その恐ろしさに拍車がかかる。
「イィイヤァァア!!!???」
千束は絶叫して腕にさらに力がこもり、たきなも涙目で千束を抱き返す。
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とうとう頭が外れて吹っ飛び、中から現れたのは、
「あっつぅ……。ビール頂戴。」
「まずそれかよ。」
メガネを外したミズキの顔。何時も通りの様子で目があった瞬間にアルコールを催促してくる辺り、きぐるみのギミックは完璧だったようだ。
蓮士が呆れたように笑ったところで運転席から缶ビールがとんできた。ミズキはそれをキャッチし、グビグビと喉に流し込みはじめる。
「え、あ、ちょ、な、何がどうなってんの?」
「え、えぇ?」
千束の目が見開かれ、たきなもパチパチと瞬きをする。死んだと思った護衛対象が実は自分たちのよく知る人物で、しかもピンピンしているとなればそりゃあ驚きもするだろう。
「落ち着け。千束。」
「どぅえええ!?先生まで!?」
さらには運転席からひょっこりとミカが顔を出し、千束の顔に浮かぶ困惑の色が濃くなっていく。
「なんで生きてんの?!血もいっぱい出てたし……はっ、まさかゾンビ?!」
「誰がゾンビよ!このきぐるみが防弾仕様なの。あと撒き散らしたのはただの血糊ね。」
二人がギャーギャーと言い合っているなか、たきながある意味いちばん大事なことを思い出した。
「待ってくだい!ウォールナットさん本人はどこへ!?」
「あ、そうだよ!どこいったのあの人!」
『ここだ。』
二人が声のする方を見ると、そこにはきぐるみの頭が転がっている。よく見るとスピーカーのようなものが取り付けられており、更にそこから声が響く。
『死んだ人間の足跡を追うものはいても、死んだ人間を追うものはいない。何故なら死とは人間の完成形であり、そこへたどり着くためには同じ死という道を歩まねばならないから。……だったか。まあつまり、死ねばそれ以上の捜索はされないだろうとのことだ……。あれ、開かないな。』
何やらゴソゴソと言う音がスピーカーから聞こえてくる。蓮士は小刻みに動くスーツケースに手を伸ばし、ジッパーを下ろしてケースの口を開けた。
「ホレ。」
「おお、助かった。」
中から出てきたのは金髪の少女。かなり幼い見た目をしており、身長は蓮士の腰辺りまでしかないがその頭脳はここにいる誰よりも上を行く。彼女こそが、天才ハッカーウォールナットの正体であった。
「えーっと、あなたがウォールナットさん?」
「あぁ。改めてよろしく。」
千束の言葉に頷くウォールナット。そこへたきなが質問をする。
「死ねば捜索されない、ということは今回撃たれたのはわざと……?」
「ああ。彼のアイデアでね。」
ウォールナットがミカに視線を向ける。彼は自分の作戦がうまく行ったことに満足そうにうなずき、同時に千束とたきなに申し訳無さの混じった目を向けた。
と、そこでビールを飲みきったミズキが残念そうに眉を下げながら口を開いた。
「残念ね〜。最後にハリウッドばりの爆発用意してたのに。ドカンッ!って。」
「あんなもん使わねェで正解だ。高いし単純に危ない。」
「そうだな。素早く安全に仕事が終わるならそれに越したことはないだろう。」
「……ボクはいったいどんな壮絶な最後を遂げる予定だったんだ?」
二人を置き去りにしてあーだこーだと話を膨らませる大人三人とプラスαウォールナット。千束はポカンとした様子で、先程まで行動をともにしていた蓮士に顔を向けた。
「え、レンも知ってたの?」
「あぁ。下手なところで撃たれるときぐるみの仕掛けがバレる可能性もあったからな。そういうところのフォロー役。」
千束の言葉にうなずき、慣れないことするもんじゃないな、と左肩を叩くレン。
「え、えと、色々聞きたいこととか言いたいこととかあるんだけど……。」
千束はそこにいるメンバーの顔を一人ひとり確認し、最後にミカへと視線を向けた。
「全員無事で、全員生きてるって……こと?」
「あぁ。」
それを聞いた千束がす、と俯く。癇癪でも起こすかなと蓮士は身構えるが、次に顔を上げた千束の顔には怒りや憤りといった類のものはなく、顔をクシャッとさせ、目からは大粒の涙が溢れていた。
「よがっだぁあ〜!!」
良かったよ〜、と言いながらたきなに抱きついたままだった腕にさらに力がこもる。
「千束、さん。……痛い、痛いです……っ!んむっ。」
万力のごとく締め上げられたたきなの顔が痛みで歪む。更に千束が自分の胸の中に顔を埋めさせてしまうものだから、たきなは息ができずにジタバタと藻掻く。
それを見ていたウォールナットは、意外そうな表情で蓮士のことを見上げた。
「よく聞くリコリスとは随分イメージが違うな。」
「それ、よく聞いちゃいけない気もするが……。まあ、大半のリコリスからすれば千束は異常だろうな。」
ようやくホールドから抜け出したたきなにもう一度抱きつこうとする千束。その姿を眺めながら、蓮士はクッ、と笑った。
「だが、アレがあいつだ。バカで、お調子者で、時々めちゃくちゃムカつくけど、底抜けに明るくて、どこまでもお人好しで、誰よりも優しいやつだよ。」
だからー
「どうした?」
「いや、なんでもねェ。それより気をつけたほうがいいぞ。」
「は?……うぉっ!?」
突然ウォールナットの体が浮き上がり、どこかへと連れ去られる。犯人は千束だ。たきなに逃げられ標的を変えたらしい。
「おいっ!離せ!」
「やだ!」
千束の腕の中でジタバタと藻掻くウォールナットを眺めながら、蓮士のはとても穏やかに笑っていた。
「
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「むっすー。」
千束はリコリコに戻るやいなやテーブルに突っ伏し、口をとがらせて不貞腐れていた。
「悪かったって。」
蓮士がテーブルを拭き終えたところで千束に謝る。これからまた店を開けるというのに、不貞腐れたままでいられると非常に困るのだ。
「教えてくれたって良かったじゃんか。」
千束は顔の向きを蓮士のいる方へ向けると、ブーブーと文句を垂れる。ちらりとたきなの方を見ると、何も言わずに店の準備をしているがやはりその目には不服そうな光が宿っている。彼女も今回の作戦については不満があるらしい。
そこへパソコンをニヤニヤと見つめていたミズキが口を挟んでくる。
「だーってあんた芝居へたくそじゃない。それならたきなと一緒に自然なリアクションしてもらったほうがいいでしょ。」
「なんだとぅ!?」
ケラケラと笑いながら言うミズキに食いつく千束。ミズキは呆れたような顔でならやってみろと足元の地面を指さす。
「ほら。そこにウォールナットが撃たれて倒れたわよ。」
フンスと千束は息巻き、指をさされた場所に駆け寄ると、何やらロボットのような奇妙な動きで大げさに驚いたようなリアクションをし、
「わー。ウォールナットさんしんじゃったー。」
「……ごめんなさい。」
「なして謝る?!」
想像以上だった。とはミズキの談。二人がじゃれ始めたところでたきなはとうとう口を開いた。
「……やっぱり命大事にって方針、無理がありませんか?」
振り向く三人。たきなは更に言葉を続ける。
「今回、きちんと二人で行動していればあのようなことは起こらなかったはずです。」
「だって、あのままじゃあの人死んでたよ?」
「そうそう。私もアンタがいなくなったおかげで助かったし。それに今回はそうされるとこっちが困ったのよ。」
「終わりよければすべてよし!だよ!」
どうやら蓮士が離れてからひと悶着あったらしい。千束とミズキは顔を見合わせ、「ね〜。」と互いに同意するが、たきなの顔はさらに険しくなっていく。
「私達にはっ!」
その声には怒りや憤りに混ざり、不安や恐怖が見え隠れしていた。
「私達リコリスには殺人が許可されています。敵の心配をするくらいなら!」
彼女は優しい。自覚はないだろうが、きっとその叫びの根底にあるのは仲間を失ったり、傷ついたりすることへの忌避感なのだろう。もし殺さなかった敵がこちらに恨みを抱いたら、殺さなかったせいで仲間を失ったら。
「井ノ上。」
「なんですか。」
「お前の言うことは理解できる。そんで、その選択肢が正解である場合もあるだろうよ。」
「ならっ!」
そう。理解はできる。けして彼女が言っていること、思っていることは間違いではない。でも、
「殺せばすべてが片付くわけじゃない。」
「?」
たきなの顔に、困惑の色が浮かぶ。蓮士が続ける。
「今日俺が相手取った中に女が一人混じってた。俺と同い年くらいのな。」
「それが?」
まあ待て、と食い付いてくるたきなを手で制する。
「もしもの話になるが……」
ーーその腹の中に赤ん坊がいたとしたら?
「は……?」
「もちろん一人じゃ子供はできない。父親だっているはずだ。きっと生まれてくるのを心待ちにしてるだろうなァ。もしそんな女を殺したとなれば、もちろん腹の中の子供も死ぬ。父親は悲しみ、怒り狂うだろうよ。良くも自分の家族を、ってな。」
人間は執念深い。きっとどんな手を使ってでもこちらに復讐をしようとしてくるだろう。
「しかしそれはタラレバの話であって!」
「あァそうだ。だが絶対にない可能性だとも言い切れねェ。違うか?」
「……ッ。」
たきなも、なんとなく蓮士の言いたいことはわかるのだろう。しかしリコリスとして、暗殺者として育て上げられる過程で培っできたものが邪魔をして、納得ができていない。
蓮士は俯いたたきなに歩み寄り、軽く頭を撫でてやる。
「すぐに納得出来ないならそれでいい。自分の中で、ちょっとずつ折り合いをつけていけばそれでいい。」
「……。」
まだちょっと難しかったかもしれない。蓮士は苦笑いをしながら俯いてしまったたきなのもとから離れる。あとは千束に任せておけばいい。視線を向ければ千束はこちらにサムズアップをし、たきなの方に歩いていく。
厨房を覗くと、ミカが千束のご機嫌取りに団子を作っていた。先に座敷の座布団でも引いておくか、と二階へ登り、押し入れの襖を開ける。
一瞬蓮士の動きが止まった。
「……あァ、そういやお前ここに住むんだったか。」
その先に、蓮士が見慣れた押し入れの姿はなかった。鎮座するパソコン、壁にはコードが張り巡らされ、その中心で金髪の少女がキーボードをいじっている。
「ああ。よろしく。」
ウォールナットは顔をこちらに向けると無愛想に会釈をし、さっさとモニターに視線を戻した。本当に見た目と中身が見合っていない気がする。
蓮士は暫くその横顔をじっと見つめたあと、ウォールナットの肩をガシッと掴んだ。
「おいウォールナット。」
「な、なんだ?」
「お前ホームページとか作れるか。」
「あ、あぁ?作れるっちゃ作れるけど。」
よしっ!とガッツポーズを決める蓮士。彼女の身柄は今回のほとぼりが冷めるまで匿うことになっているし、暫くはこき使ってやろう。蓮士の目が怪しく光る。
と、その時上に登ってくる足音が二つ。
「おー。レンってば気が利く……なんでいんの?」
団子を手と口に咥えながら部屋に入ってきた千束はウォールナットを見て駆け寄ってくる。
「しばらく匿うことになった。ほら挨拶。」
「君はボクのオカンか。まあ、宜しく。家賃も兼ねて格安で仕事も請け負うよ。」
仲間が増えたと喜ぶ千束。更に詰め寄り、何時も通りのテンションと勢いで距離を詰めにかかる。
「ねえ、なんて呼べばいい?」
「ウォールナット「それは死んだ人間の名前!」
千束の言葉にそれもそうか、としばらく思案するウォールナット。そして、
「クルミ、とでも呼んでくれ。」
「日本語にしただけじゃん。」
「仕事仲間ってだけだろう。本名教えるほどの仲じゃない。」
少し不満そうにする千束だが、「クルミ、クルミかぁ。」とその名前を反覆し、にっと笑う。
「いいじゃん似合ってるよ〜。よろしくね!クルミ!」
「ハア……。ーーイテッ!!」
ビシッ!という音と共にクルミの額の上で跳ねる黒いヘアゴム。千束と蓮士が振り向くと、そこにはツインテールの片方を解き、手をピストルのように構えるたきなの姿が。
「な、なんで?」
涙目で額を抑えるクルミ。撃った張本人であるたきなも何故か目をパチパチさせていた。
「すみません。少々気になりまして。」
「なにが!?」
きっと、彼女にしかわからない何かがあるのだろう。
折れた電波塔が見守る喫茶店は、なんだかんだ今日も平和である。
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その夜
「……頼んでもいないのにあの人は。」
たきなは自分の家で、とある紙袋を前にして困っていた。その中身は映画のDVDであり、帰り際に千束が押し付けてきたのである。
「感想も聞くとか言ってましたし……」
一つだけ見て見ようか。たきなは中身を取り出し、机に並べる。別に強制ではないし、千束が不機嫌になるだけで見なくともよいのだが、なんだかんだ彼女は優しい娘である。
「これは?」
ふと手に取ったのは、紫髪の少女が草原の上で横になっているパッケージ。後ろを見ると可愛らしい黒猫やくまのぬいぐるみが描かれており、その映画の名前は
「魔女の家、ですか。」
あまり聞いたことはないが、パッケージのデザインが気に入ったたきなは、とりあえずそれを見てみることにした。
プレイヤーにセットし、テレビのスイッチをつける。
そして数分後、
部屋のドアが開き、中に顔を引きつらせた蓮士が入ってきた。
「……すげェデジャヴ。」
まず目に入ったのは、壁に取り付けられた大型テレビにドアップで映る妙に不気味なくまのぬいぐるみ。次に床に転がる画面がついたままのスマホ。そして、
「ーーーッッ!!〜ッッ!」
部屋の隅で丸くなり、顔全体を手で覆い、声にならない叫び声を上げて泣きじゃくる黒い髪の少女の姿であった。
・きぐるみ
めちゃくちゃ頑丈なきぐるみ。アサルトライフルの一斉掃射を受けても中に入っていた人間には傷一つ負わせないもはや鎧である。表面に血糊が吹き出す仕掛けが仕込まれており、傷を負うと派手に赤く染まる。着ていた本人曰く、めちゃくちゃ熱いらしい。
それは黄色いリスを模したものであるが、共感されることは少ない。
・魔女の家
皆さんご存知ホラーゲーム魔女の家がこの世界線で映画になったもの。主人公が最後まで一切喋らず、作画も非常に不気味であり可愛らしいパッケージに勘違いしてトラウマを抱える子供がそれなりにいるらしい。千束が半分寝ながら映画を選んだせいで紙袋に紛れ込んでいた。
次の日たきなと蓮士は一緒にリコリコに出勤してきたとかなんとか。
〈9月29日誤字修正〉