とある喫茶店に雇われる話 作:ハッピーエンドは素晴らしい
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それでは、READY FIGHT
一人の少年が、瓦礫の上で夕日を見上げていた。一日が終わっていく喪失感とか、赤い空を美しいとか思うでもなく、ただ視線を向けた先に沈みゆく太陽があっただけだ。
「何見てんの?」
不意に足元から声が聞こえる。
「特に。」
少年のあまりにそっけない答えに押し黙る声の主。しかし、すぐに面白いものでも見たかのように吹き出した。
「プッ。なにそれ。」
「お前は……。」
ようやく、少年が声のする方を向く。そこには、一人の少女が横たわっていた。整った顔立ちに、夕日を反射させる銀の髪はサイドテールに。澄んだ灰色の瞳が少年の姿を捉えていた。
少年が、少女に問いかける。
「お前は、なぜ笑っていられる。」
「なぜって?」
首を傾げる少女に、少年は補足を入れる。
「お前は、時期に死ぬ。なのに、何故笑っていられる。死とは、ヒトが最も恐れるものではないのか?」
少女の腹には一筋の赤い線が走り、そこからは止めどなく赤い花が咲いている。
横たわっているのは、立ち上がる力が残されていないから。しかし、少女はなんてことないように少年へと問い返した。
「そんなこと言ったら、アンタは大丈夫なわけ?」
少年の右腕は半ば引きちぎれたように無くなり、肩までもがぐちゃぐちゃに潰れている。しかし、彼もまたなんてことないように答えた。
「止血は済ませた。俺は死なない。」
「あっそう。」
つまらなさそうな声を聞き、少年は、改めて少女へと問いかける。
「答えろ。何故だ。」
「何故って……うーん、」
手を顎にやり、目を瞑って思考を巡らせる少女。暫らくすると目を開き、少年へと向き直って答える。
「慣れた。」
「慣れるものか?」
「わりと慣れるよ。てか、死ねなくて残念って思ったことのほうが多い。」
アハハハ!と笑いながらあっけらかんと言い切った少女に、困惑の表情を向ける少年。そんな様子を知ってか知らずか、少女は少しだけ寂しそうに、でも。と付け足した。
「死ぬのは怖くないけど、嫌だな。」
「何が違う。」
少年は、理解できないと首を傾げる。
死ぬのが怖い、死ぬのが嫌。どちらも同じでないのか、と。しかし、少女ははっきりと首を横に振る。
「だってさ。私って生まれてこの方あそこに飼われて、実験動物にされて、顔がいいからって慰めものにまでされてさ。今あんたに殺されたわけ。ほんっとろくな目にあってないのよ。」
「……。」
「本で読んだことを、自分で見たり、やったりしてみたかったなって。」
楽しいんだろうなぁ、と嘆息をつきながら少女は言う。
「あぁ、でも、今日は久しぶりに楽しかった。」
にっ、と笑って見せる少女の顔にはこれっぽっちも曇りはなくて、
「だから、一個だけお願い。」
「あぁ。」
だから、少年はなんの抵抗もなく答えた。
「私のこと、忘れないで。」
「忘れないで、何になる。」
その言葉に首を傾げる少年。それを見て、少女はまたおかしそうに笑う。
「私の生きた証。ここに私がいたんだぞってこと、覚えておいてくれればそれでいいから。」
「……いいだろう。」
「マジ?やりぃ!……って、あれ。」
少女の動きが急激に鈍り、瞳の色が褪せ始める。見れば、今までの勢いは何処へやら。腹からはもう何も出てはいなかった。
「……限界か。」
「あーあ。畜生。生きてた中で一番楽しかったかも。」
ひっでえ人生だな!人でもねぇか!と自虐しながらもその命はどんどん消えていく。少女はもうほとんど焦点の合わない目を少年に向けた。
「母さんに、あったら、よろしく、言っとい……て。」
「……ああ。」
「ふふっ。悪く、ない、ね。死ぬの、は……ーー」
ふ、と少女の目から完全に光が消え失せた。手足から力が抜け、動かなくなる、
「……逝ったか。」
少年は残った左手で開いたままのまぶたを閉じ、その頬を撫でる。まだ、少し暖かい。命の残り香がする。
「生きた、証。」
少年はその手を握りしめ、しばし瞑想する。自分にも、そんなものはあるのだろうか。
「……。」
す、と目を開く。近くに刺さっていた自身の得物を引き抜き、立ち上がる。数度振り、動きを確認。重心が左によって動きづらいことこの上ないが、
「任務遂行に問題なし。」
最大戦力は今死んだ。なら、問題はない。
「
少年の瞳が赤く軌跡を描き、背後の屋敷へと向けられた。
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折れた電波塔が見下ろす喫茶リコリコ。沈みゆく夕日に照らされたその入り口には、「CLOSE」と書かれた札が吊り下げられていた。
「閉店後ボドゲ大会!今宵もすたぁとぉお!」
『『『イエーーー!!』』』
千束の号令と共に、集まった常連たちがはしゃぎ始める。
「ったく。煩いったらねェな。」
そんななか、蓮士は厨房で野菜や果物を洗ったり下処理をして仕込みを進めていた。その顔には呆れた表情が浮かんでいるか、口角は少しだけ釣り上がっている。
「竹見さん。」
そんな蓮士に声がかかる。振り向くと、リコリコの制服姿のたきなが立っていた。
「レジの確認終わりました。誤差なし、ズレもありません。……お手伝いしましょうか?」
「いや、もう終わるからいいよ。ありがとさん。」
彼女の申し出を断った蓮士は、彼女にもう上がっていい旨を伝える。レジの作業を千束やミズキに任せるとたいがいろくなことが起こらないし、ミカに至っては未だレジの使い方を熟知していないため本当にたきなの存在はありがたい。
自分が来るまでどうやって店の経営していたのだろうか。蓮士はたまに本気でそう思う。
「では。お疲れさまです。」
さっさと荷物をまとめ、更衣室へと向かうたきな。その様子を横目に蓮士は人知れずため息をつく。彼女がここへ来て数ヶ月。まだ心をひらいてはいない。
「たきな〜。こっち来て一緒にやろうよ!」
そんなたきなに、千束から待ったをかける声がかかる。大きく手を振り、自分の隣を指差すが……。
「……ッ。」
ツン、と彼女はそっぽを向き、逆に歩調を早めて更衣室へと歩を進める。先日の映画の件、まだ根に持っているらしい。まあ、あれは千束が全面的に悪いため養護する気はないが。
更に周りの常連たちから援護射撃が入る。
「たきなちゃーん。たまにはやろうよ〜。」
「結構です。」
「ありゃりゃ。」
しかし敢え無く全弾叩き落され、援護をした数人はガックリとうなだれることになった。
「おっさん、多すぎかなぁ……。」
「恥ずかしいのよ。お、と、し、ご、ろってやつ。」
そこへミズキが茶々を入れ、なんやかんやと盛り上がる一同を尻目にたきなは更衣室の扉に手をかける。
その横顔は、余りにも思い詰めすぎているように見えて、
「井ノ上。」
見かねて蓮士が声をかけると、たきなはようやく立ち止まった。
「なんですか。」
しかし振り返った彼女の顔を見て、思わず蓮士の眉間にシワが寄る。思い詰めているなんて生易しいものではない。その瞳が宿すのは強い強い執念と、その奥に垣間見える不安。
「あまり、思いつめるな。」
きっと何を言っても今のたきなは立ち止まらない。そうわかっていても、声をかけざるを得なかった。
「このままだとお前、潰れるぞ。」
「DAに戻れないくらいなら……。潰れたほうがマシですッ!」
ギリ、と握りしめられる拳。釣り上がる眼と震える瞳。
(危ういな。)
リコリス達が、エージェントとして、暗殺者として育て上げられる間に植え付けられるDAへの絶対的信頼と強烈な憧れ。今たきなを突き動かしているのは正しくそれだ。
それに、彼女は気がついている。自身にとって何よりも恐ろしい事実に。そしてそこから必死に目を背けている。
「私の……全てなんです……!!」
おそらくだが、DAは彼女を本部に戻すつもりはない。
クルミの調べで分かったことだが、彼女がここへ左遷される理由となった機関銃乱射の件。あれにはいくつか不可解な点があった。
その最たる例として、ラジアータに記録されていた作戦のログの中に、例の事件から前後数分間の記録がなかったことがある。クルミの見解としては、このタイミングで外部からのアクセスによりラジアータがダウンしてしまい、現地との通信が途切れてしまつたのではないかとのことだ。
つまりその間、現地に出ていたリコリスたちは司令部からの指示も補佐もない状態で作戦を遂行する必要があったわけで。命令無視をしたとはいえ、そんな状況下で人質奪還を成功させたたきなが左遷されるにはいささかペナルティが重すぎる。
更に、以前のストーカー事件で手に入れた写真に写り込んでいた怪しい男たち。どうやらたきなが撃ち殺してしまった武器商人とその取引相手らしいのだが、調べてみるとあの写真が取られたのはリコリスたちが出動する3時間前。つまり、そもそも手にしていた情報は偽の取引時間だったわけだ。
そこから考えられるたきなが左遷された本当の理由は、
「生贄、か。」
逃げるように、更衣室へと駆け込んでいったたきなを見送り、蓮士は胸糞悪そうに舌打ちをする。
「まるでナチス・ドイツだな。」
ヒトラーが行ったユダヤ人迫害と理屈は同じだ。偽の取引時間を掴まされた上にラジアータがサイバー攻撃によりダウンした。そんな情報が漏れようものならDAへの信頼は大きく揺らぐ。だから、たきなの命令違反に全責任を押し付け、なおかつ詮索や反撃ができぬようにこんな場所へと身柄を飛ばした。
『作戦失敗はたきなの命令違反のせい。』
そういう勘違いを意図的に広め、組織の後ろ暗い部分を覆い隠したのだ。
「どうだ。あの子は。」
厨房に戻ってきたミカが隣に並び、苦い顔をする。
「……こればっかりは俺たちじゃどうにもならねェ。本人が納得するしかない。」
「歯痒いな。」
「チッ。DAめ。ガキ一人になんてもん背負わせやがる。」
消えた銃の数はおよそ千丁。その責任が、全て彼女の背に乗せられていた。
「ねえたきな〜。」
「あいつなぁ……。」
千束が、更衣室の前でたきなをボードゲームに誘っている。あんな態度を取られてまだあのような行動を起こすガッツは素晴らしいが、流石にしつこいだろう、と蓮士は呆れる。すると、ミカが何かを思い出したらしく彼女に声をかけた。
「千束。体力測定と健康診断は済ませたのか?」
「……。」
「お前、マジか。」
千束の動きがピタリと止まり、その場に流れた静寂の意味を理解した蓮士。その目には、呆れを通り越し侮蔑の色が浮かんでいた。
「だ、だって、あんな山奥まで行くのめんどくさいんだもん!」
「『もん!』じゃねェよ。前もギリッギリまで引き伸ばして迷惑かけただろうが。」
「千束。仕事を続けたいなら、行きなさい。」
二人からの集中砲火を受けタジタジになりながらも、千束はなんとかならないかと頭を巡らせる。
「なんとかうまく言っといてよ〜。先生の言う事なら聞いてくれるでしょ?
楠木。DAのトップであり千束たちリコリスの司令官にあたる女性。蓮士もミカ経由で何度か会ったことはあるが、正直苦手な種類の人である。
こんななりでもリコリス最高戦力である千束の手綱を任されているのは、ミカと楠木がそういう関係だから、という噂がまことしやかに流れていたりするが……とある事象からそれは絶対にない。
しかし、二人が親しい間柄であることは確かであり、たしかにミカの頼みであれば楠木も融通を効かせてはくれるだろう。だが、その後に埋め合わせをするのは千束ではなくミカである。
「お前あんまりミカさんに迷惑かけるもんじゃーー「司令に会うんですか!」
蓮士の言葉を遮り、勢いよく開く更衣室の扉。その奥には、たきなが立っていた。……半裸で。
完全にその姿を視界に捉えるより早く、光と見まごう速度で蓮士の体が動く。ミカの体を180°回転させ、自身も顔をそらした。
「おまバッカ服ぅ!!」
バンッ!
ワンテンポ遅れてたきなの姿に気がついた千束は、腕をフルスウィングして思いっきり扉を叩き閉める。
「すまん。助かった。」
「コンマ数秒遅かったら危なかった。」
蓮士は扉が開く瞬間に薄っすらと見えてしまった肌色をむりやり記憶から切り取ると空の彼方へふっとばす。そんなことをしていると、またもや更衣室の扉が開かれた。
「私も連れて行ってください。」
「着替はやっ!」
千束の反応からしてたきなは着替えを済ませてきたらしい。扉を締めてから十秒立っていない気がするが、ツッコミは千束がやってくれたのでスルーしておく。
「行ってどうするよ。」
「司令と話がしたいんです。」
それは……、と言いかけて蓮士は口をつぐむ。おそらく彼女が楠木と話をしたところで、辛い現実を叩きつけられるだけだろう。だが、千束が一緒にいるならーー賭けてみてもいいかもしれない。
「……いいんじゃねェの?千束。連れてってやれよ。」
「えぇ……うっ。」
それでも渋い顔をする千束だったが、とても真っ直ぐなたたきなの目を見て思わずたじろいだ。目が泳ぎ、蓮士の方へと助けを求める。
「じゃあレンもついてきてよ〜。」
「俺は用事がある。」
「あぁ、アレ?」
じゃあしょうがないか、と珍しくすっぱりと諦める千束。
「ただし!」
しかし、ただで行くつもりはないようで、蓮士にビシッと指を突きつけた。
「おにぎり、作って!」
「……ハァ。わかった。行く前に取りに来いよ。」
よっしゃ!とガッツポーズをする千束にため息を付きつつも、蓮士は中に入れる具のことを考え始める。
「(ジッ)」
「………。」
「(ジィッ)」
視線が痛い。蓮士はたきなの方を向き、期待で目をキラキラとさせる彼女に一言。
「いるか?」
「はい。」
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次の日
「んじゃ、気をつけていってこいよ。」
「はーい!」
「了解しました。」
蓮士の言葉にそれぞれ返事をした千束とたきなは、渡された包を鞄にしまってリコリコを出る。二人を見送るその姿は、どう見ても遠足に行く子供を見送る母親そのものである。
「レン。やっぱりオカンと呼んでもいいか」
「駄目だ。」
一部始終を見ていたクルミからそんなことを言われる。蓮士はそれをにべもなく断り、つけていたエプロンを外してジャケットを羽織った。
「それより、頼んでたやつは?」
蓮士が尋ねると、クルミはタブレットをいじって画面を見せてくる。
「こんな感じでいいか。」
そこに表示されていたのは、以前彼女に依頼していたリコリコのホームページであった。
「ほうほう。上出来上出来。」
看板と同じ書体で作られた見出し、畳柄の背景、その他にもおすすめメニュー紹介など、一通り目を通して満足そうに頷く蓮士。こういったしっかりしたものを業者に依頼するとバカにならない費用がかかるのだが、
『丁度いい息抜きになる』
と言って格安でで請け負ってくれるのだからクルミ様々である。
「あとはこっちでなんとかしておく。」
「わかった。」
蓮士の言葉を聞き、タブレットを抱えて
「あ、そういやクルミ。」
しかし蓮士の声に足を止め、振り返る。
「どうし……た……。」
言葉が、詰まった。
「もう一個の方、どうなってる。」
原因は、そこにいた蓮士の顔。そこにはついさっきまで浮かべていた笑みは欠片もなく、刀のように鋭い視線がクルミを射抜いている。
「どうした?」
蓮士の声にはっと我に返ったクルミは、少しつっかえながらもなんとか答える。
「あ、あぁ。それが、少し時間がかかりそうなんだ。途中から完全に足取りが消えていてな。ここまで手こずるのは、久しぶりだよ」
「……そうか。いや、ありがとう。」
行ってくる。そう言い残してリコリコを出ていく蓮士。聞き慣れたバイクのエンジン音が遠ざかっていくのを感じたクルミは、少しの間そこから動けずにいた。
「……初めてだな。あいつのあんな顔見るの。」
そう言うとクルミは、手に持っていたタブレットを弄り一人の人物のプロフィールを映し出す。
「しっかし……なんでこんな人物を探してるんだあいつは?」
更にスクロールしていくクルミの手の隙間から、銀の髪に灰色の瞳が特徴的な、一人の女性の写真が見えた。
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愛車を駆り、たどり着いたのは一つの大きな公園であった。
蓮士はシートから降りると適当な場所にバイクを止め、お目当ての場所へと歩いていく。
「どうにも、毎年来ないともやっとするんだよな。」
蓮士はそう独りごち、周りの景色を眺める。
「信じられるか?あのとき、俺とお前はこんなところで血を流して戦ってたんだぜ?」
聞こえてくるのは子どもたちが遊ぶ少し騒がしい声。カップルが腕を組んで交わす言葉。ベンチの上で寄り添い合った夫婦が立てる寝息。
蓮士は懐かしむように目を細めながら遊歩道を歩き、目的地についたのか立ち止まる。
「ほら。今年も来てやったぞ。」
立ち止まったのは、公園の端にポツンと作られた小さな花壇の前。風に揺れる草花をしばらくの間見つめ、蓮士はす、と目を閉じた。
目を開くと、そこにはもう花壇はない。代わりにあるのはゴロゴロと転がる大きな瓦礫。そして、後ろを向けばどこぞの貴族かと思うほどに大きな屋敷が一つ。そして、瓦礫の上に横たわる、物言わぬ骸となった一人の少女の姿。
「こんなはっきり覚えちまった。」
ニヒルに笑いながら空を仰ぎ、視線を戻せばまたそこには花壇が現れる。
「ほんと、なんであんな約束しちまったんだろうなァ……。」
ため息を付きながらもその顔は穏やかで、どこか満たされているようにも見えた。
「生きる意味とか、生きた証とか、そういうのは相変わらずサッパリだ。」
でも、
「なんだかんだ、楽しくやってる。」
頭を過るのはリコリコのメンバーたちの顔。ミカ、ミズキ、たきな、そして千束。
蓮士の視線が花壇から外れ、す、と眼の前の虚空を見つめる。
「死ねない理由も、できた。」
必ず救わねばならない人がいる。たとえそれがどれだけ傲慢なことだとわかっていても。
蓮士は、穏やかに笑った。
「だから、まだ当分はお前の生きた証ってやつ、やってやれそうだ。」
ーーそこまで言うと蓮士は大きく息を吸い、
「ハァァア……。」
大きく息を吐いた。毎年全く同じことをしている気がするが、どうにも年に一度、この日はここに来ないとスッキリしない。
「また来年も来るわ。」
蓮士は手に持っていた花束を花壇に供え、踵を返す。リコリコからここまで来るのにはかなりの時間がかかる。さっさと帰らないと日が暮れてしまうのだ。
「平和だねぇ……。」
頬を撫でた風に、蓮士は感慨深そうに呟いた。
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蓮士がリコリコへと帰り着いたのは日が傾き空が茜に染まった頃だった。
「ただいま〜。」
『『『おかえり!』』』
ドアを開ければ、そこにはテーブルを囲んで勢ぞろいするリコリコの常連たち。そして、千束を始めとした店員組と、
「おかえり、なさい。」
なんとたきなが皆とテーブルを囲み、ボードゲームに興じていた。
「お前……。」
気恥ずかしそうにしながらもその顔はとても楽しそうで、蓮士は自分の賭けがうまく行ったのだと理解し、口角が上がるのを感じる。
「ククッ。そうか。」
そうしていると、千束がジャジャーンと派手にポーズを取りながら目の前に飛び出してきた。
「驚いた?今日はたきなのボドゲ大会、初参加記念日でーす!」
「ち、
千束の言葉に、私、聞いてない!とばかりに目を丸くし、立ち上がって抗議するたきな。
「知らないの?たきな。記念日は多くて問題ナッシング!」
「そういう意味ではなく!」
「気にするな。こいつが勝手に言ってるだけだから。」
蓮士はたきなにそう言うと、千束の方に向いてにやりと笑う。
「で?何が目的だ。」
「にっしし。やっぱり記念日といえば、美味しいもの食べてお祝いしなきゃね!」
それの言葉を聞き、食い意地の張った奴め、とその頭を小突く蓮士。しかし、その顔は満更でもないように笑っていて、芝居がかったように手を広げると他の面子の方へと向いた。
「いいだろう!腕を振るってやる。何が食べたい?」
キョロキョロと、互いに目を合わせる一同。
「もちろんなぁ。」
「蓮士君に作ってもらうとしたら?」
「せ〜の、」
『『『オムライス!』』』
息のあったその声に、蓮士は愉快そうに笑う。
「ハッハッハァ!承知した!」
少し待ってろ。そう言うと、蓮士は厨房へと消えていく。
それからしばらくし、リコリコの店内は二人の少女を中心にして一層に騒がしくなる。
真っ赤な夕日と折れた電波塔が見下ろす喫茶店は、なんやかんやあったが今日も平和である。
新しい用語がないので今回はお休み
〈9月15日誤字修正〉