とある喫茶店に雇われる話 作:ハッピーエンドは素晴らしい
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それでは、READY FIGHT
喫茶リコリコ。折れた電波塔が見下ろす町にある一軒の喫茶店。最近ではこじんまりとはしながらも、知る人ぞ知る名店として密かに話題に上がっていたりする。
さて、時は3時すぎ。ちょうどおやつ時である。繁忙期ほどではないがチラホラと席には人が座り、団子を食べながら談笑したり、コーヒーを飲みながら本に没頭したり。賑やかとまでは行かないが、その光景はとても趣がある。
不意に入り口のベルがなり、リコリコに新たな来客を知らせた。
「いらっしゃい……ん?フキじゃねェか」
「どうもです。蓮士さん。」
カウンターで本を読んでいた蓮士が顔を上げると、そこには一人のリコリスが立っていた。名を
会釈をしてくるフキに片腕を上げて返すと、蓮士はバツの悪い顔で後頭部を掻いた。
「あー、来てもらって悪いが、今千束もたきなもいねェぞ。」
と、いうより今は店に蓮士しかいない。看板娘二人はリコリスとしての仕事に出ているし、ミズキはそもそも休みできていない。クルミは用事があるとか言って押し入れから出てこないし、ミカも買い出しに行ってしまって、しばらく戻ってこないだろう。
そのことを告げると、フキもまたバツが悪そうに目をそらしながら答える。
「いや……その、狙って来たから。」
千束から聞いた。先日の体力測定のとき、千束が楠木へたきなをDAに戻すよう直談判をしたらしい。その時フキとその新しい相棒と揉めに揉め、最終的にたきなを含めた2対2の模擬戦をしたらしいのだが……。それで少し、あの二人には顔を合わせづらいのだろう。
「フフッ。そうかい。おっと立ち話ってのもなんだ。こちらにどうぞ。」
「……はい。」
「注文が決まったら、呼びな。」
あまり詮索するのも良くないだろう。そう思った蓮士は、手拭きとお冷を出すとカウンターへ引っ込む。そこから見えたむむむ、とメニュー表とにらめっこをするフキの姿は、やはり年相応な女の子であった。
しばらく経ち、
「いただきます。」
「召し上がれ。」
彼女が注文したのはミニオムライスとコーヒー。聞けば任務終わりらしく、小腹がすいていたらしい。スプーンを手に取るとオムライスはあっという間に彼女の口へと消えていった。
ごちそうさまでした、と手を合わせ、カップを手に取るとコーヒーを啜る。
「なあ、蓮士さん。」
最後の客が帰り蓮士がテーブルを拭いていると、一息ついたフキから声がかかった。
「うん?」
蓮士が振り向くと、フキは少し顔に影を落としてコーヒーの水面を眺めている。何か、悩み事でもあるのだろうか。
「ちょっとまってな。」
蓮士は作業を一旦切り上げ、フキの隣に座る。どうしたのかと聞いてみると、彼女は俯きながら、ポツリと、小さな声で蓮士に尋ねてきた。
「たきなのやつは、うまくやってるか?」
その言葉を聞き、蓮士は口角が少し上がる。口調がきつく、勘違いされやすいが、彼女もまた優しい子だ。ただ、責任感が強すぎるのと、正直になれないだけで。
蓮士が思わずクッと笑い声を漏らすと、フキは不安げに眉をひそめ、その顔を見上げる。
「なんで笑うんだよ。」
「ククッ。お前も随分不器用だと思ってな。」
「なんだよ、それ……わあっ!?」
プイとそっぽを向いてしまったフキの頭を、蓮士はグシャグシャと乱暴に撫で回す。一通り好き放題されたあと、フキはボサついた髪を抑え、何するんだと目を釣り上げて振り向く。しかし、振り向いた先で蓮士が浮かべていた笑みに毒気を抜かれ、喉まで出かけていた言葉が引っ込んでしまった。
蓮士は頬杖を付きながらスマホを取り出し、画面を操作する。
「そんな顔すんなよ。お前と模擬戦したって言う日から随分心を開いてくれるようになった。」
ホレ。とフキにスマホを見せると、そこには二人並んでおにぎりを頬張る千束とたきなの姿。更にスクロールしていくと、ツーショットのプリクラやゲームセンターで遊んでいる写真、撮られていることに気がついて慌てた様子のたきなの顔など千束から送り付けられた画像がずらりと並んでいた。
「楽しそうだな……。」
フキは、はじめは驚きながら画面を眺めていたが、少しすると表情を緩める。とても、安堵した顔をしていた。
「安心したか?」
「……はい。」
彼女も千束と同じファーストリコリス。それも、千束とは違いチームを背負い、リーダーとして任務を全うしなければならない立場にある。だからこそ、フキはたきなを突き放さねばならなかった。
『二度と戻ってくるな。』
体力測定の帰り際、フキにそう言われたとたきなは言っていた。でも、それはきっとこういう意味ではないだろうか。
『ここに戻ってきても傷つくだけだ。だから、新しい居場所を見つけろ。』
蓮士の知る中で、彼女以上に仲間を想うリコリスはいない。故に彼女もまた、苦悩していたのだろう。仲間をを、たきなを組織を守るための生贄として差し出した自分の行いに。
その証拠にスマホを見るフキの顔は、とても穏やかなものであった。
「あの、ありがとう。」
「気にすんなって。つーか、礼なら千束にしてやれ。」
「あー、……はい。」
絶対に礼なんてしないなこいつ。と蓮士は苦笑いしながらふと時計を見る。フキが店に来てからそれなりに時間が立っている。そろそろミカも買い出しを終えて帰ってくる頃合いだろう。
「そろそろミカさん帰ってくると思うけど、待つか?」
「うぇ?!」
ミカの名前を出した途端に突然うろたえはじめるフキ。
「どうせだし、挨拶くらいしてったらいいじゃねェか。」
「え、いや、あの、そのっ!」
続く蓮士の言葉に、フキは顔を赤くしながら更にアワアワし始める。
本当にわかりやすい。蓮士はそんなことを考えながら、ニヤリと笑ってフキの様子を眺める。
入口の外に人の気配を感じる。本来は来客を知らせるベルが鳴りーー
「戻ったぞ……ん?フキじゃないか。」
「なあぁ?!?!」
「おかえりー。」
入ってきたのは、ミカだ。買い出しを終えてきたようで、その手には大きめの買い物袋がぶら下がっている。
顔が赤く挙動不審なフキの様子を見て、ミカは不思議そうに首を傾げた。
「何をしているんだ?」
「あ、あのっそのぉ……!」
具合でも悪いのか?とフキに近寄るミカ。想い人が自身を心配してくれた喜びと痴態を見られた恥ずかしさでとうとう目を回しながら更に顔を赤くするフキ。二人の距離は、徐々に近づいていき……
「お、お邪魔しましたっ!!!」
とうとう耐えきれなくなり、フキは脱兎のごとく逃げ出した。ミカをの横すり抜けバンッ!と入り口を開け放ち、うおおお!と道を走り抜けていく。
「どうしたんだ……?」
「罪な男だねェ。ミカさん。」
「?」
頭に?を浮かべるミカを見て、蓮士は駄目だこいつ、と呆れたように眉をひそめる。この恋は、きっと実らないのだろう。
ヤレヤレと首を振る様子の蓮士に、更に頭上に?を生やすミカ。そうこうしているとまたもや入り口のベル鳴る。
「たっだいま~!」
「ただいま戻りました。」
入ってきたのは、
「おかえり…ってなんだ?それ。」
「いやそれがね、今そこでフキに会ったんだけどさぁ。」
クイクイと親指で外を指す千束。たきなも不思議そうな顔で手の中の硬貨を見ている。
「お代だって言って押し付けて走ってっちゃったんだよね。」
「随分慌てていたようですが……何かあったんですか?」
二人の言葉を聞き、合点がいったと手をたたく蓮士。
「そういやお代もらってなかったわ。」
任務終わりに来たと言っていたし、経費で落としてもいいような気がするが……。相変わらず、変なところで律儀な娘である。
「なんだか、あの人らしいです。」
たきながふふっと笑い、レジに渡されたお代を入れていく。その数字に端数はなく、全額きっちりと支払われていた。
「しっかし何で走ってたんだろあいつ?」
「さあ……?随分慌てていたようでしたね。」
「いや、あれは慌ててるってよりギャルに話しかけられたオタクみたいな感じだったね。」
「はあ……?」
微妙に分かりにくい例えをする千束に首を傾げるたきな。蓮士は先程までここで繰り広げられていた一連の流れを思い出し、気づけばつい笑い声が漏れていた。
「ん?なにか知ってんの?」
「さぁな。ほら、さっさと手を洗え。」
「ちょーいちょいちょい。逃げるのか?逃げるのかお主?」
おらキリキリ吐け。と言わんばかりに詰め寄ってくる千束をひらりと躱し、たきなを盾に構える蓮士。
「え、あの、レンさん?」
困惑気味なたきなを挟んで言い合う蓮士と千束。
「知ってても教えねェよ。特にお前にはな。」
「にゃにおぅ!教えろ〜!!」
「ハッハッハ!教えてほしけりゃ捕まえてみな!」
「ちょ、二人共〜?!」
「やれやれ。」
客は居ないが、店内はとても賑やかだ。
折れた電波塔が見下ろす喫茶店は、今日も平和である。
・ミニオムライス
最近増えた新メニュー。通常のオムライスの半分のサイズで、お代もその分安くなっている。時間がなかったり、軽く食べたいときなどにおすすめのメニューとなっている。無論、小さいからと手を抜くことはない。
小さいものには小さいものの価値がある。大は小を兼ねることができぬのだ。