長身アイドルになりまして。   作:ふみどり

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長身アイドルになりまして。

 もし生まれ変わったらどうするなんて、そんなの決まってるじゃない。

 自分が自分を推しちゃうくらい、最っ高に素敵な私になるの!

 

 *

 

 前の私の生き方を、後悔なんてしていない。

 そこそこ頑張って、そこそこ働いて、そのほかの全てを大好きなもののために費やした。ひとも、ものも、キャラクターでもジャンルでも。推したいと思ったら全力で推して、費やして、その輝きを見るのが大好きだった。命の最後のひとしずくまで、大好きなもののために注げたことが最高に幸せだった。

 でも、最期の一瞬に、ほんのちょっとだけ思ったの。もし次があったら、どうしようって。この生き方も楽しかったけど、どうせならもうちょっと違う生き方をするのもいいかなって思って、決めたの。

 もし次があるのなら、今度は自分自身を推せる自分になろうって。

 

「よーし、今日の私も最高に推せる!」

 

 磨き上げた肌に、私の良さを最大限に引き出すメイク。生活習慣と運動にも気を使って手に入れたプロポーション。高い身長は揶揄されたりもしたけれど、スキニーだって超ミニだって履きこなす長い脚はもはやチャームポイントだ。ファッションだって研究して、私が好きだと思った服を好きなように着る。残念なことに何だって似合っちゃうんだな、だって私ってば最高にカワイイから!

 もちろん磨いてきたのは外見だけじゃない。中身だって伴ってなきゃ、私が推せる私とは言えない。ひとの悪口なんて非生産的で美しくないことは絶対に言わないし、感情に振り回されて自分をコントロールできなくなるなんてもってのほか。私と一緒に過ごしてくれるひとを、大切にできるような私でありたい。

 いつだって「推せる自分」でいるために、一生懸命頑張ってきた。それだけの自負のある私だから、この職業にいきついたのはもう自然な流れだったのかもしれない。

 

「みんなー! 今日は来てくれてありがとーー!!」

 

 響く歓声が、本当に嬉しい。

 私が手を振ったらみんなも手を振ってくれたり、うちわを振ってくれたり。私に向けられる、推しを見るときのきらきらした笑顔。わかる~わかるよ~だって私も推せちゃう自分だもん、みんなも推しちゃうよね~?

 スカウトされたときはさすがにちょっと悩んだけど、やっぱりアイドルを志してよかったと思う。何でってほら、やっぱり「自分の推し」である「私」がたくさんのひとに認められたら嬉しいじゃない?

 ひとつひとつ、地道な努力を積み重ねて、ようやく胸を張ってアイドルだと言えるくらいには有名になってきた私。大変なこともあったけど、こうして私を推してくれる人がいたから全然苦じゃなかった。

 貴方はちょっとサービスしすぎ、とたまにマネージャーさんに苦笑されるけど、そこはおおめに見てほしい。同担全力歓迎の私は、私を推してくれる皆のことが大好きなのです。だからたとえオフだってファンサービスは気を抜かないし、同担のみんなと触れ合えるファンイベントは大好きなお仕事。

 そう、たとえそのイベントで、まさかの存在に気づいてしまったとしても。

 

「高たんビームお願いしていいですか?」

 

 あ、私、転生っていうか成り代わってたんだ、知ってる知ってるこういうの二次創作で一万回は見た把握把握~、……何でいんのよ東堂葵!!!!!!!!!

 

 *

 

 そりゃ私だって原作読んでたしアニメも見てたよ呪術廻戦。基本みんな好きだったけど、特に最強組推しで「何でお前ら永遠に青春しててくれねえんだよ……」と本誌片手に涙を流していましたとも。いいんだよわかってるよ夏油傑、それが貴方の大義だというのなら、たとえ親友と道を違えようとも最後まで貫いてほしい。ただし脳みそぱっかん野郎、テメーはダメだ。あああああ渋谷事変の途中で死んじゃったんだよな私、いったいどうなったんだろ、とか思いましたこの間コンマ一秒。

 完璧な笑顔を崩さずにたんたかたーん☆してみせた私、最高に推せる。やだ私よく動揺を顔に出さなかったね偉すぎ~!

 

「ずっと応援してます!!」

「ありがとうございます~!!」

 

 最高の笑顔で握手に応え、その大きな背中を見送った。うわ、本当に何かいい香りする。というのはさておいて。

 どうやらここ、呪術廻戦の世界らしい。

 

「どうしたの高田ちゃん、ぼんやりして。疲れちゃった?」

「え、大丈夫ですよ~! 握手会でパワーもらいましたから、むしろめちゃくちゃ元気です!」

 

 労ってくれるスタッフのみなさんに笑顔を返しながら、頭の中の冷静な部分で考える。

 呪術廻戦の世界だろうが何だろうが、私のすることは変わりない。東堂葵が大ファンだと公言していた「長身アイドル高田ちゃん」は私で、だけど原作のストーリーに強い関わりのあるキャラクターでもなければ、重要なキャラクターでもない。東堂葵に花御(てき)の攻撃のヒントを与えたのだって、あれはあくまでも東堂くんの頭の中のイマジナリー高田ちゃんだ。

 よくある二次創作のように、私に原作に介入していくような力はないし、そんなことしたらまず間違いなく事態はさらに悪くなる。チートどころか呪力をもたない非術師(さる)である私がでしゃばったところで、邪魔でしかない。私にできるのは、せいぜいなるべく死なないよう無茶をしないことくらいだ。「高田ちゃん」に何かあったら、東堂くんへの影響大きそうだもんね。

 え、推しやほかのキャラクターを見たいとは思わないかって? 同じ世界で同じ空気吸ってんのよそれだけで最高の贅沢では……? 強いて言うなら貢ぎたいけど、だって所詮駆け出しアイドルでしかない私の経済力なんて、そもそも最強の特級呪術師さまや新興宗教の教祖さまに敵うわけがないので……雀の涙なので……。でももしどこかで見つけてしまうようなことがあれば、呪術高専に寄付はしよう、そうしよう。

 とりあえずオカルト的噂のあるところには行かないようにすることと、クリスマスイブの新宿・京都とハロウィンの渋谷に近づかないことだけは心に誓い、私はまたいつも通りの日常に戻った。

 

 *

 

「また来てるね、あのひと」

「身長あるから目立つんだよな~。あとあの顔の傷」

 

 とはいえ、毎回のようにファンイベントに顔を出されると、さすがに意識せざるにはいられないというか何というか。

 京都でイベントをやればほぼ確でいるし、珍しく京都なのにいないな~と思ったら別地方の会場で参加をしていたりする。顔と名前を知ってしまっている私はともかく、スタッフさんにも完全に認知されているレベルだ。男性でも珍しい私より高い身長というのもあるけれど、とにかく彼は怪我が多い。

 顔にある大きな傷跡のほかにも、包帯を巻いていたり、腕を吊っていたり。どれだけ怪我をしていようと、彼は笑顔で握手をして、応援の言葉を残していく。

 その怪我の多さから実はやばい仕事のひとなのではと疑われていたこともあったが、そのマナーの良さと私へのでれでれ具合に、そんな声もいつしか消えていた。

 

「先月のライブも最高でした!」

「高田ちゃんの笑顔が好きです」

「これからも頑張ってください」

 

 そう言って、照れたように笑う東堂くん。

 握手会で会うたびに、少しずつ傷跡が増えているのは気づいていた。筋肉に包まれた身体が、少しずつ大きくなっていることも。

 体型維持のための筋トレ程度だけど、私だって鍛えているからわかる。こんなペースで筋肉がついていくのは、相当なトレーニングを重ねている証拠だ。

 呪術師として、東堂葵として、彼はいったい、どれだけの努力をしているんだろう。生死の綱渡りが日常茶飯事の世界で、非術師の家系でありながら、一級にまで上り詰めた彼。原作じゃいろいろ……アレなところばかり目立っていたから、こうして直に会うまで気付くことができなかったけれど。

 彼もまた、呪いが蔓延るこの世界で命を懸けて戦うひとなのだ。

 

「握手、お願いします!」

 

 そう言って差し出された節くれだった大きな手に、そっと手を伸ばす。

 私は所詮、超カワイイだけのただの偶像(アイドル)。私は私として生きているだけで、このひとの命がけの戦いに何かができるわけじゃない。だけど、もし私の存在があって、それが少しでもこのひとの力になれているのなら。

 推しがいる喜び、胸を張って好きだと言えるものがある幸せは、私にだって痛いほどよくわかる。

 推しが推しとして、存在していてくれる奇跡。それは時に、生きる理由にだってなりえることも。

 

「……あの!」

 

 きゅ、といつもより強く手を握った。

 本当は特別扱いなんてしちゃいけないけど、東堂くんはマネージャーさんやスタッフさんたちにまで顔を覚えられているくらい、よく来てくれる。マナーもすっごく良いし、身だしなみもばっちりで、気配りにあふれる差し入れやお手紙だってくれる。

 だから、と言い訳がましい建前を心の中で並べて、今私に出来る、一番カワイイ笑顔を。

 

「いつも、来てくれますよね」

 

 私の言葉が、笑顔が、少しでも貴方の助けになるのなら。

 どうか、無事に生き残って。貴方が貴方らしく、胸を張って戦い続けられますように。

 

「応援、ありがとうございます!」

 

 私も、頑張るから。

 この気持ちが少しでも届いてほしいと、握った手に願いを込める。

 

「……また、会いに来てね?」

 

 死んじゃったら、こんなにカワイイ貴方の推しと、握手もできなくなっちゃうよ?

 心の中でだけそう付け加えれば、東堂くんは一瞬目を見開いて、噛みしめるように俯いて、また私の顔を見た。気のせいでなければ、その目は潤んでいたような気がした。

 

「……今なら特級五体は軽く祓える……」

「え?」

「いや、何でも。……また、来ます。必ず」

 

 ありがとう、とお互いに声をそろえて、手を離した。

 あのでれでれとした顔も、ここまでくるといっそかわいく見えてくるから不思議なものだ。まあ同担ゆえの贔屓目かな、と少し笑って、次の同担に笑顔を向ける。

 負けないでね、東堂くん。

 私も、絶対に貴方を失望させない「推し」でいてみせるから。スキャンダルとは完全に無縁の、最っ高にかわいくてかっこよくて美人で素敵な、貴方の大好きな「私」でいられるように、頑張るから。

 

 *

 

 このあと会場を出た東堂くんが、「やはり高田ちゃんこそ最高の女神……ッ!」と号泣して周囲にドン引かれていることを、私は知らない。

 

 




アニメで高田ちゃんが喋る前に書いたもの。ネタです。
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