ワンピース世界の赤っ鼻に憑依しました   作:エタエタの実の飽き性人間

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第2話

「おい! クソガキ! …あの根性なしどこ行きやがった」

 

 俺は今、この世界に来てから1番の危機を迎えている。何故なら、その強さ故、後の冥王と呼ばれる男と互角に渡り合い、海賊王ゴール・D・ロジャーの跡を継ぐという意味で「鬼の跡目」とまで呼ばれているダグラス・バレットに追われているからだ。

 

 何故こんな事になってしまっているか説明すると長くなるが、一言で言うと俺の所属しているロジャー海賊団の腐れ副船長ことシルバーズ・レイリーに騙されたからだ。鍛えるって名目で毎日バレットの野郎にボコボコにされ、いい加減休まないと死んでしまう。そう思った俺は、覇王色の覇気を応用して見聞色の覇気を打ち消すことでバレットの奴を撒いているのだ。

 

 そう、バレットから修行(一方的に殴られるだけ)を受けた俺は生命の危機に際して、覇王色の覇気を覚醒させた。原作のレイリーが言っていたように、危機感や恐怖心によって覚醒したんだ。ただし、俺の覇王色は今のところうちのクルーを気絶させることは疎か、怯ませることさえ出来ていない。

 

 普通に考えたら、そんな覇王色の覇気なんて意味ないだろ? しかし、俺は原作のシャンクスの語った、覇王色を利用した見聞殺しの設定を読んで、覇王色の覇気は他の覇気を打ち消す力があるのではないかと推測した。その予想が当たったかは知らないが、バレットが見聞色で俺の動きを読んでいる時に覇王色の覇気を意識すると注意が逸れる事に気づいた。その応用で今逃げてるって訳だ。

 

「ちきしょうめ、副船長の所為で踏んだり蹴ったりだぜ。わりーが、今日はこのまま逃げさせてもらうぜ。」

 

「へぇ、面白いなその技。あのバレットさんを撒けてるのか」

 

「ぎゃはははは! 見直したかこのハデ野郎。俺様を誰だと思っていやがる! …ってシャンクス!? てめぇ! いつのまに!」

 

 さりげなく独り言に返事をされ、煽てられた所為で気づかなかったがいつの間にか、身を潜めていた樽の上からシャンクスが覗いてきていた。

 

「わははは、やっと気づいたか。ところでそれどうやってるんだ?」

 

「ハデバカやろォ!! 誰がオメェみたいなやつに教えるかってんだ! あと気づかれるからどっかいけ!」

 

「そんな事言うなよ、バギー。俺とお前の仲だろう?」

 

「誰がテメェと仲良しこよしだってェ!?」

 

 焦りからシャンクスを邪険にする態度が口調に反映されたのか、いつもよりバギー節が強く出てしまっている。本当は「俺の奥の手はそう簡単に教えられないぞ」くらいの気持ちで言ったんだけどな。

 

「よォ、こんなところに隠れてやがったか。」

 

 その時、恐怖を掻き立てるような恐ろしい声が、騒いでいる俺の後ろから聞こえてきた。俺とシャンクスの2人を覆って隠すような巨大な影が燦々と照る日差しを遮る。

 

「ば、ばばばバレット、さん…。き、奇遇だな…」

 

 ブリキ人形の様に、身体がガチガチに固まってしまっていたので首だけ後ろに回した。バラバラ人間じゃなきゃ、動けないところだ。

 

「テメェのその妙ちきりんな技はもう効かねえ。大人しくしろとは言わねえ、観念しやがれ」

 

「ば、バカな…! 俺様の見聞殺しにもう慣れたってのか…? 派手にやばすぎるだろ…」

 

 俺が恐れ慄いていると、能天気な声がバレットとの会話に混ざってきた。

 

「へー、その技見聞殺しって言うのか。面白そうだな、バレットさん! 俺もバギーと一緒に鍛えてくれよ!」

 

「あァ? なんで俺がそんなめんどクセェことしなきゃなんねぇんだ。ただでさえこのガキに覇気を使わせなきゃなんねぇし。」

 

「だったら尚更俺がいた方が役に立つぜ! 俺はもう覇気を使えるし、バレットさんのことだから殴ってばっかで覇気の使い方、教えてないんだろ?」

 

「ほう、お前ならそいつに覇気を使わせられるのか?」

 

「おい勝手に話を進めるなよ! シャンクス! どう言うつもりだテメェ!」

 

 バギー語に変換されてしまっているとは言え、純粋な疑問だった。俺がボコボコにされている様子はこいつも見ていたはずだ。なんせ、以前俺が気絶するのを腹抱えて笑ってやがったからな。

 

「バギー、お前はもう覇気のコツを掴みかけてるんだろ? でもあと一歩のところで覚醒に至っていない。そのコツを俺が教えてやるって話だ」

 

「だからそれをやってテメェにどんなメリットがあるって聞いてんだ、俺様は!」

 

「さっき話していた見聞殺し、俺にも教えてくれよ。それが俺のメリットさ。」

 

「あぁん? テメェにゃ無理だな。あれは俺様だから出来んだよ。」

 

 言い忘れていたが俺は今11歳だ。つまり俺とタメであるシャンクスも11歳であり、この歳で覇気を使えることに驚いたがまさか覇王色までは覚醒していないだろう。そう考えるとやはりバギーの身体も驚異的な才能が眠っているな。いくら死にかけたとしても、この歳で弱いとは言え覇王色の覇気を覚醒させたのだから。

 

「なんだと! やってみなきゃ分からねーだろ!」

 

「まあ、俺様は覇気の使い方を教えてくれるってんなら文句はねえがな。」

 

俺とシャンクスが言い争っているとバレットは舌打ちをし、踵を返した。

 

「…ちっ。興醒めだ。今日は勘弁してやる。覇気は弱い肉体には宿らない。少しは鍛えているようだが、まだまだ脆くて弱え。引き続き、稽古はするぞ。赤髪のガキも好きにしろ。考えてみれば1人も2人もすぐに片付くからな。」

 

「ほんとか、バレットさん!? …グフフフ、久しぶりの休みだぜェ」

 

 喜びを露わにした声が漏れ出た。それも仕方ない。バレットに見つかった時は一巻の終わりだと思ったのだ。思わぬ幸運に、久しぶりの休日に何をしようか頭の中で算段を立て始める。その横でシャンクスが何か言っている様だったがバギーは気づかなかった。

 

「…ま、このままバギーに置いてかれる訳にはいかねーしな。俺も負けてらんねえぞ…!」

 

 本人は気付いてなかったが、バレットの連日の扱きに耐えていたバギーはロジャー海賊団内部でもその素質を見直されていた。武装色の覇気も能力も使っていないとは言え、バレットの一撃は重い。一般的な海賊や海兵であれば、その一撃で容易く命を落とすほどに。バギーは始めからそんなバレットの攻撃を喰らっても気絶するだけですみ、回数を重ねるごとに避けたり、耐えたり出来る様になっていたのだ。一撃目をなんとか対処しても続く攻撃で気絶するため、バギーにその自覚はないが確かに成長していた。

 

 シャンクスはそんなバギーを見て、触発されたのだ。先程は覇気を使えると大口を叩いたが、実は見聞色も武装色もその存在を知覚しているに過ぎない。年齢を考えるとそれだけでも凄いことだが、兄弟分とは言え、強さではどこか下に見ていたバギーの思わぬ成長ぶりに焦りと、好敵手と競えることに喜びを感じていた。そこで、自身もバギーと同じ修行を積もうと考えたのだった。

 

 そんなことを自身の兄弟分が考えているとは露知らず、バギーは降って湧いた幸運に思いを馳せるのだった。


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