ワンピース世界の赤っ鼻に憑依しました 作:エタエタの実の飽き性人間
「今日こそは1発ハデにぶちかますぜ! バレットさん!」
「朝っぱらからうるせえな。吠えてないで、やってみろ。」
「今日は気合が入ってるな、バギー」
──大海原を行く海賊船の上に、3人の人物が向かい合っている。いや、正しくは1人の大男に対して、2人の少年が対峙する形になっている。
自身の腕を取り違えた後、バギーは自身の能力をより強力に扱う方法を思いついていた。そのため、昨晩はかなり遅くまで夜更かしをして、その考えを実践に落とし込んでいた。
シャンクスは同部屋のバギーが何やら夜中にやっていることに気づいていたが、昼間の修行のこともあり疲れていたので放っておいた。
「ギャハハハ!!! 見てろよ! ハデにど肝抜いてやるぜ!!
…行くぜェ! シャンクス!」
「お、おう! なんだか知らねーけどなんか掴んだみてーだな!」
「あたりめぇよ! いつまでもやられっぱなしの俺様じゃねェ!!」
構えもせず、立っているだけのダグラス・バレットに向かいバギーとシャンクスが二手に分かれて挟撃する。
(俺様のとっておきは、バレットがシャンクスに気を取られている間に見聞殺しで隙をついてぶっ放す!! まずは、いつも通り動き回って奴の気を逸らすぜ!)
そう考え、より攻撃の手を激しくする。そんなバギーの様子に触発されたのか、シャンクスも苛烈な攻撃を加える。しかし、バレットは2人の様子を気に留めることもなく、余裕の表情で攻撃を受け流す。
「なんだ? 口だけか? だとしたらとんだ期待はずれだな。
いいか、俺は弱えお前らとじゃなくロジャーとやりたいんだ。いつまで経っても戦力にならない奴の相手をしているのは時間の無駄だ。」
「…っ!! テメェ…、言いやがったな!! だったら見せてやる! 俺の奥の手を!!
シャンクス! 少し時間を稼いでくれ!」
そう言うと、俺は足と頭と片手以外全てバラバラの実の効果で一度分解させた。
「…! はっ、ちゃんと期待通りのモン見せてくれんだろうな!」
「ったりまえだ!! 俺様を誰だと思ってやがる!! 泣く子も黙るバギー様だぜぃ!」
シャンクスは、不敵に笑うとワクワクを隠せない様子で突撃して行った。後先考えず、全身の武装色の覇気を一点に集めて拳に乗せる。齢11歳だとはとても思えないほどの気迫が、バレットに降りかかる。
「ほう、覇王色の覇気か!!!」
流石にこれほどの覇気を無視できないのか、バレットはここにきて漸く構えをとった。シャンクスから感じ取れる覇気がそれ程強力だったのだ。
バギーはその様子を見ながら、バラバラにした自身の身体を再構築していた。
(スゲェな…シャンクスのやろう。いつの間にあんな派手に強く…! けど、俺様だって…!!
集中しろ…! イメージするんだ! 原作のバギー玉の様な貫通力を! …だめだ…これじゃあバレットを倒せねえ、もっと強く!! もっと!!!)
必死の形相でイメージを練り続けるバギー。彼の頭は今にも湯立つ様な熱気を放っている。普段から鍛え続けた思考力をフル回転させ、自身の限界を超えた能力を行使する。
「分解し過ぎて動かせねェなら、固定しちまえばいい。その分より細かく、よりデカくすればいいんだからよォ!」
バレットは、その時目の前の襲い掛かってくるシャンクスよりもほんの一瞬、バギーの方へ意識を向けた。見聞殺しでバギーの覇気は今一つ分からなかったが、ここにきてその存在感に無意識にせよ意識を割かれた。
それは紛れもない、バギーの王としての資質。原作では、道化として馬鹿にされていたバギーの、開花の瞬間だった。今まで威圧すら感じ取れなかったバギーの覇気が、シャンクスの覇気に呼応するかの様に高まってゆく。
「余所見している場合か! バレットさんよ!」
そんなバレットの隙を、見聞色の覇気で読み取ったシャンクスは見逃さない。バギーの大技の予感を感じ、邪魔をさせまいと己の全霊をかけた一撃をバレットに見舞いする。
「おおおおおお!!!」
「グッ…!!! ガハッ!! このクソガキ共が!!!」
バレットとバギーとシャンクスがこの修行を始めて半年。ここで初めてバレットに有効なダメージを与えた。それは、騒ぎを聞きつけて甲板に3人の戦いを見に来ていたクルー達を驚愕させるのに余りあった。
「がああああああああ!…ぐっ、バ、バギー、今だ!!!」
バレットは思わず加減を忘れてシャンクスを殴り飛ばす。物凄い勢いで吹き飛ばされたシャンクスは叫び声を上げつつも、この好機を好敵手に伝える。
「あぁ!! ありがとうなシャンクス!! お陰で完成したぜ、バラバラキャノンだ!!」
バギーは小さくなりつつも、その身体には不釣り合いな大きな大砲を携えていた。よく見ると、大砲はバギーの身体のパーツで出来ているが、その完成度は非常に高い。
「なんだ…!そいつは…!」
「俺の火力不足を補うにはどうすればいいか考えた結果辿り着いた技だぜ!
火薬を使わねえコイツはキャノン砲の様な爆発力を持ったまま、その反動を人体が耐えられるレベルまで落としてある! 今度のバラバラ砲はイテェぞ…!」
「グワハハハハハ!!! 面白い!! 受けてたってやるぜ! 赤鼻!」
「だぁぁあれが赤っ鼻だってェえええ!!? 覚悟しやがれ!! バラバラキャノン!!!」
バギーがありったけの力を圧縮してバラバラキャノンの中で爆発させる。砲弾はその勢いを使って目にも留まらぬほどの速さでバレットへと向かう。
その反動で、バギーはキャノン砲の形を維持しきれなくなり、細かくなった体のパーツが散らばってしまう。
「所詮は覇気も纏っていねえただの玉っころ! 俺の拳にゃ勝てねェ!!」
バレットが覇気を込めた拳を思いっきり砲弾に叩きつける。それで、砲弾は粉々に砕けるかと思われたが、意外な事に拳とバラバラキャノンが拮抗していた。それどころか、バレットは確かに自身の拳が悲鳴を上げるのを感じた。
「そいつはどうかな? …その砲弾は俺様の身体の一部だ! そしていつまでも俺様が覇気を使えないままでいると思うなよ!」
「なにい! いつの間に覇気を纏わせられるように!! いやそれにしたっておかしい!! 何故俺の拳と拮抗を…!」
「派手バカやろーめ! 強さってのは、速さかける重さなんだぜェ!」
豆腐でさえ、速く投げつけられると骨折するほどの凶器へと変貌する。
ましてや、バラバラキャノンで使った砲弾はその衝撃波が周りに被害を与えるほどの速度で打ち出されている。足りない威力を発射口とエネルギーを伝える箇所を狭めて無理やり高めているのだ。当然火薬で打ち出していないとは言え、その反動は凄まじい。
しかし、バギーはバラバラの実の能力をここでもうまく使っていた。即ち発射後、弾道に影響が出ない程度に速やかに砲台を分解させたのだ。元々極細やかに分解したパーツは発射の反動を吸収し、分散させていた。
「ド派手にぶちかませェ!」
「ぐ、ああああああ!!!!!!」
拮抗していたバレットの拳とバラバラキャノンは、ついにバギーの方へと軍配があがる。先程シャンクスに殴られ、立て続けに高威力の技をくらっては鬼の跡目と言えど、防ぎきれなかった。
「よぉし! 追撃だ! …と言いたいところだけど、パーツが組み立てられねえ!?」
ガビーン、と擬音が聞こえて来そうなバギーに、バラバラキャノンを食らって倒れていたバレットから笑い声が聞こえて来た。
「ククク、なんだてめーその姿は。漸く面白くなりそうだったのによ。」
「ば、ば、バレットさん!? 嘘だろ! あんだけやったのにまだ意識あんのかよ!?」
「バカヤロー、俺があれしきで気絶するかよ。………ただまぁ、良い一撃だった。お前も、そこの赤髪のガキもな。」
バレットが顔を向けた先には、殴られた箇所を庇いながら足を引き摺って歩いてくるシャンクスがいた。
「い、いてててて。やっと一撃お見舞いできたぜ。それよりバギー! 何だあの技は! カッケェーー!」
「バ、バレットさん……。だぁ!! やかましい! シャンクス! 今感動的なシーンだろうがよォ!」
「んだよぉ、そう邪険にするなって。俺のおかげでバレットさんに攻撃が通ったんだろ?」
「んだとぉ!? テメェなんぞいなくても通ってたわ!!」
バギーがシャンクスに小さい身体で詰め寄ると、シャンクスはバギーを片腕だけで抑えながら笑う。
「ナッハッハッハ、それにしてもその姿おもしれーなぁ。」
「んむきぃ!!! だぁれがチビだってェ!」
2人が騒いでいると、バレットが話しかけてくる。
「おい、お前ら。聞け。」
「あ?」
「なんだ?」
「先ほどの戦いでお前らの成長ぶりは分かった。レイリーには俺が言っとくが、2人とも覇気を使うことができるまで育てるのが当初の目標だ。
明日からは好きにしていいがどうする?」
そう聞かれると2人は顔を見合わせた。相談するといった風ではない。既に腹を決めている顔だ。
「バレットさんがよければ明日からも相手してくれ。」
「俺様もそれがいい。」
そんな2人を見て、バレットは無意識に口の端を吊り上げる。バレット自身、半年間毎日のように突っかかる2人に心のどこかで絆されていた。それを誤魔化す様に、鼻で2人を笑うとそうか、とだけ呟いてどこかへ歩いていった。
残された2人は、あの鬼の跡目、ダグラス・バレットから認められたことに喜びを隠せないでいた。ダグラスが2人に絆されていたように、2人も圧倒的な強さを持つバレットに尊敬の念を抱いていたからだ。
「なぁ、オイ! シャンクス!!」
「ああ! やったな! バギー!」
どちらからともなく肩を組み、喜びを爆発させる。その様子を見ていたクルーも、見習いだった子供達が一端の海賊になったことを喜び、朝から宴を始めようとする。ここは海賊船、気分が乗ったら宴だと言わんばかりに騒ぎ始める。
その騒ぎを聞きつけたレイリーが駆けつけた時には、既に収拾がつかなくなっていた。
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