「フラッシュ!」
「ストレート!」
「ストレート!」
他の参加者が一斉にカードをオープン。残るはやけに目つきの悪い煙草吸いの少女――フルールのみとなる。
4のクローバー、ダイヤ、ハート。
Kのスペード、ダイヤ。
つまり、
「フルハウスよ!!!!」
意気揚々とフルールがカードを場に出せば、ほかの参加者から唸り声や悲鳴が上がった。中には頭を抱える者までいる。
持ってけ泥棒! と参加者から渡される金を、フルールが幸せそうに頬を緩ませながらかき集めた。
「むふふ……。今の見たレテ!? 見たでしょ!!」
「はいはい、すごいわねー」
呆れた様子で少女の背後にいるレテミアが相槌を打つ。悪魔女の隣にはユウリも居た。ユウリもレテミア同様、微妙な表情でギャンブルに興じるフルールを見つめていた。
――そう、ギャンブル、三人が今居るのはとある街の賭場だ。
ヴィエとの戦闘。フルールの行使した奇跡。レテミアが見せた凍結の魔法。それら全てが嘘かのように、三人はユウリの実家がある街を目指して、また旅を続けていた。
今はまた中継地点にある街に腰を落ち着け、賭場があるからとフルールがレテミアとユウリを誘っていた。
「フラッシュだ!」
「フルハウスよ!」
「フォーカード」
「ぁぁぁあああああぁぁぁぁぁ――――ッ!」
自信満々で出したのだろうフルハウスを上位の役であるフォーカードで叩き潰され、フルールが潰れたカエルじみた悲鳴を上げた。
フォーカードを出した男が「恨むなよ」と笑いながら場に出された金を回収していくのを見て、フルールが半泣きになっている。
「やめて! やめなさい! それはあたしの金よ! あんたのじゃないッ!」
「うるせえぞ! 負けたんだからグチグチ言ってんじゃねえ小娘!」
「きーッ!」
二連続で来たフルハウスに強気になっていたフルールはほとんどの金を賭けに出してしまっている。それがすべて奪われたのだから、まあ、その悲鳴もわからないではない。
「止めればいいのに……」
「気にしたら負けよー? あれは病気みたいなものだから」
ユウリの呟きに、酒の入ったグラスを口に寄せつつレテミアが反応する。ユウリとレテミアの視線が一度重なり、どちらともなくため息を吐いた。
ユウリもレテミアも賭け事にはさほど興味がない。フルールがどうしてもと言うから付き合っているだけである。
その後もフルールは勝ったり負けたりしていたが、賭け事の常として徐々に持ち金は無くなっていき、数十分後には持ち金は失われていた。
フルールは舌打ちと共に渋々ポーカーを止め、席を離れる。そのころにはレテミアとユウリは賭場に設置された酒場のカウンター席で酒を飲んでいた。
少女はこそこそと二人の背中に近づいて、レテミアの褐色の肩を叩いた。
悪魔女の蝙蝠羽がぴくぴくと上下する。振り向いた二人に向かって、フルールは両手を合わせて見せた。
「レテ、ね、ね、レテぇっ」
拝み倒す勢いのフルールが浮かべる表情は、媚びの一色。ユウリが見たことのない甘い表情に目を丸くするが、ふと思い直した。――これはギャンブルで金をスッた男が彼女に集るのと同じだなあ、と。
当然レテミアも経験済みなのだろう、フルールが二の句を継ぐよりも先にしれっと答える。
「お金ならあげないわよ」
「きーっ!」
レテの事なんか大嫌いだわ! と言いながらフルールはユウリの隣の席に座った。レテミアは小さく嘆息して酒を飲みだす。
「くそっ……くそぅ……あともうちょっとで絶対……絶対に……うう……」
バーに突っ伏してぶつぶつ呻くフルールに、隣のユウリは少しだけ心配そうな顔をした。なんだかんだフルールの事を気にかけているのだ。
「ほっとけばいいのよ。いつものことなんだから」
と、そんなユウリにレテミアは冷たいことを言う。賭場に来てからのレテミアはこんな感じだ。フルールの熱狂ぶりを見れば醒めるのもわからないではないが。
「でも旅のお金が……あんなに使って、大丈夫なんですか?」
「ああ、そのこと。フルールはお小遣い制だから。財布のひもは私が握ってるのよー」
「えぇ……」
まさかの新事実である。フルールとレテミアの正体よりも驚きである。
フルールとレテミア。
“元”耳断ち奴隷の少女と、“元”魔王の悪魔女。
二人の話を聞く限り、旅の主導権はフルールにあるように思える。決してすべてを話してくれたわけではないだろうが、ユウリには想像できない世界があったのだろう。
「あ、あの」
その過酷さを思うと、ユウリの心はつい甘くなってしまう。優しさとも言えるそれに、フルールはそっと顔を上げて怪訝な目つきになった。
「ぁん? なによ、ユウリ」
「お金ならその、私が……」
「!」
幾ばくかの金銭をユウリがフルールに渡す。それはユウリの馬車が魔物に襲われた際、結納のためにと馬車に積まれた荷物を換金したものだ。結構な大金になっており、ユウリの旅費はそこから捻出されている。
手渡された紙幣たち。それを見つめていたフルールの表情が、ぱああー! と太陽の如く輝きだす。そしてユウリに向けて満面の笑みを浮かべた。
「ふふっ。レテとは大違いねっ。最高大好き愛してるッ」
「そ、そんな……。褒めても何も出ませんよ」
「む……」
照れ照れしているユウリと褒めちぎるフルールを見て、蚊帳の外にいるレテミアが小さく頬を膨らませた。ユウリもフルールも気づいていない。
そしてフルールは、二人を置いておいて、早速賭場の熱気へと誘われるように向かっていった……。
「あぁぁああぁぁぁぁぁあ――――ッ! 絶対おかしいわよあの賭場ァ!!」
ガンガンガンガンガン! と少女のブーツが壁を蹴り続ける。ストレスの滲んだ蹴りにレテミアもユウリも溜息を吐いている。
結局、フルールはまた金をスッていた。二人の呆れ顔も当然だ。
「くそッ……詐欺よ……絶対イカサマだわ……!」
引き際をわきまえないフルールが悪いのだが、諸悪の根源を別に擦り付けているあたりフルールらしい。
ぐずるフルールをレテミアが「さっさと帰るわよー」と先導する。ユウリがその後に続き、フルールも渋々ながら歩き出した。未だに恨めしそうな顔をしているフルールを横目に、んー、とユウリも少し考えた。
「まあ、実際、あの賭場は少し変でしたね」
! とフルールが目を皿にしてユウリを見上げる。セミロングの金髪が小さく揺れた。
「ど、どう? どう変だった?」
「んー。なんというか、スタッフ同士の目くばせが多すぎるというか……なにか、違和感みたいなものが」
「……ゆ、ユウリ。あんたもしかして、頭いい?」
「ええっと……まあ、一応貴族ですので……それなり……」
「すごい! すごいじゃないのユウリ!」
フルールがはしゃいだように手を叩いて喜ぶ。『怪しい』と言っただけで状況が変わるわけではないのだが、そこは気にしていないらしい。
褒められて悪い気のしないユウリも頬が緩んでいる。
「むー」
頬をぷっくり膨らませたレテミアは、そんな二人をじっと見つめていた。