百合と悪魔と煙草と銃とレズバトル   作:てりのとりやき

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第13話

 

 ――妙に恰好良い女のひとだったなあ。

 謎のイカサマ女と別れたユウリは、カクテルを飲み干すと、少し赤い頬のまま未だに ギャンブルに興じているフルールの背中に近づいた。少女の背中は見た目相応に小さいが、そのはしゃぎようは大人にも負けていない。ポーカーで大勝ちしているらしく、隣の男の肩をバシバシと叩いていた。 

 そっと、覗き込むように顔を近づける。

 

「フルールさん、フルールさん」

「きゃはははは! やっぱ人生最高ね――あ、ユウリ。どしたの?」

 

 煙草を咥えているフルールが振り返る。賭場で緩んだ笑い声をあげる姿に少し幻滅しつつも、ユウリは一つ咳払いして、

 

「あの、私少し酔っちゃったので、そろそろ帰ろうかなって」

「あーそう。わかったわ。なら気を付けて帰るのよー」

「……」

「……ん? なによユウリ、そんなじとっとした目して」

「いえ、別に、なんでも……」

 

 あの褐色の髪をした女のひとのようにはなってくれないか。そんな事を思いながら、ユウリは背筋を戻し、会釈をした。フルールも手を振ってくれる。だが、すぐにまたギャンブルで盛り上がる机へと戻ってしまった。

 

「……」

 

 小さな、とても小さな寂しさを覚えながら、ユウリは賭場を後にする。

 澄み切った夜空はとても高く、そして寒い。賭場が熱気で溢れていたから余計に。 

 

「フルールさんもなあ……もうちょっと、もうちょっとだけ恰好良かったら……」

 

 酔った頭で考えることはそんな事だ。呟きながらユウリは宿への道をゆっくり歩いた。いつもより大股に。

 そんな時、とととと、という小さな足音が近づいてきた。子供のものだろうか? その足音がやけに急いでいるようだったので、何となく気になったユウリは振り返ってみる。ひょっとしたら泥棒かもしれない。

 

「ユーウーリっ!」

 

 だが、ユウリの想像の斜め上を行く存在がそこにはいた。 

 夜であろうと、いや夜だからこそ月明りに照らされ美しく波打つ長い金髪。膨らんだ金糸が隠す耳回り。サイズの合ってないマフラーをぐるぐると巻いたその姿。

 ――ヴィエが、嬉しそうに笑って立っている。

 

「また会えました! にへへ」

「……。」

 

 ユウリはぽかんとした顔のまま、数秒固まってしまった。ユウリ? とヴィエが首をかしげて一歩近づいてきて、ようやく現実を理解する。

 さっ、と一歩飛びずさったユウリ。ヴィエはきょとんとして首をかしげたままだ。

 ユウリは、以前と変わらぬ様子のヴィエに対して、目に見えて慌てた。あわあわと口を震わせ引きつらせながら、あの、あの、と言葉を考える。

 ――ヴィエは、フルールを狙っている。その目的は不明だが、フルールを捕らえようとしている。それは何としても阻止しなければならない。

 

「あっ、あの、あのねっ、今この街にフルールさんはいないから……!」

「もー。いまはそんな話してないですよ? 結構ユウリってとんちんかんな事言いますよねー」

「え、あ、うん……」

 

 頬をぷくぅっと膨らませたヴィエが、腰に手を当ててませた視線を向けてきた。やれやれと言いたげな溜息に、ユウリの焦りもすっと消えていく。

 ヴィエの言葉に嘘は感じられない。

 幼女が『今はいい』と言うなら、きっとその通りなのだ。

 なら、まあ、いいか。

 そう納得したユウリは、だが、ふとした疑問を抱えていた。それはかつて、フルールを捕らえるためにヴィエが襲い掛かってきた時。

 ユウリに、フルールを渡せと言ったときのことだ。

 ユウリがその申し出を拒絶した時を覚えている。――ヴィエは、まるでユウリを聞き分けのない妹を見るような目で、ユウリを見ていた。

 ええと。

 

「ヴィエちゃん、私のこと年下だと思ってる?」

「? 違うんですか?」

「ええっ……」

 

 純粋な目で見つめられて、さすがのユウリも困惑した。頬に手を当てたユウリが二の句を継げないでいると、ヴィエはふふんと鼻を鳴らしながら得意げな顔をする。

 

「だってヴィエは神の娘――源種(ハイエルフ)です。ヴィエは、ユウリよりもとっても年上なんですよ?」

「そ、そっか……」

 

 源種。

 それは、言ってしまえば人類の祖そのものだ。神が作り出した最初の人。原初の人類。そこから遺種が生まれ、凡種が生まれたとされている。だがあくまでそれは神話上での話で、今の世界で信じる者などまずいない。

 しかし、だ。

 ユウリは知っている。見てしまった。物理法則を捻じ曲げられるだけの奇跡を。物体を無条件に爆破可能な少女を。街一つ凍り付けた悪魔の女を。

 

『ごめんなさいね。私もフルールも、貴女よりも数千年長生きなのよね』

『……何百年も何千年も、あたし達はとある女から逃げ続ける旅をしてるのよ』

 

 ――彼女らが話した、いくつかの事実を。

 

「つまりー、ヴィエはユウリよりお姉さんなのです!」

「うーん」

 

 ヴィエが源種なのはまあ、いいとして(精神年齢で言えばやっぱりヴィエは子供だとユウリは考えている)。

 今日のヴィエはやけに機嫌がいいな、とユウリは思った。まだ出会って僅かの間柄だが、明らかにテンションが違う。頬の赤みも強い。 

 

「なんだかご機嫌ね、ヴィエちゃん」

「今はイリスさまと一緒なのです! うれしいです!」

 

 イリスさま? そういえば前もその名前が出てきたな。

 そんな事を考えながら、ユウリは、宿の方へと歩き出した。ヴィエも自然とついてくる。

 

「ヴィエちゃん、付いてきて大丈夫? その……イリスさんが待ってるんじゃないの?」

「大丈夫です! さっきまでイリスさまと一緒だったんですけど、ユウリを見つけたから話したいって言ったら、いいよって言ってくれました!」

 

 つまり後で『イリス』とやらと再会する予定だと。なら、そんなに心配する必要もないのかもしれない。見た目は幼女のヴィエだが、その強さは十分ユウリも知っている。容赦のないヴィエなら暴漢如きに手加減はしないだろうし。

 賭場から宿までは片道で十分ほどだ。わざわざ賭場に近い所をフルールが選んでいた。

 ほほー、とヴィエが三階建ての宿を見上げて感嘆の息を上げる。白い吐息が闇に溶けるさまを微笑みながら見ていたユウリに、ヴィエが聞いてきた。

 

「ここがユウリのおうちですか?」

「そう。今はここに泊まってるの」

「へええ……どれくらい居るんですか?」

「うーん……三日くらい、かな」

「そうですか。わかりました、なら今度遊びに行きますね!」

 

 ええっ、とユウリは固まる。別にユウリは構わないがフルールが怒るのではないか……。困り切って何も言えないユウリに、ヴィエはにこっと笑いかけて、元来た道を戻ろうとする。

 

「イリスさまと一緒に、絶対あそびに行きますからー!」

「ちょっと待ってヴィエちゃん、あのね………………行っちゃった」

 

 何かを告げるより先に道を曲がり姿を消してしまうヴィエ。ユウリは頬を掻いてしばし立ち尽くしたが、まあいいか、と思い直した。

 『遊びにくる』と、その言葉が本当にその通りの意味なら、ヴィエに悪意も敵意もないだろう。もしかしたら、フルールとヴィエが仲良くなれるかもしれない。それは悪いことじゃあない。その時二人の仲を取り持つのは、ユウリだ。

 それにしても。

 ヴィエの言う『イリス』とは、どんな人物なのだろうか?

 

 

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