百合と悪魔と煙草と銃とレズバトル   作:てりのとりやき

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第3話

 

「あたしの名前はフルール。ただのフルール」

「私はレテミア。見てのとおり悪魔よー」

 

 と、ユーリリアを助けた二人は、簡単な自己紹介をした。

 肩にかかる程度の金の短髪に、平たい胸、細い体。似合わないガンベルトに拳銃。目つきは悪く、口元にくわえた煙草は違法そのもの。ガンマンと呼ぶにしては見た目が若すぎる少女――フルール。 

 黒い髪に黒の瞳、浅黒の肌。美しく艶やかな肢体。フルールが女らしさを欠いているのに対し、こちらは十二分に女らしさで象られている。そして、悪魔の女――レテミア。

 二人の姿をしっかりと確認したユーリリアに向けて、フルールがずびしと指をさす。

 

「あんた、名前永いからユウリね」

「えええ……?」

「永いのは厭なの。レテの歳みたいにね」

 

 傍でレテミアが「ちょっとぉ!」と肩を怒らせて憤慨するも、フルールは無視。ちょうどフィルター越しまで吸いきった煙草を捨てると、新たな煙草に手持ちのオイルライターで火をつける。少女だというのにその仕草は板についている。

 

「で、あんた――ふー……――どーすんの」

 

 少女がするにしてはやけにガラの悪い目つきだった。

 そして、おそらく煙草と酒で焼かれ潰れたハスキーな枯れ声。どこか魅力的に心臓を打つ声音にユウリは思わず瞬きをした。

 少年と見間違える程度の身長の高さと、髪の短さからも、女らしさは感じられない。どちらかというと――彼女は、性分化もまだな少年のように見えた。 

 

「どう、って……ええと」

「煮え切らないわね。殺すわよ」

「ぴぇぇ」

 

 雑な言葉にユウリの頬を涙が滑った。悪魔女が非難の目で少女を睨む。

 

「フルールが泣かせたぁー」

「ち、違うわよ。そんなつもりじゃなくて」

 

 どういう意図があったのだろうか。

 

「まあつまりあれよ、あんたほら、どっかイイトコのお嬢様ってヤツなんでしょ? 違う?」

「ええと、ええ、はい、一応貴族の娘です……」

「貴族!」

 

 ビンゴっ! と急に上機嫌になって、フルールがガッツポーズ。ユウリには訳が分からない。

 

「ね、ねっ、レテ。何が何でもこの娘を親元まで送りつけるわよ! 貴族の娘なんてどれだけの金になるかわからないわ! 人生最高ね!」

「あなたお金が絡むと途端にやる気になるわねぇ……」

「なによう。提案したのはあんたでしょ? もちろん金は山分けだからねッ」

 

 いぇい、と少女と悪魔女がハイタッチを交わす。そして唐突にユーリリアを見た。

 

「そういうわけだからユウリ、あんたを親のところまで送ってあげるわ。感謝して金をよこしなさい?」

「あ、あの、手持ちのお金、そんなに持ってなくて……」

「ふーん? 命の恩人に金も渡せないって?」

 

 さっ……とフルールが拳銃に手をかざす。自分より明らかに年下に見える少女だというのに、ユウリは恐怖しか感じない。

 

「ぴぃぃ……」

「なによあんたさっきから、ぴーだのびーだの、大人でしょ恥ずかしくないの? 撃つわよ」

「ご、ごめんなさい……」

 

 ユウリが眉根を詰めて肩を震わせていると、苦笑気味の悪魔女が助け船を出してくれた。

 

「まあまあいいじゃないの。この子の親にたくさんお金もらえばいいのよ」

「ま、確かにそっか。なら今はいいわ、我慢する」

 

 少女はユーリリアに、実家の場所を聞いてきた。素直にユーリリアが答えれば、「歩いて一週間くらいかしら……」と既に旅の算段を付け始めている。

 思わず、ユーリリアは尋ねてしまった。

 

「で、ですがその、よろしいのですか?」

「ぁん? なにがよ」

「私を送っていただけるというのでしたら、ありがたいことだと思います。謝礼も必ずします。ですが、あなた方の旅は……きっと何か目的があるのでは」

「あーいいのいいの」

 

 護衛を何人連れていても魔物に襲われ全滅する可能性がある、こんな世界だ。

 おとぎ話や神話の中で語られる“神の捨てた大地”というのも、あながち間違っていないとユーリリアは実感した。

 だというのにこの少女と悪魔女は二人で旅をしている。たった二人だけで、だ。――何か大きな目的でもあるのではないかと思うのが、普通だ。

 

「定期的に娼婦抱ければ私は満足だわー」

「……レテの気持ち悪い趣味はともかく。あたしだって好きな煙草吸って好きな酒飲んでたまに賭場漁ってれば満足だし」

 

 別にあてがあるわけじゃないから、とフルールは手をひらひら揺らす。

 

「どうせ理由もない旅だもの――」

「――世は死ぬまでの暇つぶしってヤツ」

 

 そう言って二人は笑った。自由人らしい、清々しさのある表情だった。

 

「あら、私あなたが死んだら悲しいわぁ」

「けっ誰が死ぬのよ。あんたが先におっ死ねヴァァーカ」

 

 中指を突き立てる粗暴なフルール。レテミアはころころと笑うだけだ。

 一見すれば険悪にしか見えない二人だったが、なぜかユウリにはとても深いところで通じ合っているように感じられた。

 よし、と少女――フルールがうなづく。そしてユーリリアの故郷の方角へと歩き出した。レテミアもユウリにウインクを一つして、ふわふわと浮きながらその背を追う。

 

「ほら、行くわよユウリ。ちゃっちゃと歩く! ぶつわよ」

 

 慌てて頷き、ユウリも行った。

 ふわりと風が駆ける。

 唐突なひと吹きに、皆の髪がやわらかく舞い上がる。

 そして、ユウリは見た。

 フルールの身近な金髪が揺れ、隠れていた耳回りが露わになったのを。

 確かに耳があるべき場所は、醜い傷跡と共に抉られていたことを。

 

 

 

 ――耳断ち奴隷。

 

 

 

 ユウリは、そんな言葉を、思い出した。

 季節は冬。

 彼女にとって最も長く、不思議な旅が始まった。

 

 

 

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